なつかしの桑名市民病院

どっかで聞いた事がある名前と思ったら、2006年に桑名事件が起こった病院です。久しぶりに読み返したらノスタルジックな思いに浸ってしまいました。そんな桑名市民病院が久しぶりにネットの話題になっています。4/20付Asahi.com MY TOWN三重です。この記事についての論評はssd様のライトついてますかをお読み下さい。コメ欄も含めてこれ以上何も付け加える事がないほどの出来栄えです。

記事そのものを突付くのは余りにも出涸らしの二番煎じですので、桑名市民病院HPにある桑名市民病院あり方検討委員会答申書を紹介したいと思います。この答申書が出されたのは、

    平成18年8月
奇しくも桑名事件の和解の3ヶ月前に答申されています。委員会のメンバーは、

役職 名前 肩書き
会長 余語弘 小牧市民病院名誉院長
副会長 坂井温子 三重県北勢県民局桑名保健福祉部 桑名保健所長
委員 新保秀人 三重大学大学院医学系研究科 胸部心臓血管外科学 教授
委員 新山宏二 社団法人 桑名医師会会長(新山耳鼻咽喉科
委員 樋口幸一 公認会計士・税理士(総務省地方公営企業経営アドバイザー)


この手の委員会で大活躍をされている長氏はいないようですが、「総務省地方公営企業経営アドバイザー」の方は名を連ねておられます。委員の構成としては、三重県から1人、三重大から1人、医師会から1人、総務省から1人で、会長は・・・City-1によりますと、

余語先生の紹介には必ず「元小牧市民病院院長」という注釈が付いています。先生が小牧のボロ病院をあっという間に医療面、経営面で全国のトップレベルの自治体病院に仕上げられた手腕は、もう病院経営のプロとして伝説になろうとしています。

どうも知る人ぞ知るカリスマのようです。そう言えば坂出にもそのタイプのカリスマはいましたね。


委員はこのぐらいにして答申書を読んでいきます。

 桑名市民病院は、昭和41年に9診療科、一般病床数125床、結核病床数25床の150床の総合病院として開設され、その後増築などを行い、現在は16診療科、病床数234床を有する公的医療機関として、地域住民の健康保持に必要な医療を提供してきた。

現在の病院概要はどうなっているかですが、診療科は16あります。病床規模は

    一般病床313床(本院一般病床234床、分院一般病床79床)
どうやら分院と言うのがあるみたいなんですが、分院の沿革を確認すると、元は特別医療法人和心会平田循環器病院であったらしく、分院のURLも「hiratahp.or.jp」となっており、病院機能評価まで獲得していますが、詳しい事はわかりませんが、とにかく分院となっています。

 市民病院の収支構造は、医業収益が伸び悩んでいる。病棟は4病棟分の人員配置を抱えているにもかかわらず、現在の病床利用率は約60%であり、3病棟分の収益の獲得も困難な状況である。また、同規模の自治体病院における病床利用率の全国平均値は、約80%であり、これと比較しても大きく下回っている。入院患者数の減少による入院収益の低下が医業収益の伸び悩みに大きく影響している。

 その一方で、医業収益に占める人件費の割合が80%に上り、膨らんだ人件費が経営を圧迫している。

 その結果、年間平均約1億円の経常損失を計上し、平成17年度末までの累積欠損の総額は21億円余まで膨らみ、繰入金の拠出元である桑名市一般会計の負担も多大なものになっている。

とりあえず赤字なんですが、病床利用率が60%で、人件費が80%にも関らず、桑名市からの繰り入れ金があるにしろ、年間たった1億円しか赤字が出ていない事がわかります。繰り入れ金がどれぐらいかですが、医療経営財務協会のページの2006.8.30付読売新聞に、

    一般会計からの繰り出しは99年度以降、毎年4〜6億円に上る
こうなっています。99年度は少し古いのでもう少し新しい情報として2007.3.2付日刊建設工業新聞には、
    08年度は一般会計当初予算案に補填(ほてん)額として約3億4千万円が計上された。
2007年の桑名市の予算規模は957億円となっていますが、もう1億円ほど繰り入れれば会計上は黒字になる計算になります。もっとも平成22年度一般会計予算は250億円ほどですから、957億円はなんじゃらほいになりますが、こういう状況で「市民病院の課題」を検討しています。

 卒後臨床研修制度を始めとする国の医療政策により、医師数の地域格差は増大し、三重県下の医師の不足は慢性化しつつある。この現状は、近々に改善する状況にはなく、市民病院のあり方の検討に当たっても、現状のままでの必要な医師の確保は極めて難しい状況にあることを認識し、これを前提として検討した。

なかなか素晴らしい見解で、医師を集めるのが難しい前提で考えるとしています。2006年時点でもそうでしたが、2010年の今はさらに厳しくなっているかと思われますから、非常に素晴らしい見通しと思われます。医師を集め難いという前提をした上でさらに、

市民病院が属する北勢保健医療圏は、三重県の保健医療計画における基準病床数6,326床、現在の既存病床数6,432床であり、106床の病床過剰地域である。

保健医療計画の基準病床数が実地に適した基準と必ずしも思いませんが、現実に病床利用率が60%ですから余剰地域かもしれません。経営改善の鍵はここまで読めば病床利用率の向上と人件費比率の改善が考えられます。つうか、人件費は定員がありますから改善できるのは事務職員ぐらいで、一番の鍵は病床利用率の向上のようにも思えます。いわゆる損益分岐点を上回る収入があれば人件費比率も低下するとの考え方です。

問題はどうやって病床利用率を改善するかなんですが、

 現在、市民病院は、地方公営企業法のうち財務規定のみが適用される一部適用の下に運営されているが、経営責任の明確化や経営の効率性に問題があり、これを継続することに疑問が残る。従って、病院運営の機動性、柔軟性、透明性を高め、患者サービスの向上と望ましい病院のあり方を実現するためには、経営形態そのものの見直しまで踏み込んだ検討が必要である。

総務省地方公営企業経営アドバイザーが入った時点で経営形態の話は出るのは必然ですし、この答申に基いたかどうかは調べていませんが、今は地方独立行政法人になっているようです。


さてなんですが、ここまでの経営改善のための答申の前提条件は、

  1. 医師は集まり難い
  2. 地域の病床数は過剰気味である
その上で
  1. 病床利用率を上げる
  2. 人件費比率を下げる
こういう目標をどうやって達成するかを考える事になります。なかなか難しそうな条件なんですが、この病院をどうするかの方針の中に実は建て替え問題があります。答申には、

 現在の市民病院は、昭和41年に建築されたものであり、耐震性の確保、1床当りの床面積(47平方メートル、最近の病院:60〜80平方メートル)、患者の移動と廃棄物を含めた物品の搬出入が、一基のエレベーターのみで行なわれている等々、魅力ある病院として十分とは言え難い状況にある。

なんとなく話がきな臭くなってきましたが、答申の目的の一つとして、建てかえ後の病院像を提示すると言うのがあるようです。老朽化とそれに伴う設備の劣化、医療の進歩等に対する改善は、一部改修よりも全面建て替えの方がコスト的にはかえって安上がりの場合もあるとされますから、建て替え自体を否定はしませんが、どうにも類似のお話でうまく行っていないものが結構ありますから心配するところです。

ここまで答申の方向性からすると現状維持ないし、場合によってはもう少しこじんまりして、病床利用率の向上による経営改善を目指すのかと思っていたら、どうも違うようです。

 次に、市民病院が含まれる桑員地区は、北勢保健医療圏の中でも病院数が多く、特に中規模の病院が複数あるという特徴があり、主に外来診療で対応できる一次医療を提供する体制は充実している。一方で、一定の専門的な機器と病床を備え、救急・入院医療に対応できる二次医療を、一つの病院で完結できる医療体制はなく、体制の構築が急務である。

 このような状況に鑑み、また、二次医療及び急性期医療に対応できる高度医療を提供する役割は、公立病院が果たすべきであることを考慮すると、市民病院に求められる基本機能は、財務等情報開示に積極的に取り組みつつ、二次医療の提供を行う自己完結型の急性期病院であり、求められる機能を十分発揮するためには400床前後の病床数を確保することが適当である。

中規模病院が多い地区なので、そこで桑名市民病院の存在感と言うか、特色を出すために大規模病院に建てかえる結論としています。現在は分院もありますが、当時は本院だけですから、

    234床 → 400床
ほぼ倍増の答申を行なっています。病床数が倍増すれば医師もそれだけ必要になるのですが、「集まり難い」状況でどうやって集めるかの方策が必要なはずです。これについては、

 先に述べたとおり、医師の確保が極めて困難な状況にあり、特に臨床研修医について市民病院は実績ゼロという状態が続いているが、臨床研修医を含めた医師確保の上で鍵となるのは、市民病院を医師・患者双方にとって魅力ある病院とすることである。病床数・診療科の増加等の取り組みを行うことにより、医師・患者双方にとって市民病院が魅力ある病院になるよう希望するものである。

どうも答申の医師集めのキーワードは、

    医師・患者双方にとって魅力ある病院
えらく抽象的な表現で具体的な内容が見えて来ないのですが、ここもどうやら、
    病床数・診療科の増加等の取り組みを行うことにより、医師・患者双方にとって市民病院が魅力ある病院になる
う〜ん、これは新築のデカイ病院を作れば医師は集まってくると解釈すれば良いのでしょうか。そうは問屋が卸さないケースが多いような気がするのですが、桑名市はそういう結論で動いているようです。

もう一つ問題があります。これも答申にあるようにこの地区では許可病床が過剰状態になっています。いくら桑名市が200床ほど増やすと言っても、おいそれとは増やせない状態です。これについてはかなり具体的な対策が提示されています。

 国は、病床数過剰の中、病院の再編を促すため、公立病院と民間病院の再編後の病床数の確保のあり方について、平成18年6月より規制を緩和した。すなわち、再編後の公立病院と民間病院の病床数の合計が、再編前の合計病床数に比べ減少するのであれば、再編後の病院の病床数として確保することを認めるというものである。北勢保健医療圏が病床過剰である状況下で、400床前後の新しい病院を実現するためには、新たな制度を活用することにより対処すべきである。

へ〜、と言うところですが、公立病院と民間病院が再編(合併)して新病院を作れば、合併前の病床より少なければ認可される政策てのがあるそうです。とは言うものの民間病院がホイホイと再編にのるかどうかは不透明です。病院に限らず合併すると言うのは大変な作業を必要とします。人事からシステムまで統合に関しては半端な作業ではありません。

民間病院も黒字であれば再編後の利器確保は大きな課題になるでしょうし、赤字であれば合併後にどう処理するかの問題も生じます。黒字なら合併はあまり考えないでしょうし、赤字の弱者連合となると、これもまた実際問題として何か「特例」でもないと進めるのは難しそうな気がします。

民間病院との再編が進まないケースも書かれていまして、

 現行の234床のまま、高度医療機能を備えた施設による運営を開始した上で、その後の増床により、400床前後を最終的な病床数とする病院を目指すことを検討されたい。

民間病院との再編が進まない時には現行の234床で運用するのは他に手段がないので良いとして、建て替え問題はどうするんでしょうか。234床で作る病院と400床で作る病院では基本設計が違います。良くある形態として、234床病院を作って、建て増し、建て増しで対応するというもありますが、あれはあれで問題が多そうな気がします。

では400床規模の病院を作り上げて、部分運用と言う手法もあります。これは建設後に徐々に充実させていくと言う点でまだ合理的にも見えますが、問題は建設費用の返済になってきます。こういう時の新病院の設計と言うか事業費は、400床なら400床で目一杯のものを作る傾向が著明です。簡単に言えば400床として作ったからには、400床が動いてくれないととても返済できない事業計画になります。400床で作って、234床で運用すれば赤字がどう頑張っても積み重なる寸法です。

そうなれば最初に戻って、再編(合併)で400床以上を確保してから新病院建設に進むのが一番良いのですが、ここで気が付きました。だから去年に民間病院を分院にしたと言う事になりそうです。分院化した事により313床になりましたから、もう一つ100床前後の民間病院を分院化すれば目標の400床に達します。そうなれば現在でも400床計画は変わらず進行中と言う事になります。

調べてみると具体的な話も出ているようで、元ソースは2008.12.25付朝日新聞のようですが、

 桑名市民病院と山本総合病院(桑名市)の統合問題で、水谷元市長と山本総合病院の栗田秋生理事長が24日、統合協議をいったん白紙に戻すことで合意した。ただ、来年以降、両病院に市や医師会なども加えた新たな協議の場を設置することを決め、両病院の統合にも含みを残した。

この山本総合病院ですが、基本理念・沿革を読むと、

    平成3年4月 許可病床数増床。<病床数349床>
わ〜ぉ、もし統合すれば662床になります。つうか病床数だけなら現在の桑名市民病院より大きな病院です。この話は難航しているようで、1/6付中日新聞には、

三重県桑名市民病院の再編統合問題で、水谷元市長は五日の年頭会見で、山本総合病院(同市)との統合交渉が再び白紙に戻ったことを明らかにした。

まあ313床と349床が合併して400床程度にするのであれば、職員の処遇問題からして難題山積ですから、まとまらなかったんでしょうね。ついでですからもうちょっと調べてみると、ネチズン桑名会議〜イザ館〜様の市のお荷物市民病院統合巡って右往左往。 には、

桑名市桑名市民病院(二百三十四床、足立幸彦院長)との統合を市内医療機関に呼び掛けていた問題で同市は十日、平田循環器病院(桑名市中央町一丁目、七十九床、平田和男院長)から統合協議の申し入れがあったと発表した。平田院長が五日、市役所を訪れ、水谷元市長に口頭で申し入れたという。

後はリンク先を読んで頂きたいのですが、どうもですがまず山本総合病院を本命として統合協議が行われ、山本総合病院との協議中に平田循環器病院が統合を申し入れたようです。桑名市は山本総合病院との協議を優先させ、もしまとまれば平田循環器病院とは協議しない予定であった様子が窺えます。ところが結局のところ山本総合病院との協議はまとまらず、平田循環器病院が分院となった経過のようです。


答申に戻りますが、次もおもしろいところです。、

なお、現行の病床数のまま高度医療機能を有することについては、医師の確保の点で困難を伴う可能性があることから、400床前後への増床はなるべく早期に実現すべきである。

ここは医師を集める手段として400床が絶対の切り札と考えているのが確認できるところです。少々の無理を押しても400床の新病院が建設されれば医師はドカドカ集まり、経営は速やかに好転するはずだとしていると見れます。答申では新病院の建設時期まで書かれていまして、

3年後の平成21年度を目途に新病院の運営が開始されることを希望する。

これは残念ながら達成できなかったようです。それでも院長挨拶には、

    現在当院は、新病院の建設を目指して動き出しています。桑員地区にて二次医療を最終的に引き受けることの出来る地域中核病院を交通至便な場所に実現したいと考えております。
答申を読んだ感想としては、独法化して400床の新病院を建設すればすべてはバラ色になると書いてある様にしか読めません。その方針に従って去年の10月1日にまず独法化は達成されたようです。病床数も目標の400床まで後100床足らずです。これも400床にこだわって、もう一つ100床クラスの病院の統合を目指すのか、現在の313床で見切り発進するつもりなのかはわかりません。

答申の勢いからすると400床ないと医師が集まらない気もしますが、私の感想として400床あっても医師が集まるかどうか不透明な感じがしてなりません。間違いないのは新病院は建設されるだろう事だけです。それでも桑名市にも桑名市民病院にも恨みがあるわけではありませんから、黒字経営の立派な新病院が桑名市民の皆様の手に入る様に祈っておきます。