現研修医制度による医師偏在の原因

 研修医制度は2003年度卒業生に対し導入され2004年度から始まっています。2012年度時点で9年間が経過しています。現研修医制度についての評価は様々ですが、悪い方の評価として医師の偏在を促進したと言うのがあります。良く書き立てられる大都市部への医師の偏在です。漠然と大都市部といわれれば、東京の他に十大都市とか政令指定都市がある道府県を思い浮かべますが、ちょっと調べてみると相違する部分があるようです。

 調査方法は時期を2つに分けます。これは医師数のe-statにあるデータの関係もあるのですが、

    旧研修医時代:1994年度〜2002年度
    現研修医時代:2002年度〜2010年度

 いずれも期間は9年間です。ここで偏在を示す指標が必要なんですが、仮定として都道府県の人口比に応じて医学部に進学するものがおり、さらに理想的には都道府県の人口比に応じて医師が都道府県に分配されるとします。人口比の分配人数より多いところは医師は増え、逆のところは増えにくいわけです。ここで注意なんですが、あくまでも人口比による分配に対する指標です。人口比に基づいて公平に分配された時に対する偏在の指標とすれば良いでしょうか。

 今回の手法として2つの時期の都道府県毎の増減分をまず出します。その上で、

    旧研修医時代:2002年度の人口で評価
    現研修医時代:2010年度の人口で評価

 それぞれの時期の都道府県毎の人数は引き算でわかります。また全国増加数も同様です。全国増加数に各都道府県の人口を掛け、さらにこれを総人口で割れば人口比配分人数がわかります。さらに各都道府県の実人数から人口比配分人数を引けば過不足分が判明するわけです。ここに本来は都道府県の人口の違い、2002年度時点と2010年度時点の各都道府県の動向を絡めて話を膨らます予定だったのですが、全部省略して結果だけ示します。


旧研修医時代 現研修医時代
都道府県 過不足 都道府県 過不足
兵庫 360.9 東京 3378.1
福岡 254.1 神奈川 817.2
千葉 230.5 沖縄 431.9
大分 177.5 千葉 206.2
沖縄 117.0 福岡 196.0
大阪 108.3 愛知 108.5
奈良 99.1 京都 96.5
北海道 93.0 岡山 82.8
滋賀 85.1 大阪 45.8
和歌山 84.7 滋賀 32.6
群馬 81.7 福井 27.9
宮崎 79.2 宮城 22.3
富山 75.7 岐阜 17.0
愛知 70.2 佐賀 6.9
栃木 56.9 埼玉 -4.8
長野 55.7 長野 -21.1
山梨 35.5 長崎 -25.9
京都 31.4 奈良 -43.5
佐賀 26.9 山梨 -64.7
鳥取 25.9 兵庫 -67.4
福井 25.8 山形 -86.3
岡山 20.3 徳島 -89.4
香川 -1.2 和歌山 -90.4
島根 -1.4 香川 -91.6
高知 -6.6 栃木 -101.1
岐阜 -9.5 鳥取 -101.2
広島 -10.5 茨城 -109.0
徳島 -13.3 石川 -115.4
山口 -23.5 大分 -117.5
愛媛 -29.8 島根 -120.6
宮城 -41.2 宮崎 -127.5
鹿児島 -69.0 熊本 -131.9
三重 -70.6 秋田 -147.0
秋田 -72.7 三重 -152.3
埼玉 -74.6 鹿児島 -152.9
石川 -76.5 富山 -174.4
山形 -98.6 高知 -184.2
茨城 -102.4 群馬 -215.5
長崎 -107.0 山口 -236.4
新潟 -114.8 岩手 -245.6
東京 -131.8 青森 -248.2
熊本 -132.3 静岡 -266.2
静岡 -143.8 愛媛 -271.7
青森 -165.1 広島 -362.7
福島 -208.3 福島 -397.6
神奈川 -208.7 新潟 -443.7
岩手 -210.2 北海道 -536.8

あまりにも明瞭な結果が出て驚いています。チト見難いですがこれをグラフにしてみます。


 旧研修医時代にも多めに医師が集まるところ、少なめになってしまうところはありましたが、現研修医時代になると医師が集まるのは東京がダントツで突出しているのが分かり安すぎるぐらいに示されています。あえて言えば神奈川も含めると、この2つだけで全国の遍在を4000人以上起している事になります。この偏り方は旧研修医時代と文字通り桁が違います。旧研修医時代の偏在が100人単位であるのに対し、現研修医時代は1000人単位となっています。

 桁が違う効果は他にもあり、旧研修医時代は医師が多目に集まる都道府県とそうでもないところがある程度拮抗していましたが、東京に偏在が集中した結果、多くの道府県が医師が少なめに配分されるところに変わっています。簡単に言えば東京が1人勝ちしたのが、全国の広い地域で医師不足感が広がった原因の一つになるかもしれません。東京にこれだけ偏った後の残りを奪い合うのですから必然的に厳しい状況になっているぐらいのところです。もう一度、誤解がないように断っておきますが、上の表での「過不足」とは人口比で配分される医師数であり、プラス・マイナス・ゼロで人口比的には適正です。人口比配分人数以上に集めているところは偏在になるわけです。

 もう少し補足しておきますと、旧研修医時代の東京は人口比配分人数未満です。神奈川については2004年度時点でも、2010年度時点でも医師数が全国平均以下ですから「是正」されているとしても良いと思いますが、これは神奈川に魅力があったと言うより、東京から溢れた数が次の近場の神奈川と言うより横浜方面に向かっていると取ったほうが良さそうな気がします。


 お蔭であれこれ準備を重ねていた前期研修医と医師数増加の関係なんて分析は半分ぐらいボツになってしまいました。そんなものいくら分析しても、すべからく東京へ、東京へと医師は集まってるわけです。そして東京以外の道府県は横並びで「医師が足りない」と嘆き節になり、あれこれ小手先の対策を打ち出す状況に追い込まれます。ただこの巨大な流れを見ると研修医獲得数なんて小さすぎる事と思わざるを得ません。

 しっかし東京が相手となると、これに対抗する魅力を作り出すのは実際のところ不可能でしょう。そうなれば、対応策は東京が溢れ出すのを待つしかないになります。神奈川はその恩恵を幾分は受け始めていると言ったところでしょうか。ただ確かrijin様の試算では、この東京でも近い将来医師不足が起こると予測されていました。そうなると東京の吸引力は私の寿命単位では無尽蔵になりますから、打つ手はないかもしれません。