アドバイスを考える

2/27付読売新聞・秋田より、

北秋田市民病院 医師不足/常勤医半数のみ 全科一斉開業は絶望的

 2009年10月1日の開業に向け建設が進む北秋田市北秋田市民病院が、医師不足の影響で、開業時に必要としていた31人の常勤医のうち半数しか確保できていないことがわかった。今後、新たに医師を確保できる見込みは低く、全診療科の一斉開業はほぼ絶望的だ。総事業費約91億円をかけた拠点病院はオープン時からつまずくことになる。

 岸部陞(すすむ)市長は26日の市議会定例会で、議員からの一般質問に対し、秋田大や弘前大(青森県弘前市)、都内の病院などに医師を派遣してもらうよう依頼に出向いたが、「条件が合わない」などの理由で医師確保が思うように進んでいない状況を説明した。議員が「構想を再度見直しては」と質問すると、4月に退任を決めている岸部市長は「新しい市長がもう一度考えるのではないか」と答えた。

 市民病院は、県内を8医療圏に区分した二次医療圏の中で拠点病院がなかった北秋田医療圏(北秋田市上小阿仁村)の拠点病院として整備することを岸部市長が公約に掲げていた。

 病院の運営は、指定管理者に決まっているJA秋田厚生連が担い、現在、北秋田市で経営している北秋中央病院を廃止し、医師らスタッフを市民病院に移す。

 市医療推進課によると、確保できる医師は、北秋中央病院に勤務する15人しかめどが立っていないという。赤石利法課長は「診療科によっては、医師が集まり次第、順次開業するかたちになるだろう」と話している。

 市民病院は地上4階、地下1階、延べ床面積約2万5000平方メートル、320床。21の診療科を設け、地域がん診療拠点病院や地域救命救急センターとなる計画だ。

 しかし、医師が集まらなければ、こうした高度医療を担う中核病院の機能が果たせなくなる。大学卒業後の研修医を受け入れる臨床研修病院の指定も目指していたが、指導環境も整えられず、若手医師を確保できる見込みも立たない。

 北秋中央を含め県内で9病院を経営する厚生連の関係者は「ほかの厚生連病院も医師が足りず困っている。新しくて立派な病院だが、医師不足の病院では、医師一人の負担が大きくなり、今後も敬遠されてしまうだろう」と打ち明ける。

話の要点は北秋田医療圏(北秋田市上小阿仁村)に新たな拠点病院を作ったというものです。まず北秋田医療圏の人口がどれほどかと言うと、

合計すると41323人。面積は秋田県の10%ほどになるそうですが、診療圏人口としては4万人あまりという事になります。拠点病院である北秋田市民病院ですが、新設でなく従来からある北秋中央病院を廃止して拡張新設する計画になっています。簡単に比較しておくと、
    北秋中央病院:16診療科 医師15人 199床
    北秋田市民病院:21診療科 医師31人 320床
病床を6割増しにして診療科も5つ増やそうというものです。北秋中央病院の現在の診療科は、こういう具合になっており、一方で北秋田市民病院の予定の21診療科は、え〜と、増える予定の5つの診療科は、医師が15人から31人に増える分はこの5つの診療科だけでなく、従来の診療科の充実を含んでいると考えますが、医師募集には、
    内科 急募
    脳神経外科 急募
    循環器科 急募
    呼吸器科 急募
    消化器科 急募
    その他診療科随時募集しております
麻酔科、放射線科、リハビリテーション科はどうするんだろうと思うのですが、きっと「その他」に含まれているのでしょう。ちなみに募集条件は、


研修医(1年目)


411,200円

研修医(2年目) 531,400円

医師免許取得後5年目


833,200円


医師免許取得後10年目


1,042,100円

上記以外 家族手当 ・ 通勤手当 ・ 住宅手当等


ちょっと図が綺麗ではありませんが、御勘弁ください。

ここで人口4万程度の診療圏にこれだけの病院が本当に必要だったのかであるとか、この御時世に16人の医師を集めるアテがあったのかとか、市長が元は北秋中央病院の院長で、市長退任後に今度は北秋田市民病院の院長に就任するんじゃないかの噂とか、そもそも「退任するから後は知らん」は無責任ではないかとか、建設費用の91億円は高すぎるんじゃないの話はとりあえず置いておきます。


今の市長は4月で退任との事ですから、次期市長は嫌でも前市長の遺産である北秋田市民病院をなんとかしなければならなくなります。建設を推進した市議なら自業自得とも言えますが、そうでない方が市長になれば4万足らずの北秋田市にとって物凄い負担になるのはすぐに予想されます。とりあえず心配するのは199床から320床に増えた分の看護師募集がどうなっているかです。これがもし順調なら320床分の看護師を抱える事になりますが、医師は199床分の15人しかいません。

医師が足りないから病床の制限をしたとしても、320床分の看護師の人件費を抱える事になり、すみやかに経営を圧迫します。では経営のために199床分の医師で320床をフル回転させると厚生連の関係者の言葉どおり、

新しくて立派な病院だが、医師不足の病院では、医師一人の負担が大きくなり、今後も敬遠されてしまうだろう

これは相当遠慮がちの発言で、募集しても敬遠されるだけではなく、現在の15人の医師も負担に耐えかねて逃散するのは時間の問題になります。批判は容易ですが、この難題を抱え込む新市長に何かアドバイスを考えて見たいと思います。とは言うものの超がつく難題ですからアドバイスは簡単じゃないのですが、外野として思いつくのは、

    新病院に移転予定の15人の医師を大切にする
この15人だって意向はわかりません。ここからさらに脱落されると完全に機能麻痺に陥ります。大切にするにはいろいろありますが、せめて給与面はなにか策を施す必要があります。給与面だけでは限界がありますから、病床規模をフルの320床ではなく従来の199床に近い規模で運用する必要があります。そのために、
    看護師募集をその程度の規模に留める
あまにも常識的なアドバイスなんですが、私ではこれ以上の「妙手」は思い浮かびません。後の医師募集の方法としては、全国各地で起こる大量辞職の情報を鋭敏にかき集め、水面下で積極的にヘッドハンティングをかけるぐらいになります。たとえば遠いですが宮崎県立延岡病院なんてのもあります。

ただ問題は現市長の退任は4月である事です。看護師募集一つにしても、あくまでも新病院オープンまでに「医師が充足する」前提で活動されれば、新市長はその状態で引き継ぐ事になります。これは看護師だけでなく事務員や検査技師もそうなります。頭が痛いところです。そうそう幾ら困ったからと言って、苦境の打開を相談してはならない人物もいる事をアドバイスに付け加えてもよいでしょう。その人物とは、九州の某有名大学の医療システム学教授です。

もちろん新病院を痛手を負っても粉砕する気なら、奥の手でそんな手段もあるという逆説的な価値はありますけどね。