今日も10mlバイアルのお話

10mlバイアルの問題点は、

  1. 成人で18回、小学生で30回以上、幼児で45回以上の吸引作業が必要で、清潔操作にどうしても問題が残る。
  2. 使用期限が最初の吸引から24時間以内である。
  3. 優先者限定かつ季節性接種の津波の中で、24時間以内に上記の回数分の人数に無駄なく接種しなければならない。
  4. 地域により温度差はあるかもしれませんが、新型接種は通常の診療時間以外に接種を行わなければならない。
根拠として、受託医療機関等における新型インフルエンザ(A/H1N1)ワクチン接種実施要領から引用します。まず「24時間以内」ですが、

余った接種液入りのバイアルは、最初の吸引から24時間を経過した場合は使用せず、適切に廃棄する。特に、10mlバイアルの管理には十分留意する。

「通常の診療時間外」は、

受託医療機関においては、インフルエンザ患者も多数通院していることが予想されることから、接種を行う場合は予約制とし、ワクチン接種を行う時間と他の患者の診療時間とを別にすることやパーテーション等により他の患者と空間的に分離することなどにより、優先接種対象者等の感染リスクの軽減を図る。

予防接種を主に行うのは診療所であり、診療所で「空間的」に分離できるところは限定されており、大部分が「時間的」すなわち時間外に接種を行わざるを得なくなります。小児科に10mlバイアルなど来ようものなら、40人以上の接種を時間外に行わなければなりません。たとえば東京の情報はTOMさまから、

例の「普通の診療時間以外で接種せよ」の話ですが、そもそも患者ラッシュで「普通の診療時間」って概念自体が崩壊してるのに、それいつの事ですか? そんな事言ってたらできないでしょう? って説明会で訊いたら、
「そういう所は、ワクチン要望量を減らすか、もしくは手を下げて頂きたい。」
って、 本 当 に 役人さんが言ってました。

こういう条件を「優先者のみ」を厳密に守りながらです。ちなみに神戸の医師会Faxには、

    優先者の順番を守らないと契約違反になり、契約を解除される事になります。
てな御丁寧な警告が入っていました。「無駄なく」は11/6の参議院予算委員会にて鳩山総理が、

破棄されてはならないと思っている

総理の答弁ですから軽くないでしょう。


こういう風に種々の問題がある10mlバイアルの有効利用法は、同じく予算委員会より長妻大臣答弁があります。

10ミリリットルだけでなく1ミリリットル容器での提供もして、比較的ワクチンを打つ方が少ない所等々で差配をしていくということを考えている。

10mlと1mlを使用する医療機関に応じて

    差配する
現実にどういう「差配」が行なわれているかですが、まずは東京 第2回様より、

    科血研10mlとデンカ1mlが問答無用で届きました。20人分希望なんて出していないのに。
    第3回も10mlが来る予定。20人希望なんて出していないのに。

もう一つSeisan様より、

どうやら末端の医療機関に「差配」する気は全くなさそうですね。

小児科で10ccバイアルを供給されるので府の担当部署に連絡して苦情を言ったら、「希望者が少なく、余って廃棄して、そのせいで赤字になっても仕方ない」という返事でしたから。

のぢぎく県でもワクチンの配布は医師会の決定による強制割付にするとFaxがありました。差配も何もあったもんじゃなく、国家による押し売りが行われている事になります。もちろん一度購入してからの「差配」は「返品不可」ですからあり得ない事になります。



なぜこういう事態になってしまったかの考察も大事ですし、状況証拠を積み重ねてあれこれ原因を推理するのも楽しいですが、それより差し迫った現実に対応しなければなりません。政策的に望むのは2つの選択です。

  1. 10mlバイアルの消費に適切な、集団接種を容易に行なえる体制を至急に整備する
  2. 今からでも10mlバイアルの生産を差し止め、1mlバイアル生産に切り替える

集団接種については「考慮する、考慮する」の文字だけが「書いてある」状態で、費用も含めて都道府県に丸投げ状態です。いわゆる「指示をしたから大丈夫」で終わっています。10mlバイアルの有効利用のためには「考慮する」ではなく、セットの対策として行なうべきものであるのは明白であり、前政権の政策が悪いと指摘して終わりではなく、国民の安全と健康のために現政権担当者がフォローするところと考えます。

生産の切り替えは遅くなれば、遅くなるほど10mlバイアルの弊害は拡大します。現在までに作った分で被害を押し留める政策転換が今は求められると考えます。決定した計画通りに10mlバイアルを作り続け、これを医療機関に押し売りし、押し売りされた医療機関が有効利用できなかったら「医療機関が悪い」で切り抜けようとするのは官僚主導の政策でしかありません。


とは言え、本来こういう声を汲み上げて政治に訴える機関であるはずの日医は総選挙以来沈没しきっています。都道府県医師会も厚労省の押し売りの下請けに勤しむ惨状です。学会もこういう余りにも現場レベルのお話は反応が鈍いところがあります。現場の対応としては「上に政策あれば、下に対策あり」が精一杯になります。

姑息ではありますが、対策としてはうらぶれ内科様の提案が最も現実的になります。元コメントが探し出せないのですが、

    10mlバイアルは受領拒否
国家的押し売りとは言え、完全な押し売りではありません。形として、
  1. 国が都道府県に押し付ける
  2. 都道府県が医療機関に強制割付分を決める
  3. 強制割付の指示を受けた卸問屋が医療機関に押し売りに来る
ここで卸問屋から医療機関への販売は通常の商取引です。医療機関は発注はしていませんから、押し売りに来た卸問屋からワクチンを受領しない限り売買契約は成立しません。これは購入後の返品ではなく、「これを買ってください」「不要です」の訪問販売の拒否と同じになります。現在の受託医療機関契約書には、都道府県なりの強制売り付けを拒否してはならないの条項はないと存じます。

10mlを買わない正当の理由は、予算委員会の首相答弁である

    破棄されてはならないと思っている
この意向に副うものになります。10mlバイアルを使って「破棄せず」に使い切る事ができる医療機関のみが買う資格があり、使えもせずに無駄にする医療機関がホイホイ買うことは新型ワクチン対策に反する事になると考えます。


これは感覚的な計算ですが、現在の医療機関の余力からして、10mlを1mlに切り替えて供給量が減っても、それさえ消費できるかのレベルじゃないかと考えています。なんと言っても最終供給量は、「国産2700万人分、海外産4950万人分、あわせて7650万人分」であり、1mlバイアル転換で国産が2000万人分に減っても、

    国産2000万人分、海外産4950万人分、あわせて6950万人分
季節性ワクチン4000万人分を使いきるのにどれだけの負担があるかを考えれば、いくら机上で「足りる、足りる」と豪語されても年内に余力はありません。