ICカードで医師動向把握 患者たらい回し解消へ
ICカードで病院内の医師の動向を把握して救急隊に最適な搬送先を指示できる救急医療情報システムの開発に向け、岐阜大学医学部を中心に産官学が連携して2009(平成21)年度から、県内で実証実験に取り組む見通しになった。患者の「たらい回し」の解消にも効果が期待される。20日内示された09年度予算財務省原案で、この実証実験を含むプロジェクトに3億円が盛られた。
医師にICカードを携帯してもらい、病院内に設置したセンサーで、「手術中」「診療中」など勤務状態をリアルタイムで把握。自動的に専用サーバーに情報を送る。一方でサーバーは救急車に装備した端末から患者の情報も受け取る。
こうした医師の業務状況と救急患者の傷病状態の双方の情報を基に、最適な受け入れ可能病院を素早く救急隊に示す「人工知能」を組み込んだシステムの開発を目指す。
早ければ09年度から岐阜、高山、美濃加茂市の計3病院で医師の動向を把握する設備を整え、順次、救急車に端末を導入する計画。11年度ごろをめどに救急救命センターなど10―15病院、救急車75台への拡大を目指す。
この話の出所は、11/10付産経新聞の
厚生労働、経済産業両省は10日、医師の稼働状況や受け入れ可否を判断できる最新鋭の情報伝達システムの共同開発を行うことを決めた。舛添要一厚労相と二階俊博経済産業相が同日、合意した。
これを受けてのものかと考えられます。システムの概要は、
- 医師がICカードを携帯
- 病院内に設置したセンサーで、「手術中」「診療中」など勤務状態をリアルタイムで把握
- 自動的に専用サーバーに情報を送り、サーバーは救急車に装備した端末から患者の情報も受け取る
- 医師の業務状況と救急患者の傷病状態の双方の情報を基に、最適な受け入れ可能病院を素早く救急隊に示す
この画期的なシステムの鍵は2つで、
- センサーで勤務状態をリアルタイムで把握できる事。
- 医師の業務状況と患者の傷病状態で「人工知能」が受け入れを自動的に判別できる事。
まずなんですが、東京都周産期医療情報システムのPC上の画像です。
これはうまく行かないだろ.
このアイデア出したの絶対にIT技術者じゃないよね.そんなことをしたって問題解決しないのは,我々自身が既に経験済みだもの.*1デスマーチの最中に,上司がこんな物を持ってきて入力を義務づけたら,その上司を病院送りにするかもしれんぞ.
*1:「ITスキル標準」とか.「Javaができます ○/×」「JavaScriptができます.○/×」「Linuxサーバー管理経験あり ○/×」.こんなものでスキルが把握できたら苦労はない.
現行のシステムについての評価は低いというより地を這うものであるのがわかります。現実にもほとんど役に立たないのは医療者が日々実感しています。それと今回開発予定の画期的なシステムについては。
そもそもそんな便利なものがあったら,とっくにIT業界で技術者の最適配置に使ってるってば.*2結局バグトラッキングシステム云々といったところで,最終的に診断するのは現場の技術者だよ.自動診断するエキスパートシステムは実用化されてない.*3
始まる前から税金の無駄づかい確定コース.
そもそも位置情報はそこまで精度が高くないし,何をやってるかまでは判断できない.
*2:昔ポケベル,今携帯.技術者を呼び出す手段はあるけど,稼働状態や技能や不具合原因までは把握しとらんわな.
*3:なんかTracとかを参考にして開発したほうが,まだマシなものができそうな気がしないでもない.ただしリアルタイムでなければだが.救急医療で難しい理由の一つは,「一刻を争う」という点にもあるんだよね.
少し補足しておくと「位置情報はそこまで精度が高くない」はJavaBlack氏が判断した時には
医師に位置情報を把握できる医療用携帯電話を持たせて、自動的に診療中か否かを判断できるシステム
これが条件の前提であったので注意は必要です。もう一度言いますが私はITの先端技術には素人なので差し引いておいて欲しいのですが、今回の画期的なシステム開発に求められる条件を整備しておこうと思います。
- ICカードを携帯する事により院内の医師の位置情報が把握できる
- ICカードを持つ医師の勤務状況がリアルタイムで把握できる
- 救急隊員は手打ちで傷病情報を発信する
- 医師の業務状況と救急隊の傷病状況で「人工頭脳」が受け入れを自動的に判断する
しかし他の3条件は相当な難問と感じられます。ICカードの携帯方法は普通に考えてポケットに入れるか、首などにぶら下げられたりする名札に入れると考えられます。さすがに体に埋め込むという手法は人権問題もあり不可能かと考えます。持っているだけのICカードが
「手術中」「診療中」など勤務状態をリアルタイムで把握
こういう情報を収集し情報を専用サーバーに送るのは技術的に不可能かと思われます。やはりどう考えても携帯電話のGPSより精度の高い位置情報を送る以上の機能は無理と考えるのが妥当です。もちろん位置情報だけではなく医師の基本情報の送信は可能です。専門とする診療科とか経験年数ぐらいは固定情報ですから、これを送信する事は可能でしょう。そうなるとICカードと院内センサーで蒐集される医師の業務状況とは
- 医師の院内の正確な位置情報
- 医師個人の基本情報
ただ医師がボタンを押して「手術中」「診療中」などの情報を発信するのなら位置情報の把握はそもそも不要となり、多忙になればなるほど「そんな事」は後回しになって忘れられますから、現実的に考えられる方法としては位置情報だけで勤務状況を把握する手段を取るのが最も可能性が高いと考えられます。
次に救急隊からの傷病状況ですが、これは当たり前ですが救急隊員が入力する事になります。この入力情報ですが、最終的に「人工知能」が判断するわけですから、整理の悪いアナログ情報では困ります。救急隊員が限られた時間の中で情報として収集が可能で、なおかつ「人工頭脳」が判断しやすい項目に整理されるかと考えられます。
私は救急隊からの照会を直接受けた経験が余り多くないのですが、ちょっと考えてみると、
- 年齢、性別
- バイタル(呼吸数、体温、脈拍)
- 酸素投与の有無
- 意識状態
- 主要症状
- 重症度
- 傷病発生時刻
こうやって割り切って考えるとシステムの構築は案外容易かもしれません。医師の業務状況の把握も粗いものですし、救急隊からの傷病情報も大雑把なものですから「人工知能」に要求される役割もそれほど高度なものとは思われません。そのせいかもしれませんが、
この実証実験を含むプロジェクトに3億円が盛られた
3億円程度で開発の目星はつくとされているようです。3億円から考えられる事は、使われるIT技術は既存のものの流用で殆んど賄えるの腹積もりかと感じられます。問題はこの画期的なシステムが役に立つかどうか、またこれまでの電話問い合わせシステムを過去のものにしてしまうほどの効果があるかですが、どうしても疑問に思えます。
それともたった3億円で私の想像を遥かに超える驚異の新技術が生み出されるのでしょうか。3億円でこれを請け負う産官学の主体である、とくに産のIT技術者に同情の念が出てきそうな感じです。でも不況だから手を上げて受注をディスカウントしてまで取ってくる営業はいるんでしょうね、そういう世界であるとも耳にした事があります。