数日後に綾瀬副社長に呼ばれ、
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「香坂君、しばらく小島本部長のヘルプに付いてくれ」
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「ミサキちゃん、これが今日のスケジュールと言うか、ノルマ」
「欄外に書いてあるのは何ですか」
「それはノルマをこなした上で、今日中にやっておきたい仕事」
「この付箋のものは」
「欄外が済んでから出来たらやりたい仕事」
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「とりあえず、今日は付いて来て。明日から先行役をやってもらうから」
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「ミサキちゃん、ちょっとメモっといて」
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「ミサキちゃん、ここはちょっと時間かかるから、ジュエリーの方に電話をかけて・・・」
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「ブライダルの方にこう連絡しといて・・・」
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「食堂に行ったらサンドイッチが用意してあるから、取って来てくれる。ミサキちゃんの分も頼んどいた」
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「ミサキちゃん、予定時刻はどうなってる」
「はい、二十分ぐらい上回ってますが」
「なら、あれやろう」
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「総務にあれこれ」
「ジュエリーにあれを確認して」
「ブライダルにはこうこう」
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「サキちゃん、ミドリちゃん、手伝ってね」
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「ミサキちゃん、連絡してくれる」
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「それなら、ここを片付けて・・・」
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「次は、次は」
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「ミサキちゃん、悪いけど今日も残業になるわ。どうにも仕事の進みがイマイチやねん」
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「ミサキちゃん、仕事の段取りはだいたいわかったと思うから、明日からはコトリがより効率的に回れるように、先行しながら準備を整えてくれる。これは明日の仕事のスケジュール」
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「ミサキちゃん、ここはもうイイから、あそこに行って、それから・・・」
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「ミサキちゃん、早いね。ま、期待通りだけど」
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「ミサキちゃん」
「あの件は連絡済です。次の件につきましては、こうこうです」
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「どうなってるのですか。これはちょっとおかしい気が・・・」
「ミサキちゃんもそう感じる。とはいえ、今はこれをこなさないと仕方がないし」
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「スタミナ付けないともたないよ」
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「コトリ部長、なんかおかしいです」
「ミサキちゃんもそう感じる?」
「あれだけやっても、コトリ部長の仕事は増える一方じゃないですか」
「そうなんだよね。ここのところ、ずっとこんな感じ。仕事も増えてるんだけど、仕事の進み自体が悪くなってるの。コトリがいれば、そうでもないのだけど、いなくなればガクンとペースが落ちちゃう感じかな。別にサボってるわけじゃないんだよ」
「サボってないのはミサキが見てもわかりますが、やり直しや、単純ミスによるやり直しが増えていると思います。それが新たな仕事を生み出す悪循環みたいな具合です」
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「どこか間違ってると思うのよ。なにか大きな流れが押し寄せてきて、これを必死でバケツで汲みだしている感じと言えば良いのかな。とはいえバケツででも汲みださないと沈没しちゃう感覚ってところ」
「それ、わかります。汲みだしても、汲みだしても、翌日になれば元の木阿弥どころか、もっと溜まってる感じです。放っておくわけにはいかないから汲みだすのですが、いずれ汲みだせなくなりそうな気さえ感じます。今だって、コトリ部長だから汲みだせているようなもので、他の人だったらもう沈没していてもおかしくないと思います」
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「とにかく、こんなに忙しいと男を見つけるヒマさえないじゃないの。とはいえ、愚痴ったところで、根本的な解決法がわからないから、しばらく続けないと仕方がないね。明日は土曜日だけど、ミサキちゃん付き合ってね」