臨床研修に関するアンケート調査

調査結果もありますから、良ければ御覧下さい。このアンケートが行なわれた趣旨と言うか目的として、

現在、文部科学省厚生労働省の合同検討会において、臨床研修制度等のあり方について有識者により検討が行われています(参考資料参照)。このアンケート調査は、医学生や現場の先生方の臨床研修に対するお考えを把握し、合同検討会での議論を一層深めるため、全国医学部長病院長会議及び臨床研修協議会が共同して実施する調査です。アンケート調査の趣旨をご理解いただき、ご回答下さいますよう、お願いいたします。

目的のキモは、

これである事がわかります。もちろんそういう検討会のためにアンケート調査を行う事自体は必要なことです。ただこういう種類のアンケート調査は、質問項目の設定に導きたい結論のための意志が埋め込まれる事があります。どうもそう受け取られそうな部分もあるように感じられますから、順次検証してみたいと思います。

まずなんですが、

一見何気ない出身地調査なのですが、かなりくどい印象があります。これに次の質問が重ねられます。
この4つの質問を重ねると、
  1. 現在、あなたの実家(父母の家)が所在する都道府県はどこですか。
  2. あなたが高校等を卒業する前までに過ごした期間が最も長い都道府県(出身地)はどこですか。
  3. あなたが卒業した高校が所在する都道府県はどこですか。
  4. あなたが臨床研修(いわゆる初期研修)を行う予定の病院(あるいは、行っている病院、あるいは、行った病院)が所在する都道府県はどこですか。
前半3つの質問はなんらかのファクターにより研修医の出身地を分けようとする意図が感じられます。それを3つの質問で特定した後に、現在の研修病院のアンケートを入れることにより、関連性が結び付けられます。出身地調査のくどさから何らかの意図をもって質問項目が設定された事を窺わせます。他にも興味深い質問項目がありまして、
これもかなりしつこく給与面の事を繰り返し質問しています。この質問項目で注目して欲しいのは
    仮に、全国すべての研修病院が同じ給与になった場合
どうもこれに関連してと考えれる質問項目が、
ここの質問の前半2項目は、研修期間の短縮とそれに伴う研修診療科の削減についてのものです。それをした上で、
    仮に、国等の公的機関が医師を計画配置
計画配置を行なうなら研修医の給与は原則として全国一律である必要があります。ちょっとまとめると、
  1. 研修医の出身地をあるファクターで分類する
  2. 研修医の給与を全国一律とする
  3. 研修医を計画配置する
さらに付け加えれば
  1. 初期研修の短縮
  2. 初期研修診療科の削減
こういう事をしたいと想定しての質問項目の設定であると考えられます。こららの質問項目がある事を確認した上で、12/18付くまにちコム読むと興味深いものがあります。

臨床研修、1年に短縮を提示 医師不足で厚労、文科両省 2008年12月18日

 医師不足の一因とも指摘されている医師の臨床研修制度について、厚生労働省文部科学省は18日までに、現行2年の研修期間を実質1年に短縮するなど現場で働く医師を確保する見直し案をまとめ、厚労・文科合同の専門家検討会に提示した。検討会はこうした方向で議論し、年度内にも結論を出す。早ければ2010年度からの導入を目指す。

 現行では、医師免許取得後2年間で7つの診療科の研修が必須だが、見直し案では、1年で内科や救急などの基本となる診療科の研修を終了、後半1年は将来専門とする診療科に特化させ、現場で診療も担わせる。

 また、診療科ごとの偏在を招かないよう、小児科や産科など医師不足が著しい科でも一定の研修医を確保できるよう対応を検討する。地域偏在解消については、募集定員に地域ごとの上限を設けたり、地域医療の研修を一定期間必須にすることを盛り込んだ。

 現行の臨床研修制度は04年度に導入。それまで出身大学での研修が通例だったが、導入後は研修先を選べるようになったため、症例の多い都市部の民間病院に希望が集中。研修医を確保しにくくなった大学病院が、派遣していた医師を地方の自治体病院から引き揚げる動きが相次ぎ、地方の医師不足の要因とされた。(共同)

元は共同通信のようですが、非常に関連性がある事がわかります。記事のエッセンスを取り出せば、

  1. 現行2年の研修期間を実質1年に短縮
  2. 1年で内科や救急などの基本となる診療科の研修を終了
  3. 小児科や産科など医師不足が著しい科でも一定の研修医を確保
  4. 募集定員に地域ごとの上限を設けたり、地域医療の研修を一定期間必須
ほぼアンケートにある項目を網羅した方針であると考えられます。ではですが、方針を決定したアンケート結果はどうなっているのでしょうか。4つの質問の結果を見てみます。

問10

 仮に、全国すべての研修病院が同じ給与になった場合、初期研修を行う病院として、あなたの選択は変わりますか(あるいは、変わったと思いますか)(選択肢の番号を1つお答え下さい)。

アンケートの結果は、

回答項目 医学生 初期研修医 3-5年目
人数 割合 人数 割合 人数 割合
選択は変わらない 3080 76.9% 1012 82.9% 831 79.3%
選択が変わる 911 22.8% 201 16.5% 207 19.8%
無回答 12 0.3% 8 0.7% 10 1.0%


結果の解釈としてありえそうなのは、8割の以上の初期研修医は問題無しとしているので、全国一律の給与にするのは無問題と考えるではないかと思われます。

問24

 現在、初期研修の期間が2年以上となっていることについてどのようにお考えですか(選択肢の番号を1つお答え下さい)。

これについてのアンケート結果は、

回答項目 医学生 初期研修医 3-5年目
人数 割合 人数 割合 人数 割合
現状が良い 1224 30.6% 312 25.6% 278 26.5%
一定の条件の下に短縮した方が良い 806 20.1% 271 22.2% 229 21.9%
一定の条件の下に延長した方が良い 56 1.4% 23 1.9% 20 1.9%
様々な研修期間から選択した方が良い 899 22.5% 385 31.5% 324 30.9%
わからない 786 19.6% 156 12.8% 137 13.1%
その他 119 3.0% 34 2.8% 47 4.5%
無回答 113 2.8% 40 3.3% 13 1.2%


これだけでは現状維持派と短縮派が拮抗しており、期間選択派を入れても短縮派は半分程度に留まってしまいます。ところがここの集計は指導医や医学部長などにも行なわれており、

回答項目 指導医 プロフラム責任者 医学部長 病院長
人数 割合 人数 割合 人数 割合 人数 割合
現状が良い 619 29.4% 116 30.0% 9 14.5% 41 35.3%
一定の条件の下に短縮した方が良い 729 34.6% 156 40.3% 41 66.1% 58 50.0%
一定の条件の下に延長した方が良い 59 2.8% 9 2.3% 0 0.0% 2 1.7%
様々な研修期間から選択した方が良い 415 19.7% 56 14.5% 6 9.7% 5 4.3%
わからない 111 5.3% 8 2.1% 0 0.0% 0 0.0%
その他 163 7.7% 36 9.3% 6 9.7% 8 6.9%
無回答 12 0.6% 6 1.6% 0 0.0% 2 1.7%


短縮派が増えていますが、期間選択派が減っているので大きくは変わらないのですが、その中で医学部長の短縮派が多い事が目に付きます。ひょっとするとこの項目を重視して全体の意見にするかもしれません。

問25

 初期研修では、現在、内科、外科、救急部門(麻酔科を含む)、小児科、産婦人科、精神科及び地域保健・医療が必修科目となっていますが、必修科目についてどのようにお考えですか(選択肢の番号を1つお答え下さい)。

ここは表にするのが面倒なのでリンク先を見て欲しいのですが、現状派と削減派は基本的に拮抗しています。ただここの質問項目は1年に短縮する前提がありませんから無視する事は可能かと思います。

問26

 仮に、国等の公的機関が医師を計画配置することとした場合、本人の希望を勘案しつつも最終的にはあなたの勤務地を公的機関が決定するという考え方についてどう思いますか(選択肢の番号を1つお答え下さい)。

ここの回答項目は巧妙に設定されていまして、

  1. 賛成
  2. 一定の時期・期間であれば賛成
  3. インセンティブとの組み合わせなら賛成
  4. 反対
つまり「反対」以外は「賛成」に括ってしまえるようになっています。そこを踏まえて表を作り直すと、


回答項目 指導医 プロフラム責任者 医学部長 病院長
人数 割合 人数 割合 人数 割合 人数 割合
賛成 883 41.9% 181 46.8% 23 37.1% 62 53.4%
反対 1135 53.8% 191 49.4% 30 48.4% 48 41.4%
その他 85 4.0% 15 3.9% 9 14.5% 6 5.2%

回答項目 医学生 初期研修医 3-5年目
人数 割合 人数 割合 人数 割合
賛成 1816 45.4% 469 38.4% 398 40.0%
反対 1973 49.3% 690 56.5% 609 58.1%
その他 214 5.3% 62 5.1% 41 3.9%


賛否が拮抗していますが、こういう時のアンケートの解釈は「事態は深刻であり、約半数の賛成はあり、これを行なうのが適当」ではないかと考えられます。もっとも記事情報ではそこまで踏み込んでのものはありませんが、実行段階でどうなるかは不明です。あんまりあからさまに行なうと少々問題になる可能性がありますから、選択枝を制度上に残しながら、実質は選択枝無しの政策が行う事が予想されます。


まあ、よく考えればアンケート結果がどうであっても大して意味は無かったも知れません。重要なポイントはアンケートを行って「意見を聞いた」であり、あくまでも参考資料に過ぎないという事です。決められている結論に賛成が多ければお墨付として重用されるでしょうが、反対が多ければ無視するか、マスコミにでもリークして「わがままな医者」としてバッシングして意見を封じるために用いられると考えます。

そうそう例の「インセンティブ」もアンケートの質問項目に設定されています。これにつてはDr.Pooh様が条件整えば僻地もOK2で詳細に考察されていますが、インセンティブの前に全国一律の研修医給与設定があり、医療費の総枠も削減されるわけですから、僻地に行く医師が厚遇されるというよりも、都会で研修する医師が冷遇されると考える方が可能性として高いと考えます。インセンティブの財源は全国一律にした全体を引き下げて捻出すると考えるのが妥当だからです。

医療経済実態調査なんかが典型ですが、真面目に回答してもそれが自らに悪いほうに利用ばかりされるようなら、いつまでアンケートに応じる医師が真面目に答え続けるのか心配します。新研修医制度の裏話はmimi様が

 この新臨床研修制度は実は防衛医大の卒後研修制度を参考に作られたということを最近知りました。当初学生のごとくに2ヶ月毎程度細切れに各科を回るやり方に不安を覚え、その後の部隊勤務の連続に将来への不安を覚えた一期生は大金を払って次々に退職したとのことです。そのため、最大1年間は希望の科を回ることでしばらくおさまっていましたが、H16年から逆に厚生労働省のやり方に準じるため昔に近いかたちに戻っているとのことです。何をかいわんやですが、もしも、ご存知なければご参考までにとコメントさせていただきました。

防衛医大で一度失敗した方法を6年間続け、それをまた防衛医大が是正した方法に舞い戻ったという事のようです。ただタダで舞い戻ったわけではなく、計画配置のオマケ付で舞い戻るという事のようです。そのためのアリバイ作り、推進材料にアンケート調査を用い、さらにマスコミに厚労省にとって都合の悪い結果をリークして叩かせる(某新聞社社説)のは常套手段とは言えウンザリします。