代用専門家の寿命

芸能界(テレビ界)にはすべて枠があると看破したのは明石家さんまだったと思います。これは看破したというより、そうはっきり口にしたのがさんまだったかもしれません。誰が言ったかはともかく、芸能界の実態をよく表している言葉でよく使わせて頂いています。この枠と言うのは結構厳格なもので、確かに1人台頭すれば1人は消えます。消えなくとも主役級であったのが脇役に回ったり、とにかく定員は自然と守られる仕組みになっているのはある意味驚くほどです。

医療系も番組的にはそれなりにあり、そこには医療系枠と出来るものもあると見ています。ここで従来一定の枠を確保していたのが医療ジャーナリストです。今だって枠を確保していますが、個人的に枠の確保が難しくなって来ているんじゃないかと見ています。

医療ジャーナリストの存在価値は「ジャーナリスト」と言うよりは、医療の擬似専門家にあったように考えています。本来なら本当の専門家である医師が担当すべき枠を、適当な芸能界向けの人材に欠き、そこを代用として枠埋めされていたのではないかと見えるからです。つまりは医療枠の専門家枠も擬似専門家として占めていたのだろうです。

今も医師不足は言われていますが、かつて医師が余っていた訳ではなく、かつてはもっと少なかったのは理由としてあげられます。今も忙しいのは説明するまでもありませんが、かつてだって今と変わらない、ある意味もっと多忙だったので、芸能界まで枠埋めに提供できる人材に事欠いたです。さらにそれだけではないとも考えています。芸能界も広くリクルートはしていますが、医療専門家枠なんてものは伝手がないとなかなか人材発掘は難しかったのも確実にあると思っています。芸能界と医療界の間に濃厚な接点があるわけでもないので、芸能界サイドも狭い範囲で人材を選ばざるを得なかったです。


芸能界の医療専門家枠を埋めるには単なる専門家では無理です。いくら内容が正しくとも、難解な言葉でお経のようにコメントされたのでは用を為しません。発言内容が専門的である事は医療枠の必要条件ですが、十分条件として「受ける」が重く求められます。どっちかと言うと「必要条件 < 十分条件」的な関係としても良さそうな気がします。

そういう点で医療ジャーナリストは代用専門家として非常にお手軽であったと考えられます。言うても「ジャーナリスト」ですから、芸能界受けのツボは心得ています。そのうえ番組意図はクドクド説明しなくともツーカーで了解してくれます。専門家としての知識はかなり怪しくとも、そもそもそれが怪しいのかどうかも芸能界サイドは判定のしようがありません。

とにかくもっともらしく医学用語を駆使して、説明らしきものをしてくれれば芸能界の医療専門家枠を埋める代用専門家としては必要条件を満たしているです。だからこれまで医療専門家枠をしっかり確保できてきたです。


ここにネット時代が到来します。ネットは各種の専門家が幅広く参加しています。医療界もそうなんですが、医療界の場合はネット参加率がかなり高いと言うのはあります。勤務医は今でも拘束時間が非常に長いですが、長い拘束時間を常に全力疾走している訳ではありません。そういう状態の医師ももちろんいますが、手待ち時間とも呼べる時間も結構あります。たとえば容態変化待ちとかです。

病院は離れられないが、とりあえず待つのが仕事みたいな時間帯です。その間に書類仕事を片付けたりもするのですが、息抜きにネットをする者が多数います。開業医も診療の谷間タイプは多いですが、勤務に較べると年齢の関係もありますから、率は下がるかもしれません。実際の参加率の詳細なデータは存じませんが、ネットに参加している医師が多いのは事実して良いかと思っています。

ネットもかつてはリアル社会とやや別と捉えられた時期もありましたが、それも昔話になりつつあります。ネットに参加すると言うのは、匿名であっても広くその存在を知らせている、つまりは芸能界もこれを知る機会が飛躍的に増えるです。もっと言えば芸能界の医療専門家枠への予備軍の層が飛躍的に厚くなったです。


そうなると従来の医療ジャーナリストの医療専門家枠での価値が変わる事になります。医療用語を駆使してもっともらしい事を話す人間より、本当の専門家の方が本来は相応しいです。問題は十分条件であるテレビ受けするタイプの人材の発掘になりますが、これは数は力になります。医療専門家枠の人数と言っても100人も200人もあるわけでなく、目一杯見積もっても10人も不要かと存じます。実際はもっと少なくて5〜6人、いや2〜3人程度ぐらいかもしれません。

その程度の医療専門家枠を満たす、十分条件を満たす医師が時間の問題で出現すると私は予測します。そういう人材が台頭すれば、代用の擬似専門家として医療ジャーナリストが医療専門家枠に存在する理由がなくなります。医療専門家枠とは別に医療ジャーナリスト枠はあるかもしれませんが、代用の擬似専門家として占めていた医療専門家枠から滑り落ちるだろうです。


さてさて滑り落ちるだろうは外野の気楽な観察ですが、医療ジャーナリスト本人にとっては生活がかかっていますから、しがみつくのに懸命になるだろう事は容易に予想できます。医療専門家枠の必要十分条件をもう一度挙げておけば、

    必要条件:医学知識の専門家である
    十分条件:テレビ受けすること
擬似ないし代用専門家である医療ジャーナリストは必要条件については、真の専門家には到底太刀打ちできません。彼らは代用専門家として重宝がられていましたが、必要条件の医学知識や知見の向上にはさしたる努力を払っていません。まあ、そんなところをいくら充実させたところで芸能界の評価として大した意味はなかったからです。

一方でスキルアップに務めたのは十分条件です。いかに芸能界の要求に副う事が出来るかです。これがテレビ受けにつながり、この部分でしか事実上の評価が為されなかったからとしても良いと言えます。この方面のスキルとして重視されたのは医療叩きです。いかに猛烈な医療叩きでアピール出来るかの技量のみをひたすら向上させたと言えそうです。

こういう状況では今さら必要条件についてはどうしようもありません。だから十分条件をさらに伸ばすことによって対抗するしかない事になります。ただしこれまで軽視されていた必要条件も本当の専門家が台頭してきたら、これまでの様に軽視される評価に留まるかは疑問です。いかに芸能界であっても医療専門家枠ですから、専門家として正しい方の評価が本当の意味で出てくると考えるのが妥当です。

また得意分野である十分条件もスキルが安易な医療叩きに特化しているのが今後のネックになるかもしれません。と言うのも、安易な叩きはネット医師世論のターゲットにされるからです。ネット医師世論はマスコミに対し深い、深い不信感を持っているのと同時に、代用専門家としてしたり顔で医療バッシングを続けてきた医療ジャーナリストに憎悪に近い感情を広く有しています。

これがネット時代の恐ろしさで、医療ジャーナリストに限らず代用専門家は本当の専門家に目の仇にされる存在になりやすく、そういうネットの評価が代用専門家の評価に確実につながっていきます。医療ジャーナリストもネットで十分条件の評価アップを狙おうとしても、すぐに必要条件について本当の専門家の容赦ない指摘を受ける状態になります。


そういう指摘に対してブロック戦術を多用される代用専門家もおられます。ネットと言うメディアの特徴は自由にコメントが入れられる事です。専門家からのコメントであっても品の良し悪しの差は大きいですが、指摘があれば反論をやらざるを得なくなり、議論になれば旗色が悪くなるです。1対1なら様々な技法で逃げるのは可能ですが束になれば対応しきれないの判断でしょうか。

自分のサイトの運営と言う観点からは短期的に有効だとも言えますが、ネット時代は本当に怖くて専門家を根こそぎブロックして議論を忌避しているの悪評もまた確実に広がります。そいでもって悪評はネット内に留まらず、リアルにも確実に連動していくです。連動は医療専門家枠の評価者である芸能界の耳に確実に入る事になります。御愁傷様だと個人的に思っています。



芸能界は非常に華やかなところですが、一方で競争も非常に激しいところです。ある時期に人気No.1で飛ぶ鳥を落とす勢いがあったとしても、人気が翳り始めるとほんの2〜3年で「あの人は今」になってしまいます。代用専門家としての医療ジャーナリストもそろそろ寿命が来るような気がしています。医師の中にも数人ぐらいは、華やかなスポットライトを目指す人間は存在し、本気で代用専門家から枠を奪いに来ますから、幾度となく繰り返された栄枯盛衰の一例を見ていると思っています。