風疹ワクチン本数考

当初見込みはお手軽に計算できるはずだったのですが、推測に必要な数値が歯抜けになっており、そこをムックする(と言うより中学レベルの代数問題)のに思わぬ手間がかかりました。別に伏せるような数値では無いので公表してくれても良いのにと少々恨めしくなったとさせて頂きます。


360万本 → 430万本 →462万本

平成25年6月14日付健感発0614第1号

  • MRワクチン:約430万本(うち、定期接種として約210万本の使用を想定。年度当初見込みより約70万本追加)
  • 風疹単独ワクチン約24.5万本(年度当初予定より約7万本追加)

ここの「追加」の決定はいつだったんだろうです。前は漠然と前年度末ぐらいに決定されていた思っていましたが、どうやらそうではないようです。感染症治療の原則様の4/11付「MRワクチン足りるの? と その周辺 (風疹啓発のなかの戸惑い)」に4/10付の厚労省の風疹ページの記載が残されていました。

  • 風しん単独ワクチン:約17.5万回接種分
  • しん混合ワクチン:約360万回接種分(定期接種として約210万回接種分の使用を想定)

4/10に厚労省HPを更新した段階では「当初見込み」だった事が確認出来ます。そうなると「追加」が要請決定されたのは5月の任意接種の使用本数が32万本である事に驚いての対応とするのが妥当だと見れます。ちなみに4月は9万本であったので、4月の結果を受けて「追加」を考える理由がないからです。メーカーも御苦労様と言ったところでしょうか。


・・・油断していたらあきまへんなぁ、現在のワクチン計画量は厚労省の風疹ページには、

  • 風しん単独ワクチン:約24.5万本(年度当初より約7万本追加)
  • MR混合ワクチン:約462万本(うち、定期接種として約210万本の使用を想定。年度当初より約102万本追加)

MRがさらに増えて462万本になり合計486.5万本です。これがいつ増産決定になったのかはよく判らないのですが、7/10の第3回予防接種基本方針部会の資料には掲載されていますから、やはり7月に入ってからでしょうか。


前年度在庫数

ワクチンは年間計画で生産されますが、風疹ワクチン(MRも含む)接種希望者は1年を通しています。当たり前ですが平成25年4月当初時点で前年度からの持ち越し在庫があるはずです。これが何本だったのだろうかです。厚労省も風疹対策は打ち出しており、平成25年1月29日付健感発0129第1号及び平成25年2月26日付健感発0226第1号でワクチン接種の啓発を行っています。アテにしていたのは平成24年度計画分の在庫だったとするのが妥当です。力むほどの話ではありませんが、風疹ワクチンの今年度の供給数は、

  1. 前年度在庫数
  2. 今年度供給数
この2つの合計数になると言う事です。厚労省の風疹のページには在庫数のシミュレーションはありますが、供給数の記載がありません。ここについての参考情報として7/5付カナロコがあります。

ワクチンメーカーからの次期出荷は8月末に予定され、9月以降は定期接種用、緊急対策事業用ともに確保できる見通しという。

これだけではなんとも言えないのですが、4〜8月は昨年度在庫でかなり賄うのが例年の手法じゃなかろうかです。この仮説の前提で平成25年6月14日付健感発0614第1号の在庫シミュレーションを見直してみます。

ここにもう一つ情報を加えます。厚労省の風疹ページには4〜6月の接種本数の概数が記載されています。
接種区分 4月 5月 6月
定期接種 45万本 17万本 20万本 82万本
任意接種 9万本 32万本 36万本 77万本
54万本 49万本 56万本 159万本
このうち6月に在庫数の見通しを計算した時には6月分のデータは不明としていたはずです。ここから確認できるのは
    4〜5月の接種本数は103万本
そうなると6月末のシミュレーション、たとえば35万本/月のシミュレーションで考えると6月末の在庫数68万8201本ですから4月当初には、
  1. 4〜5月の103万本
  2. 6月の任意接種35万本
  3. 6月の定期接種
6月の定期接種予想分を除くと207万本ぐらいになります。では定期接種を何本と予想していたかですが、年間で約200万本ですから、単純平均なら17万本ぐらいになります。もう一つの考え方として4〜5月で62万本の接種が終っていますから、残りの接種人数を10ヶ月で割って14万本もあるかもしれません。そうなると年度当初在庫数は、
    221万本〜224万本
こうじゃなかったかと推測できます。ちょっと数字を丸めて220万本とすると年に接種可能な風疹ワクチン数は、
    220万本 + 486.5万本 = 706.5万本
706.5万本のうち200万本は定期接種用ですから、任意接種用に年間で500万本ぐらいはあるとも見れそうです。


新規入荷量

ここまでのシミュレーションは4〜8月に新規入荷がない前提でしたが、カナロコが伝える8月末の予定の他にも新規入荷がありそうです。厚労省の6月時シミュレーションの6月末の在庫数は70万本弱です。このままで7〜8月に新規入荷がなければ、35万本/月の任意接種分だけで無くなってしまいます。定期接種分がどこからか出てこないと帳尻が合わなくなります。4〜5月分にも新規入荷の可能性はあるのですが、ここになると推測しようがありません。厚労省の6月時点のシミュレーションから考えたいのですが、ここでのワクチン使用量の前提は、

  1. 任意接種が35万本/月
  2. 定期接種がA万本/月
定期接種の使用本数は毎月同じと仮定します。そうなると7月のワクチン使用量は、
    35万本(任意接種) + A万本(定期接種)
ここで在庫の減少量は39万9601本です。これを丸めて40万本としますが、厚労省が「まさか」任意接種を5万本と予想したとは思えません。そうなると定期接種のA万本の予想は、
    A万本(定期接種分)= 5万本(在庫分)+B万本(新規入荷量)
こうなるわけです。さてここで厚労省の7月時点のシミュレーションを見てみます。ちょっと複雑なんですが、7月シミュレーションは6月の結果を踏まえています。7月末の2つのシミュレーションの違いは、

シミュレーション 6月使用量 7月使用量 7月末在庫
6月 35万本 + A万本 35万本 + A万本 28万8600本
7月 36万本 + 20万本 35万本 + A万本 24万4553本
*A万本:定期接種分


任意接種は1万本の差ですが、定期接種のA万本が同じであればその差は4万4047本です。つまり6月の定期の実接種数は予測のA万本より3.4万本ほど多かったとして良いかと思います。そうなるとA万本はおおよそ16.5万本ぐらいで設定されているんじゃないと推測されます。年間定期接種を200万本として12で割ると16.7万本ですから、年平均ぐらいが予測数と見れます。もう一度6月シミュレーションに戻りますが、
    A万本(定期接種分)= 5万本(在庫分)+B万本(新規入荷量)
こう仮定していますから、6月の新規入荷量はは11.7万本ぐらいの計算になります。同様に6月シミュレーションで7月〜9月末を計算してみると、月間の予想ワクチン使用数は51.5万本になるので、

月末 6月 7月 8月 9月
新規入荷分 11.7万本 11.5万本 19.4万本 52.8万本


カナロコが伝える8月末の新規入荷とは52.8万本ぐらいじゃなかろうかです。さらにシミュレートすると厚労省の7月シミュレーションは前倒し出荷及び増産により供給量が改善したとなっています。その分を試算して見ると

月末 8月 9月
新規入荷分 31.5万本 52.8万本


トータルで10万本ほど7〜9月の出荷量が増えたと解釈して良さそうです。


試算のまとめ

推測がかなり入っていますからその点は十分に御注意いただくとして、

  1. 今年度当初の昨年度からの持ち越し在庫は220万本ぐらいだった
  2. 今年度の計画出荷量の1回目変更(MR:360万本 → 430万本)は6月に行われた
  3. 今年度の計画出荷量の2回目変更(MR:430万本 → 462万本)は7月に行われた
  4. 持ち越し在庫と計画量で合計700万本ぐらいはある事になる(定期接種用200万本、任意接種用500万本)
この上で7〜9月の接種本数、新規入荷の厚労省6月シミュレーションと7月シミュレーションを表にしてみると、

厚労省6月時点シミュレーション
7月 8月 9月
月始在庫 688201 288600 -31749
任意接種数 350000 350000 350000 1050000
定期接種数 165000 165000 165000 495000
新規入荷数 115399 194651 528453 838503
月末在庫数 288600 -31749 -18296
厚労省7月時点シミュレーション
7月 8月 9月
月始在庫 664047 244553 44204
任意接種数 350000 350000 350000 1050000
定期接種数 165000 165000 165000 495000
新規入荷数 95506 314651 528453 938610
月末在庫数 244553 44204 57657

だいたいこんな感じです。前倒しは良いのですが本当にこれだけ増えるのかなぁ? それとまた足りなくなりそうになったら増産されるのかしらん。もっとも7月時点のの増産幅はかなり小さくなっていますから、今度こそ上限目一杯なの・・・かもしれません。もっとも新型の時にはパーティ・ボトルにした途端、魔法のように増えたなんて前例がありますから油断なりません。 それと完全に後悔なんですが、定期接種の厚労省月間推測数はやはり16.7万人か16.6万人の方が良かったかもしれません。実務的と言うか、もともとは1000人や2000人変わったところで大勢に影響は少ないはずですが、かなり危うい在庫状況なので2000人変わればそれだけでデッドラインに深刻に近づきそうな状況だからです。
厚労省の懸念と対策
正直なところ10月からはどうなんるんだろうの懸念がまずありますが、その前に厚労省の7月シミュレーションの接種数を表にしてみます。
接種区分 4月 5月 6月 7月 8月 9月
定期接種 45万本 17万本 20万本 16.5万本 16.5万本 16.5万本 131.5万本
任意接種 9万本 32万本 36万本 35万本 35万本 35万本 182.0万本
54万本 49万本 56万本 51.5万本 51.5万本 51.5万本 313.5万本

前年度在庫数とあわせて700万本ぐらいは年間であるとしても良いかもしれません。このうち200万本は定期接種用に必要ですから、任意接種用は500万本ぐらいはあるとしてみます。4〜6月は既に結果が出てますから残りは423万本です。これを残り10ヶ月で割ると42.3万本/月になります。ただし40万本/月は8月に来られる困ります。折角前倒しにしてまで増やした在庫量が吹っ飛ぶ結果になりえます。 それと在庫が4.4万本程度になると供給はスムーズにはいかなくなります。ごくごくの単純平均で人口100万人当たりで400本ぐらいです。それしか余裕がないわけです。うちのような零細でも在庫はなるべく減らすのが大原則ですが、それでも少しは必要です。都道府県内レベルでもワクチン需要は時期で微妙に偏る訳で、ある地域で一時的に需要が増え、他では需要が減る事は幾らでもあります。その調整幅が人口100万人当たり400本では調整が難しくなります。 たぶんそのせいもあるのでしょうが、風疹ワクチンは数だけで言えば今日試算した通り700万本(任意用に500万本)ぐらいあるはずですが、厚労省が公式に強調しているのは今年度の計画出荷量です。おそらくですが適正在庫を大きく食い潰した状態は厚労省とて好ましいとは思っておらず、年間接種数は原則として今年度の計画出荷量の範囲プラスアルファに留めたい意向があるようにも考えています。 そのためかどうかは憶測ですが厚労省の風疹への態度は変り、当初(1月頃)はドンドン接種すべしであったのが、今は抗体検査の上で云々まで後退しているわけです。ついでですが例の大臣記者会見のように「まだ1万人」なんて事も言わせているぐらいでしょうか。報道コントロールも良好のようで、報道の重点が風疹流行への懸念でなく、
    ワクチンが足りなくなる
こちらに上手にシフトされ、週間報告数の速報が300人だとか400人になれば「減少傾向」と強調されています。これもピークよりは減っていますが、2008-2011年までの年間報告数並ないしは多いという事実はキチンと伏せられています。すべては現在35万本程度に留まっている月間接種数が40万本に増えないようにする対策と私は理解しています。どう見たって今の状況で
    みんなで接種しよう
これで盛り上がられたら困るわけです。盛り上がろうとするのをあれこれと冷や水をかけているのが厚労省の現在の対策と言うところです。たぶんですが7月時点シミュレーションをあえて出したのは、
  1. ワクチン不足対策はちゃんと手を打っているのアピール
  2. 帳簿上はプラスにして「無くなってしまう」の切迫アナウンスの回避
  3. 接種希望者から「無い」の批判が出た時に「ちゃんとあるはずだ」の根拠の用意
  4. 来年になりCRS患者が増えても、厚労省は妊娠予定者分は確保していたの根拠の用意
これぐらいは考えられます。それでも素直に見て危なそうなのは、
  1. 8月末、9月末の月末在庫は5万本ほどであり、1ヶ月の接種数が定期・任意合わせてたった5万人ほど増えればパンクする
  2. 在庫がガタ減りになり、円滑な流通に支障が出る
カナロコでは8月末に大きな新規入荷があるとはしていましたが、それが反映されるはずの9月末でも在庫は5万本ほどです。10月以降のシミュレーションはされていませんが、在庫を調節するには9月末に100万本クラスの新規入荷でもないと逼迫状態は解消されないように思えます。その辺がどうなっているかですが、第3回予防接種基本方針部会の資料を読む限り35万回/月が続くだけで夏は乗り切れても秋はパンクの予想が書かれています。

そうそう厚労省的にはワクチンはたぶんパンクにはなりません。残り本数が少なくなるほど幾ら接種希望者がいても接種できなくなるからです。地域のどこかの医療機関にワクチンが存在しているとしても、そこを見つけ出すのは容易ではありません。そういう状態を本来はパンクと言うのですが、厚労省はそういう状態になっても定番の、

    厚労省はちゃんとワクチンは用意してある。足りなさそうに感じるのは「地域による偏在」か「一部医療機関の買い占め」のためである
でもってその月の集計が終わると
    ほ〜ら、こんだけ未だ残っているから不足ではありません
厚労省にとって幸いな事になんでも「ハイハイ」と聞いて矢面に立ってくれる大臣と、風疹問題に興味が乏しい政権与党と総理がいますから、そういう点では手を打ちやすそうな気はしています。


ふぇ、くたびれた。今週もこれまた遺憾ながら土曜日は休載にさせて頂きます。