統計からの診療所医師数の推移

第1部

ソースはe-statの医師・歯科医師・薬剤師調査で、2008年度と2010年度調査で比較しています。まず診療所医師の総数ですが、

診療所医師数
年齢 2008 2010 増減
総数 97631 99465 1834
24歳以下 0 0 0
25-29 223 199 -24
30-34 1598 1437 -161
35-39 4999 4489 -510
40-44 9258 8833 -425
45-49 13496 12975 -521
50-54 16027 16130 103
55-59 14167 15197 1030
60-64 10287 12901 2614
65-69 7063 7375 312
70-74 6634 6311 -323
75-79 5872 5687 -185
80-84 5963 5341 -622
85歳以上 2044 2590 546
平均年齢 58.0 58.3 0.3

この表の見方ですが、少し単純に考えます。まず診療所医師になるという意味です。医師には病院医師と診療所医師がいますが、基本的に相互交流は案外乏しいところがあります。もちろん病院勤務医でも異動の一環で診療所医師に成る事もありますが、統計上は無視できる数字とみなします。医師のライフサイクルとして、
    病院医師から診療所医師に移行した
一番判り安いのは開業です。診療所に勤務するというのももちろんあります。そういう状態になったと今日は基本的に考えて話を進めます。もう一つ年齢階級別の医師数の考え方です。診療所医師には、
  • 病院勤務医からの移行組
  • 診療所医師からのリタイア組
これがあります。リタイア組もそのままの意味の引退(さらには死亡)もあれば、開業に失敗してやむを得ずの病院勤務医への復帰もあります。これは年齢層からある程度考える事にします。2年間の変化が表にあるのですが、各年齢階級の変動をもう少し細かく考えると、
  1. 移行組、リタイア組の増減
  2. 2年ですから2年分下の階級から持ち上がり、同時に上の階級に抜ける
ここでなんですが、各年齢階級ごとの医師数(病院+診療所)は、近い年齢(5歳程度)であれば、少なくとも60歳ぐらいまで(70歳でもそうだと見ています)はそんなに変わらないはずです。年齢階級ごとに移行組とリタイア組が同じ割合であれば、2年程度ではそんなに変わらない事になります。これがアンバランスになれば年齢階級毎の医師数に変動が生じる事になります。ごく間単には、
    増えたところ:移行組 > リタイア組
    減ったところ:移行組 < リタイア組
おおよそこんな感じで表を見てみます。


総数では1834人増えていますが、特徴として50歳以下の医師数が減少し、50〜69歳とくに55〜64歳の増加が目立ちます。70〜84歳の減少はリタイア率が加速していると見ます。85歳以上が増えているのがチョットビックリです。50歳以下の減少数と55〜64歳の増加数だけ抜き出して表にしておくと、

年齢 増減
50歳未満 -1641
55〜64歳 3644


とくにと言うかダントツに60〜64歳が増えているのは、やはり病院の定年の関係でしょうか。診療所医師数は総数ではたしかに1834人増えていますが、統計を見る限り50歳未満の中堅若手が診療所に流れている傾向はなく、定年が気になる55〜64歳の医師、とくに一般的に定年後とされる60〜64歳が増加しているのが確認できます。


ほいじゃ診療所ではどうかです。今日は診療所の代表者数を診療所数の代用として見てみます。

診療所代表者数
年齢 2008 2010 増減
総数 71913 72566 653
24歳以下 0 0 0
25-29 20 27 7
30-34 331 277 -54
35-39 1947 1647 -300
40-44 5142 4616 -526
45-49 9422 8771 -651
50-54 12722 12538 -184
55-59 11980 12718 738
60-64 8809 11037 2228
65-69 5969 6167 198
70-74 5489 5111 -378
75-79 4540 4326 -214
80-84 4239 3710 -529
85歳以上 1303 1621 318

ここは診療所医師数より傾向がより著明です。55歳未満まで減少の範囲が広がり(25〜29歳は愛嬌としてください)、増加は55〜69歳とくに55〜64歳になっています。ここも良く分からないのですが85歳以上の増加があるのに驚かされますが、診療所医師数と同様に表にして見ます。
年齢 増減
55歳未満 -1524
55〜64歳 2966

開業年齢が下がってきているの話はしばしば聞くのですが、診療所医師数、診療所代表者数の増減を見る限り、中堅若手の診療所医師数は減少傾向にあり、一番増えているのは、むしろ定年後の60〜64歳の医師に多い事が分かります。ここでですが、とくに診療所代表者数が55歳未満で減っていると言う意味は考えておかないといけません。 「診療所代表者 ≒ 診療所」と今日は見なしているので、ごく素直に診療所経営が上手く行かなかった、もっとあからさまに言えば「潰れた」と解釈は可能かと思います。つうか他の解釈が難しいところがあります。 他の解釈があればコメント頂きたいのですが、仮に潰れたと解釈すれば、2008年に2万9584ヶ所あった55歳未満が代表を務める診療所のうち1524ヶ所、5.2%が「潰れた」事になります。5.2%と言えば少なそうですが、20ヶ所につき1ヶ所ですからなかなか厳しいところです。もう少し言えば、これには新規に開業した分も含まれての5.2%ですから、実数としてはもう少し多いと考えても良さそうです。 ちょっと実感に乏しいのですが10%程度になっていてもおかしくないかもしれません。う〜ん、首筋が冷たくなりました。
第2部
こういう傾向は2008年度から2010年度だけなんだろうかの疑問は当然出てきます。1998年度まで遡って見てみます。診療所医師数のほうですが、
年齢 1998-2000 2000-2002 2002-2004 2004-2006 2006-2008 2008-2010
総数 4780 1830 2542 2228 2418 1834
24歳以下 1 0 -1 0 0 0
25-29 20 -48 -4 -54 -78 -24
30-34 173 28 -86 -106 -107 -161
35-39 169 -197 -56 178 -246 -510
40-44 626 -280 -405 -411 -97 -425
45-49 1151 930 632 -176 -287 -521
50-54 2588 1092 504 1418 1151 103
55-59 390 1390 2551 2462 403 1030
60-64 -465 -352 550 133 2736 2614
65-69 -490 -498 -730 -431 178 312
70-74 -1470 -2863 -1411 -233 -595 -323
75-79 1836 1955 111 -2043 -1628 -185
80-84 252 618 889 1282 653 -622
85歳以上 95 59 -2 209 335 546

傾向はハッキリ出ているとしても良いでしょう。2000年頃は診療所医師になるのは50〜54歳頃が一番多かったのが、現在では60〜64歳に完全にシフトしています。実はこの集計大変メンドクサイのですが、これを診療所代表者でもやってみます。
年齢 1996-1998 1998-2000 2000-2002 2002-2004 2004-2006 2006-2008 2008-2010
総数 -27 2813 662 892 364 721 653
24歳以下 0 0 0 0 0 0 0
25-29 -27 16 -11 3 -23 -23 7
30-34 -91 81 30 -112 -80 -99 -54
35-39 -233 -22 -179 -155 -110 -210 -300
40-44 82 92 -380 -448 -512 -362 -526
45-49 -204 669 407 271 -361 -558 -651
50-54 1832 2128 833 260 867 687 -184
55-59 -7 283 1169 2067 1997 235 738
60-64 -866 -483 -358 443 -8 2284 2228
65-69 -2683 -455 -410 -743 -444 89 198
70-74 1351 -1301 -2494 -1227 -248 -557 -378
75-79 953 1518 1580 -61 -1727 -1337 -214
80-84 -184 210 468 602 915 365 -529
85歳以上 50 73 11 -8 98 207 318

この統計もよく判らんところがあって、1996-1998年度は減っているのに対し、1998-2000年度は物凄く増えています。何があったんだろうと言うところですが、私が確認する限りそうなっています。元もとは19881998年度までしか調べてなかったのですが、1998-2000年度の増加が突出しているので1996年度も調べたらこうなっていました。 これは意外だったのですが、診療所医師数は2000年度以降も漸増はしています。しかし病院勤務医から診療所医師に移行する年齢は統計で見る限り確実に高齢化しています。10年前は50歳代になれば診療所への移行が始まっていたのが、2010年時点では60〜64歳の定年後になってからの移行に完全にシフトしています。これまで耳にしていた診療所への中堅層のドロッポ現象の加速は統計では否定されている事になります。
第3部
診療所医師への移行が高齢化すれば診療所医師も当然高齢化するのですが、これが平均ではハッキリ出てきません。示しておくと、
年度 総数 代表者 勤務者
1996 * 59.7 53.2
1998 58.3 59.7 53.2
2000 58.1 59.5 52.9
2002 58.0 59.5 53.2
2004 58.0 59.0 53.5
2006 58.0 59.4 53.7
2008 58.0 59.4 54.0
2010 58.3 59.7 54.6

1998年から見ても診療所勤務医の平均年齢が1歳程度増えていますが、ほぼ横這いです。しかし平均が同じでも構成は変わっているのは上記した通りです。これをグラフ化してみたいのですが、折れ線の数が多すぎると見難くなるので、30歳未満、40歳代、50歳代、60歳代、70歳代、80歳以上で編集しています。
1998年当時は40歳代が一番多く、70歳代・60歳代・60歳代・50歳代がおおよそですが同じ程度の数がおり、一段下がって30歳未満・80歳以上があります。これが2010年までの間に、40歳代医師は横這いですが、50歳代医師が一直線に増加し、60歳代医師も2006年から急増しています。一方で70歳代医師は確実に減少しています。 70歳代医師が減少した分を50歳代医師、60歳代医師がカバーしている関係に見えます。上述した通り、診療所医師になる年齢は高齢化していますが、その代わりに70歳代医師のリタイアが増え、平均としては表面化していないと見ることも出来ます。もうちょっと細かくみるために、40〜70歳代を5歳ごとに区切ったグラフを示します。
このグラフが示すものは、診療所医師の総数が増えているとの前提で、
  1. 40歳代前半医師は2000年から漸減
  2. 40歳代後半医師は2004年を頂点として漸減
  3. 50歳代前半医師は2008年まで急速に増加しているが、2010年には横這い傾向
  4. 50歳代後半医師も2006年まで急増し増加しているが以後は頭打ち傾向
  5. 60歳代前半医師は2006年まで横ばい傾向であったが、以後は急速に増加
  6. 60歳代後半医師は2006年まで漸減傾向であったが、以後は漸増傾向
1998年以前のデータを見たいところですが、おそらく1990年代は40歳医師の増加傾向があったんじゃないかと推測します。ところが2000年代になり流れが変わり、50歳代に増加がまずシフトし、さらに2006年頃から増加のシフトがさらに60歳代に移っていていると読めます。


第4部

こうなるとなんとかして1998年以前の長期変動を見たいところです。これがなかなか見つからなかったのですが、やっとこさ見つかったのでグラフで示します。

作ってみて、診療所医師の年齢変動が想像以上に激しいのに驚かされました。
  1. 40歳未満はおおよそ横這い
  2. 40歳代は1975年には最多数でしたが、10年後の1986年にはほぼ半減し、そこからまた増加に転じて2004年頃には1975年当時の数まで増えています。
  3. 50歳代は1980年頃に一旦ピークを迎え、1990年代の中頃には半減。そこから再び反転し、現在はダントツ状態になっています。
  4. 60歳代は1990年頃にピークを迎え、2006年まで低下を続けますが、なぜかそこから復活傾向を示しています。
  5. 70歳以上はもともと少なかったのですが、ジワジワと増え続け、2000年頃にピークを迎え、また減り始めています。
どうも大雑把に見ると、1970年代には40歳代医師が多かった(ここで塊が形成される)のが1980年代にこれが50歳医師に移行したとまず見ます。この50歳医師の塊が1990年代に60歳代に移行し、さらに2000年代に70歳以降になったと見て良いのでしょうか。そいでもってこの塊が70歳代以降に移行した頃から再び40歳代医師が増え始めたのが1990年代だったのですが、2000年代になると40歳から診療所にシフトするのではなく、50歳以降にトレンドが変わり現在に至るみたいな感じです。

この辺は医療政策とか、医師の勤務医指向が強くなった時期とか、様々な要因があるとは思われますが、そこまで考察する余裕が今日は無いのでデータの提示に留めさせて頂きます。それにしても爺医と揶揄される診療所医師(≒開業医)もかつては、本当の意味の爺医は少なかったんだと感心しています。病院レベルでの中堅・ベテラン層(医師会で言う若手)が大半だったと言う事です。

もう少しクリアな結果が出ると予測して始めた統計処理でしたが、散々時間をかけた割りには歯切れの悪いものになってしまった事は遺憾とさせて頂きます。