アングマール戦記:休戦状態(1)

 アングマール王が神であることはユッキーもビックリしてた。

    「それじゃあ、女神の戦術は通用しないわね」
 実際そうやった。エレギオン軍の最大の秘密兵器である女神の戦術が封じられただけではなく、アングマール王の心理攻撃に防戦一方になったことを話すと、
    「そんなに・・・道理で都市があんだけアッサリ落ちるんや」
 これも他人事やなく、自分とこに直接来られるから困ったなんてもんじゃないのよ。
    「コトリと二人がかりならどうかしら」
    「やってみんとわからん」
 ゲラスで見たアングマール王はそれぐらい強大やってん。そのアングマール王がゲラスで快勝した後にマウサルムに進まずにラウレリアに進んだのは謎やったし、さらにラウレリアを落とし後に本国に帰ってもたんも謎やってん。ラッキーとしか言いようがなかってんけど、ユッキーは、
    「アングマール王は死んだみたいよ」
    「えっ、ホンマに」
    「今は新王への交代行事の真っ最中らしい」
    「ほんじゃあ」
    「それがまだわからないの」
 アングマールも後継者争いの激しい国で、代替わりの時に多かれ少なかれ一騒動があることが多いのよ。死んだとされる王はセリム二世って言うんだけど、この王の時の継承は平穏やったみたい。それだけじゃないのよね、セリム二世の親のセリム一世の時からアングマールは急に強大になったとして良さそうなの。

 セリム一世は周辺都市を完全に制圧して従属国化してしまい、大きくなった戦力で遠征を何度も繰り返し、次々に隷属都市化していったぐらいなの。セリム一世の時代だけでも十五都市以上はアングマールに隷属していた。

 セリム一世の子がセリム二世なんだけど、完全にエレギオンをターゲットしていたと見て良さそう。セリム一世の時もズダン要塞への攻撃はあったけど、激しさを増したのはセリム二世の時代になってから。ズダン要塞に対して対抗拠点の築城に成功したのもセリム二世。リメラの乱に乗じられてズダン要塞は突破されちゃったのだけど、ズダン峠を越えてからの侵攻も鮮やかやった。瞬く間に山岳三都市を占領し、イートスに別働隊を進ませながらテベスでアルガンティア将軍の軍勢を壊滅させ、ゲラスでコトリも木端微塵にされちゃったのよね。