どこかで見た事のある「厚生労働省の初の調査」

7/4付共同通信(47NEWS版)より、

臨床研修、25%が拒否 医師不足地域の勤務

 医学部卒業後の「臨床研修制度」を終えた医師の65・4%が、医師不足地域での勤務について「条件が合えば従事したい」と答えた一方、25・5%は「条件にかかわらず希望しない」と考えていることが4日、厚生労働省の初の調査で分かった。8・1%は「既に医師不足地域で働いている」と答えた。

 調査は2008年4月〜10年3月に臨床研修をした7512人が対象で、5250人(69・9%)が回答した。

 医師不足の地域で働く条件(複数回答)は「自分と交代できる医師がいる」が最多で55・7%、次いで「一定の期間に限定されている」(53・8%)、「給与がよい」(47・0%)の順。

こうなっていますが、前に同じような調査を見たことがあります。探し出すのに一苦労だったのですが、2008.12.22付「臨床研修に関するアンケート調査」で取り上げています。この時の調査結果のリンクも健在でして、そこには、

現在、文部科学省厚生労働省の合同検討会において、臨床研修制度等のあり方について有識者により検討が行われています(参考資料参照)。このアンケート調査は、医学生や現場の先生方の臨床研修に対するお考えを把握し、合同検討会での議論を一層深めるため、全国医学部長病院長会議及び臨床研修協議会が共同して実施する調査です。アンケート調査の趣旨をご理解いただき、ご回答下さいますよう、お願いいたします。

なるほど2008年の調査は「文部科学省厚生労働省の合同検討会」のために「全国医学部長病院長会議及び臨床研修協議会」が行ったもので、厚労省としては初めてと言う理屈のようです。まあ、間違ってはいません。記事で紹介されている質問の集計は2つのようで、

  1. 医師不足地域での勤務
  2. 医師不足の地域で働く条件
この2つのようです。前回データと比較してみたいと思います。


医師不足地域での勤務

この質問の答えは記事から推測するに、

  1. 条件が合えば従事したい
  2. 条件にかかわらず希望しない
  3. 既に医師不足地域で働いている
この3つがあるようです。前回の調査報告を見てみると、
これは同じとみなして良いと考えます。今回の調査対象は、
    医学部卒業後の「臨床研修制度」を終えた医師
これについても前回で

卒後3-5年目の医師

こういうカテゴリーがありますから比較可能です。では比較表を作ってみます。

* 前回 今回
人数 人数
回答人数 1048 5250
条件が合えば従事したい 617 58.9 65.4
条件にかかわらず希望しない 273 26.0 25.5
既に医師不足地域で働いている 135 12.9 8.1
無回答 23 2.2 1.0


回答人数に差がありますが、「条件が合えば従事したい」は前回より9.5%も増え、「条件にかかわらず希望しない」は0.5%ですが減少しています。ちょっと面白かったのは「条件が合えば従事したい」が増えているにも関らず、「既に医師不足地域で働いている」は4.8%減少しています。なかなか若い医師も工夫を凝らした回答をされているかと感じます。

ただなんですが、前回調査でも「医師不足地域」の定義はアンケート表にありませんでした。これは主観で決めているのでしょうか、それとも今回の調査では明瞭な地域指定が為されているのでしょうか。ひょっとしたら、前回と今回の「既に医師不足地域で働いている」の差はその辺にあるかもしれません。さらに言えば前回は「既に医師不足地域で働いている」に「希望している」医師も含めていたのが差になっているのかもしれません。

もし今回の調査に「希望している」医師が含まれていなかったら、前回の「既に医師不足地域で働いている」のうち「希望している」医師が「条件が合えば従事したい」に移動したと考えれば算数は合います。今回の項目設定はどうだったのでしょうか。


もう一つ面白い比較が出来ます。前回調査が2008年発表、今回の調査が2011年発表です。もう少し細かく言うと、

  • 前回・・・「11月11日までに到着した回答用紙(67大学、61臨床研修病院から8,945名分)を集計」
  • 今回・・・「2008年4月〜10年3月に臨床研修をした7512人が対象で、5250人(69・9%)が回答した」
おおよそですが、前回の前期研修医に該当する医師が、今回は後期研修医に当たる事になります。つまり同じ医師集団の意識変化も比較できます。

* 前回 今回
前期研修医 後期研修医
条件が合えば従事したい 65.4 65.4
条件にかかわらず希望しない 20.6 25.5
既に医師不足地域で働いている 9.7 8.1
無回答 4.3 1.0


単純に見ると「条件にかかわらず希望しない」が増えた様に感じますが、良く見るとそれ以外の項目の変動は殆んどありません。変動があったのは前回で「無回答」としていた医師が「条件にかかわらず希望しない」に移動しただけとするのが妥当のようです。


医師不足の地域で働く条件

この質問の答えは、これも記事から推測するに、

  1. 自分と交代できる医師がいる
  2. 一定の期間に限定されている
  3. 給与が良い
これが含まれさらに、複数回答の質問設定になります。これも前回にありました、
回答の文章も全く同じものがあるのが確認できます。これも比較表を作ってみると、

回答項目 前回 今回 増減
自分と交代できる医師がいる 63.0 55.7 -7.3
一定の期間に限定されている 44.9 53.8 +8.9
給与が良い 74.1 47.0 -27.1
居住環境が整備されている 58.8
配偶者の同意がある 48.1
他病院とのネットワーク・連携がある 47.6
子どもの教育環境が整備されている 47.0


前回ダントツの1位であった「給与が良い」は激減しているのがわかります。「自分と交代できる医師がいる」もかなり減っています。その代わりでもないでしょうが、「一定の期間に限定されている」が増えています。

様々な解釈が出来るかと思いますが、個人的には本音では行く気が無い様に感じてしまいます。言ったら悪いですが、本気で条件を考えるなら、給与はともかく「自分と交代できる医師がいる」が下がるとは思いにくいからです。もっとも私がそう感じるだけで、今の研修医の意識はまた違うのかもしれません。

それとなんですが、前回調査の上位項目も参考までに抜き出して見ましたが、今回はどうだったのでしょうか。もし同じ回答項目が仮にあれば、いずれも47%未満に低下している事になります。これは回答項目の設定が変わった可能性もあるため何とも言えないところです。もし変わっていれば、興味深いところですが、もし御存知の方がおられれば情報下さい。


ここも前期研修医から後期研修になっての変化が比較可能で、

回答項目 前回 今回 増減
前期研修医 後期研修医
自分と交代できる医師がいる 61.2 55.7 -5.5
一定の期間に限定されている 40.6 53.8 +13.2
給与が良い 67.3 47.0 -20.3
居住環境が整備されている 56.9
配偶者の同意がある 44.6
他病院とのネットワーク・連携がある 46.3
子どもの教育環境が整備されている 48.6


前回調査の蛇足

医師不足の地域で働く条件」で気になったところをピックアップしておきます。

回答項目 医学生 前期研修医 後期研修医
出身地である 18.3 16.4 15.1
現在の生活圏から近い 19.5 20.8 17.8
先端医療を修得する機会がある 20.9 16.4 15.1
地域医療に従事した後に留学できる 9.2 6.0 4.2
サバティカル休暇がある 26.2 28.9 27.6
医学部在学中に奨学金が用意されている 7.5 4.5 2.9


これらの項目を選んだのは、医師不足の地域の研修医募集に「切り札」として良く用いられる「優遇条件」に近いと感じたからです。どれも反応はイマイチであるのが確認できます。奨学金制度なんて最低に近い反応と思えます。もっともなんですが、医師不足医地域と言っても、絶対必要数は限られています。必ずしも研修医の大半が魅力を感じる必要はないとも言えます。

全研修医の10%程度でも「こりゃ魅力的だ」と感じて飛びついてくれれば必要にして十分との考え方も出来ます。10%じゃ少ないのなら20%でもOKかもしれません。そういう少数派狙いの設定と考えれば効果的かも知れません。

そういう意味では25%も「拒否」していると受け取るよりも、残りの70%以上が条件付であっても医師不足地域への勤務を拒否していない方を評価すべきと思わないでもありません。ここもなんですが、OK組でも積極的賛成派から消極的賛成派まであるはずで、アンケート上は賛成でも余程の条件がそろわないと医師不足地域への勤務は行わない医師も少なくないようにも感じています。


2回の調査で私が感じたのは、医師不足地域への赴任意識は昔とそれほど変わっていないんじゃないかと言う事です。どんなに美辞麗句を並べられても嫌がられるところは嫌がられます。これは選択が可能であるなら医師だけではなくすべての職種に該当します。それでも医師としての倫理感から、建前上は必要なら赴任するは出ていると感じています。

しかしこれは一種の「お務め」であって、義務を果たすような感覚であると言う事です。もちろん赴任してみたら、水がピッタリ合って永住する医師も出てはきますが、そうでなければ義務を果たしたと言う事で、自分の目指すキャリアアップの道に進まれると言う事です。私の時代なら医局人事で問答無用で送り込まれていましたが、現在ならそういう強制人事権がかなり衰えたのはあるでしょう。

医師の意識としては不人気地域への一時循環と言うか、期間限定の「お勤め」は許容範囲でも、不人気地域への定着と言うか、固定と言うか、括り付けが露骨に出ると忌避感情が強く出ると分析すべきかと思います。しかしそういう風には解釈しない、ないしはそうである事は許さない方が多いようですから、意識ギャップは続いていくと解釈します。