中日新聞のガイドライン

まずは2/15付東京新聞より、

事件報道のあり方 見直します 裁判員制度開始を前に

 東京新聞中日新聞社)は、今年五月の裁判員制度開始を前に事件報道のあり方を見直し、「事件報道ガイドライン」を作成しました。事件報道の意義を再確認するとともに、可能な限り情報の出所を示すなど記事スタイルを一部修正。バランスの取れた事件報道を目指します。

 ガイドラインに沿った新表記は既に試行しており、三月一日から正式に実施します。

 ガイドラインは、捜査段階と裁判段階に大きく分けて、事件報道のあるべき姿を詳述。捜査段階では、「容疑者=犯人」ではないという原則をあらためて確認し、これまで以上に容疑者側の取材に努めて言い分を掲載していきます。

 裁判段階では、法廷でのやりとりが中心となる裁判員裁判を視野に入れ、より分かりやすい報道を心掛けます。

 写真や見出しについても、読者の予断や偏見を招くことがないよう注意します。

別に悪い事は書いてなくて、裁判員制度が行なわれるにあたり「事件報道ガイドライン」を作って報道に万全を期しますとの記事です。ただこの記事だけではガイドラインの内容がはっきりしないのですが、東京新聞中日新聞と同じ系列の新聞社であり、【中日新聞社の事件報道ガイドライン】がありました。消えては困るので魚拓も取っておきます。ここで「概要」となっているので「すべて」ではなさそうですが、少なくともここに書いてあることは遵守すると考えて良さそうです。ところで記事には、

記事スタイルを一部修正

一部修正とあるからには現在はこのガイドラインに基づかず報道されている部分があるということです。それがどこであるかを具体的な証拠とともに指し示すのは大変ですから控えますが、私が思い当たりそうなところを指摘だけしてみたいと思います。

◆「情報の出所」を明示する

 事件・事故についての情報は、圧倒的に捜査当局に取材したものが多いが、そこには主観や誤導が入り込む可能性がある。弁護側に取材したものも同様にバイアス(偏り)がかかっている恐れがある。

 特に事実関係に争いがあるケースでは、互いに自らに有利になるよう情報提供することも考えられるが、情報源があいまいなままでは、読者はそうした「前提」を意識して読むことができない。

 今後は、読者に判断材料を提供するため、「○○署によると」「□□容疑者の弁護士によると」といったふうに可能な限り情報源を明示していく。

    これは今まで「情報の出所」の明示が可能であっても、必ずしも明示していなかったのかもしれません。
◆「逮捕容疑」は区別して書く

 逮捕容疑について、これまで本紙は「調べでは、〜した疑い」などと書いてきた。しかし、この書き方だと、書かれていることが逮捕容疑なのか、ほかの捜査情報を含むのか明確ではない。

 読者の中には「新聞社の調べ」と誤解している人もいた。今後はそうした誤解を防ぐため、「逮捕容疑は、〜としている」「〜とされる」などと明示し、逮捕容疑の内容に絞って書くことにした。書類送検や短い記事の場合は「容疑は、〜としている」「〜とされる」などとする。

    これは明らかな修正点として考えてよいでしょう。
◆「否認」の主張は必ず盛り込む

 容疑者が逮捕容疑について認めているか否認しているかは、読者が事件の内容について判断する上で、重要な要素となる。

 認否については、これまでも原稿に盛り込むことが多かったが、今回、否認していることが分かった場合は必ず、その旨を書くことを明記した。

 供述は容疑者・弁護側から取材することが望ましいが、捜査段階では弁護士がついていなかったり、誰か分からなかったりすることもある。そうした場合は、捜査当局を通じて供述を取材し、情報源を明示した上で、認否を明らかにする。

    事件の性質にもよるでしょうが、「否認」の主張は必ずしも盛り込まれてなかったかと記憶しています。また盛り込んでもそれに続いて、非常に否定的な見解を盛り込んでいたようにも記憶していますが、それについてはどうなるのでしょう。「必ず」としていますから今後が注目されるのですが、捜査当局からの自白情報やリーク情報で踊って欲しくないところです。
◆「現行犯逮捕」でも断定しない

 現行犯逮捕のケースでは、これまで「強盗の現行犯で、○○容疑者を逮捕した」といった書き方をしてきた。しかし、痴漢冤罪(えんざい)事件など、現行犯で逮捕されても「犯人」とは限らず、裁判で無罪となることもある。

 そこで今後は、現行犯逮捕の場合でも通常の逮捕と同様に「強盗の疑いで、○○容疑者を現行犯逮捕した」などと「疑い」を付け、あくまでも「容疑」がかけられた段階であることを明らかにするようにした。

 ただし、衆人環視の中で起き、逮捕された容疑者の犯行であることがはっきりしている場合は、これまで通りの表記とする。

    これは明らかな修正点として考えてよいでしょう。
◆「余罪」や別件逮捕 明確に区別

 窃盗事件などでは、余罪の多さがニュースになることがある。しかし、逮捕容疑そのものは少額の窃盗にすぎず、あとは捜査当局の「見立て」にすぎないことが珍しくない。

 そこで、今後は逮捕容疑と余罪の見立てを明確に区別し、まず逮捕容疑を書き、その後、情報の出所を明記した上で、容疑以外について書くことにした。

 「余罪」という言葉は、既に罪があることが前提となるので原則として使わず、例えば「○○県警によると、□□容疑者は『ほかにも100軒以上に盗みに入った』と供述している」などとする。

 別件逮捕も同様で、まずその段階の逮捕容疑について書く。より重大な事件への関与の可能性がある場合は、「○○さん殺害についても関連を調べる」などと付記する。

    これも修正点として考えてよいでしょう。
◆「無罪推定」の原則を尊重

 事件の背景を理解する上で、容疑者・被告の成育歴や友人関係などのプロフィル(横顔)は重要な要素となる。

 だが、刑事司法の原則は「無罪推定」。容疑者らを犯人と断定できない段階、特に否認しているケースでは、犯人視した報道は避けなくてはならない。

 仮に当事者が犯行を認めている場合でも、不当におとしめることは許されない。近所の人の憶測を裏付けなしに記事にしたりせず、情報の出所を示して、信頼できる情報を節度を持って書く。

    これは明らかな修正点として考えてよいでしょう。
◆前科・前歴は必要性を吟味

 前科・前歴は原則として書かないことになっている。かつて罪を犯したとはいえ、刑期を終えれば更生したと見なされるからだ。

 しかし、例えば、殺人犯が出所後に再び殺人を犯したとして逮捕されたり、拳銃を使った犯罪を繰り返したりした場合は、現在の事件の背景を理解するために、過去の犯罪に触れざるをえない。

 前科・前歴の掲載はその必要性を吟味し、慎重に判断する。

    これは明らかな修正点として考えてよいでしょう。
◆「起訴事実」は「起訴内容」とする

 容疑者が起訴された段階では「無罪推定」が働いている。また、起訴状の描く構図の通りに裁判で事実認定されるかどうかは分からない。これまでは「起訴状によると〜した」と断定的に書いてきたが、裁判員に予断を与えたり、憲法で定める「公平な裁判を受ける権利」に影響を与えたりする可能性があった。

 このため、今後は「起訴状によると〜としている」「〜とされる」といった書き方に改め、あくまでも検察側の主張であることを示す。同様の理由で「起訴事実」という表記は「起訴内容」とした。

    これは明らかな修正点として考えてよいでしょう。
◆双方の主張のバランスに配慮する 

 これまでの裁判報道では、裁判が始まったばかりなのに、検察側の冒頭陳述の内容を確定した事実であるかのように報じることがしばしばあった。今後は、検察側の冒頭陳述や論告を検察側の主張にすぎないことを明確にし、「主張した」「指摘した」といった表現にとどめる。弁護側の冒頭陳述や最終弁論についても相応に報じ、双方のバランスに配慮する。

    これは明らかな修正点として考えてよいでしょう。
◆見出しで予断を与えないようにする 

 「見出し読者」という言葉があるように、見出しの影響力は大きい。記事が配慮の行き届いたものであったとしても、見出しが配慮に欠ければ、意味がなくなってしまう。

 ガイドラインは、見出しについても「情報の出所明示」など、なるべく原稿と同じ原則を適用。見出しにより、予断や偏見が生じないよう戒めている。

    見出しについては相当酷い例を散見します。あくまでも印象ですが、断定としか思えないような見出しもあったかと思います。どう配慮するか注目しましょう。
◆写真でも不当におとしめない

 記事と同様に、写真や写真説明でも、容疑者を不当におとしめないようにする。

 容疑者の写真を掲載する場合は、あえてふてぶてしく見えるような写真を選んだりしない。

    わざわざ書くという事は、従来は「あえてふてぶてしく見えるような写真」をあえて選んでいた事になり、これも明らかな修正点と考えられます。
◆被害者に誠意もって取材

 被害者側の取材は、事件の本質に迫るためにも、捜査当局の情報を検証する意味でも重要だと考える。

 一方で、事件で苦しむ被害者・遺族を傷つける「2次被害」は絶対に起こしてはならない。報道の自由を振りかざすのではなく、被害者側の心情に配慮して、誠意を持って取材に当たる。

 被害者側が参加した裁判などで、被害者らが被告に感情的な言葉をぶつける場合があるが、記事にする際は、被告を不当におとしめないようにする。

    ここも「報道の自由を振りかざすのではなく」とまで書いていますから、従来は報道の自由を振りかざし、被害者側の心情にさして配慮せずに取材を行なっていた事が少なくなかったかと考えられます。

簡単に突っ込んで見ましたが、あくまでも個人的な印象ですが全面改訂に近いようにも受け取れます。もっとも「修正点」の「概要」を紙面に掲載しただけで、掲載されていない他の膨大な部分に対して「一部」なのかもしれません。個人的に、これまでも「そうあるべし」事柄ではないかと感じるのですが記事に

今年五月の裁判員制度開始を前に事件報道のあり方を見直し

見直すのは良いことですが、取り様によっては裁判員制度が無ければ修正されなかったとも考えられます。そんな揚げ足ばかりを取ってもしょうがないのですが、もう一つ気になる点があります。ガイドラインに書かれている事は裁判員制度が適用される裁判に主眼が置かれているように感じます。もう少し広く取っても刑事訴訟・刑事事件に関するガイドラインの様に考えられます。

これが民事事件ならガイドラインの適用はどうなるのでしょうか。民事事件の方が考えようによっては扱いは慎重に為されるべき事例が多いように感じます。民事の考え方の原則は当事者同士の争いごとの仲裁であり、犯罪の有無による刑罰の適用とは異なるからです。公表されたガイドライン概要で医療訴訟にあてはめて少しだけ考えると、

◆双方の主張のバランスに配慮する 

 これまでの裁判報道では、裁判が始まったばかりなのに、検察側の冒頭陳述の内容を確定した事実であるかのように報じることがしばしばあった。今後は、検察側の冒頭陳述や論告を検察側の主張にすぎないことを明確にし、「主張した」「指摘した」といった表現にとどめる。弁護側の冒頭陳述や最終弁論についても相応に報じ、双方のバランスに配慮する。

テンプレートがあるかのような医療訴訟報道では、原告が提出した訴状に基づく主張を「内容を確定した事実であるかのように報じることがしばしばあった」と感じます。あくまでも私が感じただけですが、『「主張した」「指摘した」といった表現にとどめる』程度であったか疑問に思っています。また訴訟が始まったとの報道はよく行なわれますが「弁護側の冒頭陳述や最終弁論」ものが報道された事は稀かと考えます。一応被告の医療機関にも取材が行なわれますが、これも定型文の様に、

    訴状が届いておらず、内容が確認できないからコメントできない
これでは「双方の主張のバランスに配慮する」になっていないような気もしています。

もう一つ

◆見出しで予断を与えないようにする 

 「見出し読者」という言葉があるように、見出しの影響力は大きい。記事が配慮の行き届いたものであったとしても、見出しが配慮に欠ければ、意味がなくなってしまう。

 ガイドラインは、見出しについても「情報の出所明示」など、なるべく原稿と同じ原則を適用。見出しにより、予断や偏見が生じないよう戒めている。

訴訟開始前から「医療ミス」と大見出しで書かれていた件は幾つもあったような気がします。民事では被告と言っても刑事と違い、原告によって「訴えられた人」の意味です。争い事が私レベルでは収まらずに公である裁判所に移行した状態です。もちろん事柄によっては責任を認めた上で、賠償額を争う事もあるでしょうが、医療訴訟の多くは裁判開始時点では被告も「責任無し」と主張しています。つまり訴訟の時点でも被告に責任があるかどうか不明なわけです。

それを訴訟時点でもそうですし、訴訟開始前でも「医療ミス」の見出しが躍るのは好ましい状態とは思えません。是非民事であっても、

    見出しにより、予断や偏見が生じないよう戒めている
こうあって欲しいところです。

もう一つだけこれは笑いそうなんですが、

◆被害者に誠意もって取材

 被害者側の取材は、事件の本質に迫るためにも、捜査当局の情報を検証する意味でも重要だと考える。

 一方で、事件で苦しむ被害者・遺族を傷つける「2次被害」は絶対に起こしてはならない。報道の自由を振りかざすのではなく、被害者側の心情に配慮して、誠意を持って取材に当たる。

 被害者側が参加した裁判などで、被害者らが被告に感情的な言葉をぶつける場合があるが、記事にする際は、被告を不当におとしめないようにする。

これは医療訴訟ではマスコミに殆んど無いように感じます。医療訴訟における原告を被害者と新聞社が認定したら手厚い援助の手を差し伸べます。訴訟前から幾度も支援記事を書き、病院側の不手際を厳しく糾弾されています。さらにそれだけでなく原告が訴訟に及べば、弁護士の手配まで協力された新聞社もあったかと思います。

新聞社が裁判の支援を行う事の是非は意見が分かれるところかと思いますが、せめて、

    被告を不当におとしめないようにする
これぐらいは実行して頂きたいところです。


なお医療報道で漠然と例に挙げた事柄は中日新聞がそうであったと書いているわけではありませんから誤解無いようにお願いします。またどれも漠然たる例ですから、どこかの新聞社の記事を具体的に指し示す意図はありませんから、その点もよろしくお願いします。

ガイドラインは「概要」だけですから全容がわかりませんが、中日新聞におきましては裁判員制度に関与する刑事事件・刑事訴訟だけではなく、他の刑事訴訟及び民事訴訟にも、開示された部分だけでも、このガイドラインの精神を広く及ぼして欲しいと願います。できれば他の新聞社もそうして頂くと非常に建設的かと思います。