望ましい研修病院とは?

先に断っておきます。私の研修医時代なんて大昔のお話です。さらにそういう研修の場から,軽く15年ぐらいは遠ざかっています。だから論じるには相当無理があり、むしろ今の感覚と違ってしまっているところがあれば御指摘頂きたい所です。では「書くな」とも言われそうですが、議論の叩き台ぐらいでお読み頂ければと思います。


研修医(ここでは前後期だけではなく、一人前以前の広い意味のものします)が求めるものは経験と知識です。なおかつ経験も知識も近い線上に位置します。これは今も昔もさして変わらないと考えています。それと研修医はまだ未熟ですから、その研修医をカバーする体制も必要です。バックアップが貧弱であれば、研修医が経験できる範囲も自然に制約されます。簡単ですがまとめると、

  1. 豊富な症例
  2. 手厚いバックアップ体制
こういうところが望ましいになります。さてバックアップ体制は人数の問題に単純化されますからとりあえず置いといて、豊富な症例は様々な疾患を経験できるだけではないと考えます。様々な症例の軽症から重症まで経験できるも必要と見ます。重症度と言っても目安が欲しいので、今日は医療機関のランクに合わせて一次〜三次と言う表現にしておきます。


一次〜三次の経験の積み重ねは、これも当然ですが「一次 → 二次 → 三次」が基本です。そりゃそうで、いきなりパリパリの新卒が三次を受け持ったところで事実上何も出来ません。ただユックリとステップを踏んでいくかと言われると少々違うと思います。ユックリとステップを踏むとはどう言う事かと言えば、まず一次の経験を十分に積んでからおもむろに二次に進み、十分な実力が認められたら三次みたいなスタイルです。

ここについては現在の前期研修スタイルが、一次かせいぜい二次あたりで2年間ステップを踏んでいるんじゃないかの見方もありますが、何せ実情に疎いもので、この点について情報があれば宜しくお願いします。

これはあくまでも私の経験であって、一般化するのは少々危険ですが、一次から三次のステップは結構早かったと思っています。もちろん診療科の特性もあるので適当に脳内置換して欲しいのですが、負荷をかけて成長を加速させる手法が用いられていたと思っています。これは別に医療に特有の手法ではなく、他の業種でもポピュラーな手法と考えています。

ある程度の実力が付けば、あえてその能力を上回る仕事を課し、それをやり遂げる事によって一挙に経験と自信を広げようとするものです。能力を越えている部分は目の前に患者がいるわけですから、そりゃ死に物狂いで必要な知識や技術を習得しようとします。人間、切羽詰った時には大きな力を発揮できるもので、やり遂げた時には格段の進歩が得られるです。

これは指導サイドにとってもリスクが大きいものですから、貧弱なバックアップ体制では出来ません。一つ間違うと患者の生死に関わることですから、研修医の能力と自分の余力を見切った上での判断が求められます。しばしば卒後教育が師弟関係に例えられるのは、こういう面があるからだと考えています。そりゃ、緊密な信頼関係がないとできないからです。


「今は違う」の声があるかもしれませんが話を進めます。研修医の経験は乱暴に言い切ると、三次をどれだけ経験するかはあると思っています。ここもニュアンスが微妙なんですが、三次ばっかりを経験するのも必ずしも良くなくて、比率の上で三次を多めに経験するです。これもまた乱暴ですが、三次を知ることによって初めて二次が出来るようになるです。

もう少し言えば、三次を知って二次が出来るようになり、二次が出来きて一次も出来るです。逆説的ですが上を知る事により、下が任せられるようにやっとなるです。ですから研修は一次から始まるとは言え急速に三次まで登り、そこから今度は二次、一次と下って厚みをつけていくです。上から下までの医療を知って、やっと1人前に近づいていくとすれば良いでしょうか。

それと三次を知ることによって、自分が医療で占めるべきポジションが見れるようになると言うのもあります。三次の最先端医療を目指すのも良し、二次以下の最前線医療を目指すのも良し、はたまた研究分野を目指すのも良しです。人には適性がありますから、自分の能力・指向を考え合わせて目指すべき道を見つけていくです。


そうなると三次施設はある程度条件を満たします。三次施設は三次患者が中心になりますが、そこにも実質一次・二次クラスの患者も入り込みます。実質一次・二次クラスで初期鍛錬を手早く行い、本物の三次患者にチャレンジして実力を養成するです。このコースの欠点としては、どうしても三次症例の経験に傾きすぎて、かえって一次・二次の足許が疎かになる事がありえます。

三次まで行かなくとも2.5次クラスも良いかもしれません。こういう病院は大概なんでもござれの野戦病院的な趣きがありますから、一次・二次の症例は豊富にあります。コチコチの3次は経験できなくとも、3次にある程度近いレベルまでは経験が積めますから、ここでワンステップを踏んで3次に臨むというのも悪くないかもしれません。ただし無茶苦茶忙しいのは保証されます。

二次以下はどうでしょう。一次・二次症例は豊富かもしれませんが、三次症例が経験できないのは実力の伸びに枠を嵌めてしまいます。二次施設で実力をつけてステップアップも現実にある(と思う)選択ですが、二次施設にいる限り三次の経験が難しいのはデメリットとして小さくないと思います。


研修医はあくまでも研修医であって1人前ではありません。どこまで伸びるかは個人差になりますが、これはどの世界でも共通する金言があります。

    鉄は熱い内に打て
医師は一生勉強とも言われますし実感もしていますが、やはり若いうちの方が吸収しやすく伸びも良いものです。またモチベーションも医師になりたての時の方が、早く1人前になりたいとファイトを燃やしやすいものです。年数を重ねるほど、伸びもモチベーションも衰えるのは致し方ありません。三次の経験にしても、実力不足でも意欲でチャレンジできるのが若さの特権とも思っています。

もう一度冒頭部の話に戻りますが、今日書いたのは大昔の自分の経験ベースがかなり色濃く投影されており、なおかつ小児科のお話です。時に研修医論を出す時もありますので、現在の状況はどうなっているかの情報を頂けば、今後の基礎資料になります。宜しければ情報下さい。