医学生の質は下がったか?再検証編

学校基本調査を見直してみる

 データを見直しながら「今さら」気が付いた点ですが、まず学校基本調査の年度の考え方です。基本は5月1日時点の状態と書いてありました。そうなると提出されるデータの時期は、

  • 入学者数は今年度
  • 在校者数は今年度
  • 卒業者数は昨年度
  • 在校生の留年者数は今年度
 こうなるはずです。年に1度の調査ですから、そうならないとデータに出来ません。


留年者数の計算

 留年者は卒業と共に減った分と新年度で新たに増えた分がある事になります。ここで学校基本調査にある在学生の留年者数は年度始めのものになるはずです。卒業者の留年者数もデータとしてあるのでちょっと表にしてみると、

年度 在学(年度始) 新規留年者 在学(年度末) 卒業留年者
1996 * * * 1418
1997 1980 1201 3181 1178
1998 2003 802 2805 1098
1999 1707 1093 2800 1049
2000 1751 1119 2870 991
2001 1879 1048 2927 1212
2002 1715 1078 2793 1148
2003 1645 1043 2688 1117
2004 1571 1208 2779 1127
2005 1652 1095 2747 1217
2006 1530 1077 2607 1194
2007 1413 1117 2530 1027
2008 1503 1252 2755 1300
2009 1455 1010 2465 1088
2010 1377 1039 2416 1075
2011 1341 1048 2389 997
2012 1392 * * *

 だいたいこんなところです。データで確認できる範囲で言えば毎年1000人チョットぐらいの留年者が発生しており、その数もほぼ安定しているように見れます。


定員と入学者数

 医学部定員は増員に継ぐ増員が重ねられていますが、何ヶ所かの大学を調べましたが新規入学者数の定員です。何が言いたいかですが、編入学枠をいわゆる医学部定員の中で取っている大学は見つけられませんでした。でもって定員に対する入学者数です。


年度 定員 入学者 定員不足
1997 7625 7496 -129
1998 7625 7771 146
1999 7625 7329 -296
2000 7625 7287 -338
2001 7625 7253 -372
2002 7625 7258 -367
2003 7625 7278 -347
2004 7625 7265 -360
2005 7625 7277 -348
2006 7625 7282 -343
2007 7625 7395 -230
2008 7793 7463 -330
2009 8486 8118 -368
2010 8846 8420 -426
2011 8923 8408 -515
2012 8991 8494 -497
2013 9041 8638 -403

 1998年度を除いていずれも入学定員を下回っています。さて何故だろうと言うところです。まず思いつくのは編入学者です。この編入学者数も学校基本調査に学部毎にまとめられているのですが、医学部医学科については確認したところ、ほぼゼロに等しい数になっています。では本当にゼロかと言えばそうではなく、卒業者のデータには記載されています。これも表にしておくと、


年度 編入学者
1996 52
1997 63
1998 46
1999 61
2000 47
2001 58
2002 93
2003 100
2004 153
2005 180
2006 247
2007 215
2008 204
2009 211
2010 224
2011 231

 どうなっているのかサッパリわかりませんが、編入学者は確実に存在します。こういう医学部編入学のためのガイドもあり、募集定員を足すと267人(のはず)あり、2011年度の編入学者数の卒業生数を裏付けるものがあります。ただこの編入学者数を足しても正規の定員に達しません。編入学者数の変遷まで追えないので、仮に2008年度から267人の編入学者が存在したとしても、


年度 定員 入学者 編入学者 定員不足
2008 7793 7463 226 -104
2009 8486 8118 226 -142
2010 8846 8420 226 -200
2011 8923 8408 226 -289
2012 8991 8494 226 -271
2013 9041 8638 226 -177
合計 52080 49541 1356 -1183

 医学部は募集定員を満たすために繰り上げ合格を積極的に行う学部です。とくに私立はかつては定員超過を繰り返し指導を受けた大学もあったと聞きます。そうでなくとも私立にとっては学生は飯の種ですから、可能な限り定員を満たそうとするはずです。ただなんですが別の要因もあります。大学は国から補助金をもらっているのですが、大学定員を10%超えても、逆に下回ってもこれを査定されるそうです。

 医学部定員は伊達でなく、医学部全体の在学生の定員もこれによって決まります。上記した入学定員の合計の52080人がそれです。学部の定員オーバー分を編入学を含めた新規入学者数で調整しているのではないかの説です。ただこれもかなり否定的な感触があります。これもまた簡単な表にしておくと、


年度 年度定員 学部定員 在学者数 定員超過数 定員超過率 110%定員
2005 7625 45750 46256 506 101.1 50325
2006 7625 45750 46190 440 101.0 50325
2007 7625 45750 46248 498 101.1 50325
2008 7793 45918 46610 692 101.5 50510
2009 8486 46779 47496 717 101.5 51457
2010 8846 48000 48615 615 101.3 52800
2011 8923 49298 49693 395 100.8 54228
2012 8991 50664 51650 986 101.9 55730
2013 9041 52080 52969 889 101.7 57288

 編入学者を全部入学させ、さらに定員目一杯の受験者を合格させても問題が生じるレベルにはかなり距離があります。どうなっているんだろうと言うところです。5万人の定員の1%は500人ですからねぇ。何が言いたいかですがm3記事にある、

2008年度の入学定員(7793人)は、2007年度(7625人)と比べて168人増加。留年生等の数がほとんど変わらなければ、2013年度の6年生は、2012年度と比べて168人程度増えるはずだが、実際には8010人で、2012年度の6年生8036人と比べ、26人減少している。4年生、5年生でも同様の傾向が見られる。

 これはかなり問題視されているところになっていますが、この指摘の前提は入学定員と同じ入学者があると言う前提と考えられるからです。医学部ですから普通はそうなっているだろうと思いますが、学校基本調査を見る限り結構な欠員数が見られます。ましてや、

    2008年度の入学定員(7793人)は、2007年度(7625人)と比べて168人増加

 正直なところ168人なんて欠員の変動の範囲に収まりそうな数です。だいたいその年度の入学者(新規入学者+編入学者)の数さえはっきりしません。編入学者は2年次ないし3年次から編入と考えますが、どれぐらいの数が当該年度の医学生数か不明と言う事です。学年毎の学生数のデータはありますが、これでは留年者が入り混じり推測しようがないと言うところです。こんな曖昧なデータを根拠に、

    医学生の学力低下が顕著

 こんな事が言えるのが私には不思議です。m3記事を読む限り全国医学部長病院長会議の調査がより詳細だとはとても信じられないからです。データって掘り起こすと面白いものが出てくるものだと感心した次第です。

謎として残った事

 実は今日の検証の本当の目的は、


年度 在学者数

(年度始め)
卒業者数 年度末 入学者数 在学者数

(卒入単純計算)
過不足
1996 * 7781 * * * *
1997 47185 7485 39700 7496 47196 246
1998 47442 7603 39839 7771 47610 -803
1999 46807 7390 39417 7329 46746 -49
2000 46697 7297 39400 7287 46687 -32
2001 46655 7653 39002 7253 46255 155
2002 46410 7655 38755 7258 46013 245
2003 46258 7555 38703 7278 45981 226
2004 46207 7392 38815 7265 46080 176
2005 46256 7639 38617 7277 45894 296
2006 46190 7647 38543 7282 45825 423
2007 46248 7434 38814 7395 46209 401
2008 46610 7561 39049 7463 46512 984
2009 47496 7619 39877 8118 47995 620
2010 48615 7631 40984 8420 49404 289
2011 49693 7501 42192 8408 50600 1050
2012 51650 7639 44011 8494 52505 464
2013 52969 * * 8638 * *

 これなんです。なんのコッチャラわからないと思いますから解説しておきます。在学者数とはその年度の正規受験合格者を加えた年度始めの学部学生数になります。これが年度末になると卒業生を送り出し、また新たな入学生を迎え入れます。編入学や退学等が無ければこの収支はピッタリ合うはずですが、合わない時は理解として、

  • 増えている時は編入学者が多い
  • 減っている時は退学者が多い

 編入学者数も退学者数も学校基本調査にないので判らないとは言え、どうにも収支の過不足の振れが大きすぎて「何が起こっているのか」私には理解不能でした。これも素直な感想として近年は「増えすぎ」じゃないかと感じました。どこからこれだけ湧いてくるのだろうです。どこかに解釈ミスとか計算ミスがありそうな気がしないでもありませんが、私の算数能力ではついに判らなかったのを遺憾とさせて頂きます。

蛇足

 今年度の医学生の質と定員の関係は2007年度からわずかに168人増えただけのお話です。現在は定員ベースで1416人。来年度の卒業生でも2007年度から861人です。留年者数で考えると2012年度、いや辛くとって2011年度までは無影響です。これが今年度の卒業生から急速に悪化するようになれば原因として単純に考えられるのは、

  1. 増員分の医学生の質が悪い
  2. 教員側に問題がある
 これまた前に検証しましたが、受験レベルの医学生の質は「かつて」より格段に上っています。たかが861人とか、1416人増えたぐらいで急に閾値が訪れるとは信じ難いところです。そうなると教員側に問題があるの指摘も十分に成立するかと考えます。頭から否定して一顧だにしないのも私は問題と思います。教員の仲間内のアンケート愚痴なんて評価としての客観的価値はさして高くないですからねぇぇぇ。

 あくまでも「たぶん」ですが、定数増大に伴う特別枠の問題を出すのは教員側としては禁じ手の様な気が「何故」かするものですからハイ。