燃焼しなかったバトル

最近復活している産科医療のこれからの「助産所における嘱託医の包括指示による医療行為」について(抗議)by 日本産婦人科医会から日産婦の抗議文を引用します。

日産婦医会発第107号
平成23年6月29日
厚生労働省医政局長
大谷泰夫殿
公益社団法人日本産婦人科医会
会長寺尾俊彦


助産所における嘱託医の包括指示による医療行為」について(抗議)

 日頃より本会の事業に対しご指導とご理解を賜り厚く御礼申し上げます。

 日本産婦人科医会は、開業助産師が嘱託医の包括指示のもとに局所麻酔薬を使用し、さらに会陰切開、会陰縫合などの医療行為を行うことについて、明確に反対する。このような医療行為が開業助産所により日常業務としてなされることは、医療の安全の面から見ても断じて看過することはできない。

 保健師助産師看護師法第37条には、保健師助産師、看護師又は准看護師は、主治の医師の指示があった場合を除くほか、診療機械を使用し、医薬品を授与し、又は、医薬品について指示をし、その他医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるところの行為をしてはならないと、明確に医療行為を禁止している。また、厚生労働省医政局長通知(平成19年3月30日)「分娩における医師、助産師、看護師の役割分担と連携等について」においても、医師は助産行為を含む医業を業務とするものであり、母子の健康と安全に責任を負う役割を担っており、その業務の遂行に当たっては、助産師及び看護師等の密接な協力を得られるように医療体制の整備に努めなければならない。助産師は助産行為を業務とするものであり、正常分娩の助産と母子の健康を総合的に守る役割を担っている。そのため、出産には予期せぬ危険が内在することから、日常的に医師と十分な連携を取ることができるよう配慮する必要がある。日本産婦人科医会は、医政局長通知に従って、役割分担を行い、分娩の安全と安心に心がけてきたところである。

 医療法第19条と医療法施行規則第15条には、嘱託医と嘱託医療機関の確保の規定がある。助産所は、「嘱託医師については産科又は産婦人科を担当する医師を嘱託医師とすること、及び嘱託医師による対応が困難な場合のため、病院又は診療所(医療嘱託機関)を確保すること」という条文が記載されている。日本産婦人科医会は、医政局長通知(平成19年12月5日)「分娩を取り扱う助産所の嘱託医師及び嘱託する病院または診療所の確保について」に基づいて、妊婦等に無用の混乱を与えないように、会員にその協力をお願いしているところである。

 しかし、日本産婦人科医会の姿勢と協力を無視して、開業助産師が嘱託医の包括指示のもとに医療行為である局所麻酔薬を使用し、会陰切開を施行すること、さらに医療行為である会陰裂傷縫合の研修会等を継続するのであれば、日本産婦人科医会としては早急に会員に通知を出し、母子の健康と安全に責任を負うことができない嘱託医契約についての見直しと、助産師養成のための教育で、医療行為にかかわる部分、医療行為の教育に関する部分の協力を辞することも念頭において、対応する所存である。

抗議の主題は、

    開業助産師が嘱託医の包括指示のもとに局所麻酔薬を使用し、さらに会陰切開、会陰縫合などの医療行為を行うことについて、明確に反対する。このような医療行為が開業助産所により日常業務としてなされること
まず保助看法37条です。

第三十七条

 保健師助産師、看護師又は准看護師は、主治の医師又は歯科医師の指示があつた場合を除くほか、診療機械を使用し、医薬品を授与し、医薬品について指示をしその他医師又は歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない。ただし、臨時応急の手当をし、又は助産師がへその緒を切り、浣腸を施しその他助産師の業務に当然に付随する行為をする場合は、この限りでない。

読めばそのままなのですが、助産師の部分だけピックアップしておくと、

  1. 診療機械を使用し、医薬品を授与し、医薬品について指示をしその他医師又は歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない(ただし医師または歯科医師の指示があった場合を除く)
  2. 臨時応急の手当は可
    へその緒を切り、浣腸を施しその他助産師の業務に当然に付随する行為をする場合は可
この条文通りに解釈すれば、助産師だけの判断では、
  1. 局所麻酔の使用はできない
  2. 会陰切開、会陰縫合はできない
当たり前ですが、こうなります。そもそも助産師が医師の指示があっても局所麻酔とか会陰切開、会陰縫合が出来るか自体が個人的には疑問なのですが、御存知の方は情報下さい。もう一つ保助看法38条も紹介しておきます。

第三十八条

 助産師は、妊婦、産婦、じよく婦、胎児又は新生児に異常があると認めたときは、医師の診療を求めさせることを要し、自らこれらの者に対して処置をしてはならない。ただし、臨時応急の手当については、この限りでない。

この「医師の診療を求めさせることを要し」のためにあるのが、嘱託医師制度であると解釈するのが妥当でしょう。

医療法第19条

 助産所の開設者は、厚生労働省令で定めるところにより、嘱託する医師及び病院又は診療所を定めておかなければならない。


医療法施行規則第15条の2

 分娩を取り扱う助産所の開設者は、分娩時等の異常に対応するため、 法第19条 の規定に基づき、病院又は診療所において産科又は産婦人科を担当する医師を嘱託医師として定めておかなければならない。

  1. 前項の規定にかかわらず、助産所の開設者が、診療科名中に産科又は産婦人科を有する病院又は診療所に対して、当該病院又は診療所において産科又は産婦人科を担当する医師のいずれかが前項の対応を行うことを嘱託した場合には、嘱託医師を定めたものとみなすことができる。
  2. 助産所の開設者は、嘱託医師による第1項の対応が困難な場合のため、診療科名中に産科又は産婦人科及び小児科を有し、かつ、新生児への診療を行うことができる病院又は診療所(患者を入院させるための施設を有するものに限る。)を嘱託する病院又は診療所として定めておかなければならない。

助産所は嘱託医師が必要です。条文を読んで初めて知ったのですが、それだけでなく新生児への診療が可能な嘱託医療機関も必要となっています。ただし嘱託医師と嘱託医療機関は別でも良いようです。それはともかく医療法施行規則第15条の2には、

    分娩時等の異常に対応するため
局所麻酔や、会陰切開・会陰縫合も分娩時等の異常と考えるべきと思います。法の定めをごく素直に解釈すると、分娩時に異常が発生すれば、
  1. 嘱託医師に指示を仰ぐ
  2. 嘱託医師の指示で助産師だけでは出来ない医療行為(薬品投与など)を行う
  3. 助産師の手に負えない時は嘱託医師の指示により嘱託医療機関に搬送する
これが大原則であると素直に解釈できます。いわゆる連携医療と言えば宜しいでしょうか。


制度の趣旨はわかりやすいのですが、これもまた周知となってしまった事に開業助産師は医師の指示を嫌うものが「かなり多い」です。産科医療と言うか現代医学体系と離れたところに助産師学があるとの立場をとろうとされています。たとえば開業助産師の中でも助産所をもたない者は、嘱託医師・嘱託医療機関は不要の解釈をして助産行為にあたっている者もいると聞いています。

なかなか独立の気性に溢れた職業集団ですが、すんごい解釈を用いているようです。

    包括指示の拡大解釈
私にはそもそも包括指示が具体的にどんなものか判らないのですが、想像するにある程度の指示と言うか許可を嘱託医師が助産所に与えているぐらいに解釈します。まあ、日々のことですから、
    これこれは指示があった事にして、助産師の判断で行ってもよい
事前指示でも良いですし、事後了解でも良いぐらいの感じでしょうか。これも厳密には違法行為になるかもしれませんが、分娩現場も一刻を争うときがあるでしょうし、嘱託医師もいつでも助産師の要請に応対できるとは限らないからです。そういう包括指示があること自体は不思議とは思いません。しかし、助産所とか助産師会になると、
    包括指示 = 丸投げ許可
ここまで理論体系を成長させているようです。いやはや凄いものです。ほいじゃ、日産婦が抗議までする理由は何かになりますが、やはり
    責任は(包括)指示した者にある
こうではなかろうかと思っています。そのため、
    日本産婦人科医会としては早急に会員に通知を出し、母子の健康と安全に責任を負うことができない嘱託医契約についての見直しと、助産師養成のための教育で、医療行為にかかわる部分、医療行為の教育に関する部分の協力を辞することも念頭において、対応する所存である。
「母子の健康と安全」の建前は嘘ではないでしょうが、本音としては責任問題は本音として小さくないはずです。包括指示なしで助産師が独断で行なった事ならば責任はすべて助産師にありますが、包括であっても医師の指示の下での行為となれば、連帯責任は免れませんし、下手すると実際に行為を行った助産師より、指示した医師により責任が重いなんて事になりかねません。


ただなんですが日産婦の抗議の日付は、

    平成23年6月29日
5ヶ月も前の抗議です。抗議はしたものの、あっさりスルーされたと解釈できそうな気がしないでもありません。それともなんか実りでもあったのでしょうか。それなりに医療情報にアンテナを張っていたつもりでしたが、抗議があった事も、抗議に対する厚労省助産師会、さらには日産婦のリアクションも遺憾ながら昨日まで耳にしていません。どうなったかの顛末を御存知の方は情報下さい。