佐賀のIT救急搬送システム

9/29付西日本新聞より、

救急医療でiPad活躍 搬送30秒短縮、患者分散化に貢献

 県が全国で初めて県内の消防本部すべての救急車55台に配備した多機能端末「iPad」が、救急患者の搬送に効果を上げている。受け入れ可能な病院が瞬時に分かるため、搬送時間が平均で約30秒短縮された上、規模の大きな病院に偏りがちだった患者の分散化にも貢献している。

 通報を受けて、現場に駆けつけた一台の救急車。隊員はiPadで患者の症状を入力すると、治療可能病院が表示され、「積極受入」「受入可」「受入不可」の3段階で状況が表示された。隊員は最寄りの病院に電話し、すんなりと搬送先の病院が見つかった。佐賀広域消防局の江頭春彦救急隊長(53)は「これまで病院一軒一軒電話で問い合わせていたが、iPadのおかげで病院がすぐに見つかるようになった」と語る。

 県が春に導入したシステムはインターネットを活用する。医療機関側は朝、夕の2回、パソコンを使って当直態勢を入力。救急隊はiPadに患者の症状を入力すると、受け入れ可能な病院がリストアップされる。救急隊は、どのような患者を、どこの病院に運んだのかデータで入力するため、別の救急隊は、受け入れ可能な病院の最新情報を画面で確認することができる。

 県医務課によると、救急車の搬送件数は近年右肩上がりで上昇。県内では2000年の2万2千人から10年には3万人に増加。119番を受けてから病院搬送までの時間も、09年は1999年に比べ5・9分伸びて平均33・7分だったが、システムを導入した4月以降、約30秒間短くなった。

 重篤患者の搬送を受け入れる「3次医療機関」への偏りの解消にもつながっている。3次医療機関への搬送割合は、10年は32・7%だったものの、7月時点で28・9%に低下し、分散する傾向も出ているという。3次医療機関に指定されている県立病院好生館の藤田尚宏救命救急センター長(53)は「限られたマンパワーを最大限に生かすシステム。搬送時間の短縮は治療の面でも大きい」と評価する。(御厨尚陽)

記事を読んだ最初の感想は、そろそろiPadの購入も考えるべきなのかなぁ? ってところです。そう言えば医師会主催の講演会の案内に、iPadスマートフォンを使った医療云々があって、少しだけ興味はそそられています。ただよく考えなくともネックはあって、そもそもiPadスマートフォンも使っていないのです。

携帯もそろそろくたびれてきたので、次期はスマートフォンにするべきか、従来型にするのか悩み中なんですが、個人的にはスマートフォンの大きさが持ち歩くのに気に入らず、姑息的にバッテリー交換でお茶を濁そうかと真剣に考えている程度です。

必要性と言う事になると、朝から晩まで院内にいるわけですし、院内なら要所にデスクトップが配置され、ついでに言うと帰宅後はPCをあんまり触りたくないと言うのがあります。外出時はと言われそうですが、出不精で電話嫌いですからスマートフォンの必要性は極度に低いというか、まったくないのが実情です。

それでも次の時代を見据えて慣れておくのは必要です。問題は慣れるためだけに出費は如何なものかと思うところです。とりあえず今の携帯が切羽詰るまで、問題はひたすら先送りです。


個人的な愚痴はこれぐらいにして、佐賀のシステムです。

    隊員はiPadで患者の症状を入力すると、治療可能病院が表示され、「積極受入」「受入可」「受入不可」の3段階で状況が表示された。
ほぉ、症状で受け入れ先を選択するシステムでっか。なぜにこんなシステムが必要なのか少々疑問なんですが、よほど救急隊員は症状と搬送先の選択に苦慮されていたと考えて良さそうです。今春導入だそうなので、患者選別のアルゴリズムと実情がマッチしているかどうかは来年度の検証でしょうか、それとも検証自体があるのでしょうか。


搬送先のIT化で常に問題になるのは、送る側の救急隊の情報入力ではなく、受け入れる側の医療機関の情報提供です。iPadのはるか以前の時代の電話時代からこの手のシステムは存在していますが、この点の進歩はどうかと言う事です。受け入れ病院側の受け入れ余力の自動化です。

これも研究は行われていて、2008.12.21付岐阜新聞より、

 ICカードで病院内の医師の動向を把握して救急隊に最適な搬送先を指示できる救急医療情報システムの開発に向け、岐阜大学医学部を中心に産官学が連携して2009(平成21)年度から、県内で実証実験に取り組む見通しになった。

こういうシステム開発が実証段階に進んでいる話もありました。システムの狙いは物凄いもので、

医師にICカードを携帯してもらい、病院内に設置したセンサーで、「手術中」「診療中」など勤務状態をリアルタイムで把握。自動的に専用サーバーに情報を送る。一方でサーバーは救急車に装備した端末から患者の情報も受け取る。

この産官学協同の3億円プロジェクトがどうなったかと言うと、2011.8.18付中日新聞より、

 システムは国の委託事業で岐阜大などが2009年度から開発。救急隊や病院間で患者の症状や病歴、専門医の有無などをリアルタイムで伝え、適切な医療機関に搬送されるまでの時間を短縮する。

実証段階まで進んでいたはずの医師の勤務状況把握の話は後退し、医師の有無確認のみになっています。単純に出来なかったと言う事です。岐阜大で3億円かけて出来なかったシステムが佐賀でどうなったかと言うと、

    医療機関側は朝、夕の2回、パソコンを使って当直態勢を入力
当たり前ですが、電話時代から変わらぬシステムと言う事になります。ま、救急隊からの症状の伝達時間が電話で話すのから、ITで送られるのに変わった分だけ搬送時間が「30秒」短縮されたと言う事でしょう。つまり従来は
  1. 症状を紙に書く
  2. 搬送先病院に口頭で症状を伝達する
こういう手間が必要だったのが、iPadに入力するだけで「紙に書く」「口頭で伝える」時間が短縮されたと言う事でしょう。その他は従来と変わるところはありません。


冷笑的に書いていますが、それでも進歩は進歩でしょう。岐阜大のシステム開発もこれで完成したわけではなく、おそらく中間過程の成果公表だと思っています。現在公表されているシステムを踏み台にして、さらなるシステム開発が続けられていくと考えています。

Bugsy様がいみじくも指摘されていましたが、科研費を獲得できる研究は、世の中で求められている旬のテーマである方が望ましく、もう一つ言えば容易に完成してしまっても良くないそうです。完成すれば研究は終ってしまいますから、常に研究開発中であり、科研費の継続が続けられるものが理想的だそうだからです。


そんな皮肉はともかく、ちょっとだけ興味を抱いたのは、佐賀の症状による搬送先選別システムは岐阜大が開発したシステムを導入したのでしょうか。記事を読む限りでは不明です。なんとなく岐阜大のシステムは患者のバイタル情報もリアルタイムで搬送先医療機関に伝達している、もしくはそれを目指しているシステムのように考えられています。

一方で佐賀のシステムはもうちょっとシンプルで、現在、紙にウダツイン形式なりで記入していた情報をそのまま搬送先医療機関に送るシステムのように見えます。もっとも現在の岐阜大のシステムも実際は佐賀程度の可能性も否定できません。どうなっているのかと言うところです。


それにしても思うのは、いつから24時間365日即時救急が医療の至上課題になってしまったのでしょうか。医療崩壊医師不足の言葉と反比例するように強力に推進されている気がしています。IT化もそうですし、ヘリ救急も至上課題に合致しているためかホイホイと推進されます。

ほいじゃ、24時間救急に合致しそうな受け入れ側医療機関側の充実は楽しい状態です。送る方はバンバン充実させて、受け入れる側は帳簿上の数合わせに終始しているように私は見えてしまいます。でも今日は良いでしょう。ここを話すと、毎度の定番になるのでやめておきます。