双葉病院事件の説明会

ソースは、

ここからです。3つは同じ説明会(双葉病院)の様子を報じています。


まずは産経

院長「謝罪の必要ない」 怒りの遺族、退席相次ぐ 双葉病院50人死亡

 政府事故調の報告に続き、双葉病院は病院側の責任を否定したが、鈴木市郎院長(78)が「謝罪の必要はない」と話すなどしたことに遺族側は激高。途中で退席する遺族が相次いだ。

 「亡くなったことに対しては謝罪はなかった」。ドーヴィル双葉にいた姉=当時(79)=を亡くした会津美里町の男性会社員(67)はそう憤る。男性会社員によると、説明会で鈴木院長は「謝罪の必要はない」「家族が病院側に安否を問い合わせるべきだ」と神経を逆なでするような発言をしたという。男性会社員は公開質問状の提出を検討する考えを示した。

 浪江町の主婦(53)は双葉病院にいた兄=当時(62)=を亡くした。事故後1カ月以上たってから来た電話は兄が転院先で死亡したという連絡だった。「もう少し早く連絡がほしかった。誠意がない」と吐き捨てた。

 同病院で弟=当時(65)=を亡くした埼玉県越谷市の主婦(68)は1時間余りで説明会を途中退席した。「今までの経過説明だけ。新しい話はなかった」と不満を漏らした。

 また、ドーヴィル双葉で祖父=当時(92)と祖母=同(88)=を亡くした大熊町の男性会社員(33)は「どういう経緯で亡くなったか聞きたかったが、何もない。墓前に報告したかったが…」と不満そうに話した。

 さらに「同じような震災があったときにまた患者をたらい回しにしないためにも、今回の教訓を生かすべきだ」と指摘した。

 説明会後、記者会見した鈴木院長は「名誉回復を果たせたと思ったが、『説明よりも謝ってほしい』といわれてショックだった」と話し、以後は口をつぐんだままだった。

これを読んだ印象はまさに大荒れの会見です。印象は冒頭の、

    遺族側は激高。途中で退席する遺族が相次いだ。
怒号飛び交う説明会を想像しないほうが難しいです。産経記事では「激高」するなり「退席」した者のうち4人のインタビューを列挙した後、院長の、

 説明会後、記者会見した鈴木院長は「名誉回復を果たせたと思ったが、『説明よりも謝ってほしい』といわれてショックだった」と話し、以後は口をつぐんだままだった。

ここで抱くイメージは院長が茫然と立ち尽くす状況以外を抱くのが困難です。産経はこれも9/30付記事ですが、

双葉病院が責任否定、原発避難で50人死亡 調査結果公表

 東京電力福島第1原発事故の避難中に患者ら50人が死亡した双葉病院(福島県大熊町、鈴木市郎院長)が30日、独自に避難経過を調べた調査結果を遺族らに公表した。同病院は政府の事故調査委員会と同様に病院側の責任を否定し、県、国、自衛隊や町の連絡不足を指摘。原子力損害賠償法に基づいて遺族が東電に請求する支援をしていく考えを示した。

 会見した担当弁護士は「国や県、自衛隊などの大きなシステムの問題で、個別の病院には限界がある」とし、県が当初、「院長らが患者を置いて逃げた」と発表した点には、「県から虚報だとする謝罪があった」とした。避難指示が出た昨年3月12日、双葉病院と系列の介護施設「ドーヴィル双葉」には患者ら約440人がいたが、満足な設備のないまま避難が続き、50人が死亡した。

内容は政府の事故調査委員会と同様の病院側調査結果が同じ内容になった事を報じてはいますが、見出しが強烈で、

    双葉病院が責任否定、原発避難で50人死亡 調査結果公表
これだけ読むと、まるで病院が責任があるかどうかは予断を許さない、いや否定しているのは病院だけで本当の責任は病院に「いかにもありそう」の印象が湧きます。


記事が少々長いのでまずは冒頭部を引用します。

東京電力福島第一原発事故に伴う避難の最中に患者21人が死亡した福島県大熊町の双葉病院は30日、いわき市で開いた説明会で、当時の避難状況に関する病院側の中間調査結果を遺族らに初めて示した。患者らの救助を関係機関などに要請しながら、救助がなかった点を強調。病院側は患者の避難や院内でのケアに可能な限り尽くしたとした。説明会後の会見では、結果的に死亡者を出したことについて「断腸の思い」としたが、病院側に過失はないとした。遺族側からは、説明不足を指摘する声が出た一方、理解を示す人もいた。

産経が「遺族側は激高。途中で退席する遺族が相次いだ。」とした部分は、

    遺族側からは、説明不足を指摘する声が出た一方、理解を示す人もいた。
ここから思い浮かぶ状況は厳しい指摘もあったが、全般的には冷静を保った説明会のイメージです。記事はこの後、事件の状況の詳細を説明し、遺族の声の紹介に移ります。

 説明会は非公開で行われ、遺族ら約120人が臨んだ。病院側は、遺族が東電に賠償請求したり、原子力損害賠償紛争解決センターに仲介を申し立てたりする際には資料として調査結果を提供する考えも示した。
 
 遺族らから謝罪を求める発言が複数あったが、病院側は「過失が認められない」として謝罪はしなかったという。
 
 説明会に避難先の仙台市から参加した遺族の女性(54)は「起きてしまったことは仕方ないが、納得いく説明が聞けなかった」と釈然としない様子で話した。 

 一方、浪江町からいわき市に避難する男性(54)は「当時の状況を考えればやむを得ない」と理解を示す。避難の過程で父親の認知症が悪化したが、「精いっぱい対応してくれた病院には感謝している」とした。

ちょっと気になる表現があったのですが、説明会は「非公開」とし、病院の過失への謝罪問題についても、

    遺族らから謝罪を求める発言が複数あったが、病院側は「過失が認められない」として謝罪はしなかったという。 
ここは伝聞調です。つまり福島民報の記者は説明会には直接参加せず、説明会終了後に参加者から様子を聞いたことになります。これは福島民報だけでなく産経記者も同様であったと考えるのが妥当です。記者が直接取材したのは説明会後の病院長との記者会見であったようで、

 説明会終了後、鈴木院長と代理人井上清成、山崎祥光両弁護士(東京)が記者会見した。井上弁護士は今後も行政に聞き取りするなど独自調査を進める方針を示した。遺族らから病院側に謝罪を求める厳しい声が上がったことについて、鈴木院長は「病院の名誉が少しずつ回復してきたと思っていたが、この説明会では院長に謝ってもらえればいいんだと言われ、かなりショックだ」と動揺を隠し切れない様子だった。

遺族からの謝罪要求に院長が困惑と言うか動揺したのは福島民報記事でも確認できます。


m3.com

m3記事も長いのでまず、

 30日の説明会は午後1時30分から開始、約2時間に及んだ。代理人弁護士の井上清成氏らが、独自に調査した結果を基に避難の経緯を約1時間30分説明、その後、質疑応答が約30分行われた。鈴木院長は、説明会の冒頭、双葉病院等に入院していたために、患者や入所者が大惨事に遭遇する結果となったこと、また家族と遺族への説明が原発事故から約1年半後と遅れたことについて、お詫びの言葉を述べた。

まず院長は謝罪の言葉ではなく「お詫びの言葉」を話した事が確認できます。続いて、

 しかし、質疑応答の際に、遺族からは、「悪くないのは分かっている。しかし、院長に謝ってほしい。それだけを聞きに来た」「誤るだけでも、謝らないとおかしいのではないか」「土下座しろ」などの発言があったという。説明会後の記者会見で、鈴木院長は、「亡くなられたのは断腸の思い」と述べた上で、遺族の発言については「かなりショックだった」とコメント。ただ、鈴木院長自身は、患者の救出に尽力しており、患者の死亡に対する法的な責任はないとの判断から、その意味での謝罪は毅然と断ったという。説明会から帰る遺族からは、「あれだけパニックの状態だったのだから、救出に問題があったことを責めても仕方がない。ただ、院長から『申し訳ない』との一言を聞きたかった」と感想も聞かれた。

遺族側の発言は約1時間30分の避難経緯の説明の後の質疑応答であった事が確認できます。ここも「あったという」ですから、m3記者も説明会場で直接取材していたわけではないのもまた確認出来ます。そいでもって、

    鈴木院長は、「亡くなられたのは断腸の思い」と述べた上で、遺族の発言については「かなりショックだった」とコメント。ただ、鈴木院長自身は、患者の救出に尽力しており、患者の死亡に対する法的な責任はないとの判断から、その意味での謝罪は毅然と断ったという。
m3記事では謝罪要求の遺族側の発言を「ショック」としながらも、それに引き続き謝罪を行わなかった理由についての行ったとなっています。もう1ヵ所、

 もっとも、遺族の発言を参加者の多くが拍手などして支持したわけではなく、避難の経緯についての質問もなく、参加者の多くは博文会の説明に納得したものと見られる。

これは会場の雰囲気についての物で、謝罪要求の質疑こそあったものの質疑自体はかなり平静に行われたと受け取る事が出来ます。もう一つ、

 説明会では、これらの経過説明に対する質問はなく、「一言で言えば、事故後の対応について、なぜいつまで経っても謝罪に来ないのか、という点に質問が集中した。これについては、法的な意味での責任はないと説明した」(井上弁護士)。

 遺族からは、「なぜ院長が説明に来なかったのか」との質問も出た。実際には、まず鈴木院長自身が、約10軒の遺族宅を訪問したが、ほとんど門前払いされたという。それ以降は、事務職員に任せて対応した。それでも電話連絡がつながらなかったり、弔問の予定が合わないなどの行き違いで、不満が募った遺族もいたようだ。

ここはそういう説明の是非を紹介したいわけでなく、説明会後の記者会見でそういう説明もあった事の指摘です。


記事評価

3つの記事から拾える事実は、

  1. 説明会は非公開で記者は実際に見聞した訳でない
  2. 主たる情報源は説明会後の記者会見である
  3. 遺族側の謝罪要求に院長は感情の揺れを見せたようだが、絶句するほどのものではなかった気配があり
問題はどれほどの遺族が謝罪要求を行い不満を表明したかです。これについては参加者以外は情報が無いわけです。それでもm3記事にある井上弁護士の言葉が状況を表していると考えますが、
    一言で言えば、事故後の対応について、なぜいつまで経っても謝罪に来ないのか、という点に質問が集中した。
質疑はこれが大半であったのは確率が高そうに推測します。それでもそのために大紛糾したのか、それなりに落ち着いて質疑応答がなされたのかは、私もその場にいた訳でなく、記者もまたいなかった訳ですから伝聞になります。ですから産経が伝えるように騒然としたものであった可能性もあり、福島民報やm3.comが伝えるように必ずしもそうでない可能性もあると言う事です。


謝罪の意味

今回の様な状況での「謝罪」の意味は結構微妙なものがあります。あえて大雑把に分けますが、

  • 責任付謝罪・・・賠償責任を認めた上での謝罪
  • 心情的謝罪・・・責任は認めないが、お気の毒な状況の責任者として「迷惑をかけた」の部分への謝罪
どちらも「謝罪」として使われる事があります。心情的謝罪はむしろ遺憾とか、お悔やみとした方が適切ではありますが、表現として謝罪を用いる事は確実にあります。でもって病院は責任付謝罪を明快に否定しています。m3.comにある井上弁護士の言葉からも確認できます。事は賠償問題への波及か否かの段階にありますから、民事を考え責任付謝罪は明快に拒否しておく必要があるのは弁護士として当然と見ます。

産経記事は謝罪に絞って記事が構成されているのは明らかですが、見出しに「責任否定」の文字を躍らせています。この「責任」もまた幅が出る言葉ですが、記事の文脈からして、産経も「謝罪」とは責任付謝罪を指していると考えるのが妥当そうだと見ます。


では遺族はどうかです。これは不明ですが、両方入り混じっていると見ます。病院が責任付謝罪をすべしと考える人もいるとは思います。ただすべてかと言えば疑問です。それなりの遺族が謝罪までの速度を問題視している気配があります。心情的謝罪は前にも解説した事がありますが、事件・事故が起こった時に責任の有無を別にして「とりあえず謝る」の日本的文化に基づく面があります。

心情的謝罪として「とりあえず謝る」は早い方が望ましいというのがあり、これが遅れるとマナー違反として怒りの対象になります。日本的なマナーとして、

  1. まず出来るだけ早期に心情的謝罪をする
  2. その後に責任付謝罪が必要かどうか協議する
こういう暗黙の段取りがあると考えています。是非は別にしてそう考えている人が多いので、心情的謝罪が遅れた事に対する非難がかなり出たのではないかとも私は見ます。もちろん責任付謝罪を求めた遺族もいたでしょうし、実際にどちらの比率が多かったかは現場にいなかった訳ですから不明です。


心情的謝罪が遅れた理由

これは確実にあります。双葉病院事件は震災の混乱で生じた悲劇ですが、第1報は県庁経由の「病院の不手際」です。これはマスコミによって広く周知されています。そういう状況で謝罪に赴けば責任付謝罪しか受け付けられません。ところがそうでないと病院側は考えていたです。病院側は早い段階で心情的謝罪にそれでも出向いていますが、これを断られたのは責任付謝罪でない部分もあったと推測します。

続報によりあの状況で病院に責任は問えないの事実が明らかになっては来ましたが、県の公式情報が否定されたのはいつかになります。つまり先に責任付謝罪を行わざるを得ない状況が作り上げられ、そういう状況下で心情的謝罪がやりにくい状況が続いていたと考えます。

ようやく政府の調査委員会の報告書も出され、県庁からの謝罪も出され、やっと心情的謝罪を出来る状況になったのが今回の説明会だと見ることが出来ます。院長はそういう裏付けで説明会に臨んだのですが、マナーとしての心情的謝罪が送れた件を厳しく追及されて動揺したのが真相では無いかと推測しています。もちろん本気で責任付謝罪をこの段階でも要求する遺族もおられてショックを受けたです。


産経の姿勢

ここまで考えると産経の姿勢が非常に特徴的であるのがわかります。説明会自体は非公開で産経記者も見聞していないわけです。説明会の質疑が謝罪に集中したのは説明会後の記者会見でも病院側は明言しています。説明会の状況をどう推測するかは記者の主観に左右されますが、産経記者は責任付謝罪を追及する声が満ち溢れたと想像したようです。

実際にそうであったかどうかは確認の術はありません。そうであったのかもしれません。それでも問題と考えるのは、産経記者は双葉病院事件をどう考えているのかです。遺族側が責任付謝罪を要求したとして、それが客観的に正当か否かです。病院側が責任付謝罪を認めなかった事を悪いとすれば、政府報告書も産経は否定し、あくまでも病院の不手際がこの事件の原因であると判断している事になります。

ここもそう考え、そう報道する自由は産経にありますが、

    さすがは産経
こう感じた次第でございます。