私も騙された産経記事

この記事はウェブ上では4枚構成になっており記事で見出しは、

    「迷彩服を区民に見せるな」 自衛隊の防災演習、東京の11の区が庁舎立ち入り拒否
記事のオリジナルは削除になっているので魚拓で示します。最初に読んだ時の感想は、今どきこんな旧社会党の様なアナクロ平和主義者が「まだいるんだ」です。つうか今でもいるでしょうが、東京の区レベルを動かす力があるとはチョット驚いたと言うところです。記事内容を一部引用しますが、

 隊員の立ち入りを認めなかったのは、千代田▽中央▽港▽新宿▽目黒▽世田谷▽渋谷▽中野▽杉並▽豊島▽北の11区。大半は「自衛隊から要請がなかった」と断った理由を説明した。

 防災担当職員が立ち会わなかったのは千代田▽中央▽港▽墨田▽世田谷▽渋谷▽中野の7区。各区とも「要請がなかった」と口をそろえる。千代田区の担当者は「いつ来て、いつ帰ったかは分からない」という。

ここの個所も産経記者(三枝玄太郎)がすべての区を取材して確認したものとごく素直に信じました。マスコミ記事は時に「思い込み」「思い違い」「知識不足」による誇張や曲解が説明や解釈部分に見られる事がありますが、書いてある事実は基本的に存在すると解釈していたからです。事実部分についても何らかの理由でなぜか伏せられる部分はあるにしてもです。もう一つ引用しておくと、

3項目すべての要請を拒否したある区の担当者は「区民との接触を避けてほしい」「迷彩服姿を庁舎内で見せないでほしい」と申し入れたという。

実名こそ上っていませんが、ここまで具体的に書かれると「そうなんだ」と信じない方が不思議です。ところがところがです。これらが真っ赤なウソであると言う抗議が出現する事になります。「真っ赤なウソ」と言い切ってしまえば誹謗中傷に当たるかもしれませんから、高度の創作性に励みすぎて事実とかけ離れた内容になっているぐらいにさせて頂きます。

詳細については木走日記様の産経が早くも謝罪記事掲載に追い込まれ赤っ恥でござるの巻に手際よくまとめられているので引用させて頂きます。話はなんと産経に「東京の11の区が庁舎立ち入り拒否」と名指しされた11区が、そろって抗議を申し込む事態に急展開します。

  1. (千代田区)平成24年7月23日付産経新聞朝刊記事について
  2. (港区)陸上自衛隊による統合防災演習の新聞記事について
  3. (世田谷区)自衛隊災害対処訓練の報道について
  4. (中野区)7月23日産経新聞の自衛隊訓練の記事について
  5. (豊島区)平成24年7月23日付産経新聞朝刊記事について(抗議)
  6. (中央区)7月23日産経新聞の自衛隊訓練の記事について
  7. (新宿区)陸上自衛隊による統合防災演習の新聞記事について
  8. (北区)自衛隊災害対処訓練の新聞報道について
  9. (目黒区)陸上自衛隊第1普通科連隊災害対処訓練に関する報道について
  10. (渋谷区)陸上自衛隊による統合防災演習の新聞記事について
  11. (杉並区)自衛隊による統合防災演習新聞記事について

おおよそどこの区も産経記事の存在を自ら知るなり、区民からの抗議で知るなりして、「事実無根」であると抗議を申し込む経過になったぐらいの理解で宜しいかと思います。こういう11区の動きは記事が掲載された翌日の7/24にはほぼ出揃ったようで、この展開に対し産経は

これに対し、昨日午後、貴社社会部編集委員将口泰浩氏(担当編集デスク)並びに今回の記事を書かれた担当記者三枝玄太郎氏の両名が本区に来庁され、今回の誤報記事掲載の経緯を説明されるとともに、ご迷惑をかけたとの謝意を示されました。本区としては、多くの読者の方々が誤解されている状況を解消するためにも、改めて訂正・謝罪記事の掲載を強く求めたところです。

ソースは豊島区の平成24年7月24日付産経新聞朝刊「産經抄」記事について(再抗議)からです。豊島区の声明は7/24付になっており、産経の社会部編集委員将口泰浩氏(担当編集デスク)と担当記者三枝玄太郎氏が訪れたのは、

    昨日午後
こうなっていますから元の7/23付産経記事が掲載された日の午後と言う事になります。産経の両氏が豊島区を訪れたのは間違いありませんが、時間を考えると他の10区まで回れたのかは不明です。チト厳しいかなぐらいにさせて頂きます。それでも
    ご迷惑をかけたとの謝意を示されました
こう豊島区側が受け取れる意思表明を行ったのだけは確認できそうです。どんな謝意かの内容は現場にいなかったので不明ですが、これまでのマスコミのこの手の問題の対応からして「記事の一部に誤解を招くような内容があった」ぐらいの線での収拾を図ったんじゃないかと思っています。あくまでも多分ですが、この路線で残り10区も事態の収拾に動いていこうと考えていたんじゃないかは、木走日記様の見解に同意します。

ところが豊島区に謝罪行脚を行った翌日の7/24に、産経は火に油の第2弾を投じる事になります。これも豊島区HPより、

 しかしながら、本日24日付貴紙朝刊コラム「産經抄」において、昨日の記事の訂正はおろか、昨日の記事を前提として、立ち入り拒否をしたとされる区の防災担当職員を誹謗する記事が掲載されました。これに対し、将口氏に確認を求めたところ、担当部署が違っていたため、情報が共有化されていなかったと説明されましたが、全く納得の得られるものではありません。昨日来、インターネット上でも貴紙誤報記事をめぐって混乱が生じている状況の中で、貴紙の看板コラムである「産經抄」で、再び誤った内容を掲載することは、マスメディアとしての自覚に著しく欠けるものと言わざるをえません。

問題の7/24付産経抄(魚拓)です。

 数年前の小紙大阪版に、「制服しました」と題する記事が連載されていた。文化部の女性記者がさまざまな職種の制服を着て、制服文化を追求するのが狙いだ。そのなかに、陸上自衛隊の迷彩服も含まれている。

 ▼迷彩の色やパターンは、日本の植物の分布や種類を考えた上で作られているそうだ。素材や袖の形などについても、千葉県松戸市にある陸上自衛隊需品学校で研究が続いている。着用した女性記者は、実際にほふく前進してみて、危険な任務に耐えられるようほどこされた工夫に感心していた。

 ▼迷彩服をなぜか受け入れられない人の存在は、承知している。まさかそんな一部の声に配慮するあまり、首都直下地震に向けた自衛隊の訓練をないがしろにする防災担当職員が、東京都内の区役所にいるとは。

 ▼16日夜から17日にかけて、練馬区陸自第1師団から連絡要員の隊員が23の各区に徒歩で向かった。被害状況の確認などを想定した演習だが、11区が区役所庁舎内への立ち入りを拒否していた。「区民に迷彩服を見せたくなかった」と明かす担当者もいたという。

 ▼阪神大震災では、兵庫県知事から自衛隊に派遣要請が届くまでに、4時間もかかった。震災が起こるまで、県や神戸市の防災訓練に自衛隊が招待されず、救援活動の大きな妨げになったこともわかっている。自衛隊との連携がいかに大切か、東日本大震災でも思い知らされたはずだ。

 ▼昨年4月の小紙記事は、津波で家族4人を失った44歳の自衛官が「これ着てますから」と迷彩服に触れながら、任務に没頭する姿を伝えていた。職員の心ない仕打ちにも顔色ひとつ変えなかったであろう、自衛隊員の心情を思うと、やりきれない。

豊島区が指摘する

    昨日の記事を前提として、立ち入り拒否をしたとされる区の防災担当職員を誹謗する記事が掲載されました
これに該当しそうな部分ですが、
  • まさかそんな一部の声に配慮するあまり、首都直下地震に向けた自衛隊の訓練をないがしろにする防災担当職員が、東京都内の区役所にいるとは。
  • 11区が区役所庁舎内への立ち入りを拒否していた。「区民に迷彩服を見せたくなかった」と明かす担当者もいたという。

この部分については11区が事実無根として抗議を申し入れている部分であり、社会部編集委員将口泰浩氏(担当編集デスク)と担当記者三枝玄太郎氏が「謝意」を表し謝罪行脚を行いかけている個所とするのが妥当です。つまりは産経は記事にしたものの、その内容が「正しくない」と認めている部分と解します。経緯を読む限り産経は「見解の相違である」と突っぱねているとは思いにくいところです。

ま、突っぱねるぐらいならウェブ記事削除(7/25の20時の時点で問題の産経抄は残っていました)も行わないでしょうし、7/25付で訂正記事(オリジナルは木走日記様参照)として、

23日付「統合防災演習 東京23区に立ち入り要請、11区が自衛隊拒否」の記事及び24日付「産経抄」について、11区で実施されなかったのは待機(宿泊)訓練でした。通信訓練については自衛隊の立ち入りを認め、実施されていました。なお通信障害発生の恐れのある千代田区では通信訓練を行っていません。関係者におわびします。

どうもこれだけですが、不手際の上塗りをやらかしたと認められているようです。それにしてもマスコミ以外なら見慣れた光景である、社長以下がズラリと並んでフラッシュが煌々と焚かれる中での頭を下げる写真とか、「何を考え取るんや」とか「どう責任を取るつもりなのか」の怒号飛び交うヤクザ記者会見は「どうやら」行なわれていないようです。極めてお上品な事だと「いつもながら」感心しています。

日付関係だけ整理しておきます。

Date 事柄
7/23 朝刊記事に問題記事を掲載。同日にWeb記事も公開。
記事に反応して即日抗議の区もあり、産経記者が豊島区に謝罪行脚
7/24 朝刊に問題の産經抄掲載
この日までに各区の抗議声明は出揃った模様
7/25 朝刊に小さく小さく「おわび記事」掲載


ちょっと推理

何故にこんな失態記事が出てきたかを推理してみます。まずこの訓練自体は7/16日夜から7/17日午前にかけて行われています。記事になる1週間前のお話です。つまり、

    速報記事ではなく検証記事
これは間違いありません。マスコミ記事には取材前にシナリオがキッチリ作られている事が多々ありますが、今回もそうであったと考えるのが妥当かと推理します。今となっては問題の7/23付記事のどの部分が事実なのかまったく不明なのですが、仮定として自衛隊部分は事実の可能性があるとみます。たとえば、

陸上自衛隊第1師団第1普通科連隊の石井一将連隊長は16日、記者団に対し、全面的な協力を得られたのは7区で、残りは「休日で人がいない。庁舎内の立ち入りを断られた区もあった」と明かした。

ここも「」付きであっても信用が置き難いのですが、

 自衛隊員の庁舎内立ち入りを許可したのは、台東▽荒川▽板橋▽練馬▽足立▽葛飾の6区。庁舎内の会議室などで待機した。文京、品川区は庁舎駐車場で車中泊墨田区では、区の本庁舎に入らず、墨田清掃工場で待機した。

 石井連隊長の「協力してくれた」という7区は、以上の台東区など6区と墨田区を指すものとみられる。

石井連隊長の話は訓練のうち宿泊(待機)訓練の事を指している考えるのが妥当です。実際にも事情により実施できなかった区はあります。ところが産経のシナリオ作成時には立ち入り検査全体に膨らんだです。つまり訓練自体を拒否したシナリオが出来上がったです。シナリオを補強するような状況証拠として、

こうした「外圧」は23区のうち12区が「自衛隊に区の施設を使わせるな」といった内容の申し入れを区議会会派や市民団体から文書で受けていたことを取材に認めた。今月12日には練馬区が住民監査請求を受けた。申立人の弁護士は「自衛隊員に区役所の水、電気を使わせるのは自衛隊法などに照らして違法だ」と主張している。弁護士は「訓練前に23区に電話してどういった対応を取るのか確認した」とも話した。

これが事実であれば、これだけ抗議運動が広がれば訓練拒否を行う区が「絶対に出てくる」のシナリオです。では迷彩服のエピソードはどうであったかですが、

 16日午後7時。「市街地での災害訓練反対!」「基地へ戻れ」という反対派のシュプレヒコールと、「自衛隊頑張れ」という励ましが交差するなか、陸自第1師団の隊員は練馬駐屯地を2人1組で出発した。

この辺りから着想したと考えます。ただシナリオに合わせるためにかなり強引な歪曲はあったとしか言い様がなく、これも豊島区のHPからですが、

本区の対応につきましては、先週、貴紙社会部記者三枝氏から本区に問い合わせ取材があり、所管の防災課長が以下の通り回答しています。

  1. 自衛隊からの依頼を受け、宿泊施設がない旨説明したところ、駐車場を利用して車中泊するとのことであったため、駐車スペースを準備していたが、訓練直前に自衛隊から計画変更の連絡があり、車中泊は取りやめとなった。
  2. 訓練当日の16日は、練馬駐屯地から徒歩で来庁した自衛隊員2名を午後9時5分頃に受け入れ、防災課のある区施設(生活産業プラザ)事務室及び屋上において、防災課長立ち会いのもと、通信訓練を実施。訓練終了後午後9時35分頃、両隊員は迎えの車で帰隊。
  3. 翌17日、午前8時20分頃に再び2名の隊員が車で来庁。防災課職員立会いのもと、通信訓練を実施。終了後、午前9時20分頃帰隊。訓練中は、区敷地内に自衛隊の車を駐車。
  4. 首都直下地震を想定した有意義な訓練であり、当然のこととしてできる協力をした。

豊島区側の言い分であるとは言えますが、聞かれたのは事実関係の確認であり、区の防災課長もそんなに捻った回答・言い回しをする必然性が乏しいところです。記事内容から考えると実際の取材光景は、

    迷彩服の自衛隊員が庁舎に入る事をどう思うか
シナリオに副って執拗に質問したんじゃないかと思いますが、これも推理推測のうちです。結果として自衛隊側の都合もあって宿泊訓練が中止になったところは、高度の創作性と編集権により訓練拒否区に仕立て上げられていったと見るしかなさそうです。


さて、これは三枝玄太郎担当記者の取材能力もあるでしょうが、シナリオ作成に関与したと見られる社会部編集委員将口泰浩氏(担当編集デスク)の意向も強かったんではないかと見られます。では2人の独走かと言えば翌7/24付の産經抄が連動しているのは気になるところです。産經抄は編集委員クラスが担当するのですが、担当編集デスクの将口泰浩氏も編集委員となっています。

編集委員同士で議論があるかどうかは不明ですが、大元のシナリオはもっと上から決定されていた可能性もあるかもしれません。そこまでの重い指示によるシナリオなので担当編集デスクの下の三枝玄太郎担当記者はシナリオに必死で創作能力を発揮し、産經抄も翌日に連動してキャンペインを張るです。

もちろん記事と産經抄は担当部署が基本的に違いますから、タマタマの連動かもしれません。それでも前日の、それも午後の時点で区の抗議に対する事態収拾に動いていたにも関らず、この記事が書かれるのはマスコミの常套句である「組織内の連絡の悪さ」「縦割り組織の弊害」「事態を軽視する企業体質の問題」に評価に該当するような気がなんとなくします。

結局のところシナリオ通りに事実は進んでくれず、記者がシナリオに合わせて高度の創作性で作り上げた記事は事実余りにも乖離してしまったでしょう。ひょっとしたら産経社内的にはシナリオが示されており、産經抄から次は社説に展開する予定もあったかもしれませんが、そこもまた藪の内とさせて頂きます。


今回の確認事項

個人的には取材期間に1週間もかけながらの誤報ですから、商業メディア的には「大」が付くチョンボと見えます。ただしそれへの対応は小さな小さなおわび記事のみです。その程度の対応で必要にして十分であり、決して社長以下がずらりと並ぶ、怒号飛び交う吊るし上げ謝罪記者会見を行うクラスではないと言う事です。そういう実績がまた一つ新たに刻まれた点は重要と存じます。

それと私のリテラシーもまだまだ甘く、たとえ検証記事の事実部分であっても虚偽は幾らでもありえる良い教訓となりました。しっかし丸ごと虚偽も平気でまかり通るのであれば、相当な精進が今後も必要になると痛感しております。やはり産経記事と言う時点で、眉にツバをバケツに一杯ぐらいかけておけば良かったかもしれません。

自分の甘さを深く反省しております。