「総合診療医 = 在宅医」 by 厚労省

1/10付日経新聞なんですが、有料読者以外には全部読めません。全文一挙引用にしても良いのですが、小出しで逐次紹介にさせて頂きます。とりあえず見出しは、

厚労省、「総合診療医」育成を検討 在宅医療の柱に
専門医偏重を是正

見出しは記者ではなく整理部が付けるそうですが、それでも目を引いたのは、

    在宅医療の柱に
これは注目できる点です。これまで総合医なり総合診療医は様々に紹介されていましたが、この見出しが本当であるなら、これまで疑問とされてきた総合診療医の位置付けがはっきりします。単純ですが
    総合診療医 = 在宅医
在宅医療は厚労省が延々と政策誘導してきている医療費削減政策であり、その成果も現れてきていますから、当分は市場拡大が続くとしても良さそうです。そこに投入する戦力として総合診療医を位置付けるのは、今後に量産誘導政策が行われていくのなら話の筋はわかりやすくなります。

 厚生労働省は多様な病気に対応できる「総合診療医(仮称)」を育成する制度の検討に着手した。国家試験合格後、2年間の臨床研修を終えた医師を対象に、3年程度の特別な研修を課したうえで総合診療医と認める案が有力だ。2018年度をメドに現場に投入することを目指す。医師の専門志向が強まるなか、地域医療の現場で不足している幅広い診療能力を持つ医師の養成を進める。

総合診療医養成期間は、

  1. 国家試験合格後、2年間の臨床研修
  2. 3年程度の特別な研修
前期研修2年と総合医コース用の3年研修の計5年を予定しているようです。ここでも一つキーワードがちりばめてあって、
    地域医療の現場で不足している
「地域」とはどこを指すかはなかなか興味深いところです。

 総合診療医は様々な症状の患者を自ら診療するほか、専門的な処置が必要と判断すれば大病院に紹介する「医療の入り口」の役割を担う。診断能力の高い総合診療医がかかりつけ医として定着すれば、どの診療科に行けばよいのか迷う患者が少なくなり、受診や検査の無駄が減る。軽症なのに最初から大病院に駆け込む患者も減り、医療費の効率化につながる。

ここもゲートキーパー医としての役割を強調していますが、またまたキーワードが出てきます。

    軽症なのに最初から大病院に駆け込む患者も減り
つまり大病院には居場所は無く「地域」に居場所があると言う事になります。

 厚労省が近く開く検討会で、総合診療医について本格的な議論に入る。日本医師会や学会などの意見を踏まえ、12年度中に制度の詳細を固める方向だ。医療機関の準備や医師の募集に時間が必要なため、育成が始まるのは早くとも15年度になる見込み。総合診療医の登場は18年度以降になる。

おそらく後期研修のカリキュラム編成のために養成開始は3年後の2015年度から、3年で養成が終了しますから、登場するのは2018年度からと言うところでしょうか。経験5年か・・・・素晴らしいカリキュラムが組まれると予想しておきます。

 医師は2年間の臨床研修後、数年の専門研修(後期臨床研修)を経て専門医に認定される。この専門研修制度のなかで、総合診療医を育成していく。医師の専門医志向が強まっているが、一定数の医師が必ず総合診療医になるように認定数などを調整していく。

なるほど5年で専門医を取得できるわけですか。ここも興味深いキーワードがあって、

    一定数の医師が必ず総合診療医になるように認定数などを調整していく
ふ〜ん、「必ず一定数」に「調整」でっか。どうも総合診療専門医登場に伴って、他の診療科への専門医への関門が作られるかもしれません。ま、総合研修専門医コースを作っても不人気になる可能性が高いと予測されていると言うところでしょうか。

 総合診療医の創設を検討するのは、高齢化で医療の重心が病院から在宅へと移るなか、どんな症状にも柔軟に対応できる医師への需要が高まっているためだ。厚労省は来年度の診療報酬改定の柱に在宅医療の強化を掲げており、病院のベッドに頼らない医療体制を整えていく方針。在宅医療の将来の担い手として、総合診療医を位置付けたい考えがある。

ここははっきり書いてあります。

    在宅医療の将来の担い手として、総合診療医を位置付けたい考えがある。
現在の在宅医療は開業医が中心になっていると理解していますが、将来的にこれを総合診療医に置き換えていく計画に見えないこともありません。ただどういう勤務形態を構想しているのでしょうか。まさか卒後5年で開業するわけにもいかないでしょうから、公営なりの在宅診療所を作るなり、病院附属の在宅医療ステーションでも作るのでしょうか。

 厚労省はこれまでも総合的な診療ができる医師の育成を探ってきた。だが、「患者が専門医の診察を受けにくくなる」「医療費削減ありきだ」などの反対があって広がらなかった。このため、総合診療医を創設しても、最初から専門医の診察を受けることも可能にするなど、患者の権利に十分配慮する方向だ。

 厚労相の諮問機関である社会保障審議会医療部会が昨年末にまとめた意見書では「総合的な診療を行う医師を養成し、専門医との役割分担を行う必要がある」と明記。具体的な検討を進めることで一致した。

 ただ「総合的な診療を行う医師」の定義や育成方法で関係者の意見に隔たりがあり、厚労省は時間をかけて合意を目指す姿勢だ。

ここは大した事は書かれていないと思います。でもって記事は終了です。


ある意味非常に分かりやすい記事で、総合診療医の位置付けを厚労省が明快に打ち出したと取る事は可能です。あえてポイントをまとめると、

  1. 総合診療医とは在宅医がメインである
  2. 従来よく言われたゲートキーパー機能も、在宅患者のためがメインである
  3. 養成期間は卒後5年で専門医資格を与えられる代わりに、病院内に基本的に居場所は無い
付け加えると不人気が予想されるために、ある種の政策誘導により一定数を確保させる政策が取られる予定であるです。ま、開業医抑制政策を取っているので、これからの在宅医療を開業医に任せる政策も取り難く、当面はその穴埋めに投入する予定であると見ても良さそうな気がします。また現在では都市部の方が在宅医はまだしも豊富と言える(たぶんですが)ので、これも当面は地域と言うよりはっきり地方僻地への配置を構想しているとも見えます。

それと一定数の確保のための誘導政策ですが、まず一番やりやすそうなのは奨学金とか、地方枠みたいなところでしょう。そういう医師に義務づけれるのは手法としてお手軽です。ただこれも総合診療医に何人確保したいかで変わります。もっと多数を構想すれば、具体的にはどうするのかな?

それと働く場所の確保も必要です。公営の診療所や、在宅医療ステーションみたいなものも作られるかもしれませんが、最初は病院の一角なりにに在宅診療科(総合診療科)みたいなスタイルで始まると考えるのが妥当そうです。追々と数が増えれば次のステップを考えるです。これも厚労省は気にもしていないでしょうが、勤務医で365日24時間対応となると労基法が引っかかります。開業医は経営者ですが、勤務医は従業員ですからねぇ。


個人的には具体的な厚労省の求める総合診療医像がかなり明らかになったので、これはこれで良いとは思います。一方でこれまで色んな構想とか、理想とか、夢をを打ち出していた従来の総合診療医団体はどう反応するのでしょうか。もろ手を上げて歓迎されるのか、求められているものと方向性が違うと異議を申し立てられるのでしょうか。そこら辺は少し興味があります。

これも異論があろうとも既に結論となっている可能性は十二分にあります。記事には

    具体的な検討を進めることで一致した。
    ただ「総合的な診療を行う医師」の定義や育成方法で関係者の意見に隔たりがあり、厚労省は時間をかけて合意を目指す姿勢だ。
今から検討するように書いてありますが、有識者を集めての検討会議は1/11から行われるそうです。つまり日経記事は検討会が始める前に厚労省の方針を伝えている事になります。わかりますよね、こういう結論になるような有識者を集めての検討会議がこれから行われるだけと言う事です。これをひっくり返すには余程の運動が必要です。つう事で「結論」は既に決定事項であり、異論が出てもせいぜい答申の字句に参考意見として載る程度だと私は見ます。

なんつうても総合診療医と言われても、医師と言うか医療界自体に定義の合意が曖昧で、厚労省の方針に賛成するもしないも、そもそも「総合診療医って何者?」論になりかねないところがあります。さらに既存の総合医ないし総合診療医の勢力自体も大きくなく、そのうえ医療界全体として総合診療医についての関心や興味が低いのも否定できない事実です。

たぶんそこまで足許を見透かしてのリークでしょうし、実際の答申にはもっと物凄い事、たとえば人数確保の強烈な手法も盛り込まれても手の出し様がないかもしれません。なんとなく今後の医療の方向性に関してかなり重大な決定が、多くの者が無関心のうちに決定される予感はあります。