国頭村立東部へき地診療所

ここはもともと県立安田診療所として運用され、平成18年度までで休止されています。県立安田診療所時代の診療成績は平成19年度版 沖縄県立病院年報で確認することが出来ます。まず外来数は平成17年度と平成18年度がわかります。

診療所 平成17年度 平成18年度
年間延数 1日平均 年間延数 1日平均
安田 1106 4.6 1433 5.9


この診療数は安田診療と同時期に閉鎖された古宇利診療所とワースト1を争っているようです。収支の方は休止される前年の平成17年度のものがわかります。患者単価は収入を医業収入と考え、単純に年間延患者数で除したものです。

診療所 収入 支出 国庫補助 最終収支
年間 患者単価
安田 996万3396 6953 2508万8068 1107万4000 -405万672


ここでちょっと解説ですが、国庫補助は沖縄県立診療所では無医地区と僻地診療所の二つの分類があります。これは一覧表で示しますが、

診療所 無医地区 僻地診療所
伊平屋
伊是名
安田
古宇利
津堅
久高
渡嘉敷
座間味
阿嘉
渡名喜
粟国
北大東
南大東
多良間
西表西部
波照間
小浜
大原


無医地区の定義は、

 医療機関のない地域で,当該地区の中心的場所を起点としておおむね半径4kmの区域内に50人以上が居住している地区であって,かつ容易に医療機関を利用することができない※地区。

 なお,無医地区には該当しないが,無医地区に準じた医療の確保が必要な地区と都道府県知事が判断した場合,厚生労働大臣に協議できる,無医地区に準ずる地区となる。

医療機関まで行くために利用することができる定期交通機関があっても1日3往復以下であるか,1日4往復以上であるが,これを利用しても医療機関まで行くために必要な時間が徒歩を含めて1時間を超える場合。

また僻地診療所の定義は、

へき地診療所を設置しようとする場所を中心としておおむね半径4kmの区域内に他に医療機関がなく、その区域内の人口が原則として人口1,000人以上であり、かつ、診療所の設置予定地から最寄医療機関まで通常の交通機関を利用して(通常の交通機関を利用できない場合は徒歩で)30分以上要するものであること。

無医地区と僻地診療所のどちらがより厳しい状態なのかは微妙ですが、両方指定を受けている診療所の国庫補助金額を参考にする限り、無医地区の方がややシビアに扱われている感触はあります。とりあえず安田診療所は僻地診療所である事がわかります。

ここでなんですが沖縄県立診療所全体の収支を確認して見ます。これは平成18年度と平成19年度のものがあるのですが、

項目 平成18年度 平成19年度
診療所 収入 6億315万8968円 5億7395万9021円
支出 8億8331万835円 7億537万3950円
診療所小計 -2億8515万5000円 -1億3141万4929円
国庫補助金 国庫補助金 2億2100万8000円 2億646万1000円
診療所小計+国庫補助金 -6414万3967円 7504万6071円
一般会計繰入金 4257万8000円 4505万7000円
合計 -2156万5867円 1億2010万3071円


平成19年度に安田、古宇利の2つの診療所を休止したためとも思えないのですが、平成18年度に較べると平成19年度の県立診療所の経営状態が格段に良くなっているのがわかります。この理由はハッキリ言って不明です。平成18年度の安田、古宇利の2つの診療所は赤字ではありましたが、国庫補助金を参入した段階で合計1000万ほどでした。



さてなんですが、一つの疑問があります。データだけで言えば、1日平均患者数が5〜6人程度で、赤字の診療所を閉鎖する事は、経営的にはそんなに不思議は無いとは言えます。私の疑問は受診数が少なく赤字である事ではなく、何故にこんなに受診数が少ないかです。安田診療所は国頭村にあり人口は5554人です。

この国頭村に他に医療機関があるかどうかは調べておく必要はあります。ググって見ると2つの診療所と一つの歯科診療所がある事が確認できます。つまりと言うほどではありませんが、国頭村自体は無医村では無いと言う事です。まあ人口が5000人以上いますから、あっても何の不思議もありません。国頭村沖縄本島の一番北にあり、その名の通り琉球国の頭の部分に位置しています。地図で確認すると、

国頭村は半島状の形をしていますが、真ん中を山脈と言うか山があり、東西に村を分割している事がわかります。どうやら村の中心は西側にある辺土名と呼ばれているところのようで、ここに村役場があり、3つの診療所も存在します。一方で村の東側は米軍演習場が広がり、目分量ですが半分いや7割ぐらいは演習場になり、住民は海岸線の一部に居住している事もわかります。

これは地図を見た印象だけですが、西側はなだらかな海岸線で構成されていますが、東側はリアス式まで言ってよいのかわかりませんが、複雑な海岸線を構成している事も確認できます。そのせいかはわかりませんが、西側の道は海岸線にほぼ副う様に走っていますが、東側はやや内陸部を走る事が多くなっている様に感じます。村の東西を結ぶ道路は地図上では1本確認できますが、これがどの程度の道であるかは不明です。

国頭村には20の字がありますが診療所の診療圏は、6/2付沖縄タイムスによりますと、

今後、診療所の区域内とする奥、楚洲、安波区を無料送迎バスが運行

これに安田が加わりますから、平成17年度の国勢調査で確認すると、この4つの字の合計人口は643人(国頭村人口は5546人)です。安田診療所は643人を診療圏人口として成立していると考えて良さそうです。

この643人のうち65歳以上の高齢者人口は228人になります。ちなみに15歳未満は79人となっています。この診療圏人口からどれほど患者が発生するかを考えなくてはなりません。これがなかなか難しいですが、受療率から考えてみたいと思います。受療率とは人口10万人当たりでの1日当たりの医療機関受診数を表しています。平成17年度の沖縄の外来受療率が厚労省データとしてあります。

    外来:総数 4056人(65歳以上 9069人)
10万人当たり4056人ですから、100人当たりに換算すれば4.056人になります。65歳以上なら9.069人です。これから高齢者数も考慮に入れて概算すると、約30人程度になります。これには歯科受診も含んでいますから、再計算が必要なんですが、医科の受療率は沖縄県保健医療計画(平成16年改定)によると3267みたいですから、約25人程度と考えて良さそうです。

この25人も全員が診療所の診療に適しているとは言えないとしても、場所が場所ですから10〜15人程度は安田診療所を受診しても良さそうな気はします。10人と15人で大雑把な経営シュミレーションをしてみます。私の能力では支出、国庫補助金の変動が計算しきれないので、単純に収入が増えるとの仮定です。

人数 年間患者数 収入 支出 国庫補助 最終収支
5.9人 1433 996万3396円 2508万8068円 1107万4000円 -405万672円
10人 2450 1703万4850円 2508万8068円 1107万4000円 302万782円
15人 3675 2555万2275円 2508万8068円 1107万4000円 1153万8207円


実際は患者が増えれば支出も増えるので1日平均10人で黒字になるかどうかは何とも言えませんが、それでも10人ラインぐらいが損益分岐点になるんじゃないかと推測は可能です。5人が10人や15人に増えても、それで人件費が増えるとは考えにくく、増えるのは薬剤費や材料費が中心になりますから、そんなに的外れの試算ではないと思います。

ただ難解なのは沖縄の県立診療所の支出は実にマチマチで、安田診療所で想定した1日平均10人規模の診療所でも黒字と言いかねるところがあります。平成19年度データで10人規模程度の外来数の診療所を参考までに出すと、

診療所 人数 収入 支出 国庫補助 収支
津堅 12.4 2571万9707円 2612万692円 1521万5248円 1481万4263円
久高 7.9 1255万6112円 3258万360円 1360万7000円 -641万7248円
渡嘉敷 10.1 2018万9836円 2653万9642円 1878万4943円 1243万2137円
阿嘉 11.9 1997万9404円 3894万5559円 1329万7000円 -566万9155円
渡名喜 10.7 2438万9632円 4754万9038円 1329万7000円 -566万9155円
北大東 12.9 2763万491円 4655万119円 1758万9000円 -133万628円
小浜 12.2 2418万6543円 4225万3141円 1074万1000円 -732万5568円


そんなに受診患者数に差は無いにも関らず、支出額は2612万円から4754万円までばらついています。これがどういう理由でそうなるのか判りようもないのですが、どうやら安田診療所は支出が低そうな診療所であろう事は推測されますから、1日平均10人+α程度で採算が取れるんじゃないかと考えられます。


県立安田診療所が休止された理由までは突き止められませんでした。データでわかるのは利用者が少なく、赤字経営であると言うのは説明は可能です。他にも理由はあるとは思うのですが、たぶん表向きはそういう事になりそうな気がします。あくまでもデータ上ですが、利用者は増える余地はあったようにも考えられます。少なくとも休止時の2倍の受診数は可能であったと考えられます。

1日平均で10人以上は受診してもおかしくなかった安田診療所は、現実では5人程度しか受診していません。安田診療所受診者と同じか、さらに多い人数が安田診療所を避けて他の医療機関を受診していたと考えても良さそうな気がします。どこの医療機関を受診するのも患者の自由ですが、もう少し安田診療所を利用していたら、閉所問題もそもそも起こらなかったんじゃないかとも感じます。

休止されていた診療所は県立から村立に変わり再開を目指しましたが、一騒動が持ち上がっているのは報道の通りです。本当に診療所が必要か、診療所が必要であるなら、住民はまずどうすべきかの問題を考えても良さそうな気がしています