アングマール戦記:軍事強化

 やらねばならないことはヤマのようにあった。焦眉の問題は軍団の再建。テベスとゲラスの敗戦で精鋭部隊も士官も殆どやられちゃったからスッカラカン。マシュダ将軍がマウサルムに頑張ってくれてるけど、あれだって寄せ集めもイイところ。ユッキーと相談したんだけど、

    「最終的にはエレギオンだけでアングマールと戦える体制を作り上げる」
 エレギオン同盟の盟主はエレギオンだけど、どの都市も同盟国であって直轄領じゃないのよね。こうやって守りに入ると自都市の防衛に重点を置くようになってしまうの。アングマールは既にラウレリアも占領しており、最前線がゼロン、マウサルム、パライアになってしまってるから、これらの都市からの出兵は不可能になってる。レッサウやザラス、シャウスだってそんな感じ。

 もしシャウスの道が突破されて、エルグ平原に侵入されたら、ハマやリューオン、ベラテだってそうなる。そこまでの事態になっても不思議ないってところ。いや時間の問題かもしれない。そこで国民皆兵政策にした。もう総動員しないとどうしようもないってところ。この辺も軍需産業が傾いたらアカンから、そこの職人確保もポイントになった。平和産業は目を瞑らなしかたなかった。

 コトリはゲラスで惨敗したアングマールの戦術の導入に奔走した。あれはファランクスでは勝てないもの。コトリが考えた編成は十人小隊をまず作り、それを十個束ねた百人大隊を最小単位にした。十人隊は前二列、縦五列にして、百人隊なら前二十列、縦五列ってところ。この百人隊を横に連結したのが重装歩兵戦列。

 これも百人隊十五個で一列を組み、これが三列。合計四千五百で一軍団ってところ。とにかく戦場の混乱の中で部隊移動を整然とやらないといけないから、ひたすら訓練に励まさせた。

 これも実際にやってみると隊長の力量が大きく左右することがわかったの。士官クラスはゲラスやテベスで消耗しきっていたから、これの促成栽培も急務やった。貴族階級は根こそぎ士官養成所に放り込んだけど、それでも足りず、市民でも役に立ちそうなものはドンドン押し込んだ。

 軍事教練に関しては、アングマール戦が始まった頃からユッキーの方針で学校でもやらせたていたのが、ここにきて役に立っている気がする。もちろん学校での軍事教練もファランクス用やなく、レジョンとコトリが名付けた戦術用の訓練に切り替えてる。その延長線上で何をするにも十人隊、百人隊編成にするようにしている。

 それとゲラスで惨敗の直接の原因となった補助兵力の充実にも力を入れた。散兵戦の結果は主力の重装歩兵の勝敗にも影響するって思い知らされたもの。幸い騎馬隊はあの惨敗の中でも半分ぐらいは生き残ってくれていた。騎馬戦の優位だけは確認できたから、騎馬隊を大幅に拡充したかったけど、乗り手と馬の数に限りがあり、当面は三百を目指すのが精いっぱいってところなの。現実は二百もなかなか間に合わないってところかな。

 そうなると騎馬隊以外の散兵部隊の強化になるけど、これも難問。少々訓練したぐらいじゃ、個々の戦闘になるとアングマール兵の方が断然強いのよね。兵個人の強さはすぐにはどうしようもないから、武器の改良で対抗する方針とした。投槍もあれこれ改良を加えたけど、コトリが目を付けたのは弓やった。

 これまでエレギオンでは弓はあんまり重視してなかったの。矢は横に飛んでくけど、盾に防がれて終りやったから。そこでコトリが取り組んだのは弓の威力の強化。さすがに盾は射抜けないけど、相手の散兵部隊の鎧を射ぬけるようにすることやった。アングマールも重装歩兵は鉄の鎧やったけど、散兵部隊は革の鎧やったから強化すれば射抜けると思たんよ。

 ただね、弓を強化するには、弓を大きくするか、弓の強くするかになるねん。どっちにしても弓を引くのにゴッツイ力が必要になるってこと。そんな力持ちも数が限られてしまうし、弓も相当訓練が必要な武器やねん。時間があればのんびり養成したらエエんやけど、とにかく急場やんか。

 そしたらね、頭のエエ奴がおってん。弓に台座を付けよったんよ。ほいでね、弓を横に寝かせて撃ったら命中率がムチャクチャ良くなってん。そいつは足でひっかけて弦をフックみたいなものにかけてたけど、これをハンドル式の巻き取り機みたいにしたら、かなり強力な弓になるんよ。大きなってまうのが難点やったけど、これなら少々距離が離れていても革製の鎧を射抜けそうやった。ついでに矢の代わりに石でも効果抜群ってところ。

 石でも撃てるから石弓って名付けたけど、これも実は弱点があって、次を撃つまでの時間がかかるんよね。一発撃つと、次を撃つまで訓練しても一分ぐらいはかかっちゃうの。だから従来の普通の弓も併用にした。普通の弓を撃てる者はそっちを使い、そうじゃない者は石弓を使う感じかな。

 矢の新戦術も考えてん。矢は横に撃つのが常識やねんけど、上から降らせたらどうやって。つまり横に撃つやんなくて、上に撃って、落ちてくるところが当たるみたいな感じ。重装歩兵への効果はイマイチやったけど、重装歩兵の後側に並ぶ散兵部隊には効果はあった。

 後はやってみんとわからんけど、両翼の散兵戦は遠ければ上から矢を降らせ、もう少し近づけば石弓で仕留め、さらに近づくと普通の弓で乱射みたいな感じを考えとってん。それと弓は騎馬隊にも有効やと思ってるねん。アングマールの騎馬武者も革鎧やったもんな。あれやったら矢で対抗できるかもしれへん。

 こんな補助兵力をできたら千五百人ぐらい作り上げて、重装歩兵部隊と合わせて六千人ぐらいで編成するのが当面の目標。これを一個軍団として、出来たら三個か四個欲しいんやけど、人口にも限りがあるし、武器だって作れる上限があるのよね。それより、なにより時間が限られてるの。とにかく必死こいてやってた。それにしても、なんでアングマールはマウサルムに進んで来おへんかってんやろ。これについての情報もボツボツと入ってきた。