全国医学部長病院長会議WG データ操作疑惑は無かった(反省扁)

どうにも前回は検証が甘かったと反省しています。先入観と思い込みを捨てて、学校基本調査の確実なデータから再検証にトライしてみます。今回の基本はtadano-ry様からの、

つまり、2011年度の留年生1341名の中には、たとえば留年したがまだ6年生以下の学生は含まれていません。
 私の考えでは、少なくとも各学年毎の在校者数が分からないと新規留年者は計算できないように思います。

ここからの考察です。


年度毎の学年毎の学生数

今日のデータは学校基本調査に基づくものです。学年(学校基本調査の表現では年次です)の年度毎の学生数、入学者数、卒業者数を表にしてみます。

募集定員 入学者数 1年次 2年次 3年次 4年次 5年次 6年次 卒業者数
1993 48799 7725 7508 7701 7996 8067 8167 7994 8874 8047
1994 48111 7725 7480 7748 8150 7826 8188 7749 8450 8079
1995 47729 7705 7483 7658 7876 7994 7925 7881 8395 7799
1996 47526 7700 7503 7680 7936 7781 8097 7583 8449 7628
1997 47185 7700 7496 7656 8004 7877 7801 7790 8057 7781
1998 47101 7640 7430 7601 7978 8008 7816 7533 8165 7485
1999 46807 7630 7329 7484 7861 8022 7955 7567 7618 7603
2000 46697 7630 7287 7452 7764 7928 7860 7780 7913 7390
2001 46655 7630 7253 7406 7765 7808 7853 7706 8117 7297
2002 46410 7630 7258 7401 7730 7823 7851 7618 7987 7653
2003 46860 7625 7373 7546 7707 7963 7903 7714 8027 7655
2004 46808 7625 7360 7553 7758 7805 7897 7728 8067 7555
2005 46871 7625 7372 7558 7816 7849 7738 7792 8118 7392
2006 46800 7625 7377 7541 7831 7937 7788 7576 8127 7639
2007 46767 7625 7395 7556 7832 7968 7839 7685 7887 7647
2008 47115 7793 7558 7715 7882 7917 7857 7749 7995 7434
2009 48003 8486 8223 8443 7987 8026 7814 7711 8022 7561
2010 49146 8846 8532 8773 8775 8011 7917 7654 8016 7619
2011 50235 8923 8520 8821 9161 8665 7924 7748 7916 7631
2012 51650 8991 8606 8924 9300 9057 8581 7768 8020 7501
2013 52969 9041 8638 8979 9480 9163 8913 8380 8054 7639
はっ、はっ、はっ、これ作るだけで息が上がってしまいした。それでもなんとかtadano-ry様のリクエストの必要条件は満たせました。それと今回調べてみてわかったのですが、学校基本調査の卒業生で2013年卒業とは2013年3月卒業を指します。と言うのも、平成25年度(2013年度)調査に卒業生数のデータがあるからです。学校は年度で示すと思っていたので、個人的にちょっと混乱してました。それと黄色の背景は、その年に入学した者がストレートに卒業した時の該当年の例です。また水色背景は募集定員拡大の影響を受けている年次です。
1年次と卒業時の計算は簡単
まず1年次は簡単です。入学者数と1年次の学生数の差を取れば良いからです。もちろん休学者や退学者、さらには編入者があるのですが、データが無いので概算になります。同様に6年次の留年生も翌年の卒業生との差を取れば計算できます。これを表にしてみます。
年度 学校基本調査79大学 WG53大学
1年次留年生 6年次留年生 1年次留年生 6年次留年生
1993 193 795 * *
1994 268 651 * *
1995 175 767 * *
1996 177 668 * *
1997 160 572 * *
1998 171 562 * *
1999 155 228 * *
2000 165 616 * *
2001 153 464 * *
2002 143 332 * *
2003 173 472 * *
2004 193 675 * *
2005 186 479 134 325
2006 164 480 131 293
2007 161 453 133 249
2008 157 434 148 296
2009 220 403 176 268
2010 241 385 214 258
2011 301 415 212 273
2012 318 381 237 261
調査の結果、WGのデータは正確として良いと判断します。私の浅慮のために不要な疑惑を投げかけた事を反省し、陳謝します。前回の時に留年生の比率の表やグラフを提示しましたが、よくよく確認すると卒業生の中に含まれる留年生のデータでした。前回のグラフを作り直して、卒業生に対する留年生の比率として表すと、
卒業は年であり、2013年とは2013年3月卒業(2012年度)卒業であるのは注意して頂いて、このデータから言えるのは2007年度入学生までは留年者数の増加は見られず、横這いから漸減傾向であった事が確認できます。
問題は2年次から5年次の概算
これがどうにもです。とりあえず理屈の上では可能です。理論的には、
  1. 1年次の留年者は前年度の1年次学生から発生した者である
  2. 前年度の1年次学生数から今年度の留年者数を引けば前年度の2年次進級者数が計算できる
  3. 翌年度の2年次学生数から前年度の2年次進級者数との差が2年次留年者である
  4. 以下6年次まで同じ
これで合ってると思うのですが、この方法で試算していくと6年次の留年数が合わないのです。どっか間違ってるのかなぁ? うんうん考えましたが原因は特定できませんでした。強いて言えば休学者とか、退学者とか、編入者の影響があるのかもしれませんが、よう判らんです。それでもWGが問題視した1・2年次の進級時の留年者数はそれなりに正しいはずですから表にしてみます。
折れ線グラフの動きが微妙なのでよく見ないと判りにくいですが、1年次は2009年から、2年次は2010年から留年数の増加傾向を示していると見てよさそうです。


留年生の増加の原因

原因としてまず思いつくのは募集定員の拡大です。

年度 募集定員 定員増加分 定員増加率
1998 7625 0 1.00
1999 7625 0 1.00
2000 7625 0 1.00
2001 7625 0 1.00
2002 7625 0 1.00
2003 7625 0 1.00
2004 7625 0 1.00
2005 7625 0 1.00
2006 7625 0 1.00
2007 7625 0 1.00
2008 7793 168 1.02
2009 8486 861 1.11
2010 8846 1221 1.16
2011 8923 1298 1.17
2012 8991 1366 1.18
2013 9041 1416 1.19
この表では募集定員増加前の2007年を基準に定員増加数、定員増加率を計算しています。2013年時点で2007年度から比べると、おおよそ15校分ぐらい作られた計算になります。留年数は1年次で2009年から、2年次で2010年から増加を示しているのは上で検証した通りです。たしかに連動しています。募集定員の増加は2008年度からですが、この年の定員増加は168人、2%に過ぎません。2009年は861人、11%とドット増加しています。変化は大幅に募集定員が増えた2009年度入学生から始まっていると見てよさそうです。 WGは留年生の増加を学生の質の低下と結びつけておられるようです。それも解釈としては成立しないとは言いませんが、募集定員拡大前の医学生の留年数は長い間漸減傾向にあったわけですから、医学生の質だけが原因とする分析は粗い気がします。今日は比率のデータ提示を省略していますが、比率でも増加傾向は確認できます。増えた分の質の低下は一因として否定できませんが、従来の入学者から1〜2割程度多くすくっただけで、こんなに質に差が出るんだろうかの素直な疑問です。 医学部も難易度はあり、総募集定員が増えればいわゆる「優秀な学生」は上に繰り上がり、質の下がった学生は下に多く入り込むはずです。かつて三流とか揶揄されていた医大とかに質の悪い学生はより多く分布すると考えます。WGは80の医学部から53大学の調査になっていますが、53大学データでも留年数が増えているのはわかります。WGデータに含まれていない残り27の医学部も学校基本調査のデータからすると留年数増加の傾向はあんまり変わらないように見れるからです。つまり医学部全体で2009年度入学生から留年者数の増加傾向が発生しているです。 少子化の影響で全体のレベルに変化が生じているの説明もありますが、2007年度入学生まではそうではなかったもデータとしてあります。たった2年で急激に変化が表れているのを質の低下だけでは説明しきれない気がします。もっと広い視野での構造的な問題が生じているんじゃなかろうかです。大学なんて卒業以来縁がないに等しいので、現在の医学部がどうなっているかの雰囲気とか、現状は判りようもありません。聞くのは漏れ聞く風聞ばかりです。 それでも確実に言えるのは、私の頃とカリキュラムが大幅に変わっているだろうです。具体的には即戦力化の要請が非常に強くなっている気がします。私の様な牧歌時代の医学生は、臨床医学なんて卒業して医師になってから身を以て覚えれば必要にして十分とされていました。言い切ってしまえば、学生時代は国試に通るための知識さえ詰め込めばそれで必要にして十分みたいな感じでしょうか。実践的な臨床能力は卒後に叩き込まれる段取りです。それを医学部6年で半人前ぐらいに仕上げ、前後期研修の5年程度で1人前に仕上げる事が時代の要請として医学生に課せられているんじゃなかろうかです。覚える医学知識も、医学の宿命で後になるほど増えると言うのもあります。そういう時代の要請に教員サイドが十分に対応できていないのも一因とすれば言いすぎでしょうか。 もっとも教員サイドも大変なようで、そういう課題に対して対応できる必要な人が足りていないと聞きます。「医学部 ≒ 大学病院」的なところがあり、医学部教育に動員される医師は同時に、地域医療にも派遣を常に迫られる関係があります。大学教育に十分な人手を配すれば、一方で地域医療からの医師の引き上げに連動してしまうです。そういう矛盾が2009年度から噴き出している可能性もあるんじゃないかとも考えています。 ところでなんですが、2年次から3年次の進級にはそんな大きな関門があるのですか? 古典的には教養2年を終えて、専門に入る節目ですが、今どきは1年からシームレスで医学部専門教育が組み込まれていると聞いています。どんな関門があるのが、良ければ教えて頂ければ幸いに存じます。
オマケ
今年の国試はかなり難しかったそうです。知人の息子さんもショックを受けて家はお通夜状態とのお話も聞きました。まあ、国試も試験ですから傾向と対策があり、傾向がゴロッと変わる節目の年には悲劇は繰り返されるところはあります。覚える範囲は何と言っても膨大ですから、すべてを完璧に覚えられる人ならともかく、ある程度傾向に頼っている弱点部分に影響の出た受験生には誠に御愁傷様と存じます。でもって今年の国試の感想のYouTubeだそうです。
なんか昔の悪夢を思い出してしまいした。通ってて良かったとシミジミ感じています。