輸入ワクチン備忘録

輸入ワクチンの導入関連の記事をググっていたのですが、とりあえず2009.8.26付産経izaより、

 大流行が懸念される新型インフルエンザ用のワクチンについて、舛添要一厚生労働相は26日、専門家との意見交換会を開き、海外から輸入するワクチンについては小規模であっても安全性を確認する臨床試験(治験)を実施する考えを示した。

この前日あたりの記事では、治験の有無について専門家会議に諮るとしており、その会議の結論として治験の決定しています。その治験がいつから始まったかですが、2009.9.16付中日新聞

 スイスの製薬大手ノバルティス社が、今月16日から鹿児島県内などで新型インフルエンザ用の輸入ワクチンとしては国内初の臨床試験(治験)を実施することが分かった。安全性と有効性を確認するのが目的で、健康な成人約200人に接種、副作用の有無などを調べる。今後、100人前後の小児を対象にした治験も行う予定という。

ノバルティスが9/16から治験を開始したのはこの記事から確認できるのできます。もう少し詳しくは9/16付ノバルティス・プレスリリースに、

9月16日より日本国内で、H1N1新型インフルエンザワクチン(海外での製品名:Celtura®)の治験(臨床試験)を自主的に開始しましたのでお知らせします。この治験が、弊社の治験用H1N1新型インフルエンザワクチンとしては、日本で初めての接種となります。9月16日に鹿児島市内の医療機関で100人の成人を対象に本ワクチンの接種を開始し、18日から大阪市内の医療機関で、残り100人の成人への接種が開始される予定です。

今回治験を行うワクチンは、アジュバント(免疫賦活剤、MF59®)を添加した最新の技術を用いた細胞培養による新型インフルエンザ(ブタ由来インフルエンザA/H1N1)ワクチンです。治験では本ワクチンを2回注射し、200人の健康成人を対象に行い、安全性を確認後、120人の小児(生後6カ月〜19歳)の治験を開始する予定です。

今回の治験の主な評価項目は、有効性(免疫原性)と安全性を評価し適切な接種量と回数を検討します。治験の終了は、成人で11月、小児で12月を予定しています。

GSKについては10/27付ミクスonlineに、

グラクソ・スミスクラインは10月26日、新型インフルエンザワクチン(免疫増強剤AS03を含む新型A(H1N1)インフルエンザワクチン)の承認申請を行い、臨床試験もスタートしたと発表した。承認申請は10月16日付。治験は10月13日に成人を対象にしたものを開始し、11月上旬には小児もスタートする見込み。

同社によると、治験の対象人数は成人で100人(対象年齢:20〜64歳)、小児は60人(6ヵ月〜17歳)を予定。2回投与のプロトコールを設定しているため、投与時の抗体価や副反応のデータなど得られた結果を段階的に厚労省に提出していく方針。治験期間はトータルで2ヵ月程度を見通しているという。

情報が中途半端なのですが、治験の終了推定時期は、

  • ノバルティス:成人11月、小児12月
  • GSK:成人12月中旬、小児1月中旬

何故に両社の治験人数に差がある、それもキッチリ2倍の差があるのかよくわからないところですし、実際に治験がどう進行したかを知る手がかりは乏しいのですが、参考になるのは2009.12.26付CBニュース(Yahoo !版)で、まず、

 厚生労働省の薬事・食品衛生審議会(薬食審)医薬品第二部会(部会長=吉田茂昭・青森県立中央病院長)は12月26日、グラクソ・スミスクライン(GSK)とノバルティスファーマから10―11月に承認申請が出されていた新型インフルエンザワクチンについて審議し、インフォームド・コンセント(IC)の徹底など複数の条件付きで承認することを了承した。

12/26に輸入ワクチンが承認されている事がわかります。GSKの小児の治験スケジュールは繰り上がったのでしょうか、それとも治験結果を待たずに承認されたのでしょうか。さらに記事を引用します。

 厚労省は28日から1月11日まで、メーカーからの申請資料概要や医薬品医療機器審査機構の審査状況などの資料を提示した上で、パブリックコメントを実施する。その後、1月中に開かれる薬食審薬事分科会で、第二部会の結論とパブコメの結果を踏まえて再度承認の可否について審議が行われる。

12/26承認は仮承認みたいなもので、さらにパブコメを募集し、結果として正式承認されたのは1/20であり、出荷されたのは1/29、さらに市場に出回り医療機関が接種できる様になるのは2/10頃と長妻大臣自らYouTubeで語っておられます。

煩雑なので経過を表にまとめると、

Date 事柄
2009 8.26 専門家会議にて輸入ワクチンの治験実施を決定
9.16 ノバルティス治験開始(成人は11月、小児は12月終了予定)
10.13 GSK成人治験開始(2ヵ月後終了予定)
10.16 GSK承認申請
11上旬 GSK小児治験開始(2ヵ月後終了予定)
11.6 ノバルティス承認申請
12.26 厚生労働省薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会にて条件付き承認
12.28 パブコメ募集開始
2010 1.11 パブコメ募集終了
1.15 厚生労働省薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会にて正式承認を厚労省に答申
1.20 厚労省正式承認
1.29 輸入ワクチン出荷予定
2.10 市場に出回る予定


こうやってみるとノバルティスとGSKの動きに大きな差がある事がわかります。治験人数の事は上述しましたが、ノバルティスは治験をかなり先行させ、おおよそ成人の治験結果が出る頃に承認申請を行なっていますが、GSKは治験開始とほぼ同時に承認申請を行なっています。当時の要請としては治験を行なうのは決定ですが、一方で可能な限り早期に使用開始もあったはずです。

行政サイドにその意思があれば、その意思に副っての同じ指導が行なわれていそうなものですが、どうにも両社の動きに大きな差があるのが不可解なところです。

今となっては輸入ワクチンの解禁は、誰も使わない問題しかクローズアップされていませんが、10月から12月にかけてはワクチン不足騒動でテンヤワンヤでした。治験・承認申請の経過を見る限り、ノバルティスの成人治験分については11月には終了しており、これを先行承認する選択はあったはずだと思っています。ところが承認されたのはGSKと同じ今年の1/20です。

特例承認の事情があったにせよ、奇異な感じを受けます。もっとも早期承認により早期販売が為されても、包装単位は国産ワクチンのパーティボトルのさらに上を行くパーティセットですから、輸入ワクチン忌避の風潮も相俟って、どれほど使用されたかは何とも言えませんが、足りない時期に本気で間に合わす意思がどれほどあったかが疑われるところです。

ノバルティスからの購入量もまた不明なのですが、11月中に成人分だけでも早期承認していればワクチン不足騒動の展開はかなり異なっていた可能性があると考えます。


厚労省の手続き、とくにワクチンなんて「そんなものだ」と言ってしまえばそれまでですが、国産ワクチンの接種回数変更に見せた熱意との間に大きな落差を感じてしまいます。接種回数論議の発端になったのが国産ワクチン臨床試験の中間報告(速報)です。この国産ワクチンの治験のスケジュールと騒動の経緯を簡単にまとめておくと、

Date スケジュール
9/17、18 1回目接種前採血とワクチン接種
10/8、9 2回目接種前採血とワクチン接種
10/16 専門家会議、接種回数変更決定、報道リーク
10/19 足立政務官が異議を唱え、新たに専門家会議を招集
10/20 新方針決定
10/29、30 事後観察採血(?)


これはほんの序幕で、これからも色々ありましたが、実質的に最初の専門家会議の結論に決着しています。接種回数が1回か2回かの論議は今となっては置いておきますが、注意して欲しいのは接種回数を1回にする医系技官の異常な熱意です。中間報告書のデータの基になった採血検査が10/9に終了し、1週間後の専門家会議になんと間に合っています。

さらに治験結果入手からおそらく数日で専門家会議の根回しを終了し、それを決定としてマスコミ・リークを行なっています。接種回数の変更はかなり重要な事ですが、もちろんパブコメなど募集していません。どっちみち既定事項である輸入ワクチンの使用にはパブコメを慎重に求め、接種回数の変更は1回の会議で、大臣承認の前に実質的に結論に誘導する熱意の差はなんだろうと言う事です。


厚労省批判ばかりじゃ申し訳ありませんから、ひょっとすると輸入ワクチンの日本への入荷が1月に入ってからの可能性はある事を指摘しておきます。肝心のモノが日本到着してなかったので、入荷スケジュールに併せて審議を行い、時間に余裕があったのでパブコメまで行なった可能性は否定はできません。ただし「いつ日本に到着したか」の確実な情報は見つかりませんでした。

曖昧な伝聞で12月下旬なんてのもありますが、御存知の方がおられたらよろしくお願いします。


追伸

Seisan様から輸入ワクチンの価格情報の提供がありました。

    本筋とは違いますし、ご存知かもしれませんが、新型インフルエンザ輸入ワクチンの価格が医師会から知らされました。

    GSK社製鶏卵培養・1バイアル5ml(10回分)ひと箱5バイアル(50回分)で71,530円、ノバルティスは1バイアル17回分、ひと箱10バイアル(170回分)で243,206円。1回あたり両方とも1430.6円です。
    国産よりもちょっと高いです。
    GSKは10歳未満が0.25cc/回、10歳以上で0.5cc/回。ノバルティスは3歳以上全年齢で0.25cc/回ですが、17歳以下と50歳以上で2回接種となっています。

    ちなみに、出荷は2月下旬以降ですが、ほんと、国産でもかなり余剰が出ている現在、誰が使うんでしょう。

おそらく卸価格と思うのですが、国産では成人1回量でシリンジ1468円、レギュラーボトル1468円、パーティボトル1430.6円(18回換算)ですから、国産パーティボトルとほぼ同等と考えられます。それと大阪では市場に出回る(購入する医療機関があればですが)のは2月下旬のようです。