ミスは誰にでもあるが・・・

本筋より若干別の事に興味が湧いたので、そちらを拾ってみます。この事件は読売が力を入れているみたいなのですが、「罰金」「30円」で11/17 17:00の時点でググルと3つの記事が引っかかります。

順番 見出し タイムスタンプ
第1報 誤って「罰金30円」の略式命令…やり直し裁判に 2011年11月17日11時15分
第2報 裁判官ミスで裁判やり直しでも、被告に補償なし 2011年11月17日12時13分
第3報 「罰金30円」正式裁判、別裁判官で12月5日 2011年11月17日16時12分


ウェブ記事として次々と続報を送っても問題はありませんし、3つ並べて「アラがある」みたいな方向では今日はありません。単に一番熱心に報道していそうなところをソース元として3つ挙げているだけです。


事件の概略

記事を読んでもらえばそれまでなんですが、交通事故で略式起訴された被告に略式命令が下されています。その処分は本来「罰金30万円」であったはずが、裁判官が書き間違えて「30円」になっていたと言うものです。この30円を30万円に書き直すために今度は正式の裁判を起こす事が必要になり、この判決訂正裁判の訴訟費用が被告の負担になるという内容です。

そういう仕組みになっている問題については「困ったもんだ」ぐらいにさせて頂きます。


検察側

被告も正式裁判のためのヒマとカネを費やされるのは気の毒ですが、検察も裁判に付き合わされるのは「エエ迷惑」と思っていましたが、第1報を見る限りそうでもなさそうです。

 男性のもとには同12日付で略式命令書の写しが送達され、その後、区検から30万円の罰金納付告知書が届いた。男性が同17日、区検に金額の違いを指摘したところ、区検担当者が告知書を回収。区検から連絡を受けた地裁小倉支部の職員も男性に面会して謝罪した。

 小倉区検は、同18日に小倉簡裁に正式裁判を請求。今後は公開の法廷で裁判が開かれ、改めて判決が言い渡される。略式命令は被告への通達から2週間で確定する。誤った確定判決を修正するには検事総長最高裁に申し立てる非常上告手続きがあるが、今回は男性が確定前に気付いたため、正式裁判で修正することになった。

これを読むと検察も略式命令を読み違えています。間違っているとは言え、命令は「30円」であるのにそれに気が付かず「30万円」の罰金を被告に請求しています。検察が略式命令の誤りに気が付いたのは被告からの指摘になっています。仮に被告が罰金を納付してから略式命令の「30円」に気が付いていたなら、さらに煩雑な事務手続きが必要になったと推測されます。


もう一つ気になったのは、今回は略式命令が被告に通達されてから2週間以内だったので、検察がいわゆる「控訴」(法律用語的には違うかもしれません)に当たるものを起こし、正式裁判での訂正が可能になっていますが、これが2週間を超えると略式命令は確定になるとなっています。確定後の訂正はさらに厄介になるようで、

    誤った確定判決を修正するには検事総長最高裁に申し立てる非常上告手続き
これはどんなものかと言うと、刑事訴訟法にはこうあります。

第五編 非常上告

第四百五十四条 検事総長は、判決が確定した後その事件の審判が法令に違反したことを発見したときは、最高裁判所に非常上告をすることができる。

第四百五十五条 非常上告をするには、その理由を記載した申立書を最高裁判所に差し出さなければならない。

第四百五十六条 公判期日には、検察官は、申立書に基いて陳述をしなければならない。

第四百五十七条 非常上告が理由のないときは、判決でこれを棄却しなければならない。

第四百五十八条 非常上告が理由のあるときは、左の区別に従い、判決をしなければならない。

  • 原判決が法令に違反したときは、その違反した部分を破棄する。但し、原判決が被告人のため不利益であるときは、これを破棄して、被告事件について更に判決をする。
  • 訴訟手続が法令に違反したときは、その違反した手続を破棄する。
第四百五十九条 非常上告の判決は、前条第一号但書の規定によりされたものを除いては、その効力を被告人に及ぼさない。

第四百六十条 裁判所は、申立書に包含された事項に限り、調査をしなければならない。

2 裁判所は、裁判所の管轄、公訴の受理及び訴訟手続に関しては、事実の取調をすることができる。この場合には、第三百九十三条第三項の規定を準用する。

どんな事が展開するのか想像し難いのですが、458条1号の但し書きの意味もわかり難いところで、

    但し、原判決が被告人のため不利益であるときは、これを破棄して、被告事件について更に判決をする。
今回の「罰金30円」の原判決も被告人の不利益になるので破棄して更なる判決を求める事になると考えてよいのでしょうか。また「更に判決」とは、やはり正式裁判を行うと言う事でしょうか。


この非常上告ですがwikipediaには、

非常上告は、裁判官が法令の解釈を誤認するという例外的な事態への対処として設けられている制度であり、現実に発動されることは極めて稀である。

そりゃそうでしょう。そんなに判決文が間違ってもらってはさすがに困ります。ミスはゼロに出来ないにしても、稀な例外的なケースに対するものであって当然だからです。検事総長最高裁に非常上告しなければならないものですから、滅多にないものでなければならないはずです。wikipediaには非常上告件数も掲載されていまして、

2009年(平成21年) : 2件
2008年(平成20年) : 2件
2007年(平成19年) : 3件
2006年(平成18年) : 2件
2005年(平成17年) : 5件
2004年(平成16年) : 4件
2003年(平成15年) : 5件
2002年(平成14年) : 6件
2001年(平成13年) : 3件

年間の判決数は200万を優に超えるはずですから、その中で数件なら稀になると思います。ところが2010年の件数は稀と言えるかどうかが微妙になります。

    2010年(平成22年) : 253件
2009年までの件数のおよそ100倍に突如ジャンプアップしています。それでも母数からすると誤差の範囲程度とも言えない事もありませんが、何が起こったのだろうと言うところです。ひょっとすると2009年までのすべての非常上告の合計より多いかもしれません。結構な数で、平均すれば検事総長は日勤の日は、ほぼ毎日非常上告を最高裁に行っている勘定になります。

稀なミスの発生は致し方ないと思いますが、前年度の100倍に増えているのであれば、原因を究明して削減に努める事が求められると思います。


裁判所側

私の法律的知識が乏しいので誤解があるかもしれませんが、今回にしろ、非常上告を用いてのものにしろ、検察が声をあげないと裁判所側では一度出した判決は訂正できないと考えて良いのでしょうか。今回も読売記事には、

小倉区検は、同18日に小倉簡裁に正式裁判を請求

非常上告も検事総長が行うのは上述した通りですから、検察ないし被告が求めない限り、裁判所としては「やっちまったが、しゃ〜ない」で手出しが出来ないように見えます。もっともこれは私がそう見えるだけで、実は裁判所自身が是正する法的手続きが存在するのなら情報下さい。

仮に裁判所自身に是正手続きがないのであれば、1年で100倍に増えている非常上告の件数の削減はより「待ったなし」とも考えられます。大元は判決の書き間違いですし、2009年以前は年間数件であったので、削減は可能と見ます。迷惑は被告はもちろんの事、検察側にも及びますし、間違った事による訴訟費用は巡り巡って国民の税金でもあるからです。

ゼロにしろとまで言いませんが、2009年以前の水準に速やかに改善される様に希望します。もっとも既にそうなっているのなら余計な指摘になっている事を遺憾とさせて頂きます。