気持ちはわかるのですが・・・

広島県民様からのコメントです。

広島県在住の来年受験の高校生の保護者の者です。
いつもはROM専なのですが、広島県の地域枠である「ふるさと枠」について
当方が県に出した質問に担当者の方から回答を頂きましたので、ご報告したく思います。

Q1:「知事が指定する診療科」は何科に確定しましたか?
A1:「知事が指定する診療科」につきましては,平成26年度当初に「病理診断科」を指定する予定です。

Q2:ふるさと枠パンフレットには尾道市の旧市区域は中山間地域に入っているとの記載が有りますが、
   では知事が指定する県内の中山間地域等の公的医療機関にJA尾道総合病院と尾道市立市民病院は該当しますか?
A2:本県の中山間地域の指定範囲は条例改正により,平成26年4月1日から変更となり,
   JA尾道総合病院と尾道市民病院は中山間地域等の公的医療機関に該当しません。
   (上記2病院の立地は、比較的市中と言える所に有る為、ホントにココでの勤務を
    中山間地域での勤務にカウントしてくれるのか、念のため確認したのですが…案の定、手の平返しでした)

酷いなと感じたのは、県の意向次第で後付で好きに中山間地域の定義を変えられる点についてです。
やはり自治体さんは「資金を提供した以上、生殺与奪の権は お上の手に有る」と考えているようですね。
なお現在の規定では地域医療から足抜けしても、他府県での規定のようにペナルティの金利は付かない様ですが
この分ではある日突然「地域医療に従事しない場合は理由の如何を問わずペナルティの金利を賦課する」に
「条例改正により」の一言で変わってしまっても不思議ないように思えます。

結論:やはり地域枠の類は手を出すもんじゃないようです。

広島県民様はパンフレット読まれたようなので現物を確認してみます。まず

    Q1:「知事が指定する診療科」は何科に確定しましたか?
    A1:「知事が指定する診療科」につきましては,平成26年度当初に「病理診断科」を指定する予定です。
具体的にはどういうシステムになっているかですが、
ふるさと枠の義務年限は9年間となっており、そのうちのハイライトが、こういう条件自体はこの手の地方枠なら「ありふれた」ものなのですが、確かに受験生なら「知事が指定する診療科」とはなんだろうと考えるところです。中山間地域の勤務と天秤にかけたいところです。でもって回答は、
    平成26年度当初に「病理診断科」を指定する予定です
予めお断りしておきますが、病理は重要な診療科です。私もさんざんお世話になり、たくさんの事を教えて頂きました。たまたまかもしれませんが、ユニークなキャラ(良い意味で・・・)の先生と知り合うことが出来て、非常に好印象をもっている診療科です。ただなんですが、他の診療科以上に指向がはっきりしている診療科の気がしますから、正直なところ「凝った指定だな」と感心しました。病理医もまた不足しており、ある時期からワンサカ希望者が押し寄せる事が期待できる診療科ではありません。

ふるさと枠はパンフを読む限り総合診療医的な人材を育てる事を基本に置いているようで、そういう舞台として考えると中山間地域の病院は必ずしも悪くないとも考えられます。知事指定の診療科はこれに重複せず、なおかつ中山間地域の病院での勤務を選んだ者でも不公平感を抱かせない診療科として見れば絶妙の選択に私は感じました。医師以外には難しいかもしれませんが、医師なら「なるほど!」と思う方は少なくないと考えます。



次の個所は少し微妙です。ずらずらと研修予定病院が列挙されているのですが、広島の土地勘もイマイチなので私もピンと来ないところがあります。で、広島県民様は列挙されている医療機関中山間地域の勤務病院の例示と解釈されたようです。そう読めるような、読めないような構成ですが、少なくとも中山間地域の勤務病院も含まれていると考えても間違いではなさそうです。そのため、

広島県民様が関心をもった病院はJA尾道総合病院と尾道市立市民病院だったようです。理由はよく判りませんが、とにかく「このあたりなら良いか?」ぐらいの関心をもたれたようです。答えは「含まれない」になるようです。ここで広島県民様は突然と言うか、恣意的な指定病院の変更に不快感を持たれたのはわかります。気持ちはわかりますが、来年度受験された御子弟が仮にふるさと枠を選択され、実際に指定病院に勤務されるのはいつであるかを考えれば如何でしょう。ざっと10年後のお話です。

10年は長いです。とくに現在は良い意味でも、悪い意味でも医療の大きな転換期に当たっています。正直な話、10年後にパンフのリストにある病院が存在しているかどうかも誰も保証できない時代です。中山間地域の定義もそうで、少子高齢化の流れも変わらない事が予想される情勢では、それこそどうなっているか「わからない」です。これは病院に限らずのお話で、一般企業でも10年先にどうなっているか保証できるものではありません。就職時に花形業種であったものが、10年後に倒産している事だってあるわけです。そこを考えると指定は固定されない方が合理性があるようにも感じます。



奨学金返済条件です。ふるさと枠奨学金制度の概要を引用しますが、

私も調べた範囲でも一括返済は要求されても罰則的金利条件は目につきませんでした。これが途中で変更さるかどうかですが、「たぶん」されないと考えています。奨学金の法的位置は正確には存じませんが、ある種のカネの貸し借り契約ですから、借りた後に金利上乗せは公序良俗に反します。もちろんふるさと枠が続くうちに罰則的金利条件が加わるかもしれませんが、遡及措置の適用は行われないと考えて良いかと思います。



ちょっと補足ですが、私もいわゆる「地方枠」的なものに批判的であるのは否定しません。そういう批判を何度もエントリーに書いているのも事実です。ただですが、批判の趣旨は医学部入学時に将来のレールを確定してしまう点での批判です。ふるさと枠だって、広島県で勤務医生活を送り、中山間地域での医療に情熱を捧げたいの固い意志がある人なら、奨学金をタダでもらえるわけですから、使いようによっては非常に有用な制度です。問題は医学部6年、さらには前期研修医2年の間に考えが変わる可能性があると言うことです。もっと他の医療分野で活躍したいの指向です。医療の事を知るにつれ、考え方が変わるのを「変節」とするのは酷だと思っています。

それと広島県中山間地域とは言い換えれば「地方僻地」に該当すると想像しています。卒後の進路は近年幅が広がりましたが、ふるさと枠ではなく、純一般枠で合格・卒業した後に古典的な進路である広島大に入局したとします。医局はかつてのような「天の声」人事で一方的に運用される事は減ったとは聞いていますが、しょせんは決まっているジッツと呼ばれる派遣病院の椅子の分配機構です。医局員全員が希望で動くわけではありません。条件の良いところ、悪いところが混在していますから、医局全体で宥めすかしながら椅子を埋める作業が行われます。ジッツ病院と医局の関係とはそんなものです。

良くは知りませんが、広島大医局にも中山間地域のジッツは確実にあると存じます。これは他の大学医局も同様です。別に一般枠で入学したから地方僻地病院への派遣が免除されるわけではありません。結果として前期研修医が終わって7年の間に4年間の中山間地域の病院に勤務となってもおかしくないわけです。もちろん奨学金が出るわけではありません。ごくごく普通の勤務であり、立場(経験年数)によっては、奨学金をもらっているふるさと枠出身の医師の指導を無償でやる事にもなります。これとて別に不思議でもなんでもありません。


それでも可能であれば純一般枠での医学部入学をお勧めします。何事もそうですが自分の意思で選ぶのと、課せられた義務で動かされるのでは差が非常に大きいと思っています。どの業界もそれなりに特殊性と言うか、特有の慣行があり、医療界もまた同様です。そういうものは実際に医学部に入り、さらには勤務医として生活してみないと最後のところはわかりません。これまた当たり前のお話ですが、社会人になれば人生の選択は自分の責任で行います。卒後の進路だって古典的な入局路線以外にも、現在では自分の意思で切り開く医師も増えているようです。さらには時代として海外での活躍の道も広がっています。

若者には無限の可能性が残されており、どんな才能がまだ眠っているかもわかりません。私も含めて多くの医師が地方枠的なものに批判的であるのは、そういう場合に将来を入学時に縛ってしまう点である事は御理解いただきたいと思います。医師と言う職業だって、その中に多くの選択肢があると言うことです。