コトリ部長のアラフォー・パーティーは大成功に終わりました。ミサキはコトリ部長とシノブ部長が、首座の女神のユッキーさんに会いに行く前に行われたお別れパーティを思い出していたのですが、もうあんな怖い思いは二度とないはずです。
コトリ部長はジュエリー事業本部長ですからミサキの上司の関係ですが、相変わらずちょくちょく飲みに連れて行って頂いてます。ただ総務部長も兼任されているだけでなく、ブライダル事業の指揮も実質的に取られているので、とにかくお忙しい。そうそう、
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「上級執行役員就任おめでとうございます」
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「なにがおめでたいもんか、責任ばっかり負わされてエエことないよ。それに出席せんとアカン会議が増えて大変なのよ」
会社の業績の方はブライダル事業の成功と、ジュリー事業が滑り出し好調もあって順調のはずなんですが、コトリ部長は気になる事があるようです。会社のメイン事業はやはり主力ブランドのクレイエール事業です。
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「クレイエール・ブランドは長年かけて育て上げたものだけど、ちょっとね」
「ちょっととは」
「少し食われてるのが会議で問題になってるの」
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「クレイエール・ブランドは長い間、わりと安定してたのよね。それで油断していた訳じゃないと思うけど、今年の決算では計画販売量をだいぶ下回って、減収減益になってるの」
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「とにかくクレイエール・ブランドが会社の売り上げで占める割合は大きいのよね。大きすぎたから、これの比率を下げるためにブライダルやジュエリーにトライしたぐらい。主力のクレイエール・ブランドに左右される部分を少しでも減らそうぐらいのところかな」
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「ブライダルとジュエリーは成功してるんだけど、決算で言えばブライダルとジュエリーが増えた分だけクレイエールが落ち込んでいる関係になるのよ」
「それじゃ、結構食われたのですね」
「まあ、そうなる」
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「食われた原因もはっきりしていて、ラ・ボーテに食い込まれたんだけど、このことについて社長も副社長も楽観的なの」
「どうしてですか」
「ラ・ボーテの社長は原口精一氏なんだけど、コトリも良く知ってる人物なの。コトリだけでなく河原崎社長も、綾瀬副社長も、高野専務もよ」
「業界の有名人なのですか」
「ラ・ボーテの原口社長はうちの前副社長なの。ミサキちゃんが入社する前に社長の椅子を狙ってクーデーター未遂事件を起こして辞職したのよ」
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「原口社長はうちを辞職した後にラ・ボーテに拾われた格好なのよ。なにを見込まれたのか『わからない』って綾瀬副社長も笑ってたし、ラ・ボーテ自体もどうってことはなかったの。それが去年ぐらいから急に伸びて来たのよね」
「そうなんですか」
「社長も副社長も『まぐれ当たり』で少し足元をすくわれたぐらいの見方なんだけど、コトリはなんかイヤな感じがしてるの」
「イヤな感じとは?」
「まだわからない。理由ははっきり説明できないけど、まぐれ当たりで終らない予感がしているの」
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「コトリもそれぐらいしか思いつかなかったから、とくに意見はしなかったんだけど、どうにも打つ手が読まれてる気がしてならないの。うちがそうするのは誰が見てもわかる対策だから、読むこと自体は難しくないけど、その一歩先、二歩先を読まれて動かれる気がしてならないの」
「でも、他に対策と言われても・・・」
「まあ、そうなんだけど、なんとなくだけど広告部長の先行きが暗そうに感じてならないの。会議では『おまかせ下さい』って胸張ってたけど、来年の今頃に会議にいない気がしてる」
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「見えるのですか?」
「あは、ユッキー程には見えないよ。でも、少しぐらいはね。ただ、今のところは見えた訳じゃなく、単なる予感程度よ。外れたらイイんだけどね」
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「やはりシノブ部長じゃないと相談相手になりませんか」
「そんなことないよ、ミサキちゃんで十分よ。コトリにはまだイヤな予感がするだけで、愚痴ってるだけ。だって、今の段階じゃ、社長の方針以外に対策が思い浮かばないんだもの。懸念だけで終わってくれると嬉しいんだけど」
経営問題は連動していますが、これはむしろ結果が現われているだけで、本当の原因は別にある感触をコトリ部長は抱いているのじゃないかと。さらに、それが何かについて、コトリ部長は既に何か思い描いているものがありそうな気がしてなりません。最後にコトリ部長は、
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「とにかく忙しくってさぁ、さすがのコトリでもこれだけ兼任、兼任じゃ、ゆっくり考える時間がなくなっちゃってるの。来週の仕事も、考えるだけでウンザリするぐらいあるのよ。それでね、ミサキちゃんにお願いがあるの」
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「近々、指示が出ると思うからよろしくね」