岩手と福島

ssd様より

よくもあの岩手県立病院事業が、この程度の赤字で済んでいるなと感心すべきと思います。

そう言われればムックしてみたくなるのが人情です。比較対照として意味も無く福島を出してみます。データは、

ここから平成18年度から平成21年度までのデータをまとめてみます。まずですが、個々の県立病院の赤字黒字を表にしてみます。途中廃止されたところもありますから、平成21年度に存続中の病院でまとめます。病院が診療所に転向しているところもあるようですが、現在の医療機関名になるべく合わせて掲載しています。

医療機関 H.18 H.19 H.20
岩手 中央病院 * * *
紫波地域診療センター * * *
沼宮内病院 * * *
北上病院 * * *
花巻厚生病院 * * *
遠野病院 * * *
東和病院 * * *
大迫地域診療センター * * *
胆沢病院 * * *
江刺病院 * * *
磐井病院 * * *
千厩病院 * * *
大東病院 * * *
花泉病院 * * *
南光病院 * * *
大船渡病院 * * *
高田病院 * * *
住田地域診療センター * * *
釜石病院 * * *
大槌病院 * * *
宮古病院 *
山田病院 * * *
久慈病院 * * *
二戸病院 * * *
一戸病院 * * *
軽米病院 * * *
九戸地域診療センター * * *
福島 矢吹病院 * * *
喜多方病院 * * *
会津総合病院 * * *
宮下病院 * * *
会津病院 * * *
大野病院 * * *


ほぉ〜、岩手は27医療機関のうち平成18年度で7ヶ所、平成19年度で9ヶ所、平成20年度で7ヶ所の黒字医療機関があります。一方で福島は全部赤字です。2008年度の自治体立病院の経常黒字病院は25%ぐらいでしたから、黒字病院の比率だけで言うと岩手が平均的で、福島がやや悪いぐらいでしょうか。病院ごとの数字を追いかけるのは手間なので、県全体としてどうなのかを較べてみます。

年度 H.18 H.19 H.20 H.21(含む推定)
岩手 病院事業収益 934億9052万円 921億9万円 915億8105万円 918億3274万円
小分類 医業収益 809億8534万円 798億271万円 792億3279万円 799億1247万円
医業外収益 124億4258万円 122億9821万円 122億7371万円 118億4006万円
(一般会計繰入金) 136億8917万円 141億457万円 141億293万円 136億161万円
特別収益 6259万円 0円 7554万円 8021万円
病院事業費用 944億6132万円 931億8210万円 945億2338万円 939億9465万円
小分類 医業費用 877億6583万円 862億5795万円 872億2155万円 860億640万円
医業外費用 66億9548万円 69億2415万円 71億6112万円 77億3937万円
特別損失 0円 0円 1億4070万円 2億4888万円
医業損益 -67億8048万円 -64億5524万円 -79億8875万円 -60億9393万円
純損益 -9億7080万円 -10億8118万円 -29億4232万円 -21億6191万円
福島 病院事業収益 154億8366万円 126億1392万円 116億6790万円 117億3400万円
小分類 医業収益 108億6575万円 90億7405万円 94億1441万円 75億7700万円
医業外収益 46億331万円 35億509万円 32億3437万円 41億5700万円
(一般会計繰入金) 45億9172万円 34億8854万円 32億1081万円
特別収益 1458万円 3487万円 1911万円
病院事業費用 177億8053万円 145億6856万円 139億2979万円 134億6800万円
小分類 医業費用 165億6935万円 138億850万円 134億3281万円 *
医業外費用 3億73万円 5億2419万円 4億6334万円 *
特別損失 8億9044万円 2億3585万円 3364万円 *
医業損益 -57億359万円 -47億3445万円 -50億1840万円 -54億6100万円
純損益 -22億7687万円 -19億5463万円 -22億6189万円 -17億3400万円

(-28億円)


な〜るほどです。平成21年度の福島の純損益で括弧で-28億円としたのは、交付金の組み込みが無かった時の推定額です。この平成21年度成績の評価をメディアがどう評価したかを比べて見ます。

日付・新聞社 6/8付産経 6/15付KBS福島
見出し 岩手県立病院、赤字21億 改善目標に及ばず 県立病院赤字23%減少/昨年度
記事内容

 岩手県医療局が7日発表した平成21年度の県立病院等事業会計決算は、21億6191万円の赤字となった。18年度から4年連続の赤字。赤字幅は前年度の約29億円から約8億円縮小したが、赤字額を14億円に抑えるという改善目標には及ばなかった。累積赤字は約189億4200万円に達した。

 医療局によると、入院基本料のランク引き上げなどで、収益は918億3274万円(前年度比0・3%増)。費用も給与費減少などにより939億9465万円(同0・6%減)と、いずれも改善された。昨年4月に入院ベッドを休止した5カ所の地域診療センターでも、外来患者数の落ち込みなどはないという。

 しかし、医師不足の影響で、年間患者数が入院で6・2%、外来で7・9%減少。病床稼働率も1・6ポイント減の76%で、目標の80%に至らなかった。

 県医療局は今年度の赤字額を4億〜5億円に縮小し、平成23年度には黒字化を目指すとしている。


 平成21年度の県立病院事業の純損失額(赤字)は17億3400万円で、前年度の22億6200万円から5億2800万円(23・3%)圧縮された。

 医業外収益に国の地域活性化・経済危機対策臨時交付金の約11億円を活用したのが要因。

 ただ、医業収益は75億7700万円で、前年度に比べ8億3800万円(9・9%)減少し厳しい経営状況が続いている。

 県病院局が14日までに21年度決算をまとめた。

 総収益は117億3400万円、総費用134億6800万円だった。

 累積欠損金は241億7700万円に膨らんだ。

 医業収益の減少は医師不足で十分な診療態勢が取れず、入院や外来などの患者数が減少したことが主な理由。

 病院別の21年度赤字は会津総合が9億3881万円、大野が5億7425万円、喜多方1億7489万円、南会津112万円、宮下が106万円、矢吹32万円。

 このほか病院局本局が4329万円の赤字だった。



記事内容自体は言うほど差は無いのですが、記事で強調しているポイントが微妙に違っているのがお分かり頂けるかと思います。これも表にしてまめてみます。

項目 岩手 福島
平成20年度純損益 -29億4232万円 -22億6189万円
平成21年度目標純損益 -14億円 -18億円
平成21年度純損益 -21億6191万円 -17億3400万円
赤字削減額 7億8041万円 5億2789万円
赤字削減率 26.5% 23.3%
医業損益 -60億9393万円(H.20 -79億8875万円) -54億6100万円(H.20 -50億1840万円)
累積赤字 189億4200万円 241億7700万円
交付金注入 不明(たぶんなさそう) 約11億円
記事見出し 岩手県立病院、赤字21億 改善目標に及ばず 県立病院赤字23%減少/昨年度


岩手は赤字50%削減の目標を掲げて、結果は1/4の削減に留まっています。福島は赤字20%削減の目標を掲げて、これを上回る結果を残したと決算上は言えない事はありません。その点を見出しは表現しているのだと思われますが、岩手の評価はともかくです。福島が目標を達成できたのは平成21年度限りの「地域活性化・経済危機対策臨時交付金」の約11億円を注ぎこんだ結果です。

もしこの交付金が無ければ、純損益は28億円の赤字になり、赤字額は5億円増加し、赤字率は23.8%増えていたことになります。別に交付金を使って帳尻を合わせた事を悪いとは言いませんが、見出しが楽天過ぎる気がします。

記事のことは昨日も書いたので、これぐらいで良いとして、ssd様のコメントの

    よくもあの岩手県立病院事業が、この程度の赤字で済んでいるなと感心すべきと思います。
「よくもあの」は実感として正直良くわからない面もありますが、岩手が頑張ったのは確認できたかと思います。少しだけ気になるのは医業費用が12億円減った分のうち、給与費が16億円減少が大きい様に思います。これを適切なところからの削減であれば良いのですが、そうでなければ、どこかで無理が生じるんじゃないかと密かに心配しています。

もう一つ、医業損益は19億円ほど改善しているんですが、純損益は8億円ほどしか改善していません。その分、繰入金が5億円ほど減っていますが、この辺の相関関係はよくわかりませんね。あえて考えれば、繰入金は年度予算ですから、純損失が14億円になると想定して組まれた金額かもしれません。そう考えるとですが、医業損益は実際よりも、もう7億6191万円改善する必要があった事になります。

つまり結果として岩手で求められていた医業損益は-53億3202万円になります。そうなると県が立てた目標を達成するには、前年度より26億5673万円の改善が必要になり、医業損益の33.3%の改善が目標であった事になります。少々無理があるような気がしてならないのですが、

    県医療局は今年度の赤字額を4億〜5億円に縮小し、平成23年度には黒字化を目指すとしている
この言葉の意味するところは、「赤字額を4億〜5億円に縮小」とはおおよそ平成21年度の目標のやり直しに匹敵しますから、H.21年度程度の繰入金で医業損益を5億円ほど改善させる事になります。さらに平成23年度には黒字化すると言う事は、さらに繰入金が減る事を意味します。あくまでも推定ですが、15億円の純損益の改善目標のために繰入金を5億円ほど昨年度は減らしています。

この比率で繰入金が減ると仮定すれば、平成23年度の繰入金は昨年度よりさらに5億円程度は減ると想定されます。そうなれば医業損益の改善として求められるのは、

年度 H.20 H.21 H.22 H.23
繰入金 141億293万円 136億161万円 136億円 131億円
医業損益 -79億8875万円 -60億9393万円 -53億3202万円 -34億円
純損益 -29億4232万円 -21億6191万円 -14億円 0円


これも本来ならH.21年度に純損失が半減し、H.22年度には黒字化する計画であったと考えられますが、かなり厳しそうな感じがしてなりません。H.21年度の成績は立派ですが、来年度以降にさらなる大幅な改善が可能かどうかに注目したいところです。もっとも福島とはレベルの違うお話ですけどね。