道新クオリティ

12/5付北海道新聞より、

受け入れ拒否道内127件 産婦人科患者 07年搬送 「処置困難」など理由

 道内の消防本部(全六十八)の救急隊が救急搬送中の産婦人科患者の受け入れを医療機関に断られたケースが、二〇〇七年一年間で百二十七件あったことが四日、道のまとめで分かった。断った理由は、設備不足などの「処置困難」や「専門医の不在」が多く、救急搬送の深刻な現状が浮き彫りになった。

 産婦人科患者は妊婦のほか、妊婦以外で婦人科を受診した女性も含まれるがほとんどは妊婦。救急搬送の件数は全体で千九十一件(転院を除く)。断られた百二十七件のうち札幌市内は九十七件で、76・4%を占めた。

 百二十七件のうち、三つ以上の病院に断られたのは二十二件あり、最も多かったのは札幌市内の十代の妊婦が十四の病院で断られた事例だった。断る理由は「処置困難」(三十九件)が最多で、「専門医の不在」(三十五件)、「手術中・患者対応中」(三十三件)と続き、「ベッドが満床」も二十件あった。

 十四の病院に断られた事例は、産婦人科を一度も受診したことがない妊婦が破水し、「(妊娠週数も分からずリスクが高い)初診は診られない」などとされ、最終的に受け入れた同市内の病院で出産した。

 産婦人科患者の救急搬送全体のうち、救急隊の現場到着から受け入れ先決定まで三十分以上かかったケースは三十八件あり、このうち三件は一時間−一時間半に達した。道内の119番通報の受理から患者の病院収容までの時間は平均二九・九分(二〇〇六年)のため、道は「産婦人科患者は受け入れを断られ、搬送先への収容まで時間がかかった可能性がある」とみている。

 札幌市内では昨年十一月、未熟児が七病院に受け入れを断られ、収容先の病院で死亡した。新生児対象の調査はないが、この例を含む十五歳未満の子どもの救急搬送は一万二千六十五件で、受け入れが断られた例は九百十五件あった。

先に書いておきますが記事のデータに基本的に間違いはありません。ただ読んだだけで既視感が非常に強い記事にも関らず、

    四日、道のまとめで分かった
この記載に猛烈な違和感を感じます。12/4になりこの産科救急のデータが、初めて北海道庁により把握されたと言うか、報道発表されたとしか読めない記事です。それ以外の解釈の仕方があるのなら教えていただきたいと思います。順番に検証していきますが検証の参照元これは救急搬送における医療機関の受入状況等実態調査の結果についてで何度か取り上げたものです。まずですが、

救急隊が救急搬送中の産婦人科患者の受け入れを医療機関に断られたケースが、二〇〇七年一年間で百二十七件

総務省の報道資料には産科・周産期救急の「医療機関に受入の照会を行った回数ごとの件数」がまとめられています。その北海道分を抜粋すれば、

問合せ回数 1 2 3 4 5 6 7 8 9 15
総数は1008 881 81 24 13 2 4 0 1 1 1


2007年の北海道の産科・周産期の救急隊の搬送件数が1008件、このうち問合せが1回で済んだものが881件
    1008件 − 881件 = 127件
偶然の一致でとも思えず消防庁のデータからのものと考えられます。次にですが、

百二十七件のうち、三つ以上の病院に断られたのは二十二件あり

「三つ以上」とは問い合わせ回数が4回以上のものですが、なぜに「三つ以上」で区切るかですが、これも消防庁データのポイントの解説に、

受入医療機関が決定するまでに行った照会回数が4回以上のものは1,084件、6回以上のものは363件、11回以上のものも53件ありました。最大照会回数は、43回でした。

ここに「照会回数が4回以上」とあり、これにならってのものと考えられます。ではこれにならって6回以上と11回以上はなぜ記載しなかったかですが、6回以上が3件、11回以上が1件しかなかったためと考えられます。ではその次ですが、

断る理由は「処置困難」(三十九件)が最多で、「専門医の不在」(三十五件)、「手術中・患者対応中」(三十三件)と続き、「ベッドが満床」も二十件あった。

これも消防庁データに「照会するも受入に至らなかった理由とその件数」の集計があり、北海道分を抜粋すると、

手術中・患
者対応中
ベッド満床 処置困難 専門外 医師不在 初診
かかりつけ
医なし
理由不明
その他
合計
33 20 39 21 35 25 46 220


ここからと思われますが、消防庁データでは「医師不在」としているのを「専門医の不在」と書き直しているのが目に付きます。消防庁データでは「医師不在」のほかに「専門外」の項目があるので関連はどうかとちょっと感じます。それと「初診(かかりつけ医なし)」のデータも無視しています。次に進みますが、

産婦人科患者の救急搬送全体のうち、救急隊の現場到着から受け入れ先決定まで三十分以上かかったケースは三十八件あり、このうち三件は一時間−一時間半に達した。

これも消防庁データに「現場滞在時間区分ごとの件数」としてあり、

30分未満 30分以上 60分以上 合計
1040 35 3 1078


ここからの引用であるのも確認できます。さらに次ですが、

新生児対象の調査はないが、この例を含む十五歳未満の子どもの救急搬送は一万二千六十五件で、受け入れが断られた例は九百十五件あった。

ここはやや複雑な引用をしており、「救急搬送は一万二千六十五件」は消防庁データの「小児傷病者搬送の状況」から引用され、ここには小児傷病者搬送人員が13791人、このうち転院搬送が1726人となっています。つまり、

    13791件 − 1726件 = 12065件
「受け入れが断られた例は九百十五件」ですが、これは小児の「医療機関に受入の照会を行った回数ごとの件数」から引用され、

1 2 3 4 5 6 7 8 11 合計
9166 695 156 44 13 3 2 1 1 10081


ここでの合計である10081件から問い合わせ回数1回の9166件を引けば、
    10081件 − 9166件 = 915件
ここで順番が前後しますが、

断られた百二十七件のうち札幌市内は九十七件で、76・4%を占めた。

これは消防庁データにはありません。ありませんが2008.7.30付北海道新聞(リンク切れ)に、

昨年の救急搬送 妊婦受け入れ拒否14% 札幌市消防局

 札幌市消防局が自宅などから産婦人科の患者を救急搬送する際、医療機関に受け入れを断られたケースが、昨年一年間で全体の14%の九十七件に上っていたことが二十九日、分かった。市内の十代の妊婦が十四回拒否された後、市内の病院で出産した例も。札幌市産婦人科医会が市の二次救急体制から撤退し、十月から夜間の救急患者を受け持つ当番病院制度がなくなる見通しで、同局は「受け入れ先を見つけるのがますます困難になる」と懸念している。

 救急隊は患者の元に到着後、《1》かかりつけ医か患者の希望する病院《2》当番病院か近くの病院−の順で受け入れ先を探す。市消防局救急課によると、二〇〇六年以前の統計はないが、産婦人科医の減少を背景に受け入れ先の確保が難しくなる傾向にあるという。

 昨年、救急隊が現場から産婦人科医療機関に運んだ七百七件のうち、三回以上断られたのは十八件。理由は「(設備不足などで)処置困難」が最多の三十二件で「医師不在」(三十一件)、「手術・処置中」(二十九件)、「初診」(二十三件)、「ベッドが満床」(十五件)と続く。また、搬送できずに三十分以上現場にとどまった例が十八件あった。

 十四回断られたケースでは、一度も受診したことがない妊婦が破水し、救急隊が受け入れ先を探したが「初診は(妊娠週数も分からないためリスクが高く)診られない」などと拒否され、最終的に別の病院が受け入れた。

 札幌市産婦人科医会は九月末で夜間など救急を交代で受け持つ二次救急体制からの撤退を決めているが、参加している九病院は当番日だけで二百十八件と全体の三割の重軽症患者を受け入れてきた。

 十月からは市消防局が空きベッド情報を元に、個別に受け入れ先を探さなければならない。市保健所は「質を落とさないように努力したい」とするが、市消防局救急課は「安全のために一刻も早く患者を運びたい。当番病院に代わる受け入れ先を確保してほしい」と困惑している。

ここに札幌市消防局の発表として、

自宅などから産婦人科の患者を救急搬送する際、医療機関に受け入れを断られたケースが、昨年一年間で全体の14%の九十七件

ここからのデータが引用された事が分かります。


この記事に使われたデータは

  1. 2008.3.11に総務省消防庁が報道資料として発表した「救急搬送における医療機関の受入状況等実態調査の結果について」
  2. 2008.7.29に札幌消防局が発表したと道新が報じたデータ
この二つがすべてです。それを北海道庁が把握し発表したのが
    四日、道のまとめで分かった
本当にそうなんでしょうか。12/2に道新が「早産男児、7病院拒否 10日後死亡 札幌で昨年11月」として報じて北海道庁は大慌てでこれらのデータを集めて発表したのでしょうか。どうにも違和感が残る記事です。