千葉県の医師数

千葉県は残念ながら通過したこともありません。そのため実感的な人文地理は残念ながらありません。まあ、仮にディズニーランドぐらいに行った事があったとしても、それじゃわからんでしょう。ですのであくまでも全県を単位にしてのデータの医師数のみで語ります。ただ対照があった方が少しは判りやすいと思うので、今日はあえて、のぢぎく県こと兵庫県を出してみます。

理由は人口規模が比較的近いのと、県のなかの多様性の大きさが類似していると思うぐらいのところです。千葉県も広くて多様性はあると思いますが、兵庫県もそういう点では十分匹敵すると思われるからです。それと兵庫県は「なんでも平均値」のところもありますから、今回選ばさせて頂いています。


比較期間

医師不足問題は巷間、現研修医制度が行われてから酷くなったとされる事が多いと感じています。現研修医制度は2003年から始まっていますから、もうすぐ10年になります。e-statのデータの関係で現研修医制度の前年である2002年から2010年の間の動きを追う事で、千葉県の医師数がどういう影響を受けたかが見える気がします。

それとこういう比較は人口も重要な点ですが、兵庫県はほぼ550万人で変わりません。一方の千葉県は2002年に597万人から2010年には618万人に増えています。兵庫県はあんまり変わらないので550万人ベースで計算しますが、千葉は年毎のデータで計算します。なお年齢構成等は今回は行っておりません。


研修マッチ者

現研修医制度と言えばマッチ者ですが、両県にある3つの医学部の大学病院マッチ者の推移を示します。

千葉大 年度 定員 マッチ者 母校卒 他校卒
2003 106 73 33 40
2004 106 70 31 39
2005 111 65 28 37
2006 107 63 27 36
2007 95 77 26 51
2008 95 51 29 22
2009 78 50 17 33
2010 70 28 11 17
2011 50 36 13 23
2012 50 22 9 13
神戸大 年度 定員 マッチ者 母校卒 他校卒 兵庫医大 定員 マッチ者 母校卒 他校卒
2003 80 80 32 48 60 60 56 4
2004 80 79 25 54 60 42 35 7
2005 80 66 16 50 60 40 36 4
2006 72 64 17 47 60 54 50 4
2007 72 72 22 50 60 60 51 9
2008 72 63 21 42 60 60 50 10
2009 73 71 14 57 60 53 43 10
2010 74 73 22 51 59 59 42 17
2011 74 69 31 38 62 59 46 13
2012 74 70 23 47 62 60 43 17

見ればそのままなんですが、兵庫県の2つの大学はほぼ定員分のマッチ者を集めているのに対し、千葉大は2003年時点の106人の定員を50人まで減らしても、その半分さえ埋めるのが難しくなってきているのが判ります。マッチ者数だけで言えば「千葉大 < 兵庫医大」となります。数字で千葉大の苦戦が明らかにわかるのですが、では大学だけではなく県内のマッチ者数ではどうなっているかです。
年度 千葉県 兵庫県
定員 マッチ者 定員 マッチ者
2003 391 268 356 297
2004 403 289 374 301
2005 397 302 393 322
2006 399 283 401 313
2007 400 304 420 333
2008 400 276 417 305
2009 371 289 384 323
2010 388 292 387 343
2011 383 300 381 335
2012 393 293 376 333

ここも千葉県の苦戦が見えます。2010〜2012年度で兵庫県がおおよそ330人前後であるのに対して、千葉県は300人前後です。人口は千葉の方が1割ほど多いですから、兵庫県より確実に少ないとは言えます。ただなんですが、県内マッチ者数は千葉大のマッチ者減とは相関性は低いとしても良いと言えます。まあ、千葉には全国的に有名な病院として旭中央とか、亀田総合とか、千葉東とか、銚子市民とか(チト違いますが・・・)がありますから、大学病院のマッチ者数の減少をカバーしてしまっているのかもしれません。 大学のマッチ者数との相関だけで言えば、2012年度で千葉が22人であるのに対して兵庫が130人と6倍ぐらいありますから、千葉と兵庫とだけで言えば大学のマッチ者数は県内マッチ者数との相関性は低いと言う事も可能です。
県内医師数
これが厄介なんですが、順番に見ておきます。まずは人口10万人対の医師数の推移です。まずはグラフにして見ます。
我ながら判り難いですねぇ。とりあえず印象として千葉も兵庫も同じように増えているように見えます。数値で確かめたいのでこんな表を作ってみました。
年度 人口10万人対 医師実数
全国平均比率(%) 県内医師数 全国平均不足数
千葉県 兵庫県 千葉県 兵庫県 千葉県 兵庫県
2002 72.5 98.4 8475.7 10593.0 -3219.4 -176.0
2004 72.6 98.2 8808.2 10851.5 -3318.2 -203.5
2006 74.4 98.6 9312.8 11187.0 -3203.4 -159.5
2008 75.6 98.3 9846.8 11506.0 -3174.2 -203.5
2010 75.0 98.3 10165.2 11836.0 -3384.3 -209.0

これも判り難いと思うので解説を加えると、人口10万人対の全国平均に対する比率は兵庫がほぼ横這いであるのに対し、千葉は若干ながら改善しています。また医師の県内実数ですが、兵庫が1243.0人増えたのに対して千葉は1.36倍にあたる1689.6人増えています。人口比を考慮しても兵庫より千葉の方が増えているとして良いかと考えます。 次が微妙なんですが、全国平均への不足実数です。スタートの2002年時点がそもそも違い、さらに千葉には人口増加の影響もあって一概には言い難いのですが、兵庫が2002年時点からさらに33.0人不足したのに対し、千葉は209.0人さらに不足となっています。理由としてとりあえず上げときたいのが、2年毎の医師実数の増加数です。
期間 増加数
千葉県 兵庫県
2002 → 2004 332.5 258.5
2004 → 2006 504.7 335.5
2006 → 2008 533.9 319.0
2008 → 2010 318.5 330.0

2002年から2008年までは一貫して千葉県の方が兵庫県より医師実数の増加は上回っています。とくに2004年から2008年までは兵庫の1.6倍程度の医師が増えています。これは人口比を考えても明らかに千葉の方が増えています。ところが2008年から2010年は兵庫の方が千葉より医師の増加数が増えています。つうか兵庫はほぼ一定の増加数であるのに対し千葉は2008年から急にダウンしたの表現の方が相応しいかもしれません。これが全国平均への医師実数不足数に反映されたんじゃないかと思います。
考察
あくまでも千葉と兵庫の比較に限定してのお話です。現研修医制度後では、
項目 多寡
大学病院マッチ者数 千葉 << 兵庫
県内マッチ者数 千葉 < 兵庫
県内医師増加数 千葉 > 兵庫

これがデータ上の結果で、
  1. 大学へのマッチ者数は県内マッチ者数と必ずしも相関しない
  2. 県内マッチ者数と県内医師増加数は必ずしも相関しない
千葉県の医師不足は旧研修医時代に既に出来上がっていたものであり、現研修医制度になってから2008年までは確実に恩恵を受けていたと言えます。兵庫県はほぼ全国平均と等しいですから、全国的に見ても新研修医制度の恩恵は厚かったとしても良いと考えます。ただ恩恵を受けていたと言っても旧研修医制度時代のツケは余りに大きく、たかが5年程度では数値上はともかく実感として焼け石に水程度であったと言われればそうかもしれません。

埼玉の5500人に較べればマシとは言え、千葉の3000人の不足も一朝一夕にはどうしようもないとぐらいにしか言えません。千葉も人口10万人対で「1人医師」を増やすには60人が必要で、さらに自然減少も年間130人程度は見込まれるため、少々増えても「どこに増えた?」にしかならないのもまた実感かもしれません。

それと今日は端折ると言うか私にはとても統計処理できないためスルーしましたが、年齢構成による医療需要の増加は見た目の医師数以上の逼迫感が出ている可能性は十分にあります。これは兵庫県とて同様ですが、全国平均程度ではかつてより確実に逼迫感が強くなっているんだろうとは考えられます。単純な話ですが全国レベルでも、

    医師数増加 < 医療需要増加
これがあるんだろうと言うところです。この医療需要の増加は年齢構成だけではなく、各種の書類仕事の増加、患者への説明の増加、救急対応拡大、医療の高度化などの要因もあるだろうぐらいは言えそうです。


全国レベルの話はともかく、千葉で言えば2008年からの医師数増加ペースの急落の原因の分析が必要だと考えます。データで見る限り千葉大マッチ者数も、県内マッチ者数も関連性が非常に低いのは確実です。マッチ者数、つまり前期研修医の数と医師増加は千葉ではあんまり関係無いからです。千葉もまた医師不足から私立医学部新設の要望が強い県ですが、2008年からの医師数増加ペース急落の原因を医学部新設で解消できるのか、それが対策としてどれほどの効果があるかは考慮すべき点だと思われます。

今より大学や県内マッチ者数を増やし、今日で言えば兵庫県並に引き上げたら、医師数増加の引き金になるかと言われれば、無効とは言いませんが「何故に兵庫県が増えないのだ」の説明が必要な気がします。そのためには兵庫県が増えない理由か、千葉県が増える理由の両方もしくは少なくとも片方ぐらいはあった方が良いんじゃないかは思います。まあ、そんな悠長な事はやっている時間は無いので、とにかく増えそうな事は「なんでもやる」がやはり強いかもしれません。

ちなみに神様の御託宣は、

弘前大:医療従事12年間 「県内枠」で期限明示 国立大医学部で初 読売新聞 研修医の囲い込みが加速しつつあります。「国立」まで加わりました。 http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=73256

どう読むかは微妙な点も残りますが、早く千葉も研修医囲い込み政策を行うべきだに読めない事もありません。当然その次は、囲い込み枠の増加のために医学部新設が必要ぐらいでしょうか。当たりかハズレかは「神様の言うとおり♪」てなところでしょうか。