家庭医の健闘期待

12/6付山陰中央日報より、

 出雲市大津町の大曲診療所の高橋賢史さん(32)がこのほど、山陰両県の医師で初めて、日本プライマリ・ケア連合学会から「家庭医療専門医」(家庭医)に認定された。家庭医は患者の既往歴や家庭環境を十分把握したうえで、初期診療に当たる医師。医師不足が深刻な中、包括的な医療サービスを提供できる家庭医の存在は注目を集めており、高橋さんは「地域の健康水準を上げたい」と意気込む。

 家庭医は地域に根付き、患者の事情に精通したうえで健康問題の種類、年齢、性別などによらず診療を施す。予防医療、リハビリテーションなども手掛け、高度な治療が必要なときは専門医への橋渡し役を担う。幅広い知識や臨床能力が求められ、国内では昨年度から専門医の認定が始まり、現在179人いるという。

 高橋さんは鳥取大医学部在学中、「幅広い健康問題に関わりたい」と家庭医を志望。卒業後、研修先の出雲市民病院で家庭医のプログラムを修了し、今年9月の認定試験に合格した。

 大学の養成課程が細分化し、医師の専門化が進むなか、1カ所でさまざまな病気に対応できる家庭医のニーズは高まりを見せており、認定試験の本年度合格者は67人で、昨年の2倍。家庭医が地域に根付けば、診療科を渡り歩く必要が減るなど患者側のメリットになるほか、軽症患者の処置を家庭医が担うことで専門医の負担軽減も期待でき、島根県も確保に力を入れる姿勢を見せている。

 高橋さんは「医師不足の地域こそ、家庭医が必要とされている。さまざまな人の健康問題にかかわり、地域全体を健康にしたい」と話した。

家庭医と家庭総合医がどう違うのかの理解が怪しいのですが、あんまり気にせず話を進めます。家庭医がどんな仕事をされるかと言えば、

    さまざまな人の健康問題にかかわり、地域全体を健康にしたい
う〜ん、夕張の村上医師みたいな診療方針と理解したら良いのでしょうか。村上医師の診療方針と言われても漠然と知っている程度ですが、なかなか大変なものと聞いています。何が大変かと言えば、姑息なお話ですが、手間がかかる割には商売として美味しくないというものです。

医療を商売と直結させるのはあまり宜しくないのですが、あの村上医師でも自分が行ないたい理想の医療と、現実の医療経営とのギャップに苦労されています。ギャップだけが原因かどうかわかりませんが、村上医師もどこか(夕張以外)の診療所の運営者との関係が険悪になった事があったと聞きます。医療だから、公立医療機関だから赤字でも文句を言われない時代でなくなっていますから、頑張ってください。

もうちょっと家庭医に期待されるものを記事からピックアップしてみると、

  1. 予防医療、リハビリテーションなども手掛け、高度な治療が必要なときは専門医への橋渡し役を担う
  2. 患者の事情に精通したうえで健康問題の種類、年齢、性別などによらず診療を施す
  3. 軽症患者の処置を家庭医が担うことで専門医の負担軽減
  4. 1カ所でさまざまな病気に対応できる
凄い事が書いてあるようにも思いますが、どこにでもある「内科・小児科」の開業医とどう違うのか理解が難しいところです。ただ開業医でも「内科・小児科」みたいな何でも屋的な診療所は減少傾向にあると聞きます。

診療所経営の微妙なところですが、経営のためには出来るだけ間口は広くする必要があります。あまりに狭い専門領域に特化すると食っていけない事が多々あるからです。ここも需要と供給の関係が大きいのですが、狭い専門領域に特化しても経営が成立する地域と、そうでない地域があり、地域だけではなく専門領域の診療報酬の問題も複雑に絡んできます。

ただ狭い専門領域でも成立しそうな人口の多い都市部は過当競争化の傾向があり、一方で競争相手が少ない地域では患者人口自体が薄いですから、たいていは食っていくために間口は可能な限り広げます。

ただ無闇に広げればOKかと言われると、そうでもありません。医療経営も患者に医療機関を選択してもらって成り立つ商売ですから、患者のニーズを無視しては成り立ちません。患者ニーズは、診療所であっても専門性を求めます。そのために間口を広げる一方で、売り物にする専門性を打ち出すことも必要になります。つまり目玉商品で患者を惹き付ける一方で、間口を広げてその他の患者も丹念に拾い上げる作業が必要になります。

ここでポイントは間口を広げるのは、イコール「何でも屋」と言えない部分があります。経営的には何でも屋的な間口の広げ方が求められる一方で、単なる何でも屋では患者の選択に選ばれない可能性も高いと言うのがあります。病院での専門性ほどは期待していなくとも、診療所でも可能な限り専門性を期待している部分が確実にあります。

長くなりましたが、診療所で患者が求めるものには、専門領域をしっかり診察してくれて、なおかつcommon diseaseにも幅広く対応してくれるです。食堂に例えれば、看板メニューの他にも、サイド系のメニューも豊富みたいな感じでしょうか。サイド系メニューの充実度は看板メニューの集患力により変わる位に考えれば良いかと思います。

そういう「看板メニュー+サイドメニュー方式」は、書くと難しそうですが、殆んどの開業医にとって、ごく普通の形態です。勤務医時代は多かれ少なかれ、それなりの専門分野を持っており、開業するときには自然に看板メニューに据えます。誰だって自分の得意分野をまず活かしたいと考えるからです。しかし開業すればとにかく繁盛する時代は過ぎ去っていますから、看板メニューだけでは経営が成立せず、必要な分のサイドメニューの充実に努力するみたいな感じでしょうか。

ですから、ある程度計画的に開業を志す医師は、開業前に自分の専門領域以外のサイドメニューの取得を期待できるポジションを希望したりもあります。また開業してからでも泥縄式でもサイドメニューの取得に密かに精進します。診察できる領域が広がるのは、食っていくのに切実に必要だからです。


さて家庭医なんですが、従来の開業医の持つ専門分野は望み様がありません。記事の家庭医も平成17年卒で経験は5年ほどですから、従来の開業医のサイドメニュー的な分野がせいぜいでしょう。もちろんまだ経験5年ですから、他の専門を選択していたら、これから経験を積み上げ深める時期ですが、家庭医と言う専門領域ではどうなんでしょうか。

誰かが「専門」と「総合」は対立する概念であると指摘していましたが、どうしても「幅広く」を要求される家庭医では実際どうなっているかは私は存じません。では役に立たないかと言えばそうではありません。

    医師不足の地域こそ、家庭医が必要とされている
ここは「こそ」ではなく、個人的に「だけ」の様な気がします。医師がそれなりにでも、充足している地域での何でも屋は需要が下がると考えます。たいした理由ではなく、充実すればするほど、患者は少しでも専門性を求めます。一方でとにかく「なんとか医師を」の需要が高いところであれば、需要を満たせる医師として活躍できる場があると言う事です。

確実にニーズが存在していれば、それだけで十分有用と考えられます。ただ記事の内容からすると、家庭医に過度の期待を寄せすぎているように思われますから、これが失望に変わらない様に祈るばかりです。家庭医と言っても万能医師ではなく、あくまでも医師の能力を一点で高く伸ばさず、なるべく満遍なく低く伸ばしたものに過ぎないと言う事です。

ニーズによっては有用と言うだけで、そこを理解して活用しないと、医師も患者も不幸な状況に陥る懸念があると思います。あくまでも個人的な感想ですが、普及前にこれだけの幻想を抱かれた総合医なり、家庭医ですから、パイオニアの立場にある医師の方々の健闘をひたすら期待しております。