アングマール戦記:休戦状態(2)

    「コトリ、怪しいと思わない」
    「そうね、まずセリム一世は、セリム二世と変わらんぐらい英雄やったで良い気がする」
    「でしょう、それでもってセリム二世は間違いなく武神」
    「さらに新王も平穏に即位している」
    「そうなると」
    「ま、まさか」
    「そう考えて覚悟しておいた方が良いと思うわ」
 コトリとユッキーはアングマール王の死を聞いて一つの期待があったのよ。たしかにセリム二世には神が宿っており、その神の力はコトリ一人では対抗できないぐらい強大だったけど、普通の神は死ねばどこで再生するのかわかんないのよね。話に聞く限りなら胎児に宿主を移すらしいから、成人して神の力を発揮するまで十五年以上はかかるってところ。

 さらにいえば、アングマールの王子にでも生まれればアレやけど、タダの平民に生まれようものなら、伸し上がるだけで人の寿命の半分どころか、もっと使っちゃうことになるのよ。ごく簡単に言えばエレギオンは当分は安泰ってところ。ハムノン高原の北部にアングマール軍は侵入してるけど、これだって女神の戦術が使えれば排除は可能ってところ。その気ならアングマールごと滅ぼすのも可能なはずやんか。

    「コトリたちと同じタイプって滅多にいないはずなのよ」
    「でも他に絶対いないとも言えない」
    「じゃあ、セリム二世がアングマールに急きょ帰国したのは」
    「寿命を悟って、自分の子に宿主を移すためかも」
 後継者争いが勃発する理由は何パターンもあるけど、ステレオタイプなら後継者がボンクラで、なおかつ兄弟とか、叔父さんクラスに優秀な野心家がいるパターン。ほいでもアングマールでやってる方式なら、後継者はムチャ優秀になるから平穏になっちゃうのよね。ここで、帰国して即位行事をタラタラやってるのは『それでも』の野心家が出て来ないかの注意ぐらいかもしれない。

 この辺がどうなっているのかわかんないけど、エレギオンでは女神の記憶が継承されるのは国民の常識になってるけど、アングマールも同じかどうかの情報はないのよね。

    「ところで次のアングマール王はセリム三世なの」
    「違うみたいだよ。ゲランだったっけ」
    「じゃあ、違う可能性は少しは残るかもね」
    「でも油断しない方が良いと思うわ」
 後はゲラン王がアングマール軍を率いてエレギオンに現れないと確認しようがないって話にはなったの。アングマールの情報いうても、ズダン峠は愚か、山岳三都市、さらには高原の北部都市まで抑えられてる状況じゃ細々しか入らへんもんな。
    「アングマール王の服喪期間ってどれぐらいかなぁ?」
    「通常なら両三年やけど、戦時やから短いかもしれへん」
    「猶予期間ってところね」
    「でも短いよね」
    「無いよりマシやん」
 とにかくアングマール王の代替わりのおかげで、自然休戦って状態になってくれたの。伝え聞く情報では、アングマール王の代替わりをチャンスと見て、いくつかの都市が反乱を起こしたみたいで、これをゲラン王が鎮圧していたみたい。どうもアングマール王には同盟って発想がないみたいで、比較的マシな扱いで従属国化、そうじゃなきゃ隷属国化。占領されたエレギオン同盟都市は隷属国にされたみたいで、かなり大変な目にあってるみたい。

 早く反攻したいのはヤマヤマだけど、この時はアングマール王の世襲時期を狙って動くには程遠い状態としか言いようがなかったわ。この時のエレギオンの戦力ではクラナリスぐらいは奪還できたかもしれないけど、ズダン要塞までは到底無理としか言いようがなかったの。以前とは逆でズダン要塞を突破しないとアングマールには攻め込めなくなってるのよね。