紫色先生、対集英社・タブロイド紙名誉毀損訴訟二審判決文

正式には平成21年(ネ)第36号、同年(ネ)第923号損害賠償請求控訴事件、同附帯控訴事件(原審・東京地方裁判所平成19年(ワ)第15490号)となるらしいのですが原文は紫色先生の毎日記者、集英社 控訴審判決文にあります。判決言い渡しは平成21年7月15日ですから、つい先週のことです。一審の様子は紫色先生自ら勝訴!対集英社および毎日新聞記者ら本人訴訟−名誉毀損賠償80万円ー第1報に書かれていますし、及ばずながら私も紫色先生、御苦労様です として解説文を書かせて頂いています。それとタイトルに「集英社タブロイド紙」としていますが正確には「集英社タブロイド紙記者」になります。

一審も紫色先生が勝訴されたわけですが、被告のタブロイド紙の反応は2008.12.8付記事(魚拓)で確認できます。

賠償訴訟:集英社と本紙記者に賠償命令 医療問題単行本で

 01年に東京女子医大病院で心臓手術を受けた女児が死亡した事故で業務上過失致死罪に問われ、1審で無罪(検察側控訴)になった元同病院助手(45)が、毎日新聞医療問題取材班の著書で名誉を傷付けられたとして、発行元の集英社と取材班の記者に1000万円の賠償を求めた訴訟で、東京地裁(石井忠雄裁判長)は8日、80万円の支払いを命じた。

 問題となったのは、毎日新聞の連載記事をまとめた「医療事故がとまらない」(集英社新書)。

 取材班は入手した内部報告書の内容などから、人工心肺装置を操作した元助手がポンプの回転数を上げ過ぎたことを事故原因に挙げたが、判決は「真実とは認められない」と判断。「新聞連載(02年1〜8月)の時点では真実と信じるのに相当な理由があったが、03年12月の書籍発行までには報告書の内容に疑問を呈する学会報告が出されており、記事を見直す必要性があった」と指摘した。

 集英社広報室の話 主張が認められなかった判決であり、ただちに控訴した。

こんな感じの経緯での二審判決です。では読んでいきましょうと言いたいところですが、控訴審判決文はクセがあります。何種類か読んで分かったことですが、一審判決と変わる部分だけの訂正になるのが控訴審判決です。一審と控訴審が逆転の判断なら一審の判断を覆すために、ほぼ書き直すぐらいの分量がありますが、一審と基本的に変わらない場合には時期が変わった分の字句の修正と、あらたに判断として加えられた部分のみの構成になります。

今回の判決は部分修正型の判決文であり、本当は一審判決文がわからないと「なんのこっちゃ」のところもあるのですが、それでも判決文の構成は新たに事実確認された部分とそれに対する新たな判断の追加の構成とも読めるので、そのつもりでお読み下さい。主文はわざと後回しにして、

 被控訴人は,平成13年3月当時,東京女子医科大学(以下「女子医大」という。)病院に勤務していた医師である。

 控訴人会社は,雑誌・図書出版業等を営む株式会社である。

 控訴人花谷,控訴人江刺,控訴人渡辺,控訴人小出及び控訴人小泉は,毎日新聞医療問題取材班(以下「控訴人取材班」という。)を構成する新聞記者である。

 控訴人会社は,控訴人取材班を執筆者として「医療事故がとまらない」と題する書籍(集英社新書)(以下「本件書籍」という.)を発行した。本件書籍には,「第1章東京女子医大病院事件」との見出しの記事(以下「本件記事むという。)が掲載され,本件記事には,被控訴人(ただし,記事中の表記は「E医師」とされている。)が人工心肺装置の担当医師として関与した心臓手術において患者が死亡したこと,女子医大がその手術に関するカルテ等を組織的に改ざんをしたことなどが記載されている。なお,本件書籍は,毎日新聞紙上で連載された記事をまとめたものである(この新聞連載記事を,以下「本件連載記事」という。)。

 本件は,被控訴人が,本件記事のうち原判決別紙「被控訴人の主張一覧」の「記載内容」欄の番号1,ないし10の各記載部分について,被控訴人が上記手術の際に人工心肺装置の操作ミスをした等の趣旨の記載をされ,医師としての名誉が毀損されたと主張して,控訴人らに対し,共同不法行為に基づき,慰謝料1000万円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

 原審は,名誉毀損による共同不法行為の成立を認め,被控訴人の請求を80万円及びこれに対する平成15年12月23日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で認容した。これに対し,控訴人らは,請求全部の棄却を求めて控訴し,被控訴人は,請求を200万円に減縮した上,請求の認容を求めて附帯控訴をした。

紫色先生は判決文公開にあたり実名で行なわれており、少し悩んだのですが、訴訟の相手が私人とは言えないマスコミであり、引用は引用元の原文に忠実であらねばならないのは最近学習したところなので、そのまま実名で使います。事案の要旨のポイントをまとめると、

  1. タブロイド紙が執筆し、集英社が発行した「医療事故がとならない」と言う書籍がある
  2. その書籍の中に紫色先生が「人工心肺装置の担当医師として関与した心臓手術において患者が死亡したこと,女子医大がその手術に関するカルテ等を組織的に改ざんをしたこと」などが記載されている
  3. 紫色先生はこの記載が名誉を毀損するとして訴訟を起した
  4. 一審は名誉毀損を認め80万円の賠償を認めた
  5. 控訴審では、タブロイド紙集英社側がこれを棄却する様に求め、紫色先生は一審で1000万の賠償を求めたのを200万円に変更して二審に臨んだ
ここで気が付くのは紫色先生の賠償請求額が一審の1000万円から200万円に減っている事です。ここは推測ですが、賠償請求額はダテではなく、請求した額に相当する収入印紙を貼る必要があるそうです。訴状・控訴状・上告状・支払督促申立書に貼る印紙額の計算機で調べると、控訴状では200万円なら2万2500円、1000万円なら7万5000円ぐらいのようで、ちなみに1億となると48万円みたいです。一審で認められた賠償額は80万円ですから、二審で増えても200万円が精一杯と判断して、印紙代を節約したのかもしれません

次は「当事者の主張」なんですが、控訴審で加えられたと考えられる大きな部分を引用します。

イ検察官は,上記無罪判決に対して控訴をしたが,東京高等裁判所は,平成21年3月27日,検察官の控訴を棄却する判決をし,同判決に対しては検察官から控訴がなかったため確定し,被控訴人に対する無罪判決が確定した(弁論の全趣旨)。上記東京高等裁判所判決においては,被害者は,回路内が陽圧の状態になり,脱血不能の状態になった時点では,脱血カニューレの位置不良により頭部が欝血し,既に致命的な脳障害を負っていた可能性が高く,人工心肺回路内が陽圧の状態になったことによる脱血不能の状態が,被害者に致命的な脳障害を発生させて死亡させるに至ったと認定するには合理的な疑いが残るとして,被害者の頭部に轡血をもたらした脱血カニューレの位置不良は,操作担当者である被控訴人の人工心肺装置の操作に起因するものではないから,これと被害者の死亡との間には因果関係が存在せず,被控訴人について業務上過失致死罪は成立しないとの認定判断がされている(甲41)

ここは東京女子医大事件の二審の判決に関る部分ですが、もう少し詳しくは紫色先生、二審勝訴判決文要旨でも御参照ください。要は東京女子医大事件は無罪が判決で確定している事の事実確認です。ここからは裁判所の事実認定に該当する部分ですが、ここがかなりの分量なので判決原文はリンク先を参照にして欲しいのですが、日付に注目して整理しておきます。

Date 事柄 情報発信者
平成14年8月3日 第1回3学会検討委員会 学会
平成14年11月16日 第5回3学会検討委員会が慶応大にてシミュレーション実験を行なう 学会
平成14年12月12日 遺族らが厚労相に人工心肺の調査の要望書を提出 遺族ら
平成14年12月13日 タブロイド紙が遺族らの要望書提出を「装置自体に重大な欠陥があり、他に被害者が出ている可能性がある。」として報道 タブロイド紙
平成14年12月21日 第6回3学会検討委員会が東京女子医大にてシミュレーション実験を行なう 学会
平成15年3月2日 3学会検討委員会中間報告で4点の遵守事項を発表。なお、吸引ポンプの回転数に関する記載は存在しない。この報告書は、

・全国の関係病院長に送付
・日本胸部外科学会のウェブサイトに,同学会員以外の一般人も自由に閲覧できる状態で公開
学会
平成15年3月13日 NHKは「おはよう日本」で3学会検討委員会の中間報告の要旨を報道した NHK
平成15年3月17日 厚労省は中間報告書に基づく通達を出す 厚労省
平成15年5月15日 ・3学会検討委員会は日本心臓血管外科学会学術総会に報告書を公表
NHKニュース9」「ニュース10」で報告書に基づく報道を行なう
・3学会のウェブサイトに公開
学会、NHK
平成15年7月25日 「瀬尾和宏被告人に対する刑事事件」で、3学会の質疑が行なわれ、タブロイド紙記者(控訴人)が傍聴していた タブロイド紙
平成15年8月25日 紫色先生は刑事訴訟にて起訴事実を否認し、ポンプの高速回転と脳障害の因果関係を否定 東京地裁
平成15年8月26日 産経新聞は紫色先生の刑事訴訟の事実関係を報道 産経新聞
平成15年11月13日 紫色先生は刑事訴訟で3学会報告書を証拠請求 東京地裁


これは何を事実認定しているかですが、問題の書籍の個所はタブロイド紙の連載記事をほぼそのまま転載して作られたものです。連載時期と書籍の発行時期は、

時期 事柄
平成14年7〜8月 タブロイド紙連載記事
平成15年12月 書籍発行


裁判所の事実認定追加と較べてみれば分かりやすいのですが、確かにタブロイド紙が連載を行なった時期は、ある程度紫色先生が医療事故を起したと信じる事が可能な状況であったとも言えます。もちろんその時期でさえ、紫色先生は東京地裁で訴訟中であり、有罪か無罪は決まった時期ではありません。新聞記事に関しては、私の狭い知見ではその時点で「わかる事実」さえある程度そろっていれば報道の免責の範囲はかなり広かったかと思います。

しかし書籍発行までの間に東京女子医大事件の裁判は大きく動きます。とくに3学会検討委員会の動きは大きく、人工心肺事故の真の原因を学会の報告として発表しただけではなく、これにより厚労省が通達を出し、広く報道され、これが大きな根拠となり紫色先生の訴訟の動向が変わります。つまり書籍発行時期には訴訟の流れが根本的に変わっていたのは、知ることが出来る事実であった認定していると考えます。

しかしながら,本件書籍は,本件連載記事の毎日新聞紙上への掲載から1年余の期間を経過した時期において,連載記事をまとめたものを新たに単行本(新書)として発行するものであり,本件書籍の発行は,新聞紙上への掲載とは別に被控訴人の社会的評価を低下させ得るものであるから,本件書籍の記載内容の事実を真実であると信ずるについて相当の理由があったか否かは,本件連載記事の掲載時における上記の判断とは別に,本件書籍の発行時を基準として判断すべきである。

裁判所の判断の前提として、名誉毀損は連載記事の掲載時期ではなく、あくまでも書籍発行時を基準にすべきであるとしています。さらにおっかぶせる様に、

そして,本件記載は,本件書籍全体の論述の申で重要な位置を占める事実であり,被控訴人が人工心肺装置の操作ミスをした旨の本件記載は,被控訴人に対して重大な名誉毀損の被害をもたらすものであること,本件書籍:の発行時には,被控訴人に対する刑事裁判が係属中であり,前記のとおり被控訴人は,同年8月25日に東京地方裁判所で開かれた刑事事件の公判において,それまで認否を留保していた起訴事実を否認し,「脳障害を引き起こしたのは,ポンプを高回転にしたためではない。」などと主張するに至り,被控訴人も操作ミスを認めているという本件連載記事を執筆した当時の控訴人取材班の認識(認定事実(ア))とは全く異なる状況が生じていたこと,前記のとおり,本件患者の遺族などの側からも,平成14年12月12日,厚生労働大臣に対して,女子医大病院が使用していた入工心肺装置には,何らかの重大な欠陥があると考えられるとして,その導入の過程等について調査を求める要望書が提出され,その旨の報道がされていたことなどの事実に,本件書籍は,速報性を必要とする日刊新聞紙の報道記事としてではなく,毎日新聞社内において医療事故の取材等のために特別に編成された控訴人取材班の継続的な取材の成果を,将来にわたって販売が継続され得る単行本として世に問うものであることを考え合わせると,控訴人取材班としては,本件書籍の発行に当たり,新聞連載時の取材対象等に対する追跡取材及びその後の事態の進展等に即応した新たな取材をし,書籍の記載内容の正確性を再検討する必要があるものというべきである。

まず紫色先生の書籍への掲載部分の重要性として、

    本件書籍全体の論述の申で重要な位置を占める事実
こうした上で、タブロイド紙取材班と書籍の位置付けを、
    毎日新聞社内において医療事故の取材等のために特別に編成された控訴人取材班の継続的な取材の成果を,将来にわたって販売が継続され得る単行本として世に問うものであること
タブロイド紙取材班は「特別に編成された控訴人取材班」とし、「継続的な取材の成果」が書籍として発行するものとしています。
    本件書籍の発行に当たり,新聞連載時の取材対象等に対する追跡取材及びその後の事態の進展等に即応した新たな取材をし,書籍の記載内容の正確性を再検討する必要があるものというべきである
「特別に編成された控訴人取材班」が「継続的な取材の成果」を書籍にするには、書籍にする時点での「正確性を再検討する必要」が当然あると裁判所は判断しています。これは「被控訴人の社会的評価を低下させ得るものである」から欠かしてはならないものとしています。問題はタブロイド紙及び集英社がこれを知る事が出来たかの判断です。

これを本件についてみると,本件記載に関しては,上記イ「認定事実」(イ)記載のとおりの新たな事態の進展があり,これらの事実関係は,いずれも,一定の範囲の者には公開されていたものであり,これらの中には,控訴人取材班自ら取材し,報道したことがあるもの(上記イ「認定事実」(イ)b,c参照),他の報道機関が取材し,報道したもの(上記イ「認定事実」仔)e,f,j,k参照),3学会の関係者,心臓外科の専門医,人工心肺装置に関する技士,研究者及び心臓手術に関連する病院関係者等に知られていると考えられるもの(上記イ「認定事実」(イ)d,e,g,j参照)が含まれているのであって,控訴人取材班としては,上記の取材の必要に基づいて,本件手術の関係者,内部報告書の関係者,心臓外科の専門医,人工心肺装置に関する技士,研究者等に対して上記のような追跡取材及び新たな取材をすれば,これを知り得たものというべきである。

タブロイド紙取材班が新たな事実を知る術として、

  1. 控訴人取材班自ら取材し,報道したことがあるもの
  2. 他の報道機関が取材し,報道したもの
  3. 3学会の関係者,心臓外科の専門医,人工心肺装置に関する技士,研究者及び心臓手術に関連する病院関係者等に知られていると考えられるもの
これだけの事実から「知ること」は出来たはずだの事実認定が行なわれています。「知ること」が出来たにも関らず、

 そして,そのような取材をしたとすれば,控訴人取材班は,本件事故について,「東京女子医大で起こった事故は本来陰圧であるはずの静脈貯血槽が急激に陽圧になったためであり,その原因は吸引回路の回転数が非常に高かったためではなく,陰圧吸引補助ラインに使用したフィルターが目詰まりを起こし閉塞した可能性があることが模擬回路による実験でも示された。」との結論を提示して判断の過程及び理由を詳細に記載した3学会報告書を閲覧・入手することができたものというべきであり,内部報告書と3学会報告書とを対比して検討すれば,本件事故の主要な原因が吸引ポンプの回転数を上げすぎたことにあるとする内部報告書の記載が誤りであるか,少なくともその結論に重大な疑義があることを知り得たものであり,したがって,3学会報告書の存在や内部報告書の正確性等の問題点について言及することなく,被控訴人の操作ミスの存在を摘示した記載2の内容を真実の記載としてそのまま維持することが困難であることを認識し得たものというべきである。

知ることが可能な事実を知れば、当然の事ながら名誉毀損該当個所は真実でないと認識して当然だとしています。

ところが,前記のとおり,控訴人取材班は,本件書籍の発行に際し,海外のデータについて本件連載記事を掲載した時点のデータを最新のものにする作業をしたほか,認載内容の正確性についての確認作業をしたが,更に積極的に新たな取材はせず,3学会報告書についても検討したことはなく,本件記事については本件連載記事の内容について,特段の加筆や訂正をすることはしなかったものである。

タブロイド紙取材班は3学会報告書を検討すらしなかったと判断しています。この指摘に対し、タブロイド紙取材班は3学会報告書を知ることが出来なかったとの主張も行っていますが、

しかしながら,控訴人取材班には,前記のとおり,本件書籍の発行に当たり,3学会の関係者,心臓外科の専門医,人工心肺装置に関する技士,研究者,内部報告書の関係者等に対して上記のような追跡取材及び新たな取材をする必要があったのであり,このような取材を実行すれば,3学会報告書の存在を知ることができ,これを入手することができたものというべきであり,控訴人らの上記主張は,更に積極的に新たな取材をしないことを前提とする立論であるから,採用することができない。

裁判所の判断として、そもそも追跡取材を行なう必要があったのに、それを積極的に行なわなかったから3学会報告書を知らなかっただけであり、必要な追跡取材を怠った事を理由に「知らなかった」は認められないとしています。さらにタブロイド紙及び集英社サイドから、書籍の発行スケジュールの都合上、追跡取材を行う時間が無かったとの主張も行われていますが、

しかしながら,本件書籍の発行時期からすれば,何らの対応をすることもできなかったとは到底考えられない上,そもそも発行スケジュールは控訴人らにおいて決したものにすぎず,控訴人らとしては,本件書籍の記載内容に問題があることが判明したとすれば,出版時期を延期してでも対応すべきであるから,本件書籍の発行スケジュールを理由として,上記の判断を覆すことはできない。

スケジュールはタブロイド紙及び集英社側の勝手な都合であり、時間が無いというのなら書籍の発行を遅らせて調査するのが当然であると判断しています。さらにタブロイド紙は反論を重ね、そもそも書籍発行時にも紫色先生がミスを起していたと判断しても差し支えない状況であったともしています。これに対し、

以上によれば,本件書籍を発行した時点において,控訴人らが被控訴人が本来してはならない吸引ポンプの回転数を上げ続けるという操作をしたことによって本件事故が発生したことを真実であると信ずるについての相当の理由があったと認めることはできない。この点に関する控訴人らの主張は,採用することができない。

書籍発行時点において紫色先生のポンプ事故は否定されていたのは明らかであるとしています。裁判所はタブロイド紙及び集英社側の主張をペチャンコに押し潰した上で、

以上によれば,被控訴人の請求は原判決が認定した限度で理由があるからその限度で認容し,その余の請求は理由がないから棄却すべきであり,これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴及び本件附帯控訴は,いずれも理由がないから,これらを棄却することとする。

わざと後回しにした主文を紹介しますが、

  1. 本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する。
  2. 控訴費用は控訴人らの,附帯控訴費用は被控訴人の各負担とする。
ちにみにこの判決に対しタブロイド紙7/16付記事(魚拓)

訴訟:医療事故の書籍で、毎日新聞記者らに賠償命令−−東京高裁

 東京女子医大病院で心臓手術を受けた女児の死亡事故で業務上過失致死罪に問われ無罪が確定した医師(45)が、毎日新聞医療問題取材班の書籍で名誉を傷つけられたとして、発行元の集英社と取材班の記者に200万円の賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁(柳田幸三裁判長)は15日、80万円の支払いを命じた1審判決を支持し、双方の控訴を棄却した。集英社と記者は上告を検討している。

 問題になった書籍は「医療事故がとまらない」。医師の装置操作ミスが原因との記載について、判決は「02年の新聞連載時は真実と信じる相当の理由があったが、03年の書籍発行時では外部学会が否定的な見解を示していた」と判断した。

一審判決後は「ただちに控訴」でしたが、二審判決後は「上告を検討」だそうです。裁判の性質上、最高裁が受理する可能性は低そうに思うのですが、まだ頑張られる意志はあるようです。