10mlバイアルはどうなるだろう

国産ワクチンは当初2000万人分予定だったのが、ウイルス増殖が悪いとして1600万人分程度に下方修正された後、最終的に2700万人分に増えています。理由はいろいろ取り沙汰されていますが、有力な原因として10mlバイアルの大量生産により増えたというのがあります。現在把握できる予定も含むワクチン数は、

これらの情報から供給ワクチン数をまとめると、


0.5ml 1ml 10ml
第1回(10/9) 0本 36万4729本 2万2498本
第2回(10/20) 0本 21万9561本 5万628本
第3回(11/6) 24万9800本 約83万本 約9.6万本
本数合計 24万9800本 約141万4000本 約16万9000本
1回接種換算 24万9800人 約141万4000人 約304万2000人
2回接種換算 12万4900人 約70万7000人 約152万1000人
人数比率 5.3% 30.0% 64.6%


現時点で判明している出荷量の実に2/3が10mlバイアルという事になります。この10mlバイアルは1本で18回分の接種を行うことが出来ます。「行うことが出来る」と言うのは逆に言えば、18人単位で予防接種を行わなければならないと言う事です。1mlバイアルであれば2人分ですから、最悪でも半量のロスで済みますが、10mlバイアルではロスの量が多くなる懸念があります。

現在の情勢ではワクチン希望者は多いと推測されます。さらにワクチン供給量は当面非常に不安定になります。簡単に言えば「希望者 >> ワクチン量」状態になる可能性が高そうです。新しい風<宮崎市郡医師会のブログ>によれば、11月の優先接種者は、

    妊婦65万人
    基礎疾患を有する者(最優先)600万人
合わせて665万人が対象となっていますが、これらの対象者は2回接種であり、そのうちの1回目を11月に接種するとします。第1回出荷分は医療従事者に使われましたから、第2回及び第3回出荷分が間に合うとしてワクチンの接種回数は約500万回分になります。100%効率でワクチンが使用されても75%の充足率です。

優先対象者のうちどの程度の割合が接種を希望するかは蓋を開けてみないとわかりませんが、かなり足りない印象があります。とくに妊婦は65万人想定としていますが、チメロサール抜きの0.5mlシリンジ製剤は24万9800回分しかなく、計画数の半数が希望しただけで不足することになります。チメロサールについての議論は避けますが、妊婦がどれほどチメロサール入りのワクチンを選択するかも不明です。

そうなればワクチン希望者の待機リストが医療機関に形成される事になります。そのうえ新型接種は完全予約制で行うことが接種要領に明記されていたかと思います。そうでなくとも時期により優先者の区別はうるさいところです。

季節性ワクチンの場合は医療機関によって異なるでしょうが、原則は予約制のところが多いと考えています。しかし予約制は取りますが、ワクチン接種は予約通りに行えるかどうかは当日が済んでみないとわかりません。別に難しい理由ではなく、当日に体調不良となる(インフルエンザも大流行中です)、他の急用が出来る、忘れるなどです。

季節性であれば1mlバイアルないし0.5mlシリンジのみですから、予約の人数が減っても問題としてはあまり大きくなりません。それこそ職員で余った分を接種するとか、飛び込みの希望者で適当に調節するというのも良くあることです。かかりつけですから、近所の希望者に誘いの電話を行なうなんてのも時に行ないます。しかし現在の新型ワクチンはそういう調節弁を使いにくいところがあります。

下手に飛び込み希望者に接種すれば「あそこの診療所は飛び込みでOKだ」の噂が立っても困ります。せいぜい待機リストの上位から順にお願いするぐらいしか手がありません。職員で調節したくとも、医療従事者の優先期間は既に終了したそうで、下手に接種すると何を言われるかわかったものじゃありません。


それにしても大量にある10mlバイアルですが、問題は一体どうやって消費するのだろうです。保健所が集団接種でも主催してくれれば良いのですが、医療機関サイドにとっては非常に使いづらいものです。ここで「いししのしし」様からの情報があります。

また、今後の各医療機関に対するワクチンの割り振りは卸の業者に丸投げするようです。

この辺は地域によって違いもあるでしょうが、都道府県なり医師会なりが医療機関の配分を行なっていたら大変な事務作業になります。簡単に考えて、

  1. 都道府県の在庫量を常に確認する
  2. 医療機関からの発注を常に集計する(五月雨式に続きます)
  3. 発注量と在庫量を較べながら、公平に配分数を決める
こんな作業を輸入ワクチンが出回る頃まで行なう必要があります。輸入ワクチンが出回る頃にはまた一悶着あるでしょうが、それは置いといて、非常に煩雑な作業ですし、そもそも医師会なら、これを担当しなければならないのかの問題も出てくると思います。

ただし卸問屋に丸投げとなると、医療機関側は建前上、ワクチンの規格やメーカーの指定は出来ないとはなっていますが、微妙な駆け引きが出てきます。もし10mlバイアルしか手に入らないのであれば、阿吽の呼吸が生じます。卸問屋にしても医療機関との付き合いは新型ワクチンだけではありませんから、そういう事です。

そうなれば可能性として2/3もある10mlバイアルは倉庫に山積みになります。さらにそういう状態であれば、本来は市場原理が働き、値引いて売ると言う選択もありますが、コチコチの公定価格ですから身動きできないと言うわけです。もちろんそうなるかどうかは、誰にもわかりません。

わからないと言うのは、悪い方で言えば、10mlバイアルを使えるほどの接種希望者が集まる医療機関は、現在季節性のワクチン接種に忙殺されています。それこそ予約は11月どころか12月までビッシリのところもあります。そんな状態で18人単位で新型接種を増やす余力が無いという事です。一方でもっと小規模に予防接種を手がけている医療機関は18人も1日に接種は行なわないのが現実です。

それと実感としてよく分からないのですが、500万回(500万人)の接種が行われたとしても、1日にコンスタントに18人も新型ワクチン接種希望者が現れるかどうかです。机上のプランでは「予約制にして集めて一度に接種」でしょうが、接種希望者の方がそう都合よく予約日に固まってくれるかは難しい問題です。

良い方で言えば、とくに来年1月以降にになって海外産ワクチンが豊富に供給されてからになりますが、季節性が一段落(去年の8割しか生産されていません)がつき、新型接種も手がけようという時に、定番の海外製品忌避現象が起こることです。国産希望が増えれば需要と供給が一致しますから、売れ残っていた10mlバイアル(たぶん国産しかないと思っています)の人気が高まる可能性です。

どっちに転ぶか、それとも全然違う展開が出現するのかは神のみぞ知るです。


話はずれますが気になることがあります。医療機関は購入すれば返品不可となっています。では卸問屋は販売会社から購入すればやはり返品不可なのでしょうか。さらに言えば販売会社は国から購入する事になるはずですが、これも返品不可なのでしょうか。流れを書けば、

なんとなくですが、国は販売会社に全量売りつける予感がします。売れ残ると国庫の持ち出しになりますから、公定価格で問答無用で販売会社に押し付けるスタイルです。そこから先はどうかは不明ですが、「たぶん」卸問屋は医療機関が発注した分だけしか販売できないはずです。販売会社も同様に卸問屋が発注した分だけしか販売できないと考えます。通常の商取引ならそうなります。

輸入ワクチンまで考えると「余る」観測が小さくないですが、最後にワクチン在庫が溢れるのは販売会社になるかもしれません。もっともその時には、また政治的判断で国が販売会社から買い取るかもしれませんが、最悪在庫の山で四苦八苦するかもしれません。今から心配するには早いかもしれませんが、どうなるかはその時のお楽しみです。

まあ、医療機関に強制配布して買い取らせるなんて事も絶対無いとは言えませんけどね。その時はまた怒るでしょうが、それぐらいの事ぐらいが平然と起こるのが新型インフルエンザ対策です。