近江八幡のPFI

近江八幡の事を語るにはPFIへの理解が本当は必要なんですが、これがまた先日やった指定管理者制度を上回る難解さでお手上げ状態です。申し訳ありませんが、今日のところは特殊な委託契約とか、銀行管理の変型版ぐらいの理解で話を進めます。近江八幡で起こった事を参考にほんの少しでもPFIが理解できればもうけものぐらいと思っています。。

舞台となった近江八幡市総合医療センターは経営が優秀だった病院です。その証拠に平成元年には自治体立優良病院総務大臣表彰を受けています。表彰を受けても、その後に様々なドラマがあるのは、平成2年に表彰された市立舞鶴市民病院の例の如しですが、近江八幡にも大きなドラマが起きる事になります。経営にPFIを導入する判断です。

PFIが導入されたのは平成18年の10月です。PFI導入前の病院経営がどうなっていたかが公的資金補償金免除繰上償還に係る公営企業経営健全化計画にあります。この手の決算表を手際よくまとめるのが得意とは言えないのですが、

区分 平成14年度 平成15年度 平成16年度 平成17年度
収益的収入 医業収益 82億6600万円 78億800万円 74億1700万円 76億2000万円
医業外収益 1億5100万円 2億4700万円 1億6500万円 2億100万円
収益的支出 医業費用 79億800万円 75億8800万円 72億4700万円 74億1800万円
医業外費用 5億500万円 4億6400万円 4億5800万円 3億9200万円
特別損益 0円 0円 0円 0円
経常損益 400万円 300万円 -1億2300万円 1100万円
医業損益 3億6100万円 2億2000万円 1億7000万円 2億200万円
純損益 400万円 300万円 -1億2300万円 1100万円
累積欠損金 0円 0円 0円 0円
不良債務 -28億5000万円 -25億9500万円 -22億1100万円 -20億900万円


う〜ん、とくに福島とか岩手の県立病院の経営成績を見た後ですから「無茶苦茶優秀」しか見えないのですが、こういう状態で平成18年10月からPFIが導入される事になります。平成18年度と平成19年度のPFI導入による「見込み」と実際の平成18年度平成19年度の病院事業決算書があるので並べて書いてみます。

区分 平成18年度 平成19年度
計画 実際 計画 実際
収益的収入 医業収益 75億4800万円 75億4700万円 87億2800万円 84億2800万円
医業外収益 8億3600万円 8億3500万円 8億8100万円 9億2700万
収益的支出 医業費用 77億8000万円 77億7900万円 97億7200万 95億2100万円
医業外費用 7億4200万 7億4100万円 9億2200万円 11億8000万円
特別損益 -1億6900万円 -1億6900万円 -11億1400万円 -14億1100万円
経常損益 -1億3800万円 -1億3700万円 -10億8500万円 -13億4500万円
医業損益 -2億3200万円 -2億3200万円 -10億4400万円 -10億9300万円
純損益 -3億700万円 -3億700万円 -21億9300万円 -27億5700万円
累積欠損金 -2億8600万円 -2億8600万円 -24億8600万円 -30億4300万円
不良債務 -11億1200万円 -11億2500万円 -4億3800万円 -10億7100万円


もう一度白状しておきますが、この決算の見方がよくわかりません。私の乏しい理解として、PFI導入後の計画は平成23年度まであります。これを見る限り平成21年度には不良債務が解消する計画になっています。一方で累積欠損金が平成23年度には4億7000万円ぐらいになるとなっています。あくまでもどうやらなんですが不良債務を決算から消すような項目の付け替えが行なわれたように思われます。

ただし実質PFIフル導入1年目の平成19年度から不良債務は逆に膨らんでいます。医業収益が増えたのは平成18年秋に新病院が完成した効果があるとは思いますが、それ以上に医業費用が増えているのはわかります。



ここからの話も半分わかったような、わからないような生煮えの話になりますから、話半分ぐらいに聞いて頂きたいのですが、近江八幡PFIを導入したキッカケは病院新築のためです。この病院新築のためのPFI(受託機関としてはSPCと言うそうです)がやった事は、事業資金(建築資金)の貸付と、病院事業の受託です。大雑把ですがそんな理解でも的外れでは無いと思います。

建築資金は約145億円だそうですが、金利が30年返済で3.75%だそうで、固定払いにすると年間でおよそ8億1300万円になるようです。これをPFIにしてSPCから借りずに地方債で行なえば金利は約2.0%になり、年間の返済額は約6億4700万円になるとされ、その差は1億6600万円ほどになります。たかが1億6600万円とも言えますが、黒字経営に近かったとは言え、純損益ではほぼプラマイ・ゼロでしたからPFIで生み出さなければならない利益になります。

もう一つSPCへの委託料と言うのもあります。平成18年度10月からで7億3900万円、平成19年度は15億1100万円になります。これもまた非常に大雑把な理解ですが、PFIにした分の金利と、PFIのための委託料を合わせた17億円ほどをPFIによるメリットで確保する必要があります。

それとこれは私の誤解もあるかもしれませんが、平成17年度と平成19年度の事業収入のうち著しく増えている項目として、「その他医業外収益」と言うのがあります。平成17年度では9800万円だったのが、平成19年度には8億5300万円になっています。ほいじゃ「その他医業外収益」とは何かになりますが、

他会計負担金 700,000,000
保 険 金 14,000
そ の 他 153,537,309

平成17年度の他会計負担金は5000万円ですから、これも市の負担になると考えられます。見当外れになるかもしれませんが、近江八幡市は、

  1. 金利負担が年間1億6600万円増えた
  2. PFIのための委託料の負担が年間15億円増えた
  3. 一般会計からの繰入金が6億5000万円ほど増えた
近江八幡市として考えれば、PFIにする事により23億円ほど出費が増えたとも考える事が出来ます。PFI近江八幡市が期待したものは、23億円の出費を上回るメリットをPFIが生み出してくれるものと考えます。このうち一般会計からの繰入金は建設事業費の負担と考えても、金利として増えた1億6600万円はペイしてくれないと困ります。

病院経営での収入は医療行為となりますが、これは公定料金です。収入増のためにディスカウントも値上げも許されません。広告宣伝も限定されているのも言うまでもありません。さらに言えば、この病院の経営は優秀と言っても良いので、病床利用率、平均在院日数、外来患者数のノビシロはさほど多くありません。PFIの効果として期待されるのは事業費用、簡単に言えば経費削減になります。これを17億円ぐらいは結果として出さないと意味が無いという事です。

比較として判りやすいものとして、PFI前の平成17年度と10月からPFIが導入された平成18年度の事業費用を比較してみます。

区分 平成17年度 平成18年度 増減
給与費 38億9700万円 40億4000万円 1億4300万円
材料費 25億4500万円 21億4800万円 -3億9600万円
経費 7億800万円 13億4800万円 6億4000万円
減価償却 2億4600万円 2億1400万円 -3200万円
資産減耗費 100万円 700万円 600万円
研究研修費 1900万円 1900万円 100万円以下
支払利息及び企業債取扱諸費 8400万円 4億6500万円 3億8000万円
繰延勘定償却 0円 300万円 300万円
売店販売費 7100万円 3400万円 -3600万円
看護師養成費 1500万円 1400万円 -100万円
保育所 800万円 1000万円 200万円
看護師宿舎費 900万円 800万円 100万円以下
沖島診療所運営費 1000万円 1000万円 100万円以下
受託研究費 400万円 500万円 100万円以下
雑損失 1700万円 800万円 -900万円
雑支出 1億7000万円 1億8000万円 1000万円
特別損失 0円 1億6900万円 1億6900万円
78億1000万円 86億9100万円 8億8000万円


5000万円以上の増減があったところに黄色の背景を付けていますが、まず「支払利息及び企業債取扱諸費」はPFIでここを多く支払おうの計画であったようなのでそんなものだとします。「特別損失」はなんのこっちゃら判りませんので、これも事情だとします。給与費もとりあえず置いておきます。材料費が減ったのはPFI効果かもしれませんが、一方で経費がそれを打ち消すぐらい増えているのがわかります。

では経費の内訳がどうなっているかですが、平成19年度まで示します。

項目 平成17年度 平成18年度 平成19年度
委託料 PFIへの委託料 0円 7億3900万円 15億1100万円
PFI以外への委託料 0円 2億3800万円 7000万円
委託料以外の経費 7億800万円 3億7100万円 2億9700万円
経費総額 7億800万円 13億4800万円 18億7800万円


確かに委託料以外の経費は減っていますが、委託料以外の経費の削減効果を打ち消すぐらいの委託料が圧し掛かっているのがわかります。平成19年度を例に取ると、平成17年での経費を4億円削減するために16億近い委託料を支払っている関係になります。その他の支出項目は上記した通りですから、素人には無駄金以外の何もにも見えません。

正直なところ「なんのための委託料なんだ」以外の感想が出てきません。でもってどうなったかですが、これしかないので6/17付タブロイド紙より、

近江八幡市:病院事業、PFI解約で経営大幅改善 /滋賀

 近江八幡市は16日、09年度の病院事業決算について「(民間企業の資金やノウハウを活用する)PFIの解約などで経営が改善に向かい、4億9500万円の黒字が見込まれる」と発表した。

 医業収益は91億2850万円の見込みで大きな変化はないが、PFI解約によりSPC(特別目的会社)への委託料15億4600万円が不要になるなど出費が抑えられたという。市は、昨年総務省に出した改革プランの7億2700万円の赤字に比べ、収支が大幅に改善されたとしている。【斎藤和夫】

ソースがソースですがベタ記事なので数値は信用できるものとします。医業収益91億2850万円は、ほぼPFI計画の平成23年度に近いので、委託料がなくなったとして換算した対照表を作ってみます。

区分 PFI委託あり PFI委託なし 繰入金も無し
収益的収入 医業収益 91億6000万円 91億6000万円 91億6000万円
医業外収益 10億6400万円 10億6400万円 1億6400万円
収益的支出 医業費用 96億4900万円 81億300万円 81億300万円
医業外費用 8億1700万円 8億1700万円 7億6700万円
特別損益 100万円未満 100万円未満 100万円未満
経常損益 -2億4200万円 13億400万円 3億5400万円
医業損益 -4億8900万円 10億5700万円 10億5700万円
純損益 -2億4200万円 13億400万円 3億5400万円


あくまでもシミュレーションであって記事の数字とはあってませんが、あくまでも御参考までに。


素人が会計数値の感想を言っているだけですから、たとえばtadano-ry様ぐらいから厳しい指摘を受けるかもしれませんが、近江八幡PFIの数字を見回してのPFIの問題点です。問題はかなり単純化されそうな気がしています。もともと収入が100億円程度の病院に、15億円もの委託料を払って経営させたらどうなったかです。

15億円の委託料はモロに支出になりますから、これをどこかで取り返さないといけません。取り返す手法として、

  1. 収入を増やす
  2. 支出を減らす
単純ですがこの二つしかありません。ここでそもそもになりますが、現在の病院経営で100億円の売り上げでどれだけの利益を確保できるものなのかが問題になります。公立勝ち組病院として有名なところで大垣市民病院があります。2006年度データですが、事業収入250億円ほどでやっとこさ10億円の経常利益です。大垣市民の利益率をあてはめてもPFIをやれば赤字の可能性が高くなります。

つうかたぶん赤字です。事業収入100億程度で15億円もの委託料を要求していますから、大垣なら30億円から40億円の委託料であっても不思議でなく、そうなれば確実に利益を食い潰します。近江八幡クラスで適切な委託料は・・・そうですね、5億円でトントンぐらい、せいぜい2〜3億円ぐらいならメリットが出てくる可能性がでてきます。

それでもなんですがPFIはSRCにどこまでも美味しく出来ていまして、委託料を打ち切られても事業費の高利の貸付は残ります。140億円を30年で返済すれば利息は99億円になるそうですから、貸し金業としては文句は無いとも思われます。タブロイド紙PFIの説明として、

    民間企業の資金やノウハウを活用する
私には民間企業の資金を効率よく安全に利用させ、ハゲタカ企業のノウハウでさらに毟り取られる方式にしか見えません。近江八幡高知医療センターも目の玉が飛び出るほどの授業料をPFI方式に支払いましたが、それでもPFI導入を真剣に検討する自治体は多いそうですから、まだまだ授業料は支払い足りないのでしょうね。