海外産ワクチンの卸価格推理

まずですが10/1付読売新聞より、

ワクチンは来年3月までに1385億円をかけ、国産2700万人分と海外産4950万人分(計7650万人分)を確保するとした。

次に10/1付産経新聞より、

基本方針によると、厚労省は平成21年度内に国産2700万人分、輸入5千万人分を確保する。ワクチン調達の費用は国産が259億円で、輸入が1126億円の計1385億円となる。

もう一つ10/6付大分合同新聞より、

厚生労働省は6日、新型インフルエンザの輸入ワクチンについて、英国のグラクソ・スミスクライン(GSK)とスイスのノバルティスの製薬2社と購入契約を結んだと発表した。GSKから3700万人分、ノバルティスから1250万人分の計4950万人分を購入する。契約額は2社合わせて1126億円。

おそらくどの記事も厚労省の報道発表に基く記事と考えられます。作為を行なったり、創造的表現を付け加える余地が乏しい部分ですから、厚労省は報道記事が伝える内容を発表したと考えて良いかと思います。新型ワクチンの前提は国が全量買い上げる方式になっており、厚労省が発表した予算はワクチン全量買い上げのための予算と解釈してよいと考えます。そういう観点でポイントを挙げておけば、

  1. 国産ワクチン2700万人分の全量買い上げのために259億円
  2. 海外産ワクチン4950万人分の全量買い上げのために1126億円
こういう予算が組まれたと厚労省は発表した事になります。この時点の1人分は成人2回接種で1人分です。つまりレギュラーボトル1本分の価格という事になります。国産ワクチン価格は公定料金であり、パーティボトルの本体価格はちょうどレギュラーボトルの9倍(9人分、18回接種)であり、0.5mlシリンジ製剤はレギュラーボトルの半額であるため、計算はレギュラーボトル換算で行なっていきます。

ワクチンの流通経路は

    ワクチンメーカー → 国 → 販売会社 → 卸問屋 → 医療機関
さてと、ワクチンメーカーから国に販売した価格は公表されていません。わかっているのは国が販売会社に販売した価格です。平成21年10月14日付事務連絡「新型インフルエンザ(A/H1N1)ワクチンの購入価格等について」に1725円と明記されています。これまで国はワクチンメーカーから購入した価格で販売会社に転売しているものと考えられていました。つまりメーカーから1725円で購入して、販売会社に1725円で売るという手順です。

しかし2700万本を1725円で全量購入しようとすれば、465億7500万円必要です。上記したように国産ワクチン買い上げのための予算は259億円ですから、206億7500万円ほど足りません。足らない予算でワクチンは購入できませんから、国はメーカーから259億円でワクチンを全量買ったと考えるのが妥当かと考えられます。

そうなるとメーカーの国への販売価格が割り出せます。259億円をすべてワクチン購入のためだけに費やしたとしても1本あたり959円になります。つまり国はメーカーから959円で購入したワクチンを販売会社に1725円で販売している可能性があります。ワクチンの価格は流通経費まで発表されていますからこれをまとめると、

費用 金額 卸価格の対する割合
メーカー販売価格 959円 32.7%
国の流通経費 756円 25.7%
販売会社の流通経費 644円 21.9%
卸問屋の流通経費 428円 14.6%
消費税 139円 4.7%


メーカーの販売価格には製造コストも含まれていますし、販売会社、卸問屋は実際にワクチンを保管し、これを全国に運ぶ経費が含まれています。しかし国は購入したワクチンを国の倉庫なりに管理したとは思えません。おそらく帳簿上でメーカーから買った事にしただけで、実際はワクチンには何も手を触れず、
    メーカー → 販売会社 → 卸問屋 → 医療機関
こう流通していると考えるのが妥当です。国が流通に直接関与しているのは都道府県ごとのワクチンの割り振りだけです。それはそれで手間はかかるでしょうが、その費用はそれこそ国の新型インフルエンザ対策費なりで出ているのではないかと考えます。少なくともワクチンの都道府県への割り振りを考えるコストをワクチン代から稼ぎ出す必要はないでしょうし、仮にそうであっても200億円は少々マージンが高すぎるかと思われます。


ではではこの推測に準じて海外産ワクチンの卸価格を推測してみます。卸価格に対する、国、販売会社、卸問屋のマージンが同じ比率と前提します。とりあえずメーカー価格は2275円になります。後の計算結果は表にしますが、

費用 金額 卸価格の対する割合
メーカー販売価格 2275円 32.7%
国の流通経費 1788円 25.7%
販売会社の流通経費 1524円 21.9%
卸問屋の流通経費 1016円 14.6%
消費税 327円 4.7%


国産ワクチンの公定価格は2936円ですが、海外産ワクチンの推定卸価格は、
    6930円
接種1回分としても3465円。接種費用は1回目が3600円、2回目が2550円ですから目の眩むようなワクチン価格になります。これではあんまりですから、好意的に考えて、国産ワクチンで稼いだ利ざやで海外産ワクチンの販売費用を抑える対策を取っているとします。つまり海外産ワクチンでも本体費用、つまり国から販売会社の価格は同じにすると考えます。

海外産のメーカー価格は2275円ですから、これを1725円で販売すると1本当たり550円の逆ザヤが生じます。これが4950万本ありますから、272億2500万円になります。国産ワクチンの利ざやが206億7500万円ですから、差し引き65億5000万円の国からの持ち出しにはなります。持ち出しになると話が難しくなると考えて、65億5000万円を本体価格に転嫁すれば、1本あたり132円のコストアップになり本体価格は1857円になります。

本体価格1875円の卸価格ですが、概算で3100円ほどになります。現在の国内産が2936円ですから1本当たり164円のコストアップに留まります。考えようによっては、3100円より高ければそれはすべて厚労省の利ざやという事になります。ちなみに販売会社と卸問屋の流通経費は本体価格に対して62%ほどですから、本体価格を100円上げれば消費税も含めて168円ほど卸価格が上ります。一方で厚労省には100円値上げすれば49億5000万円の利ざやが転びこみます。

この試算をまとめておくと、ワクチンを完売するものとして、

  1. 本体価格1857円、卸価格3100円で厚労省の利ざやは無し
  2. 本体価格が100円上れば49億5000万円の利ざやが発生
  3. 本体価格が100円上れば卸価格は168円上り、医療機関の収益は83億1600万円減少する
これも注意が必要なんですが、現在用意されているワクチン数は国内産、海外産合わせて7645万本あります。どうやら接種回数は1回接種になる方が多くなる流れですから、日本の総人口を上回る新型ワクチンがタイミングこそ外れるものの準備されている計算になります。そうなると必然的に売れ残りが出ます。売れ残りも「海外産 >> 国内産」になる可能性が高くなります。

売れ残ったらどうなるかです。そうなると厚労省も困るだろうと考えていましたが、ひょっとして「返品」できる契約になっているんじゃないでしょうか、だからあれだけのお値段とも見れます。海外産が返品できるのなら、医系技官の皆様のご尽力の筋が通る様な気がします。新型ワクチンを巡っては医系技官の方々が国内メーカー保護に動いているのは推察できます。国内メーカー保護のために為された努力は、

  1. 生産本数がなぜか1800万本から2700万本に急増した(1800万人分から2700万人分に増加)
  2. 原則2回接種であったはずが土壇場で1回接種の流れに変えられた(2700万人分から5400万人分に増加)
  3. 生産効率重視のためにパーティボトルの量産に励んだ(海外産が出回る前に国内産の消費を早めた)
トドメにマスコミを使って「海外産ワクチン不安工作」をちょこっと施せば、海外産ワクチン不安世論を起すのは非常に容易です。これは大層にやらなくとも、ほんの少し行なうだけで効果は十二分にあります。厚労省が頑張らなくてもマスコミは勝手に煽りまくってくれますし、ネットでも燎原の火が広がるように席捲するのは保証付です。

一方で今日推理した国内産の利ざやで海外産の価格差を埋める計画も、海外産が殆んど売れず返品となれば、利ざやはしっかり手許に残ります。国内メーカー保護だけでなく200億円の利益も入手出来るなら、厚労省サイドとして文句のつけ様の無い結末と言えそうな気がします。この問題を突付かれても「様々な事情の変化により、海外産が売れなかったのは想定外であった」で釈明は可能です。

さらにさらに噂の海外産大瓶説ですが、売りたくないの意図があるのであれば、これもまた綺麗に話の筋が通ってしまいます。売りたくないのであれば、売りやすいように安くする努力は不要ですから、大瓶の上に本体価格の設定も購買意欲を削ぐようにしても何の不思議もありません。医療機関が購入を渋って売れ残れば、残るほど厚労省のメリットが高くなるからです。

あくまでも返品可能の前提ですが、厚労省サイドから見れば国産ワクチンは売れば売るほどメリットがあり、逆に海外産ワクチンは売れば売るほどデメリットが増す構図になります。

それと私の疎い分野なんですが、この厚労省の利ざやが本当に厚労省の懐に入るかどうかです。国家の会計上の問題なので門外漢も良いところなんですが、元法学部生様のコメントを紹介しておきます。

受益者負担の原則に従って」徴収された費用は、たいていの場合は「負担と受益の関係を明確にするためにw」特別会計で取り扱われる国庫金になって、各省庁の便利なお財布になるんですが、今回のワクチンは、一般会計からの支出らしいですから、素直に考えれば一般会計に繰り入れられる、いわゆる「税外収入」ってやつになります。

「税外収入」というと、JRA他の公認賭博胴元のテラ銭から、日本国政府が上納させるみかじめ料とかと同じ扱いですね。

厚労省としては自分の管轄で営んでいる商売なので、素直に一般会計に繰り入れられたくないでしょうから、なんらかの自前お財布工作をする可能性はあるかもしれません。

お財布工作と言われても何にも思い浮かばないのですが、新型インフルエンザ対策関係の基金はなんかありましたよね。あの辺にでも組み込むのでしょうか。これは状況証拠ですが、一般会計に取り込まれてしまうのなら、これほど熱心に新型ワクチン対策に取り組むとも思えないので、お財布工作はバッチリなのかもしれません。蛇の道は蛇ですから、いろんなやり方がきっとあるんでしょう。


ここまで考えておいて、はてさて海外産のワクチンにどんな卸価格が飛び出してくるかは来年のお楽しみです。