ミサキがクレイエール入社して三年目になります。総務部に配属され、コトリ部長とシノブ部長に連れられてイタリア視察に行ったのが一年目。そこからミサキがエレギオンの五人の女神の一人であることを教えられ、マルコのジュエリー工房の立ち上げに参加しているうちに二年目に突入。
二年目も大変でいきなりブライダル事業の三人目の天使シリーズのイメージ・モデルにさせられ、そっちの方にも参加になり、プライベートではマルコの求愛を受け入れ、あの首座の女神のユッキーさんとコトリ部長の対決もありました。
三年目になり人事異動がありました。コトリ部長はジュエリー事業本部長に昇進。相変わらず総務部長も兼任ですが上級執行役員になられています。ミサキはマルコのお世話係の関係でジュエリー事業本部に異動、ただブライダル事業の方も兼任で大変です。
それでもマルコの工房立ち上げの功績を認められて主任になり、さらにビックリしたのですがさらに係長に昇進しています。マルコは陽気なイタリア男なのですが、こと仕事になるとかなりどころでなく気難しくなり、これを操縦できるのはミサキしかいない点が高く評価されたようです。
シノブ部長は待望のお子様がお生まれになられて育休に入られました。コトリ部長と一緒に出産祝いを持っていきましたが、そりゃ嬉しそうで、ミサキもマルコとの結婚を急がなきゃって気にさせられました。
マルコのプロポーズは受けているのですが、ミサキの結婚式もシノブ部長と同様に新たな天使ブランドの宣伝に使うとの業務命令が出てまして、その完成を待っています。ただシノブ部長が育休中なもので、ミサキ用のブランドの完成が遅れがちになっています。コンセプトも紆余曲折の末、
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『雅の天使』
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「和式でやるのは大賛成。紋付袴もボクにピッタリよ」
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「シノブちゃんが不在だから、コトリが駆り出されちゃった」
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「コトリ先輩のアラフォー・パーティに協力して欲しい」
定例の歴女の会に偽装してやるのは良いとして、とにかく忙しいコトリ部長を確実に参加させるのが問題です。そこで意を決して綾瀬副社長に相談に伺いました。綾瀬副社長はブライダル事業本部長を兼任していますから、ミサキの直接の上司にもあたります。副社長は、
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「そういう事なら協力する」
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「コトリ本部長、お誕生日おめでとうございます」
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「ありがとう」
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『コトリ本部長のアラフォーを祝う会』
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「アラフォーを祝われても困るんだけど、でも、嬉しい」
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「パーティ費用の足しにしておいてくれ」
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「カランカラン」
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「ありがとう、ミサキちゃん。ホンマに嬉しかった。でもコトリもアラフォーになっちゃんだね」
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「コトリ部長は結ばれれば不幸になるカギを外されましたが、これからどうされるおつもりですか」
「そんなもの決まってるじゃない、イイ男を探すのよ。シノブちゃんにも、ミサキちゃんにもあれだけ見せつけられてるんだから、悔しいったらありゃしない」
「でも、子どもは・・・」
「女の仕事は子どもを産むだけじゃないよ。子どもがいらないイイ男だっているから、その男と二人でいつまでもラブラブするんだ。どうだ、羨ましいだろ」
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「実はね、ユッキーと対決して病院で寝込んでる時に、ユッキーがお見舞いに来てくれたんだ。夢の中だったけどね」
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「その時にあれこれ話をしてたんだけど、ユッキーは主女神抱えたたら子ども産んでるじゃない。どうだったって聞いたら、やっぱり可愛かったって。ユッキーもやっぱり女だねぇ。でもね、自分の子どもが死ぬまでキッチリ付き合わされるのは辛いものだとも言ってた。コトリはそんな辛い目に遭わないからラッキーぐらいに思っとく」
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「ところでコトリ部長には五千年の記憶があるんですよね」
「そうよ、でもね、普段は思い出さないの。あんなもの毎日思い出してたら大変じゃない。引き出しに入れてしまってある感じと言えば良いのかな。必要な時だけ取り出すぐらいよ。ちなみに記憶の封印って、引き出しにカギをかける感じ」
「でもそれだけの経験があれば、男に求めるレベルが高くなりすぎて困りませんか」
「う〜ん、どうしたって高くなるけど、いつの時代でも好きになれる男がいたのも覚えてるから安心して。えへへへ、コトリは男が好きなの。ユッキーもあんな真面目な厳めしい顔しててもそうだったけど」
「でも男に懲りませんでしたか?」
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「ゴメンナサイ、今の言葉、取り消させて下さい」
「イイのよ。気にしないで。五千年も女やってると、あんなことの一度や二度はあるものよ。コトリはあれだけで済んだからラッキーぐらいなの。まあアラッタ時代みたいに仕事でやるのは、さすがにもう御免だけど、好きな男だったらいつでもOKよ」
「そこまでモロに言われると、あんまりコトリ部長らしくない気もします」
「そう、やっぱイメージ崩れるか、はははは」
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「カエサルの時はなぜ抱かれたんですか?」
「えっ、あの時・・・これはユッキーには絶対に話したらダメよ。カエサルはオリハルコンの秘密を封じるためにエレギオンを国民ごと抹殺するつもりだったの。でも、さすがにやり過ぎの気持ちがあったのよ。そこになんとかすがって、国民の命だけは救うで、なんとか話はまとまりかけていたの」
「シチリアに強制移住になったお話ですね」
「ただね、カエサルも好き者じゃない。女神に目をつけたのよ。男らしかったなぁ、ストレートに『抱かせろ』だったもの」
「男らしいって・・・あの。その」
「でもね、カエサルも忙しくてさぁ、クレオパトラの時みたいにユックリする時間がなかったの。交渉がまとまれば、エレギオン王国の破壊は部下に任せて、翌日にもローマに帰りたかったみたい」
「じゃあ、一晩だけ」
「そうなの。カエサルはコトリとユッキーが気に入ったみたいで、二人まとめて抱きたいって言ってたんだけど、さすがにそれはって話になって、どちらか一人でOKって譲歩してくれたんだ」
「譲歩って、あの、その」
「ここまで話がまとまってるものが白紙になったら困るから、カエサルの申し出を受けたんだけど、ユッキーは責任感が強いから、自分が行くって言うのよね。でもね、首座の女神を穢すわけにはいかないって説き伏せて、コトリが行くことになったの」
「人身御供ですか?」
「そういう形にした」
「形って?」
「実はねぇ、カエサル、格好良かったんだ。格好良いと言うより渋いって感じかな。さすがに世界史にその名を残す男は違うわ。もう魅かれちゃって、魅かれちゃって、カエサルの要求があった時に飛びあがって喜んじゃった」
「えっと、それって」
「もうルンルンで、目一杯着飾ってカエサルのところに行ったわ。悪いけどユッキーに譲る気なんて全然無かったの。そりゃ、良かったなんてもんじゃなかった。今まででも余裕で三本の指に入るぐらい良かった。あの時ばっかりは、一晩しかないのを恨んだものよ。クレオパトラにやきもち焼いたもん」
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「カエサルから一緒にローマに帰って愛人にならないかと言われ時は、心がグラグラやってん。あん時ほど、男と結婚できないカギをかけてしまったのを後悔したことはなかったわ。そやなかったら、絶対ついて行ってた」
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「ところで日本に来て記憶の封印をしてからは結婚できたんじゃありませんか」
「それ・・・ユッキーの記憶の封印は手が込んでて、恋は出来ても結婚しないように心のブレーキ付けとってん。そやから、ここ二千年ばかりずっと独身。アラフォーになってもたけど、今の世の中やったら、余裕でまだまだ結婚できるから、四十歳になった目標はまず男を探すことやな」
それでもミサキは知ってるんです。コトリ部長は決して男狂いじゃないことを。男が好きなのは間違いありませんが、会社での颯爽とした姿から信じられませんが、ビックリするぐらいの少女趣味のロマンティストなのです。だからコトリ部長は惚れたら一途と思っています。