紹介状の返書

うちのような町医者の診療所でも病院に紹介入院を行う事はあります。その殆んどは診断はもちろんの事、治療も予想範囲内のものです。入院したら、あれやって、これやって、こんだけあれば退院するだろうです。これはだいたいぐらいは当たります。時に入院期間が長くなる事もありますが、そういう時には「やっぱり手強かったんだ」と思うわけです。

そういう紹介入院後の状況を知ることが出来るのが報告書(返書)です。返書の内容で知る事は最終的な診断名、それに対する検査・治療・経過です。とくに興味深いのは検査・治療で、最前線でどういう検査が今は使われ、どういう治療方針が立てられているかを知る手がかりになります。どうしたって開業したら自分の診療所に籠る傾向が出てきますから、今の入院治療の現場を知る貴重な情報になり、そこから診療所の診療に応用できるものがないかの参考資料にもなってくれます。治療書とかとは違い実戦その物ですから、ある意味わかりやすいものです。

そういう紹介入院の中でも「なんじゃこりゃ?」の症例があります。それなりに鑑別診断を思い浮かべるものの、果たしてなんだろうと考える症例です。上記した推測できる症例の報告書(返書)も興味深く読みますが、「なんじゃこりゃ?」の場合はさらに興味深く読む事になります。「やっぱりそうか」から「へぇ、そうだったんだ」まで様々ですが、これも勉強にはなります。まだまだ世の中には知らない病気と言うか、読んだり、聞いたりしていても診た事のない疾患は出てくるものです。


ここで個人的に寂しいのは二次医療機関から三次医療機関にすぐに転送された症例です。それだけ手強い症例である事はわかるのですが、そうなってしまうと私の元に届く返書の内容は、

これしか来ない事になります。返書のルールとして正しいのですが、三次医療機関からの返書は二次医療機関に届き、私のところへは回ってこないです。知ろうと思えば、患者が無事退院し、それこそ「風邪」でもひいて受診しない限り無理になります。


そんなに知りたいなら転送された三次医療機関に電話でもして聞けば良いじゃないかと言われそうですが、多くの場合、二次から三次への紹介状で私の診療所の位置付けは、

    近医から紹介
こうなっている可能性が高いと推測しています。わざわざ○○診療所から紹介と書くケースは多くないと思います。私もそういう形式で書くことが多かったからです。○○診療所と書いてくれているかもしれませんが、二次から三次医療機関への紹介状の中味なんて知りようがありません。そういう状態で電話で問い合わせても下手すると「あんた誰?」扱いをされても文句を言えないところです。

昔は良くも悪くも大らかな部分がありましたから、電話問合せでも聞けたかもしれませんが、今の医療情報に対する扱いは厳しくなっていますから「自称」大元の紹介元で果たして問い合わせに応じてくれるかどうかは不明です。電話じゃ自分の証明は難しいですからね。

それと、そもそも電話を掛ける事自体が迷惑にもなるとも思っています。これもまたどういう診療状況になっているか判らないわけで、忙しいのにわざわざ電話口まで呼び出すのは躊躇われるです。だいたい私に話したところで治療が進展する訳でもなく、無駄な時間だけ取らせる迷惑にしかならないからです。私も紹介を受ける立場にいた事もあったので、そういう問い合わせは常に歓迎とは言い難いところです。忙しいのは私なりに知っているからです。


それでは、三次が返書を送る時についでに一次の診療所まで送ってもらえれば解決しそうなものです。返書自体は今時の事なので一部作るのも、二部作るのも手間はそんなに変わりありません。郵送の事務負担は若干増えますが、なんとか許容範囲内と見ることも出来ない事はありません。もし行うとなれば最大のネックはやはり、

    近医
もう少し丁寧に○○診療所まで書いてもらう事はあっても、住所まで書く事はないでしょう。そこから調べるとなると少々手間が増えます。これが○○診療所でなく近医なら、二次医療機関に問い合わせないとなりません。これはかなりの手間ヒマになります。実際問題としてそこまで要求するのは非常に躊躇われます。それこそ余計な負担をかけるだけになりそうだからです。


だいぶ前にそんな感じのかなり興味深い「なんじゃこれ?」症例があり、二次から三次にすぐに転送され、その後も当院への受診がないので気になっているのですが、待つしかなさそうです。こればっかりは望んでもどうしようもない贅沢だとあきらめています。