たまには医学的なことを

医療については日常的に取り上げるものの、医学に関しては殆んど書いていない当ブログですが、たまには医学の事も書いてみたいと思います。少しは書いておかないと私が医師かどうか疑われそうので。とは言え、バリバリの最前線のコメンテーターが数多くいらっしゃるので、取り上げるレベルは医局の雑談程度にします。それ以上は怖ろしくてとても書けません。

開業すると勤務医時代と違い、気軽に医師同士で雑談する機会が非常に少なくなります。あの雑談も結構勉強になったもので、とくに違う診療科の医師からは思わぬ知識が得られたりしてためになったものです。そういう機会が少なくなった私に「愛の手を」とも受け取ってもらえれば幸いです。


テーマは

    インフルエンザはどうなるんだろう
あくまでも仮説段階の時期ですから、くれぐれも宜しくお願いします。去年の5月に日本上陸以来、振り回されている新型インフルエンザですが、幾つか従来のインフルエンザと違う特徴があるようです。思いつくままにあげてみると、
  1. 従来の季節性に比べて季節特性が強くなさそう
  2. ワクチンが「新型」なのに接種効果が良さそう
  3. なぜか若年者にしか流行していない
これらも私の調査不足で日本だけの特殊事情なのか世界的に似た傾向になっているのかは確認出来ておりません。その点は前置きした上で、これらの現象を説明するのにソ連型との類似性が挙げられていますが、それでは何故あれだけ執拗にソ連型が流行を繰り返していたかの説明に説得力を欠くように思います。また若年者と言っても高校生ぐらいまでは流行しますから、年齢層の境目を説明するにはやや不足しているようにも思います。

あえて考えれば、ソ連型のある特定の株との類似性が非常に強く、その株の罹患者は免疫を獲得しているとも考えられますが、たしか遺伝子レベルの解析では、そこそこ離れていたはずで、よく分からないところです。もう一つ、「?」と指摘されているものに、

  1. 季節性の流行が無い
ここも色んな考え方が出来るところで、単に異常に遅れているだけなのか、それとも今年に本来大流行するはずだったのがソ連型で、これが新型とどうも交叉耐性がありそうなので打ち消してしまった可能性も仮説としてはありえます。ただ交叉耐性説では新型罹患が非常に少ない中高年齢層まで季節性に罹患しない理由はなんなんだにつながっていきます。

これについては、パンデミックによるインフルエンザ交替現象の可能性まで出ているようです。もっともこれについては、それこそ春が来るまで、来シーズンが過ぎるまでわかりませんが、これも仮説としてはありえることです。ここでは交替するかしないより、もし交替したらどうなるかの方が興味があります。つまり最初の方に挙げた1.〜3.の特徴によります。

春や秋にもしっかりインフルエンザが流行するとしたら、医師の考え方もかなり変えなければなりません。1年中、常にインフルエンザを念頭に置いて診断・治療にあたる必要があると言う事です。これは内科はともかく、小児科ではチト大変な作業になります。なんと言っても発熱疾患がゴロゴロしていますからね。それはそれでそのうち慣れるでしょうからまだ良いのですが、ワクチンがどうなるかです。

従来の季節性は冬に流行するという特徴に対して、流行前の秋に接種するという戦術が取られていましたが、流行期が長期化すれば、どの時期に接種をするかの問題が出てきます。さらに言えば年1回の接種でOKかもあります。一般的にワクチンの効果は半年ほどで切れるとされますから、年2回の接種も考慮に入れる必要があるかもしれません。

年2回と言っても、新型もウイルス変異を起すとすれば、それに対応しながらの年2回はかなり大変な作業になります。

さらにと言うほどではありませんが、そういう可能性をうちのスタッフと話していたら、「先生、春にもこの作業をやるんですか?」と言われてしまいました。秋のインフルエンザ接種はうちでも大変な作業なんですが、これが年2回になるのは堪忍してくれの悲鳴です。これは実務上の仮説ですが、彼女の気持ちはよくわかります。

あくまでもまだ結論の出しようがない時点でのお話ですので、医局の雑談レベルでお気軽に御意見下さい。もし提唱された仮説が当たれば、私も含めて「あんたは偉い」の賛辞を後日贈らせて頂きたいと思います。