お前は何を言っているのだ?

医療機関と消費税のある意味続編です。1/6付Medifaxより、

消費税問題、「診療報酬で手当て」継続  高額投資は別途検討

 政府の「社会保障・税一体改革に関する関係5大臣会合」は12月30日、消費増税を含む一体改革の素案「案」をまとめた。控除対象外消費税への対応策として、医療機関が行う仕入れについては従来通り診療報酬で手当てする一方、病院の建て替えや高額医療機器の購入などが想定される高額投資については、新たに一定の基準を設けた上で何らかの手当てを検討すると盛り込んだ。課税した上でゼロ税率とする措置は見送られた。

厚労省内に「定期的に検証する場」

 財務省主税局によると、高額投資部分については、診療報酬上の措置になるか別枠での措置になるかも含めて今後検討する。素案「案」には、厚生労働省内に、医療機関の消費税負担について定期的に検証する場を設けることも記載されており、その場で議論することになりそうだ。

 またこれ以外に「医療に関する消費税の課税の在り方については、引き続き検討する」とも記されており、社会保険診療を非課税のままとするのか課税とするのかについて将来的に検討する余地は残している。

 控除対象外消費税をめぐっては、日本医師会などが社会保険診療を原則課税とした上でゼロ税率を採用する案を主張していたが、諸外国でも保険診療が非課税であることや、課税化した場合の患者の自己負担が増加することなどを踏まえ、非課税の扱いを継続することとした。高額投資に対する措置については今後の検討に委ねられるが、財務省は「投資に関する負担が、どこまで診療報酬に含まれているかなど、精緻な検証が必要になるのではないか」(主税局)としている。主税局によると、税率が8%に上がる段階で、何らかの措置が取られる可能性があるという。

 控除対象外消費税の取り扱いは、民主党が12月29日開いた党税制調査会と一体改革調査会の合同総会がまとめた内容を、30日の政府税調が了承。同日の5大臣会合でも了承された。

医療機関に発生する消費損税の取扱いの状況を伝えている記事です。どういう方法がベターであるかについては雲の上の協議になります。それでも零細とは言え経営者ですから、現在の消費税法6条ではなく7条に該当する扱いにするのが、一番公平ではないかと考えています。日医が提唱している「ゼロ税率」の狙いも前に解説しましたがおさらいしておきます。

現行消費税で消費税控除を受けようと思えば、

    課税売上割合
この条件を満たす必要があります。具体的には、
    課税売上割合 = 課税期間中の課税売上高(税抜き) / 課税期間中の総売上高(税抜き)
こういうもので、非常に単純に理解するなら、売上の中の消費税販売分の割合を示します。医療機関も流通の位置的には販売者であり、最終消費者ではありません。ところが保険医療は非課税であるために、消費税がかかる売上高がゼロないし非常に少なくなります。つまり消費税控除の条件である課税売上割合が事実上存在しないと言う事です。

ここでゼロ税率とはどんな事になるかと言えば、税率はゼロですが課税販売に変わる事を意味します。ここを整理すると、

  • 消費税6条による非課税は課税売上割合に反映されない
  • ゼロ税率は課税売上割合に反映される
ただし税率はゼロですから、最終消費者である患者に対しては消費税負担は発生しません。発生しませんが、名目は非課税から課税に変わります。税率ゼロでも課税は課税になります。私の消費税理解もかなり怪しいのですが、どうも日医は消費税法6条から7条への変換路線ではなく、軽減税率の適用を提案したと私はみます。つうかそう書いてあります。



日医の提案については前回の時に私も思いつきで書いたことですから基本的に賛成です。それは置いといて、今日注目したいのは、

記事なんで簡略にしている部分はあるのでしょうが、諸外国でもすべて消費損税は医療機関が丸被りであると言う事でしょうか。ここも詳しくはないのですが、たとえばインボイス方式を採用している国なら同列に論じられないはずです。恒例の逃げ口上である「諸外国」と言う曖昧な表現は、何かやましい事がある時によく頻用されるかと存じます。ま、状況に応じて「諸外国とは日本は違い云々」も同様です。

諸外国の件は私も詳しくないのでまだしもとして、

    課税化した場合の患者の自己負担が増加することなどを踏まえ、非課税の扱いを継続することとした。
あの〜、ゼロ税率でどうやったら患者負担が増えるのでしょうか。患者負担は非課税でもゼロ税率でも同じです。仮にゼロ税率が導入されたとして、患者負担が増えるのは財務省なり、時の政府が医療のゼロ税率をアップした時のみです。そうならない限り患者負担は発生しません。少なくとも医療者は税率アップを望むはずもありません。

ま、外来100円負担を提案した後に「患者負担」の心配をしてくれるのも面白味があるところです。政府提唱の患者負担は無問題だが、ゼロ税率で患者負担がゼロでも、その重い重い負担を懸念してくれるようです。ごく素直にゼロ税率では医療機関に消費税控除が発生し、その分の税収減が財務省の負担として重いと言うのならまだしも理解できるところです。

最低限のリテラシーとして、これを財務省主計局がそう言ったのか、それともこれを聞いて記事にした記者がトンチンカンな記事にしたかは不明としておきます。



ただまあ、日医の提案も私の思いつきと同じとは言え、ちょっと筋が悪いところはあります。ゼロ税率の提案には二つのデメリットがあります。

  1. 実質患者負担ゼロでも名目上で医療が課税になる
  2. 政府や財務省が難色を示している軽減税率導入に該当する
個人的には現在の「非課税」から「免税」に移行する路線の方がまだ実現の可能性が少しは高いんじゃないかと思います。もっとも実現率に有意差は殆んど無い気もしないでもありません。それでも現在の消費税法7条は「輸出免税」と言う形になっており、具体的には、

第七条  

事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が国内において行う課税資産の譲渡等のうち、次に掲げるものに該当するものについては、消費税を免除する。

  1. 本邦からの輸出として行われる資産の譲渡又は貸付け
  2. 外国貨物の譲渡又は貸付け(前号に掲げる資産の譲渡又は貸付けに該当するもの及び輸入品に対する内国消費税の徴収等に関する法律 (昭和三十年法律第三十七号)第八条第一項第三号 (公売又は売却等の場合における内国消費税の徴収)に掲げる場合に該当することとなつた外国貨物の譲渡を除く。)
  3. 国内及び国内以外の地域にわたつて行われる旅客若しくは貨物の輸送又は通信
  4. 専ら前号に規定する輸送の用に供される船舶又は航空機の譲渡若しくは貸付け又は修理で政令で定めるもの
  5. 前各号に掲げる資産の譲渡等に類するものとして政令で定めるもの

2  前項の規定は、その課税資産の譲渡等が同項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するものであることにつき、財務省令で定めるところにより証明がされたものでない場合には、適用しない。

このままで医療を第7条の適用に変更するのはチト骨が折れるかもしれません。だからもう少しお手軽な第6条の別表からの削除の方が、日医としては実現の可能性が高いと判断したのかもしれません。

どちらにしても所詮は雲の上の話で、診療報酬改訂と同様に指をくわえて眺め、決定に対して直撃を食らうしかありません。これもあれですかねぇ、皆保険から混合診療への政策誘導の一つなんでしょうか。それとも医療機関の淘汰整理の一環でしょうか。とりあえず保険診療で食えなくなれば、食うために医療者から混合診療導入論が高まります。そうなりゃ、分院を作って点滴バーでも経営しましょうか・・・私も食わなければなりませんから。