エレギオンの政治は女神による神政政治で、首座の女神のユッキーと、次座の女神のコトリの二人が実質的に取り仕切っていた。三座の女神は貼り付けの社会福祉担当やったし、四座の女神は貼り付けの教育担当みたいなものだったし。
でも形式上は首座の女神の上に眠っているとはいえ主女神がいるのよね。政治でもあくまでも、
-
『主女神の命を受けたる・・・』
『主女神に代わりて・・・』
この主女神の宿主交代やけどユッキーが管理してた。人としての寿命が尽きる頃に主女神を自分に移し、新しい主女神に宿らせるってところ。でもって新しい主女神候補は子どもの時から主女神用の教育がされててん。とにかく祭祀は煩雑で、長くて、サボられへんから、あれに耐えるだけでも大変ってところなのよ。
主女神も男を作れるし、子どもも産めるから、主女神の娘が次代の主女神になるケースも多かってん。この時の次期主女神候補もそうやってんよ。これが実に聡明。そりゃ、ユッキーも、コトリも女神を宿してるから人としての能力も優れてるけど、主女神の娘は神を宿していなくても十分すぎるぐらい聡明やってんよ。ユッキーも感心してたし、コトリもそうやった。
そのうえやけど、欲って物を母親の胎内に置き忘れて来たんじゃないかと思うほど無欲。女神だって街歩きをするお国柄なんだけど、帰ってきたら丸裸の時が何回もあったのよ。コトリはビックリして聞いたのよ。
-
「誰に襲われたの?」
「困ってる人がいたから恵みを施しました」
-
「これはわたしには過ぎる物です」
でもね、成長したらまた変わると思っててん。人ってそういうものやんか。ところが歳を重ねるごとに磨かれていくとしか感じられへんかってん。十歳になる頃には、国民のすべてが次期主女神の宿主はその娘になるって思ってた。もちろん四女神もそうやった。それだけやないねん。ユッキーは、
-
「コトリ、あの娘は違うと思う」
「ユッキーもそう思う? コトリにはアラッタの主女神の再来、いやそれ以上やとしか思えへん」
「まだ先にはなるけど、あの娘がこのままだったら、主女神は起しても良いと思うの」
「リスクはあるけど、コトリも賛成」
-
「首座の女神様、次座の女神様、お願いがあります」
「ラーラが願い事とは珍しいな、なんでも言ってごらん」
-
「領内の巡視に行かせて下さい」
-
「ラーラにはまだ早いわ。後二、三年ぐらいしたら行ってもらうつもり」
-
「城内巡視だけじゃ退屈なの?」
-
「城内は平和で美しい街です。これは主女神様の恵みが行きわたっているからです。これはこの目で確認してきましたが、城外もこれと同じかどうかを知りたいのです。そこで困っている人がいれば、私に出来る恵みを与えてあげたいのです。」
-
「じゃあラーラ、巡視に行ってもらうのはこの範囲だけよ。それと休戦状態とはいえ、戦時中だから護衛も付けるわね」
-
「護衛が付いたのでは、本当に困っている人と親しく接することは出来ません。それでは領内巡視をする意味がなくなってしまいます」
-
「ユッキー、あれで良かったのかなぁ」
「あそこまでラーラに言われたら、あれ以上拒否できなかったし」