総務省から公立病院改革ガイドラインが示されています。古い話題なんですが、どうも今まで取り上げてなかった(自信がないのですが・・・)ので遅まきながら読んでみます。全文を紹介すると長いので概要のポイントの「第1」と「第2」を引用します。
第1 公立病院改革の必要性
第2 公立病院改革プランの策定
- 公立病院の役割は、地域に必要な医療のうち、採算性等の面から民間医療機関による提供が困難な医療を提供すること
(例えば?過疎地?救急等不採算部門?高度・先進?医師派遣拠点機能)
- 地域において真に必要な公立病院の持続可能な経営を目指し、経営を効率化
- 地方公共団体は、平成20年度内に公立病院改革プランを策定
(経営効率化は3年、再編・ネットワーク化、経営形態見直しは5年程度を標準)
- 当該病院の果たすべき役割及び一般会計負担の考え方を明記
- 経営の効率化
- 経営指標に係る数値目標を設定(参考例・・・別添1)
- 財務の改善関係(経常収支比率、職員給与費比率、病床利用率など)
- 公立病院として提供すべき医療機能の確保関係 など
- 一般会計からの所定の繰出後、「経常黒字」が達成される水準を目途
(地域に民間病院が立地している場合、「民間病院並の効率性」達成を目途)
- 病床利用率が過去3年連続して70%未満の病院は病床数等を抜本的見直し
- 再編・ネットワーク化
- 都道府県は、医療計画の改定と整合を確保しつつ、主体的に参画
- 二次医療圏等の単位での経営主体の統合を推進
- 医師派遣拠点機能整備推進。病院間の機能重複を避け、統合・再編含め検討
- モデルパターンを提示(別添2)
- 経営形態の見直し
こんな感じです。これが出されたのが平成19年12月24日であり、
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地方公共団体は、平成20年度内に公立病院改革プランを策定
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経営効率化は3年、再編・ネットワーク化、経営形態見直しは5年程度を標準
- 再編・ネットワーク化
- 経営形態見直し
地方自治体の為政者にはよほどの覚悟が無いと「廃院」の選択枝は無い事になり、総務省の改革ガイドラインをクリアしてのサバイバル計画を立てなければならない事になります。目標は、
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一般会計からの所定の繰出後、「経常黒字」が達成される水準を目途
採算性等の面から民間医療機関による提供が困難な医療を提供すること
採算性の悪い部門への一般会計の繰り出しは認めるが、それ以外は黒字にせよとの指示かと解釈します。医師に言わせれば採算性も何も、料金を設定しているのも国なんですから「何を言っているのか」のツッコミが入りますが、ここは軽く流します。とりあえず地方政治とって一番無難なのは、経営効率化だけで終わってくれる事です。「経常黒字」を参上してお咎め無しの世界でしょうか。次善は経営形態の見直しでしょうか。
そこで問題になるのが現在の経営状態です。中央社会保険医療協議会 調査実施小委員会(第23回) 議事次第の日本病院団体協議会提出資料にこんなのがあります。
開設主体 | 平成18年度赤字率 |
国立 | 69.29 |
公立 | 92.73 |
公的 | 58.90 |
医療法人 | 25.33 |
個人 | 21.21 |
その他 | 47.67 |
これは平成19年提出資料ですから、これより現在はさらに悪化していると考えているのが妥当です。ちなみに公立病院改革ガイドラインで総務省が出した資料は、
高知医療センター(高知市池)を運営する県・高知市病院企業団(吉岡諄一企業長)は21年度までの収支計画を見直し、今後3年で入院・外来などの医療収入を約19億円増(17年度比)とする方針を固めた。国の診療報酬改定に合わせた看護体制の拡充などで収益増を図り、病院経営を圧迫している薬剤など材料費についても調達の仕組みを改める。15日の県・市病院企業団議会の議員協議会に報告した。
今回の収支計画見直しで17年度約121億円だった医療収入は、21年度約140億円に増加する見込み。
高知県では平成17年度に121億円だった医療収入が平成21年度には140億円になる計画を打ち立てます。高知のケースはガイドライン対応か時期的に疑問ではありますが、3/14付室蘭日報では、
プランの基本目標は(1)一般会計からの繰り出し後、経常収支比率を23年度までに100%以上とする(2)8億8,611万1,000円(19年度決算)の不良債務を24年度までに解消する―と設定した。
まあ、まあこんな調子です。一見大変そうですが、よく考えてみれば、こういう需要予測に基づいた採算性の予測はお役所にとってお家芸のはずです。かんぽの宿やグリーンピアを持ち出すまでもなく、全国の自治体が数え切れないぐらい抱えている各種の施設は、建設前はすべて「黒字運営」の予測であったはずです。委員会で厳密な試算が行われ、議会で真摯に討論された後に承認されているからです。
ですから赤字病院を黒字に試算など朝飯前と言えるかと思います。問題は結果を審査するのが議会なのか、総務省なのかの差ぐらいです。つまり自治体議会で首長なり部局担当者が、赤字の原因を追及された時に「予測を超えて需要が少なく・・・」の儀式のような常套句が通用するかどうかが焦点になるかと思います。
この需要予測って物凄いもので、神戸にも神戸空港と言う大きなお荷物が震災後のドサクサに作られました。これの需要予測が衆議院議員の質問主意書にあります。
神戸空港の需要予測によると、年間の利用旅客数は開港当初で三四〇万人、五年後には四二〇万人が見込まれている
この420万人と言うのは搭乗者数を指すらしく、神戸空港のとりあえずの発着上限は1日30便だったので、そうなれば、
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420万人 ÷ 365(日)÷ 30便 = 383.6人/便
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340万人 ÷ 365(日)÷ 30便 = 310.0人/便
現実は2/16付神戸新聞より、
神戸空港はきょう十六日、開港から丸三年を迎える。航空会社による運休・減便の影響もあり、三年目の搭乗者数は二百六十八万三千人と過去最低を記録。三年連続で需要予測(三百十九万人)に届かなかった。
総務省は自治体議会より厳しいですから、経営改善計画が破綻したら本命である再編計画を断行するつもりでしょうが、モデル案(たいていは決定案)を示しています。
- 経常黒字の経営改善計画を出させる
- 自治体が作文を提出する
- 結果は予想の通り
- 結果から本命の再編路線を断行する
後は総務省の本音の思惑がどこにあるかで、公立病院を大幅に整理してしまいたいのは本音としても、整理統合の矢面に立つ気がどれほどあるかです。促進させる隠微な手段はたくさん持っていますから、総務省としても「自治体の自由な意思により」の形態にしたいと考えているかと思っています。自治体も総務省も本当に怖いのは住民パワーとそれに便乗する政治です。
そうなると自治体と総務省の腹の探りあいの経営改善計画になり、経営形態の変更あたりでお茶を濁すのか、再度の改善計画を提出させてダラダラと時間を稼ぎながら様子を見るのかも現実的にはありうる路線です。現在の政治状況は御存知の通りで、国としても評判の良くない政策を断行するには政治が不安定すぎるところがあるからです。
話が飛ぶのですが、総務省の再編のモデル案で気になったところが一つだけあります。たいした意味は無いとは思うのですが、再編前もそうで再編後はすべてそうなのですが中心になるのは「S病院」です。「S」は総務省の「S」にも読めますが、今流行の「スーパー」にどうしても読めてしまうのです。消防庁も総務省の管轄ですからね。