全国医学部長病院長会議WG データ操作疑惑

ソースの発見

2/20付日医ニュースより

ここから医学部生の質が下がった根拠として持ち出しているグラフを引用します。
ここにこのグラフのソースが書いてあります。これを開くとこう書いてあります。どうもプレゼン用のスライドのようです。そこには全学年の留年発生者数があるのでこれも引用します。
グラフに書かれてある数値を表にしておくと、
年度 1年 2年 3年 4年 5年 6年 合計
2005 134 289 225 231 103 325 1307
2006 131 321 256 157 83 293 1241
2007 133 312 209 200 97 249 1200
2008 148 277 256 205 104 296 1286
2009 176 341 229 195 73 268 1282
2010 214 396 227 243 89 258 1427
2011 212 441 263 242 124 273 1555
2012 237 472 277 267 94 261 1608
これらのデータを受けてのWGの「アンケート結果のまとめ」には、

  1. 在籍学生数は、増加傾向にあるが、高学年の学生数は、増員分をやや下回る傾向がある。特に、2年次で在籍者が滞っている。
  2. 留年者は、1-4年次学生で、休学者は、1-2年次学生で、前回調査に引き続いて、さらに増加(留年者は1年、2年次とも有意な増加を認め、留年者、休学者とも経年的に有意な増加を認める)。

今日は留年者数に話を絞りますが、留年者数は「有意」に増えている。言い換えると

    WGは医学部内の留年者数が増えている
こう結論している事になります。


学校基本調査

前にやったデータ分析のリサイクルですが、大学の在学者数、留年者数は学校基本調査で報告されています。学校基本調査の集計は医学部全体の集計となっていますがこれを表にしてみます。

年度 在学生数 留年者数 留年者の内訳
1留 2留 3留 4留以上
1997 47185 1980 1100 396 183 301
1998 47442 2003 1196 389 180 238
1999 46807 1707 950 397 160 200
2000 46697 1751 1044 338 190 179
2001 46655 1879 1105 414 162 198
2002 46410 1715 1023 367 160 165
2003 46258 1645 1034 322 140 149
2004 46207 1571 986 309 132 144
2005 46256 1652 1022 328 145 157
2006 46190 1530 907 319 146 158
2007 46248 1413 801 323 134 155
2008 46610 1503 908 302 138 155
2009 47496 1455 899 305 116 135
2010 48615 1377 806 300 130 141
2011 49693 1341 811 266 131 133
2012 51650 1392 824 292 137 139
このうち留年者数(医学部全体の留年経験のある医学生)の推移をグラフにすると、
確認できる範囲でピークの1998年には留年者経験者数は2003人あったのが、2012年には1392人に減っています。率にして3割、実数にして611人の減少です。減少傾向は年度により増減はあるものの全体としては漸減傾向が続いていると見て差し支えないかと存じます。医学部の募集定員は2008年度から拡大されていますが、その影響も考慮して留年率でグラフを描いてみても、
率で見ても漸減傾向は確認できます。念押しとしてWGのグラフと比べやすいように2005年からの留年者実数をグラフにしても、
これを「有意」に増えていると見る人はいないと存じます。漸減もしくは横這いが精々でしょう。学校基本調査のデータはWGの分析結果とは異なり、
    学校基本調査では医学部の留年者数は漸減傾向が続いている。それも90年代の後半から経年的に続いている。
これ以外に解釈は難しいと考えます。
データが相違する原因を考える
WGと学校基本調査ではサンプルが異なります。
  • WGは53大学(国立30、公立2、私学21)
  • 学校基本調査はおそらく防衛医大を除く文部省管轄下79大学
データの信頼性と言う点では公式調査の学校基本調査の方が上になります。つうか、WGのデータも大元はは学校基本調査に提出したデータのはずです。学校基本調査のデータは調査しているだけでなく、在学生数の把握は教育政策に直結します。たとえば学部定員数に対する在学生数の比率(充足率と言うそうです)が多すぎても、少なすぎても補助金の減額の対象になります。もし虚偽のデータを提出し発覚すれば大変なことになります。WGも学校基本調査もデータとして正しいとなれば、出てくる結論は、
    WGのサンプル53大学の留年の増加をその他の26大学が余裕でカバーしている???
こんな結論は私でなくとも「そんな事はありえないだろう」としか思えません。せめてWGのサンプルと非サンプルの数が逆ぐらいでないと、この結論で説明するのは非常に難しいです。私はWGがなぜに53大学しか調査していないかに非常に引っかかります。理由も書いてありまして、
    (連続データのある大学のみ)
一見もっともらしそうな理由ですが、大学運営に取って留年者数、在校生数の把握は基本の「き」と考えます。それこそ毎年の経営会議での重要課題になるはずです。そんなデータが10年や20年で失われるとは考えられません。戦前まで遡るのならともかく、WGがグラフにしているのはたかが2005年からのものです。数値データはこの時代なら余裕でPCに管理していて当たり前です。毎年、毎年、学校基本調査を提出するのですから、そんな事もしていない大学が全国で26大学(防衛医大も含めれば27大学)もあるとは考えられません。私はWGは全国80の医学部の留年データを集める事は十分可能であったと見ます。そう、集めた上でWGが調査の「ありき結論」に合わせるように53大学をピックアップしたんじゃないかと考えています。そうでも考えないとWGと学校基本調査のデータの差の説明は不可能かと存じます。


オマケの疑問

WGは全学年の留年者数をグラフに書いていますから、年度毎の留年者数は53大学分は確認できます。一方で学校基本調査は年度毎の留年経験者数、つまりその学年に留年していなくとも留年経験のある人数を79大学分示しています。判りにくいかもしれませんのでもう少し補足すると、

  • 学校基本調査の留年者数


      79大学の医学部内の留年経験者数の総数。その年度に留年したかどうかは不明だが、卒業までに1回でも留年経験がある学生の累積数


  • WGの留年数


      53大学のその年度に留年した人数。留年経験は関係ない
これを踏まえた上でもう一つ表を示します。
年度 WG調査

(53大学分)
学校基本調査(79大学分)
合計 うち1留 うち2留 うち3留 うち4留以上
2005 1307 1652 1022 328 145 157
2006 1241 1530 907 319 146 158
2007 1200 1413 801 323 134 155
2008 1286 1503 908 302 138 155
2009 1282 1455 899 305 116 135
2010 1427 1377 806 300 130 141
2011 1555 1341 811 266 131 133
2012 1608 1392 824 292 137 139
どうにも違和感があります。WG調査の53大学の単年度あたりの留年発生数が妙に多い気がします。とくに2010年度以降は学校基本調査(79大学)の留年経験者数を上回っています。多留生の問題が絡むので難しいところですが、年度毎の新規の留年生の発生数は計算可能です。まず学校基本調査の年度の考え方です。基本は5月1日時点の状態と書いてありました。そうなると提出されるデータの時期は、
  • 入学者数は今年度
  • 在校者数は今年度
  • 卒業者数は昨年度
  • 在校生の留年者数は今年度
そうなると留年者は卒業と共に減った分と新年度で新たに増えた分がある事になります。前に作った表の一部ですが、2005年からの分だけ再掲しておくと、
年度 在学(年度始) 新規留年者 在学(年度末) 卒業留年者
2005 1652 1095 2747 1217
2006 1530 1077 2607 1194
2007 1413 1117 2530 1027
2008 1503 1252 2755 1300
2009 1455 1010 2465 1088
2010 1377 1039 2416 1075
2011 1341 1048 2389 997
2012 1392 * * *
新規留年者がその年度に発生した1留生になります。で、WGの年度毎の留年生が仮に正規分布しているとすれば、概算としてWGデータの79/53に近くなるはずです。そういう前提で試算してみると、
年度 WG留年者 補正 学校基本調査79大学分データ
実数概算 比率
一留 二留以上 一留生(%) 二留以上(%)
2005 1307 1948.2 1095 853.2 61.9 38.1
2006 1241 1849.8 1077 772.8 59.3 40.7
2007 1200 1788.7 1117 671.7 56.7 43.3
2008 1286 1916.9 1252 664.9 60.4 39.6
2009 1282 1910.9 1010 900.9 61.8 38.2
2010 1427 2127.0 1039 1088.0 58.5 41.5
2011 1555 2317.8 1048 1269.8 60.5 39.5
WGの結論は「経年的」に「有意」に留年生が増えているとしているわけですから、53大学分を79大学に補正計算を入れれば「こんぐらい」の数になるのは当然と言えば当然です。またWGのデータが学校基本調査と矛盾する点があるのは既に上記したのでもう良いと思います。でもって、なにをオマケの疑問としたかったかですが、たとえ下位から53大学分をWGが選んだとしても多すぎるんじゃなかろうかです。WGのデータ自体が正しいのなら、医学部は留年生が殆ど存在しない26大学と、「有意」に増えている53大学に二分される事になります。しかしそういう状況に医学部がなっていると仮定するのは学校基本調査を見る限り難しそうです。あくまでもWGが大学から入手したデータ自体に手を加えていないとして浮かんでくる疑問があります。ひょっとして留年生データは2種類あるんじゃなかろうかです。
  1. 学校基本調査に提出している表のデータ
  2. 学校運営上のための裏データ
WGは裏データを「実態」として公表したです。それならそれで凄い事ではありますが、当然のことですが表のデータを信用し、各種の補助金を配分している文科省にとって面白かろうはずがありません。はてさてどうなっている事やらです。