木鐸からの忠告

やや旧聞に属するのですが、11/2付Asahi.comを詳細に見直して見ます。

余った新型ワクチン、職員の親族に接種 鳥取の病院

 鳥取県南部町の町国民健康保険西伯(さいはく)病院(田村矩章=のりあき=院長)の医師が、医療従事者用に配られた新型インフルエンザワクチンの余りを、同病院職員の親族の2歳と11歳の女児に接種していたことが、11日わかった。県では2歳児は12月上旬、11歳児は来年1月中旬から接種を始める予定だった。病院側は「ワクチンを無駄にしたくなかったためだが、身内に接種したことは反省している」と話している。

 同病院によると、接種が始まった10月21日、10ミリリットル用の瓶に入ったワクチンを大人1人の基準量0.5ミリリットルずつ20人分に分けたところ、余裕分の0.2ミリリットルが残った。感染症対策を担当する30代の男性医師は「余りを活用できないか」と看護部長に相談。0.2ミリリットルは1歳以上6歳未満の接種1回分の基準量だったため、当てはまる子がいる病院職員に呼びかけたが希望者が見つからず、看護部長の2歳の孫に接種した。

 また10月30日にも10ミリリットルを取り分けたところ、6歳以上13歳未満の基準量に当たる0.3ミリリットルが余ったため、薬剤部職員の11歳の女児に接種した。

 厚生労働省によると、医療機関には「ワクチンの有効利用に努めるように」との要請を出しているものの、余ったワクチンの使い道の指針などは示していないという。

 病院の陶山清孝事務部長は「安易に身内に接種したことは反省している。今後は接種の優先対象者をリストアップするなどの対応を考えたい」と話した。

鳥取の病院が行なった行為は、

  1. 10/21にパーティボトルから成人量20回分のワクチン接種を行った上で残りの0.2mlを優先順位外の子供に接種
  2. 10/30に残った0.3mlを優先順位外の子供に接種
パーティボトルは10ml入っていますが、これを0.5mlづつ20回分確保するのは簡単ではなく、厚労省の指針でも18回分としています。それを20回分まで確保している点からワクチンの有効利用については合格点かと思います。それとこの残りの量は接種前に予想したものでは無いことです。順番に吸っていってタマタマ残ったものになります。そういう状況で残ったワクチンの有効利用を考えた事になります。

この報道を受けて陶山清孝事務部長は、

    「安易に身内に接種したことは反省している。今後は接種の優先対象者をリストアップするなどの対応を考えたい」
反省点は2つですが、
  1. 身内に接種した事
  2. 身内以外の優先対象者を探す努力
このうち優先対象者は10/21でも10/30でも存在しません。10月時点の優先対象者は医療従事者であり、0.2mlでも0.3mlでも対象者になる方はおられない事になります。仮に身内以外で接種するにしても該当する優先対象者はいなかった事になります。

もっともこの記事では優先順位については問題にしていませんから、汲み取れる忠告として、鳥取程度の事情であっても、

    身内への接種は禁忌である
次は12/13付タブロイド紙(Yahoo!版)です。

新型インフル>対象外の妻にワクチン接種 鹿児島の院長

 鹿児島市内の病院長が11月上旬、医療従事者向けの新型インフルエンザワクチンを、対象者でない妻に接種していたことが分かった。

 鹿児島県が決めた接種の優先順位に違反しているが、院長は取材に「院内の感染症対策委員会が決めたこと。指示はしていない。廃棄はもったいないし何が悪いのか」と話している。

 県は、国が決めた優先順位に従い、接種を、10月19日から医療従事者▽11月4日から重い持病がある入院患者▽同20日から入院患者以外の重い持病者と妊婦−−と定めた。

 院長によると11月5日、まず医師十数人に対して接種。看護師らの分は届いていなかったという。

 同日、看護師の一人から「1人分残り、対策委で決めたので奥さんに」とワクチンを受け取り、院長自身が妻に接種した。妻は重い呼吸器系の疾患があるが入院はしておらず本来、接種は11月20日からだった。

 院長は「妻から感染して私が倒れると困ると、対策委が決めた。『余ったら廃棄』との国の決まり自体が問題」と主張している。

 国は、いったん開封したワクチンが余り24時間経過した場合「適切に廃棄する」よう定めている。ワクチンを巡っては、兵庫県内の病院で診療所長が対象外の孫に接種した例が発覚している。【福岡静哉】

鹿児島の報道です。ウダウダと書いてある割にはまとまりの悪い記事なんですが、病院に届いた「医療従事者用」ワクチンがまずあったようです。その配給されたワクチン量は11/5時点で、

    医師十数人に対して接種。看護師らの分は届いていなかったという。
これから読み解くにその病院にワクチンはパーティボトル1本の可能性が高そうです。そのため医師から接種する事にしたところ、1人分のワクチンが余ったと考えて良さそうです。そこで1人分の有効利用を考えたようですが、常識的に考えられるのは優先順位そって、
  1. 看護師1人に接種する
  2. 鹿児島で優先順位に上っていた「重い持病がある入院患者」
この問題をこの病院はわざわざ院内感染対策委員会まで開いて検討しています。ここでの問題は「1人分」である事です。看護師も1人だけ先に接種されるのは嫌だの意見が出た可能性はあります。では入院患者になりますが、これも1人だけ接種すると他の患者とのバランスが悪くなるとも考えたかと思われます。1人を選ぶと他の患者からの不満が出る可能性も懸念されるからです。

そうは言っても有効利用はしたいところですから、11/5時点では優先順位にはなっていませんが、11/20には優先順位に該当する「入院患者以外の重い持病者と妊婦」にしようと決めたようです。とは言えワクチンの有効期限は24時間ですから、すぐに融通の利く院長夫人に接種を決定したようです。院長夫人は、

    妻は重い呼吸器系の疾患がある
こんな事を書くと批判を受けるかもしれませんが、1人分だけの接種をあの時期に行うだけで噂が立ちます。色んな意味での噂が立つ可能性があります。その点も考慮して院長夫人に接種を決めた可能性もあると考えてはいます。ただその程度の事情で許されるわけもなく、汲み取れる忠告として、
  1. 優先順位を守っていない
  2. 守っていない上に身内に接種している
鳥取同様に身内への接種批判と、さらに重点を
    優先順位の厳守
さて次なんですが、ソースにしい共同通信記事が見つからないのでそれを引用された医療従事者のつぶやき様の使い勝手悪くワクチン廃棄 新型インフル、福井の病院から記事部分を引用します。

使い勝手悪くワクチン廃棄 新型インフル、福井の病院

2009年12月11日 提供:共同通信社

 容器が大きすぎて使い勝手が悪いとの指摘が出ている新型インフルエンザのワクチンをめぐり、福井県の公立病院が10ミリリットル入り製剤の瓶を一度に使い切れず、残りを廃棄していたことが10日、分かった。

 開封後は24時間以内の接種が厳守で、病院は「すべて使い切る計算で予約人数を振り分け、余らないよう工夫したが、突然のキャンセルでやむなく廃棄した」と苦渋の様子。厚生労働省は「各地の医療機関から批判があり、無駄が出ないよう今後は10ミリリットルの生産を中止する」といい、新年から1ミリリットルと妊婦用の0・5ミリリットルの2種類にする。

 病院によると、1歳から小学3年生のワクチン接種が始まった7日、予約のあった88人のうち22人がキャンセルした。10ミリリットル入り瓶の2本目を半分程度使用したところで接種が終わり、約5ミリリットルを廃棄した。

 厚労省は生産効率を上げるため、成人で約18回分、子供で30〜50回分に当たる10ミリリットル入りを配布。ワクチン不足で住民が別の自治体に足を運び接種を受ける"越境"現象も起きた。同省担当者は「接種の希望者がたくさんおり、有効活用してほしい」と話した。

福井の報道は、88人分の予約で接種を始めたら22人の大量ドタキャンがあり、残ったワクチンをやむなく廃棄したと言うものです。福井の報道では鳥取や鹿児島と違い、優先順位も身内問題も発生していませんが、その代わりワクチン廃棄に重点を置いた批判になっています。この大量ドタキャンの背景を12/10付福井新聞が報じています。

 新型インフルエンザのワクチン接種について福井県は10日、「接種対象者に重複予約をしたり、接種を無断でキャンセルする人がおり、医療機関に混乱が生じている」として、重複予約などをしないよう県民に呼び掛けを行った。

原因の一つとして重複予約を挙げています。これは他の予防接種でも良く起こることで、とくにHibではよくあります。新型接種は医療機関側にはたんまり「べからず集」が書いてある接種要領があります。その受託医療機関等における新型インフルエンザ(A/H1N1)ワクチン接種実施要領の中に

(1)接種の予約等

受託医療機関においては、インフルエンザ患者も多数通院していることが予想されることから、接種を行う場合は予約制とし、ワクチン接種を行う時間と他の患者の診療時間とを別にすることやパーテーション等により他の患者と空間的に分離することなどにより、優先接種対象者等の感染リスクの軽減を図る。

医療機関は予約制で接種する事を義務づける一方で、予約をする希望者側の重複予約については何の規定も設けていません。規定に無いと言えば身内接種も禁止はされていないのですが、これはモラルとして批判されるものでしょうし、現実に報道により強く強く忠告されています。一方で重複予約については、これもモラル上に問題は残るかと思われますが、さしたる忠告対象で無いようです。もちろん無断のドタキャンもそうです。

個人的には気にしましたが、希望者の重複予約など些細な事であり、汲み取れる忠告として、

    重複予約や無断ドタキャンはやむを得ない
    余ったワクチンの廃棄はタブーである
4つの記事から汲み出した忠告は、強調した個所も含めて
  1. 重複予約、無断ドタキャンありの予約制で接種しなければならない
  2. 優先順位は厳守されなければならない
  3. 接種にあたり余ったワクチンの身内への接種は禁忌である
  4. 接種にあたり余ったワクチンの廃棄はこれもタブーである
忠告には従うべきでしょうし、医療機関もそれに対応する体制を敷くことが要求されます。接種が予約制でなければならない事は接種要領に明記されていますし、そこに重複予約等で大量ドタキャンが時に発生することも予期して対応することが求められます。間違っても福井の事例のように88人分のワクチンに対し88人分しか予約を取らず、キャンセルの穴埋めを考えていない体制は好ましくありません。

それとこれは忠告には書かれていませんが、予約オーバーで希望者が来院したにも関らず接種できないなんて事態は、起これば必ず忠告されるものとして考えるぐらいの想像力は必要です。ドタキャンを織り込みながら、ワクチン全量を必要とされる人数分キッチリで完全消費する体制の構築が必要と言う事です。

さてどうすればになりますが、絶対必要なのはキャンセル待ち待機リストです。当日にキャンセルが発生した時に素早くキャンセル分を埋める努力が必要です。ただし漫然とキャンセル電話を待っていたならば、連絡無しの無断キャンセルへの対応が遅れます。そうなれば当日に予約者全員に電話で当日の接種意思の有無を確認する必要があります。

キャンセルは重複予約以外にも当日朝に希望者が体調を崩すというのもごく普通にありえますから、当日に電話確認するのは効果的と言えます。福井では88人の予約ですから、おそらく2時間も電話連絡に専念すれば可能かと思われます。そこでキャンセルないし当日の接種が無理と判明すれば、即座に待機リスト者に電話をかけ、欠員補充を行なう必要があります。福井では22人でしたから、1時間も電話連絡に専念すれば出来るでしょうか。

またそういう電話確認を行なっても、当日に接種できない希望者も当然出てきます。もちろん、その場合も素早く待機リストから穴埋めをする必要があるのは言うまでもありません。それぐらいすれば、ワクチン廃棄のタブーはかなり回避できますし、同時に優先順位も身内批判も回避可能と考えられます。念のために待機リストに身内は入れないのが賢明です。


ここで気になるのが各地で行なわれている集団接種です。各地でやり方は微妙に違うでしょうから、神戸の例を参考に考えてみます。神戸では接種希望者は往復はがきで申し込みで、予定人数分キッチリしか当選していません。規模も200人のところや300人のところもありますが、当選はがきを受け取ったのはその人数分しかいません。

では当選者が全員間違い無く接種会場に来られるかと言えば、それこそ新型インフルエンザが流行していますから、どうしても脱落者が出てきます。また接種会場に来られた希望者も必ずしも全員に接種できるわけではありません。ボトルの設定にもよりますが、余るワクチンは確実に発生する可能性があると言う事です。おそらくほとんどがパーティボトルですから、福井と同じ問題が起こります。

さらにになりますが、小児は2回目があります。2回目になったからと言って人数が補充される事はありませんから、1回目の接種が出来た希望者のみになります。これもまた1回目と同様の理由で脱落者は必ず発生しますから、ワクチンが余る問題はやはり出てくると考えられます。どう考えても廃棄タブーに抵触する危険性は十分あります。

もちろん余ったからといって、まだ接種が済んでいないとされる、集団接種に参加した保健所の看護師や行政医師、さらには事務職員に接種を行えば身内批判の忠告は確実ですから、非常に難しい判断が迫られるかもしれません。

そうなれば集団接種への申し込みにも待機リストを作成する必要があります。そうしないと、とくにパーティボトル単位の場合に福井と同じ轍を踏む可能性が出てきます。神戸では私の知る限り、そこまでの努力は行なわれていません。そういえば各地の集団接種の主催の殆んどは医師会ですから、そういう意味でも覚悟はしておいた方が良いかもしれません。最後に福井の報道での厚労省担当者のコメントを紹介しておきます。

    接種の希望者がたくさんおり、有効活用してほしい
タブーを犯せば厳しい忠告が社会の木鐸から行なわれますから、厚労省担当者の温かい言葉に応えるように、皆様、がんばりましょう。