医療機関と消費税

消費税アップは紆余曲折はあるでしょうが、いずれ為されると考えています。消費税アップの是非は今日は置いておいて、消費税が医療機関に及ぼす影響の知識整理をしておきたいと思います。参考にするのは、

話は医療機関に絞りますが、医療機関が物品を購入し販売する流れは、こういう順序で下ってきます。ワクチンの様にメーカーと卸問屋の間に販売会社がある時もありますが、面倒なので適当に脳内置換して下さい。


自由診療の場合

消費税は最終販売価格にかかるものです。例にしやすい様に医療機関が100万円の価格の医療物品を販売した場合は、患者から105万円の代金を受け取ります。消費税は最終購入者が支払うからです。105万円のうち100万円は医療機関の売り上げですが、5万円は税金として納付する事になります。ただし医療機関が5万円を払う事になりません。

消費税は物品の販売毎に生じます。医療機関に物品を販売した卸問屋、さらに卸問屋に販売したメーカーにも消費税が発生しています。ここもわかりやすいように、

  1. メーカーは60万円で卸問屋に販売
  2. 卸問屋は医療機関に80万円で販売
  3. 医療機関は患者に100万円で販売
差額は各段階の取り分になります。実際は医療機関の差益はこれほど大きい事は少ないのですが、あくまでも見やすくするための例としてください。

そうなるとメーカーが卸問屋に販売時に3万円、卸問屋が医療機関に販売する時に4万円の消費税が発生している事になります。全部が別々に払えば12万円の消費税が発生してしまいます。そうならないように、各段階で払った消費税が差し引かれていく事になります。チトわかりにくいところですが、表にしてみます。

販売元 購入先 販売価格 発生消費税 実際の納税額 解説
メーカー 卸問屋 60万円 3万円 3万円 これはこのままメーカーが納税
卸問屋 医療機関 80万円 4万円 1万円 3万円はメーカーに既に支払っている
医療機関 患者 100万円 5万円 1万円 4万円は卸問屋に既に支払っている


各段階の販売者は自分のところで発生した消費税を納付するのですが、購入時に支払った消費税は既に支払っているので、差額が実際に納付する金額になります。くどいですが、実戦的には医療機関を例に取ると、
  1. 卸値80万円に対する消費税4万円は卸問屋が受け取り、消費税を払った事になる
  2. 100万で患者に販売する時の消費税5万円を受け取るが、既に4万円を消費税として卸問屋に払っているので、納税額は1万円となる
もうちょっと簡単に解釈すると、100万円の商品と言っても、卸値である80万円分は卸問屋から購入する時に消費税の納税は終了し、利益分の20万円に対する消費税を支払っていると言った方がわかりやすいかもしれません。

こういう仕組みは自由診療医療機関として例に取りましたが、通常の消費税の仕組みと言い換えても構いません。スーパー、コンビニ、デパートなどの殆んどの商品売買はこうやって消費税が徴収されることになります。


保険診療の場合

保険診療の場合も医療機関が購入する時までは同じです。問題は医療が非課税である事です。患者にとっては税負担がなくて良い事なんですが、医療機関にとっては様相が変わります。先ほどの表をもう一度出しますが、

販売元 購入先 販売価格 発生消費税 実際の納税額 解説
メーカー 卸問屋 60万円 3万円 3万円 これはこのままメーカーが納税
卸問屋 医療機関 80万円 4万円 1万円 3万円はメーカーに既に支払っている
医療機関 患者 100万円 0円 どうなるか?


保険医療機関では非課税になりますから最終消費者である患者から消費税を受け取れません。つまり卸問屋に支払った消費税がそのまま医療機関の負担になります。通常ならさらに最終消費者である患者から消費税の支払いを受けるのですが、これが非課税であるために最終消費者の位置にある事になります。

ここもわかり難いところかもしれませんが、消費税は最終消費者が負担するもので、販売者には税金がかからないものであるはずなのに、保険医療機関は販売者であるにも関らず消費税を直接負担している事になります。これを消費損税と呼んだりするようです。

医療費の非課税は、最終消費者である患者が非課税なのですが、国税庁的には医療機関が購入する段階まで徴収されます。最後の医療機関だけが転嫁先なしと言う構図があります。知っている人は知っている話です。


消費損税の行方

ここで販売者が払うものでない消費税を支払っているから税務署から還付を受けられるかですが、

課税売上割合とは簡単に言えば、総売上のうちに占める消費税が課税となる売上の割合のことである。つまり、課税となる収入に対応する分しか仕入れに係る消費税額は控除できないのである。消費税を計算する上で、診療材料の仕入れが非課税診療と自由診療に共通するものであれば、その診療材料の仕入高に対する消費税額に課税売上割合を乗じる。収入が、社会保険診療等しかなかった場合には、課税売上割合が0%になるので、仕入れに係る消費税額は一切控除出来ない。その場合には、還付を受けることができず15,000円の支払損が生じてしまう。

簡明に書いてくれてはずなのですが、私には少々難解でした。「課税売上割合」の定義が厄介なのですが、国税庁課税売上割合の計算方法には、

    課税売上割合 = 課税期間中の課税売上高(税抜き) / 課税期間中の総売上高(税抜き)
こういう計算式で示されるそうです。そいでもって課税売上割合が95%以上の時は課税仕入れに係る消費税額の全額を控除できるそうです。しかし95%未満の時は、課税売上げに対応する部分のみが控除されるとなっています。自分で書いていても理解が怪しいのですが、
    収入が、社会保険診療等しかなかった場合には、課税売上割合が0%になるので、仕入れに係る消費税額は一切控除出来ない
こうつながるとわかるかと思います。保険医療機関は課税売上割合がほぼゼロなので、消費税額は一切控除されない事になるそうです。つまりは医療機関が医療品の消費税をすべて被る状態にあると言う事です。


消費税10%になると

純化しますが、消費税5%と10%で80万円の医療品を購入したシミュレーションを書いてみます。

卸値80万円 保険診療機関 自由診療機関
税率 5% 10% 税率がいくらになろうと消費損税なし
購入段階の支払い 84万円 88万円
消費損税 4万円 8万円
販売価格 公定価格 自由価格


表にするほどではありませんが、同じ80万円の医療品を買っても5%で4万円、10%になると8万円の純粋な支出が発生します。医療は非課税ですから患者を最終消費者にする事はできませんし、保険診療の値段はコチコチの公定価格ですから、消費税分を上乗せする事ももちろん出来ません。消費税が増えた分だけ病院の支出は連動して増加する事になります。

当時は勤務医だったので消費税と医療経営については全く無関心でしたが、医療の非課税により消費税分だけ医療機関が被る構造になっているのに改めて驚かされます。よく、まあ、こんな条件を日医が旗振って導入したものだと思っています。それでも当初の税率は3%でしたが、現在の財政事情では確実に10%、さらには15%、いや20%以上を目指したいのが財務省の本音だと考えています。

消費税自体の意義はともかく、税率が上る分だけ消費損税が医療機関に増大する仕組みは検討を要すると思います。解消するのに一番単純なのは保険医療にも消費税を導入する事です。ただ日医は非課税に旗振った手前もあるでしょうし、先日も「患者事故負担増は受診抑制につながる」として外来負担100円反対運動を展開しています。そうなると患者負担増につながる保険医療への消費税導入なんてもっての他になります。

とは言え、来春には診療報酬改訂が行われます。慣例により2年毎に改訂は行われますが、その間に消費税アップが行われたらどうなるかです。消費税アップ分に匹敵する診療報酬増が迅速に行なわれるでしょうか。個人的には極めて疑問です。また診療報酬改訂で対応すると、これがまた全体額との複雑な神学論争が毎回展開され、消費税額がどうなったか訳のわからない結末になるのも十分に予想されるところです。

消費税がパカパカ上る時代を考えるのなら、医療機関に消費損税が発生しない税体系を構築するべきと思っています。素人考えなら、せめて非課税ではなく税率0%とし、課税売上割合に応じた控除ぐらいを導入したらどうだろうぐらいは思い浮かべます。

ただ税率0%案も問題はあって、医療では仕入れた医療品を患者に直売している訳ではないのです。院内薬局ぐらいなら直売に近いかもしれませんが、院内の治療に用いる医薬品、消耗品の類をどう計算するかと言われれば、正直なところどうなるのか私の知識では不明です。包括点数が多いものですから、税率0%による控除だけで何とかなるものとは思い難いところがあります。

それでも消費税率が上れば確実に医療機関に消費損税による支出は増えます。まるでどこにも問題が無かったかのように、モロに医療機関が被り続けるのでしょうか。とりあえず10%になる時には放置されそうな悪寒がしています。