北秋田の夢の後

壮大な夢の残骸と評される北秋田市民病院問題ですが、とりあえず6/19読売新聞より、

北秋田市民病院の赤字穴埋めへ/市長が改めて明言

 今年10月に開業する北秋田市北秋田市民病院について、津谷永光市長は18日の市議会6月定例会の一般質問で、「公費負担はやむを得ない」と述べ、市が経営赤字分を全額補填(ほてん)する考えを改めて示した。

 同病院は市が建設し、指定管理者のJA秋田厚生連が運営する県内初の公設民営病院。市は、開業後30年間で約22億6400万円の赤字を見込み、赤字全額を補填する方針を示している。

 津谷市長はさらに「市民の生命と健康を守るためにはやむを得ない。厚生連に対し市の負担が少なくなるよう交渉を続ける」と述べた。市議が「厚生連の言いなりではないか」とただすと、市長は「厚生連には最大限の経営努力を求め続けたい」と答えるにとどめ、厚生連に経営改善計画の提出を求めるなど、具体的な経営改善策には踏み込まなかった。

 同病院開業後に、厚生連が経営する市内の北秋中央病院は廃業し、市が病院跡地を2億8000万円で購入することにしており、津谷市長は「市民から広く意見を募り、利用法を考えたい」と話した。

年間予算規模200億円程度の北秋田市で総事業費91億円にのぼる壮大な事業ですが、これに関連する記事です。記事に書いてある赤字負担額は、

  1. 開業後30年間で約22億6400万円の赤字
  2. 市内の北秋中央病院は廃業し、市が病院跡地を2億8000万円で購入
具体的にはこの二つですが、ちょっと調べてみます。先に北秋中央病院の跡地購入ですが、北秋田市民病院住民説明会に面白いことが書いてありました。青字が市の担当者の回答です。

▽中央病院の跡地を評価額で購入とあるが、当時の鷹巣町は現在の中央病院の敷地を中央病院に有償で提供したのか、それとも無償で提供したのか。

 旧鷹巣町時代に、当時北秋中央病院を建設するとき、鷹巣町農協にただで提供している。その土地を鷹巣町農協は厚生連に売って、そして病院が建設された。もともと無償で提供した土地を市で買い取るのはおかしいと思うが、土地の所有権は厚生連にあり、法律上覆すことはできず、残念なこと。

経緯として北秋中央病院建設に際して、

きな臭い感じもしないではありませんが、解体費用は補助金が出るそうで市の負担はないと胸を張って担当者は答えておられました。もっとも解体費用は補助金が2/3で1/3は厚生連の負担になるようですが、この1/3も市の負担にできないものかの市議会議員の質問がありましたから、地方政治は本当に複雑です。


もう一つの22億6400万円の赤字ですが、30年間であれば年間7500万円程度になります。高いか安いかは主観によるでしょうが、この程度の赤字負担で病院が運営できるのであればむしろリーズナブルの感じさえします。人口4万として1人年間2000円弱です。それと何より不思議なのは、どうやったら30年先までの赤字額が算出できるかと言うことです。

世の中で数年先の事すら予想は困難ですし、とくに医療に於ては猫の目、梯子外しが監督官庁から雨霰と横行する業界ですから、30年なんて単位で「経営赤字」が計算できるのは奇跡の業と言うよりたんなる妄想に思えてなりません。そこでと言うほどではありませんが、夢の中と夢の後の指定管理者制度による計画を較べてみます。

項目 夢の中 夢の後
指定管理料 7800万円 3億5800万円
指定管理者納付金 1億8500万円 当分の間免除
総事業費 約91億7000万円 約96億100万円
北秋中央病院跡地 取得検討中 2億8000万円


私は指定管理者制度と言うのがイマイチ理解できていないのですが、元のプランでは北秋田市が7800万円の指定管理料を厚生連に支払い、厚生連から北秋田市に1億8500万円の指定管理者納付金を支払う予定だったようです。そうなると差し引き1億円ほどが北秋田市の収入になるかと思われます。それだったら最初から厚生連から1億円ほどの納付金をもらう契約にすれば良さそうなものだと思うのですが、指定管理料は政策交付金だそうですから、一旦は病院に支払わなければならないのかもしれません。

これは当然の話ですが、31人の医師が確保できてフルオープンで患者がしっかり集まった状態でのものと考えます。これが夢の後になると北秋田市が支払う指定管理料3億5800万円だけになり納付金はなくなります。このあたりの説明は、

年度収支計画書の収支不足額を指定管理料として支払い、年度終了後決算状況に応じて精算する。なお、黒字決算の場合は指定管理料を返納し、赤字決算の場合は追加措置を行う

どういう事になるかと言えば、

  1. 年間収支の赤字分を指定管理料として北秋田市は支払い、足らなければさらに追加で支払う
  2. 指定管理料より赤字が少なければその分は厚生連が北秋田市に返納する
至極単純に理解すると北秋田市民病院の赤字分はすべて北秋田市が補填する契約です。この辺は直営であっても赤字分は北秋田市の負担ですから、名前が指定管理料に化けているだけで、ほとんどの自治体病院で行なわれている手法と言っても良いかと思います。もう少し赤字補填の具体的な話を探していたのですが、市民病院の指定管理方針の変更などについて協議にこんな記載があります。

  • 指定管理料については、特別交付税算入の「政策医療交付金」のみとされていたが、年度収支計画書の不足額とする(政策医療交付金を含む)。▽平成21年度の政策医療交付金の予定額は2,073万3,000円▽平成21年度の指定管理料は3億6,115万3,000円▽年度協定書において「年度会計の精算」という項目を設けて精算する
  • 納付金については、減価償却費相当額と利子の1/2としていたが、数年間は免除する▽単年度の納付金額は1億8570万7000円▽平成21年度の納付金(減免額)は9285万3000円(10月〜3月分)
  • 赤字補てんについては、年度協定書において「年度精算」の項目を設けて、剰余金が発生した場合は、市に返納し、不足額が生じた場合は追加措置する。▽平成21年度の剰余金は、マイナス3億6115万3000円
  • 総事業費の変更については、病院本体部分91億円に、厚生連購入の医療機器へ補助が加わる▽補助金額は1億6250万0000円(一般財源
  • 北秋中央病院跡地については、評価額で購入(交渉中)▽評価額は2億8000万円

30年間の赤字計算の基礎となっているのはおそらくですが、

納付金については、減価償却費相当額と利子の1/2としていたが、数年間は免除する

「数年間は免除する」という事は、その後には納付金が復活する計算を行なっているとするのが妥当です。もちろんと言うか、予定していた31人の医師集めも何年か後には完了している計算であると考えても良いかと思われます。オープン時には19人(常勤15人、非常勤4人)になったのは計算違いだが、将来的には夢の中の計画路線に確実に戻っていくとしていると考えられます。

もっとも未来永劫19人(常勤15人、非常勤4人)ないしは、ここからさらにジリ貧になる計画を発表するわけにもいかないですから、医師が集まってきて、ある程度は元の計画通りに戻るまでの赤字補填の総額が「22億円」としていると考えればよいのでしょうか。もちろん医師が集まらなければさらに赤字補填額は雪だるま式に増える懸念はありますが、その時には責任者は変わっているでしょうから「その時に考える」のような気がします。

それと総事業費がまた増額した理由がわかるのですが、

    病院本体部分91億円に、厚生連購入の医療機器へ補助が加わる
医療機器購入の補助が為されても構わないのですが、お役所的な説明としてはこうなるんでしょうか。今まで91億円としてきたのが、急に医療機器購入の補助が増えて総事業費がさらに大きくなる説明にちょっと違和感を感じます。総事業費として増えた金額としては5億円ぐらいなのですが、5/1付市議会だより「きたあきた」にこんな議会風景が掲載されています。

高度医療をやりたいということで最初は医療機器購入費を10億円みていた。それが5億円になり、結局3億円まで減った。

ここで補助金額は「1億6250万0000円(一般財源)」ですから、総事業費にまだ2億7000万円ほど足りません。残りは、

北秋中央病院跡地については、評価額で購入(交渉中)▽評価額は2億8000万円

これがお役所の総事業費の計算方法なんでしょうか。議事録を読んでいると当初88億円の総事業費について何度も「絶対にこれ以上は増えない」と市側が答弁しているのはありますが、医療機器の購入補助も北秋中央病院の跡地取得も当初の事業計画に入っておらず、全くの計算外の支出として突然計上されています。北秋田市にすれば小さな額とは思えないのですが、おもしろいものです。


経営上の赤字補填も大きな問題ですが、総事業費約96億円の返済問題があります。東京の様に銀行ゴッコに何百億円も使える自治体ではありませんから、殆んどは借金で賄われた考えられます。この点についても住民への説明会であり、

▽総事業費96億1千万円の償還予定は。

 病院事業債として、5年据え置き30年償還。平成26年から約3億4千万円の償還となる。

でありもうちょっと詳しくは、

▽病院建設にあたっての事業費の借り入れはどうなっているのか。また、償還計画はどうなっているのか。
 建設にあたっては、病院特例債81億1700万円と合併特例債を23億9500万円の105億1200万円を予定している。償還については、合併特例債は5年据え置きの30年償還で、19年から21年までの3ヵ年借り入れで26年から最大となり年間3億4000万円となる。

なにか読めば読むほど借金が膨らんでいくのですが、病院の総事業費は現時点で約96億円ですが、病院建設に当たって借りた借金の総額は約105億円で、これを返済しなければならなくなるようです。北秋田市の負債総額は議会答弁に約500億円とありましたから、病院建設に当たり400億円から500億円に増えたと考えるのが妥当のようです。

この償還は赤字補填とは別に支払う必要があるのですが、年度により多寡はあるでしょうが最大で3億4000万円とありますから、3億円前後は年間に必要と思われます。あくまでも単純計算による概算ですが北秋田市の負債総額500億円からすると年間15億円程度の償還が必要と思われます。この負担が年間予算200億円程度の北秋田市にとって重いか軽いか私の知識では判断が難しいのですが、10年間で22億円の赤字補填で問題になるぐらいですから軽くないのでしょう。

ここで病院建設による夢の中と後の負担の変化を表にしてみます。

項目 夢の中 夢の後
病院事業費の返済 3億円 3億円
病院からの収益 1億円 3億円
2億円 6億円


パラパラと拾ったデータだけで組み立てたものなので、これがどれだけ合っているかはわかりません。ただあくまでも推測ですが、元の事業計画では、病院からの収益がもっと大きくなると計算していたんじゃないかと考えています。指定管理者の夢の中の計画では当初の納付金は減価償却費と利子の1/2としていたようですが、これが限度額ではなく、病院の発展とともにもっともっと多くなる見積もりです。

これも憶測に過ぎませんが、病院からの納付金により、事業費の償還さえほぼ賄ってしまえる試算であっても、この手の事業計画なら驚くに足りません。公共工事の事業予測では良くある話です。だから100億円の負債が増えても、北秋田市としての負担がゼロないし年間数千万円程度であれば、立派な大病院が手に入るわけであり、誰も反対する理由はなくなるかと思います。


やや辛口の批評でしたが、考えようによっては世の中どうなるかはわかりません。削減一辺倒の医療費だってどこかで増額路線に転じないとも限りませんし、医師だって数年でバッチリそろう可能性だってゼロではありません。病院本体の赤字補填だって病院の経営が上向けばかえって有り難い収益源に化ける可能性だって無いとは言えません。

夢だけなら北秋田市の財政だって、突然大企業がワンサカ進出してきて法人税で潤うとか、物凄い金鉱が発掘されたり、石油がバンバン湧き出して金満自治体に変わる事も夢ならありえます。いっそプラチナとかダイヤモンドが掘り出されるなんてストーリーも如何でしょうか。ビックリするような古代遺跡が発掘された上に、温泉でも同時に噴き出して一夜にして大観光都市になってしまうと言うのも絶対に無いとは言えません。

そこまで非現実的にならなくとも総務省による自治体病院削減の圧力は強力ですから、北秋田市民病院自体が総務省からお取り潰しされるかもしれません。お取り潰しになれば赤字補填は解消し、債務の償還だけの負担になります。こういう時に問題になる退職金も、北秋中央病院が廃院となって新たに北秋田市民病院にあらたに就職する形態にしておけば、さしてかかりません。5年以内にお取り潰しになれば退職金は一般的にはゼロです。


どういう夢がこれから現実として展開するのかなんてわかりませんから、ここまで来れば悲観的に考えるより、楽観的な夢を紡ぎ続けるほうが前向きかもしれません。もっとも夢から醒めたら夕張だったになっても保証の限りではありません。まあ、夕張になっても住民サービスはかなり悪くなりますが殺されるわけでもなく、嫌なら引越しするのは自由ですから、そこまで腹を括れば怖いものはないかも・・・。