医学部留年増加「純原因仮説」は成立するか

 WGは2年生の留年者の増加をとくに問題視していましたが、2年生の留年数もその内訳も概算もチト難しく、1年生で試算してみます。今日の仮説はタイトルにも書いたように、、

    純定員増加仮説

 ちょっと長いので純原因仮説としますが、これは医学部募集定員増によって「起こるんじゃないか」としばしば指摘されているものです。今日の仮説の前提は、定員が増加し入学者が増えた分が留年者数の増加の純原因になりうるかどうかです。この仮説の一応の根拠は前回も出した、2012年度卒業生までの留年者の横這いないしは減少傾向です。卒業者数に対する留年者の比率は、

 このグラフに出ている医学生はすべて2007年度入学者以前のものになります。一方で定員増加は2008年度からです。純原因仮説はこれまでの定員人数分は留年率が変わらない前提になります。そのために1993-2003年の入学者数、1年学生数、留年者数の平均を取ります。ここより増えた分が定員増加分であり、ここでの変化の影響を計算します。


試算結果

 正確な計算はやはり不可能です。と言うのも、1年生とはいえ、ここで多留生が何人いるか不明だからです。仕方がないので1年生は2留はしない前提にします。そうでもしないと計算できません。とりあえず定員増加前(1993-2007年)のデータを示します。

定員増加前の平均
入学者数 7393.6
1年学生数 7569.4
留年数 175.8
留年率(%) 2.3

 2008年からのデータ処理がチト煩雑なんですが、表で示した平均より高い分が増加分になります。問題は留年生の扱いで、1年生に「2留はない」と前提させて頂いていますから、計算から除外できます。計算結果です。

年度 2008 2009 2010 2011 2012 2013
増加分学生数 164.4 829.4 1138.4 1126.4 1212.4 1244.4
増加分留年生 -18.8 44.2 65.2 125.2 142.2 165.2
増加分留年率(%) -11.4 5.3 5.7 11.1 11.7 13.3

 定員増加の始まった2008年度は増加分が168人(増員前の2%程度)だったためか、どこにも影響は現れなかったと取れそうです。本格的に影響が表れたのは2009年度以降なのは前回に示しましたが、2009年度時点(11%増)でそれまでの平均より2倍弱、2013年度(19%増)には6倍弱になります。定員増加前に較べるとかなり多いですが、数値的にはそれでも10人に1人強程度で可能性として「ありえる」数字とは言えます。

広範囲に留年者増が起こる理由

 定員増加が従来型の増加であり、従来の合格者層の質が低いのであれば、留年者増が起こる大学は限られるはずです。医学部にも難易度があり、一般に医学生は可能ならばより難度の高い医学部を目指します。わざわざ低いところを目指す者は多くないと言ったところです。それであれば玉突き現象と言うか、繰り上がり現象が起こり、WGの表現で従来の「質の高い学生」は難関校に繰り上がるだけで、現在の定員増加は2割程度ですから、下位1〜2割程度の底辺校に集まるはずです。ここも実際にそうなっているかどうかを確かめる術はないのですが、2/20付日医ニュースより

 これを読む限り広島大クラスでも起こっていると受け取っても良さそうです。どうも濃淡はあるものの全国的な現象ではないかと解釈します。そうなると定員増加による「質の悪い学生」はある程度満遍なく全国にばら撒かれている事になります。つまりは偏差値序列によって必ずしも偏っていないです。なぜにそうなるかの理由ですが、前に弘前大の事を調べた時の募集定員枠の配分です。

AO入試 40
一般入試 青森県定着枠 10
その他枠 55 青森県修学資金特別枠 5
青森県修学資金一般枠 20
青森県修学資金学士枠 5
純その他枠 35

 全部の医学部を調べ直す根性が無いのですが、どこもいわゆる「地方枠」的な選抜法が花盛りとなっています。なおかつこれは強力に推進されています。私の時代のように純偏差値での輪切りで選抜されていないので、WGが表現する「質の悪い学生」はかなり満遍なくばら撒かれている可能性はあります。

選抜法による評価の影響

 ぶっちゃけた話、ssd様も指摘されていましたが、従来型の選抜方法であれば合格者の下位層と、不合格者の上位層1000人とか、1500人程度は医学生の質として紙一重と思います。それこそ試験当日の運不運で運命が分かれた程度の差です。そりゃ、人数が増えれた分だけ幾分は質が下がるでしょうが、突然目に見える様な「有意」な差が特定年度から出現するとは考えられないぐらいのところです。教員側の質の問題も出ては来ますが、これも特定年度から突然質が下がり、なおかつその影響が学年が進むとともに拡大するのも不自然です。

 定員拡大とともに導入されたものは弘前大の例に示した様に選抜方法の変更です。この変更部分が年とともに拡大されているのは説明の必要はないと存じます。選抜方法の変更は評価法の変更であり、当たり前の話ですが従来の選抜方法と現在の選抜方法では得点評価が変わり、合格者層が変わります。選抜方法の変化は定員増加分だけに限って行われているものではないのは弘前大の例を見ればわかります。増加前の定員分にも広く影響しているとして良いでしょう。

 選抜方法とはその学部に相応しい学生を選ぶ手段です。どんな方式がより望ましいかは学部によって異なるかもしれませんが、医学部に限って言えば現在の選抜法は従来の選抜法より結果として劣っているんじゃなかろうかです。数値としては留年生の著明な増加であり、実感としては教員側(WG)の感想です。つまり現在の選抜方法は従来の選抜方法よりWGの言う「質の落ちた医学生」をより多く拾い上げるものになっている可能性です。逆に言えば「質の良い医学生」を従来の選抜方法より多く不合格にしているです。

 こう考えると話の筋が通りやすくなります。定員が急拡大した2009年度から急に影響が現れ、当該学年生が進級するに従って留年者増の影響が拡大しているに一致します。さらに現在の選抜方法の拡大は拡大前の定員部分にも広がっているため、年度が進むにつてれて「質の落ちた医学生」の影響は拡大しているです。今日の推論の結論としては、定員拡大による純原因仮説は否定したいと思います。影響が大きかったのは定員増よりも選抜方法の変更の気がします。選抜方法の変更の影響はこれまでも懸念する者がいましたが、その懸念が留年者数の急増と言う数値で示されたのがWGの調査結果であると考えます。