アングマール戦記:魔王誕生(1)

 主女神の娘のラーラは領内巡視に出かける前に挨拶に来たけど、そりゃ、嬉しそうだった。その点はまだ子どもだと思ったわ。とりあえず五日の予定やってん。その三日目に事件は起こったの。

    「ラーラ様がさらわれました」
 全身の血の気が退いていくのがわかったもの。ユッキーの顔も真っ青やった。
    「至急探索隊を派遣。ベラテ、リューオン、ハマ、さらにシャウスに早馬を。シャウスの道は完全封鎖にして」
 コトリは完全に怒っていた。コトリの指示を聞いた大臣の腰が抜けて動けなくぐらいに怒っていた。後からユッキーに聞いたら神殿が壊れるんじゃないかと思うほど怒っていたみたい。
    「時間との勝負よ、なにをしてるの!」
 大臣は這いながら部屋から出て行ったわ。でもラーラの行方は杳としてわからなかった。ラーラだけでなく、ラーラと一緒だった三人の侍女の行方もつかめなかったの。コトリはイライラと報告を待ってたけど、
    「ラーラ様の足取りはつかめません」
 報告をする者もよほどコトリが怖かったみたいで、お漏らししてるのもいた。そしてやっと届いたのが、
    「ラーラ様とおぼしき一行がクラナリスに向かい、これを追いましたが、アングマール軍が現われ断念しました」
 やはりアングマールの人さらい部隊やった。それにしてもシャウスの道を通り抜けてエレギオン近郊まで現れるとは完全に油断やった。
    「ユッキー、今からクラナリスに攻め込む」
 これは本気やった。クラナリスにいなければカレム、モスラン、ズダン要塞を踏みつぶし、アングマールも粉砕するつもりやってん。ユッキーはそれこそ必死になって宥めてくれた。そこからアングマールと交渉になってん。これはユッキーが担当してくれた。コトリがやったら絶対に戦争になるからって。

 休戦中とはいえ戦時状態やったから難しい交渉になったけど、巨額の身代金を払ってラーラと三人の侍女の身柄は引き渡してくれることになったの。でもね、ユッキーは最後にこう言われたって、

    「搾りかすに気前のエエもんだな」
 ユッキーは何を意味してるのかわからなかったって言ってた。コトリとユッキーが想像してたのは、犯されるのは仕方がないってところ。まだ十三歳で初潮前やから犯されていない可能性はわずかに残るけど、たぶん犯られてるだろうって。それでも身体さえ戻れば三座の女神だけでなく、コトリもユッキーも持てる力のすべてを注ぎ込んでも癒そうだったの。それだけの自信はあったのよ。