新型インフルエンザワクチンへの開業医の悩み

悩んだところでどうしようもなく、開業医のボヤキみたいなものですが、6/5付け読売新聞より、

新型インフルのワクチン、年内に2000万人分製造

接種、11月ごろ可能

 厚生労働省は4日、年内に2000万人分の新型インフルエンザ(豚インフルエンザ)用ワクチンを製造する方針を固めた。

 米国から入手したウイルス株を、近くワクチンメーカーに配布する。メーカー側は7月上旬にも製造を開始し、11月ごろからワクチンの接種が可能になる見通しだ。

 国内のワクチンメーカーは4社・団体しかなく、製造量に限りがある。新型用ワクチンを製造するには、毎冬流行する季節性インフルエンザ用ワクチンの製造設備を切り替える必要があり、厚労省が新型用と季節性用のワクチン製造割合を検討していた。

 毎年1500万人程度が感染する季節性インフルエンザ用ワクチンは、「今月中に3000万〜4000万人分を確保できる見通し」(厚労省幹部)とされる。例年の製造量(約5000万人分)よりは少ないものの、同省は一定量は確保できたと判断し、新型用ワクチンの製造に切り替えることにした。

 2000万人分のワクチンがあれば、国民の6人に1人が接種できる。厚労省は持病があるなど、感染した場合、重症化しやすく、優先的なワクチン接種が必要な人には十分行き渡ると見ている。新型インフルエンザ用ワクチンは、季節性用ワクチンと併用しても害はないとされている。

まずまず記事批判ではありません、記事の骨子は、

  • 新型インフルエンザワクチンは2000万人分製造される
  • 季節性インフルエンザワクチンは昨年の5000万人分から3000〜4000万人分になる
ワクチン製造能力の限界がありますから、新型と季節性の分配はこんなものかとも思います。この点については知見がまだ十分で無いので情報をお持ちの方はよろしくお願いします。それとこの記事から分かる事は、新型と季節性のワクチンは別立てであることです。つまりと強調するほどの事はありませんが、別々に接種する必要があると言う事です。

あくまでも一つの予想ですが、今年は去年よりワクチン接種希望者が増える可能性があります。新型騒ぎがありましたからね。そういう観点から季節性のワクチンが減った分で足りるかと言う問題はあります。「3000〜4000万人分」が3000万本に近いか、4000万本に近いかだけでも影響は少なくなく、ワクチン不足騒動の再燃の心配です。

医療関係者以外の方は御存じないかもしれませんが、この計画生産量ですが、ワクチンが出来上がって最終検査を受けるまでどうなるかわからない怖ろしさがあります。最終検定は出荷の直前に行なわれるのですが、何年かに1回、ごそっと不合格になりワクチン不足が起こることがあります。希望者が増える観測があるところに予定の計画生産量が減少し、季節性であれ、新型であれ、検定落ちが大量に出る悪夢が頭によぎっています。もっともそんな事を心配しても仕方が無いので、その点はこれぐらいにしておきます。

新型ワクチンは生産量からして年齢制限がある程度行なわれるんじゃないかとは考えています。制限と言っても「・・・である事が望ましい」程度になります。それはいつもの事ですから、これも置いとくとして、新型の需要は今の感染防御体制が冬まで続くようなら膨大なものになる可能性があります。どういう事かと言えば、現在の感染防御体制は公式には第二段階ですが、さらに細分してあり、これは5/22の読売新聞の表がわかりやすいのですが、

純化すれば、神戸や大阪のように「患者の多い地域」になっているところは、たとえ新型インフルエンザに罹患しても、入院にさえ至らなければ季節性のインフルエンザと実質変わらない扱いになります。ところがそうでない地域は、患者が発見されれば症状の程度に関らず完治するまで措置入院が必要になります。この問題はお仕事をされている方なら深刻になります。原則として、市長だって、知事だって、国会議員だって、大臣だって扱いは同じになるはずです。

そうなれば新型インフルエンザによる欠勤や混乱を少しでも予防するために「予防接種をしておこう」ないしは仕事場で「予防接種はしておくように」になるのは何の不思議もありません。そういう普段以上に増えるであろう新型接種の希望者が2000万人分でどうであろうかの不安が出てきます。例年なら仕事が忙しいからと予防接種をされない成人の希望者の動向が非常に気になります。


そんなマクロの問題は開業医レベルでは関係ないと言えば関係ないのですが、一番現実的な問題は、どれほどのワクチンを準備しておくかと、新型の需要増加分があるのは確実ですから、どうやってこれを11月から12月の短期の間に接種するかです。ここも注釈しておけば、沢山買っておいて、残りは返品と言う手も使えますが、ワクチンが不足するほどこの手を使えば強烈なマスコミ・バッシングを食らう危険性が出てきます。行政からもバッシングはあります。

ワクチンの準備はインフルエンザワクチンの商慣行が難題です。今は6月ですが、7月には希望本数を発注する必要があります。季節性のほうは毎年の事ですから、去年より少し多めに発注する事で対応しようと考えていましたが、新型が難題です。需要予測が大変読みにくいのです。これは季節性との兼ね合いもあるのですが、考えられる組み合わせとして、

  1. 季節性のみ
  2. 新型のみ
  3. 両方
例年季節性を希望する方が新型もセットで接種を希望すると予測すれば、季節性とほぼ同じ数のワクチンの準備が必要です。ただどちらも自費ですから、かなりの金額負担が生じる事になり、どちらかを選択をする方も出てくるかもしれません。どういう動向になるかは、厚労省の方針、マスコミの報道により急激に変わりますから、これを7月に予測するのは大変な難題です。措置入院の方針さえどうなっているのか予想するのはかなりの難度です。

現場での接種もまた難問で、新型分の説明が増えるだけではなく、新型も季節性と同様に2回接種ならどう対応するかは頭を悩ますところです。とりあえず左右の同時接種で対応しようと考えていますが、これも「好ましくない」なんて通達が出されたら現場的には悲鳴が上ります。今のところの対応は冷蔵庫にワクチンが収納しきれないので買い替えようかぐらいしか具体的には考えていませんが、決断の7月は目前です。