5年目医師の動き

医学部を卒業して国試に合格すれば研修医になります。その後の大雑把なコースをまとめておけば、

  • 前期研修2年
  • 後期研修2年
こうなんですが、詰まるところ前期研修が終わった3年目、後期研修が終わった5年目に節目が来ます。この時に医師はどう動いているのだろうは興味が持たれるところです。ところがこれを把握できるデータがありません。卒業時の行き先はマッチ者データで把握できるとしても、後期研修段階でどうなったかはサッパリわからないです。後期の研修が終了した5年目も注目されるのですが、輪をかけてわかりません。

私も頻用する医師・歯科医師・薬剤師調査も基本は2年おきであり、都道府県毎のデータ、年齢階級別のデータはあっても年齢階級が5歳刻みであり、わかったようなわからないデータしか手に出来ません。そんなところに医師臨床研修制度の評価に関するワーキンググループ(第8回) 議事次第小池 創一 参考人、松下 香代 参考人 提出資料が目に付きました。この資料の正式名は「臨床研修制度の導入前後における医師の地域分布の変化について(中間解析)」であり「平成24年度厚生労働科学研究「医師臨床研制度の評価と医師のキャリアパスの動向に関する調査研究」となっていますから公式資料と判断できます。


ソースの内容

様々な分析を行っているのですが、私がピックアップしたのは1年目医師、3年目医師、5年目医師の都道府県毎の分布です。ただしですが、

  1. 母数は2008年度と2010年度の医師数を合算したもの。つまり2年分のデータである。
  2. 1・3・5年目の医師数はあくまでも2008・2010年度時点のものである。
これを擬似的に経年変化と見るために、
  1. 1・3・5年目医師数を1年目医師数に等しくなるように補正を掛ける
  2. 医師数の分類は医育機関、医育機関以外の病院(一般病院とします)、その他になるが合計数を「医育機関 +一般病院」とする
こうやれば正確ではありませんが、3・5年目の医師の都道府県間の移動傾向がわかるはずです。ただし出入数全体はわかりません。あくまでも流出入差である事に御留意下さい。


移動全体の結果

個人的にはちょっと意外な結果が出ました。表で示します。

1 → 3年目 3 → 5年目 1 → 5年目
都道府県間移動者 735.1人 764.5人 710.6人
移動率 5.1% 5.3% 4.9%


全体の5%程度しか都道府県を超えて移動していません。入れ替わりの相殺分があるとしても「これだけ?」って数字と感じました。とくに実数については2年間の合計ですから単年度にすればさらに半数ですから360〜380人ぐらいしか都道府県を越えての結果的な増減は起こっていない事になります。可能性として激しい移動が行われた結果として差が小さいもあるにはありますが、それにしても小さい感じです。都道府県毎の上位下位10づつを表にします。

増加都道府県
都道府県 1年→3年 都道府県 3年→5年 都道府県 1年→5年
東京 264 埼玉 228 埼玉 120
福岡 112 静岡 110 千葉 104
千葉 92 福島 34 大阪 101
大阪 80 宮城 31 静岡 76
岡山 53 茨城 30 宮城 47
熊本 21 神奈川 30 鹿児島 45
徳島 18 山口 29 岡山 29
鹿児島 16 鹿児島 29 福島 27
宮城 16 岐阜 27 熊本 24
長崎 14 高知 24 群馬 22
減少都道府県
都道府県 1年→3年 都道府県 3年→5年 都道府県 1年→5年
埼玉 -108 東京 -344 東京 -80
神奈川 -69 福岡 -91 愛知 -49
三重 -39 京都 -59 京都 -47
沖縄 -39 徳島 -35 和歌山 -44
山口 -34 兵庫 -33 山形 -41
静岡 -34 石川 -31 神奈川 -39
和歌山 -33 岡山 -24 三重 -38
愛知 -33 岩手 -21 石川 -35
北海道 -29 青森 -19 青森 -33
茨城 -28 愛知 -17 広島 -33

移動数の総数は上の表に示していますが。700〜750人程度です。見てると面白いのですが、東京を例に取ると後期研修段階の3年目には全国一流入していますが、後期研修終了後の5年目には全国一流出しています。結果として全国一流出数が多くはなっていますが、それでもたったの80人です。この統計での東京の1年目数は2284人ですから、影響としては誤差の範囲と言うところでしょうか。 もう一つ何かと医師不足と言うと話題に上る埼玉ですが、3年目には全国一の流出数となっていますが、逆に5年目には全国一の流入数となり、結果として5年目段階では全国一の流入数となっています。と言っても120人ですが、埼玉は1年目数が406人ですからこれは有効に作用していると見れるかもしれません。そんなに5年目医師にとって埼玉が魅力あるかどうかは・・・私には良くわかりません。
移動の結果2
流出入と言っても1年目母数が変われば影響も変わりますら、1年目母数に対する影響を出してみます。
1→5年目 医師数増減
増加 減少
都道府県 1年目数 増減数 増減率(%) 都道府県 1年目数 増減数 増減率(%)
鹿児島 123 45 36.8 和歌山 148 -44 -29.8
埼玉 406 120 29.6 山形 137 -41 -29.6
鳥取 53 16 29.4 山梨 88 -26 -29.4
島根 70 19 27.1 青森 120 -33 -27.7
千葉 465 104 22.4 福井 126 -33 -26.0
静岡 343 76 22.2 三重 162 -38 -23.3
宮城 218 47 21.4 大分 127 -28 -22.4
宮崎 79 14 18.0 岩手 133 -29 -21.8
福島 156 27 17.5 石川 163 -35 -21.8
群馬 145 22 15.3 徳島 96 -17 -17.4
熊本 164 24 14.3 秋田 122 -17 -13.9
岡山 259 29 11.3 香川 125 -16 -12.6
新潟 152 14 9.3 沖縄 237 -29 -12.3
大阪 1154 101 8.7 広島 288 -33 -11.4
愛媛 124 7 5.4 京都 439 -47 -10.7
栃木 241 12 4.9 富山 111 -10 -9.3
長崎 148 5 3.5 奈良 149 -9 -5.8
福岡 782 22 2.8 愛知 911 -49 -5.4
滋賀 168 5 2.7 兵庫 612 -31 -5.1
茨城 248 2 0.7 山口 137 -5 -3.8
岐阜 203 1 0.3 神奈川 1114 -39 -3.5
高知 77 0 0.2 東京 2284 -80 -3.5
* 佐賀 113 -4 -3.3
北海道 571 -16 -2.8
長野 226 -2 -0.9

増減については1年目母数の性質によって変わる部分はあるとも考えられ、1年目の前期研修選択で過小すぎるところは他の都道府県への流出組が返ってきたもあると考えられます。逆に過大気味のところは戻って行ったなり、他の都道府県に流出したです。また大都市部の有力大学を抱えるところでは都道府県を越えての人事異動もあり、その影響もあるかもしれません。それでも全国マスなら5%程度のものが、都道府県レベルとなると30%ぐらいに濃淡が出る事は確認できます。
人口配分比
人口配分比で研修医(1年目)の偏在があるのは前に分析しましたが、5年目までの移動で何か影響があるだろうかです。グラフで示します。

都道府県によっては影響もあるところはあるのは上で示しましたが、全体で5%程度の移動ではそれほどの影響はなさそうです。ではこの傾向が病院医師数全体とどれだけ連動しているかです。近似値的に2010年度の病院医師数から2008年度の病院医師数の差を当てはめてみます。

1・5年目の偏在と較べると傾向がやや異なってきていると感じます。実はこのグラフを見ただけでは、おそらく誰も気がつかないでしょうが、このグラフ自体が非常に違和感があるものになっています。どこに違和感があるかと言えば偏在数自体の総数に違和感が少ない事です。こんな説明じゃわからないと思いますから表で示します。
分類 母数 偏在総数
病院医師総数 6700 1796
5年目医師 14517 1535

お判りいただけたでしょうか。
まとめ
データを見る限り1年目から5年目までの医師の都道府県間の流出入差は少ないようです。データ上は5%程度で、流出入はあるにせよ都道府県内医師数と言う観点で言えば、最初の研修医数がそのままの都道府県格差につながっていると見れます。今回は特に病院勤務医数でまとめていますが、1→5年目医師数が病院医師総数の偏在に連動しているかと言えば少し違いそうに思います。5年目までよりも、むしろ6年目以降の医師の都道府県間移動が大きいような気がします。研修医獲得競争は5年目まではそれなりに有効性がありそうにも見えますが、その後の移動はそれ以上に大きそうだぐらいです。 さて現在の地域括りつけ枠の有効性はどうでしょうか。括りつけ枠は条件によって違いますが9年から12年まであるようです。卒業生が忠実に守ればその期間は都道府県間移動の抑制効果はあるかもしれません。しかしその後はどうなるんだろうです。今日のデータでは残念ながら5年目医師までしか情報がありませんが、どこかの経験年数の医師から大きく移動が始まるのでしょうか。それとも五月雨式に移動しているのでしょうか。これは判りません。 チト時間と手間がかかりましたが、なかなか興味深いデータでした。